仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2005.11.03
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カテゴリ: 仙台
今日(11月3日)河北新報の記事にあり。 左半身不自由 パキスタン出身男性 「市バスが乗車拒否」 150万円賠償請求 仙台市を提訴

2年前の一件だというから、提訴までの相談や対応でも相当に、もめたのだろう。事情がわからないから、どうこう論評はできない。一方的に役所側のサービス精神がなっていないとも、交通局よ頑張れとも、判断の基礎材料がない。

ただ、一般論として次のようなことを思う。

民間優良企業であれば、裁判までにはしないだろう。その前に手を結ぶ。
大手企業で長年クレーム処理をして来た人の「正しいクレーム対応」なるものを雑誌で読んだことがある。カメラの使い方を客の側で間違えた場合でも、会社の経費で新品に取り替えてやる、などの対応をすべきだ、というような趣旨の記述があった。そうすれば客は長く企業を信頼してくれる、というのだ。そんなものかな、とは思う。

しかし、全面的に民間企業の優良経営なるものを信奉して、役所にあてはめるべしという意見があるとすれば、反対である。民間企業や篤志の個人が、自らの経費で、社会的に「善い」あり方を求めていくことは、自由だし、もちろん尊敬も受けるべきだろう。ただ、役所は自己目的的に存在しているのではなく、国民の権利自由の擁護とサービス向上のためにあるので(社会的には大いなるワキ役)、役所自身が社会的に「いかに在るべきか」は住民の総意に見合うレベルにしなければならない。具体的にいうと、特定の人に手厚いサービスをすることの是非は、役所自身ではなく終局的には自治権の主体であり納税者(公営企業なら料金支払者)たる住民が決めるということだ。
(いつも感じるのだが、私は、根っこの部分になると、英米流のコモンロー的発想ではなく、ドイツ国法学や公法理論的な発想(さほど勉強したとも言えないが。)をしがちである。民間と質的に全く異なる純粋に「公的なるもの」があるはず、と。例えば、知事多選禁止法(条例)の論議で、職業選択の自由に反するとの反対論があるが、知事は住民の権利自由を守るべき立場にこそあるのであって、憲法が自由を保障する「職業」とはそもそも言えない(他方で自治の沈滞防止という利益の方が重要だからこの点は合憲。もっとも団体自治の観点から国法と条例の関係問題の方が重要)、というのが私見である。)

別な観点でいう。最近雑誌で読んだ某著名人のコラム。事情あって新幹線で進行方向に後ろ向きの座席に乗せられた人が、めまいなどを覚えたので、確か500万円をJRに求めて提訴したが、東京地裁(確か)は否定した。利用者は新幹線なら当然前向きに座ると思うはずで、かかる利益の重要性を地裁が理解していないので、おかしい判決だ。JRも500万円?くらいは払えばいいだろうに、という論旨だった。

(ちなみに某有名人の「後ろ向きも同額は不当」論議について、私個人は全然不当とは思わないが。乗れただけ良いと思うしかない。ま、ここは個人の価値判断だろうが。)

もちろん、何もサービスが低レベルで良いとか、職員が威張っていて良いという意見ではない。運転士も交通局も相手が納得するまで説明に努めることは必要だ。交通局としての考え(ルール)を明確にして、最終的に納得できなれば訴訟は仕方がない、ということ。ここでルール外に手を結ぶようなことは、大手企業と違ってやるべきでないでしょう、ということだ。
そして、ルールやサービス水準のありかたは、一般行政であれ公営企業であれ、収支の状況に関する情報を示しつつ住民や受益者の総意にあうように決めるべし。

この前提には徹底した情報公開がなされることが必要である。バス運行のルールはどうか、収支はどうか、客からのクレームと対応状況はどうか。包み隠さず、こうやっています、と示すことが信頼になる。

今回の一件で言えば、バス停が工事中だったから、正規のバス停とは離れた場所に停車したというが、本来のルールはどうなっているのか。仮停留所などの何らかのサインがあって然るべきなのだろう。道路や沿線の工事があるときは道路管理者を通じて何らかの連絡がバス事業者にはないのだろうか。
また、調べていないが、おそらくバス停以外で停車するのはルールに反するのだろう。けれど結構やっているようだ。形骸化しているのであれば、正規化することが、運転士にとっても安心だと思う。
ルールがふらついたり形骸化していては、いけない。対応も乱れるし、なにより住民・受益者に対して説明が付かない。

例えば、バスに関するトラブルやクレームの内容と対応・経費を毎月1回公表し、さらに、現行のルール(利用約款、料金規定、運送事業上のルールなど)をこう改善しました、とか示すようなシステムにすれば、信頼度も上がると考える。
(公営企業のみならず、行政何でも言えることだろうが。教育や警察もネ。)

という訳で、今回の一件も裁判になるのでしたら、市バス側の「ルール」と適正で公正なサービス、願わくは情報公開を通じた公正と信頼の維持ということを考えて頂きたいと思います。これを飛び越した訴えならば、原告の人には受忍してもらうしかない。
よく裁判所は和解を勧告するでしょうが、私は上記の基本思想から、役所の場合は、ルールを明確に再確認すべきで、個別柔軟な処理は反対です。仮に応じるなら、内容を住民・受益者に積極的に示して欲しい。



外国出身男性だということが見出しに出ているけれど、ご本人は29年前から仙台に住み日本国籍も取得しているというから、ちょっと「煽り」に過ぎる見出しじゃないかと思う。もっとも本人が外国人・障害者差別で乗車を拒んだ、と取材に対して話したのだとは思われるが。それでも敢えて言えば、提訴者の主張はこうだ(カギ括弧)、というのならともかく、客観的な属性として外国出身と書き出しているのは、あまり意味がない、というより誘導的だ。れっきとした日本人で仙台人なのだから(仙台人としては私よりずっと先輩です)。おそらく日本語コミュニケーションも十分なはずだから、運転手としても、外国人だからどうという対応ではなかったと思われる。

見出しにしてまで騒ぎ立てるべきでなく、記事の中身で客観的に記せばいい、と思うのだが。私はこういう点には、普通の人以上と思うが、敏感である。報道としてはこんなものだろうが、仙台文化の排外性を裏付けるような感覚、また当地最大の新聞メディアの洗練度についていつもながらに疑問をおぼえるから、だ。





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最終更新日  2005.11.03 22:34:53コメント(0) | コメントを書く


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