仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2012.04.15
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カテゴリ: 国政・経済・法律
新聞の社会的役割や憲法論的意味(表現の自由、アクセス権など)、また報道内容の政治的中立性などについて何度か考えたことはあった。しかし、発行主体の会社組織の問題、とりわけ株式の譲渡制限に固執するなどの実情は考えたことがなかった。一大経済主体として会社を維持充実させるための、政治とも積極的に関わる側面なのだが、特に戦後制定された特別法の存在は、新聞の政治的中立性や政治に対する距離という建前的イメージを打ち破り、見事に世俗的側面を浮かび上がらせるもので、存在を知らなかった私には衝撃的でさえあった。

以下の整理内容は、下記の文献に負うものだ。

日本の新聞社は、徳島新聞と名古屋タイムズを除いてすべて株式会社の企業形態だが、それは株式会社とは似ても似つかぬ奇妙な存在である。

株式会社はもちろん株式譲渡自由が原則。しかし、新聞社は外部資本の報道への干渉を防ぐとの理由で、譲渡制限を定めている。このため、読売、朝日などでは、創業家など特定の個人や従業員持株会、また系列放送会社などが主要株主であり、また朝日とテレ朝の堂々たる相互持合など、閉鎖的な実態だ。

株式会社の原則に反するこの譲渡制限は、「日刊新聞特例法」によって合法化されている。1950年公布の商法で株式譲渡制限を認めないとされたことに対して、朝日をはじめ98社で全国新聞社商法対策協議会を結成して、新聞業界にだけ譲渡制限を認める特例法を制定するよう政治家に働きかけた。その結果、1951年に議員立法で「日刊新聞特例法」(正式名称は、日刊新聞紙の発行を目的とする株式会社及び有限会社の株式及び持分の譲渡の制限等に関する法律)ができた。国会では、商法改正法で具合が悪いというのならば、もともと同族会社的な新聞社だから、大衆から資本を集めるべき株式会社の形態をやめればいいだけだ、との反対意見もあった。また、戦前から譲渡制限を認められていた新聞社だが、経営者は大量の紙を入手したいが為に軍部に屈し、また、編集者や記者は真実を報道する保障がなかったために戦争を支持し敗北を勝利と報道したのであって、新聞の社内株保有制度にはこうした危険があることを忘れてはならないとする反対論もあった。

特別法で譲渡制限が認められたのは、1953年の日本航空だけだったが、その後1966年商法改正で定款で認めればすべての会社に制限が認められるようになった。

米国と異なり日本の新聞社はみな株式非公開である。社内ですら財務内容は知らされていないと言われる。経済報道に際しては株式公開と自由譲渡の理想を唱えながら、自らは、言論の自由を守るためとして譲渡制限をかけるという時代錯誤的な実態である。

以下、若干個別的なこと。

毎日新聞は、他の大手紙と違い株主に大手銀行が入っている。70年台の経営危機から再建する際の経緯によるのだが、やはり譲渡には取締役会の承認という制限があることは同様だ。この経営危機には西山事件が影響している。沖縄返還の密約事件を、その情報入手方法(国家公務員法違反)の特異性に世間の目を向けさせるという政府の世論操作に、毎日叩きをねらった他紙が加担したのだ。もちろん毎日の社内でも西山があんなことしたから会社経営が大変になったとの風潮もあったという。



■関連する過去の記事(河北新報ネタは除きました)
なぜ朝日マイタウンの宮城は「みちのく宮城」なのか (10年6月15日)
全国紙の夕刊を考える (10年2月11日)
気になる朝日新聞の誤字 (10年1月11日)
朝日新聞の所得隠し (09年2月23日)
読売新聞と東北 (08年10月21日)
沖縄返還協定密約問題の証言の報道 (06年2月10日)





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最終更新日  2012.04.15 16:37:45
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