Bar UK Official HP & Blog(酒とPianoとエトセトラ)since 2004.11.

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2005/08/14
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カテゴリ: アート&ブックス
 ミステリー・ファンの僕が、最初に出会った作家は松本清張( 写真左上 (C )松本清張記念館HPから )だった。今は亡き父も推理小説ファンだった。とくに清張が好きだったらしく、本棚には新書版の清張の作品が何冊かあった。松本清張それを時々、小学生の頃から黙って読ませてもらっていた(もちろん、小学生には理解できない難しい部分もあったが、それはそれなりに面白かった)。

 最初に読んだ作品は、おそらく清張ファンならベスト5に必ず推すであろう「点と線」(1958年発表= 写真右上 )である。列車の時刻表(ダイヤ)が小説(事件)の謎解きの鍵となるこの作品は、発表されるやいなや、たちまちベストセラーになり、社会派推理小説ブームが巻き起こった。

 清張は明治42年(1909)、北九州・小倉の貧しい家に生まれた。尋常高等小学校を卒業後、15歳で、家計を助けるために就職することになる。点と線そして昭和12年(1937)、28歳で朝日新聞九州支社に広告版下の仕事を得るまでは、小倉の小さな印刷所で働いた。

 いつ頃から創作への情熱がわき起こってきたのかは、僕はよく知らない。知る限りでは、41歳のとき、「西郷札」という作品で、週刊誌の懸賞小説に応募し、三等に入選したのが名前が登場した最初。

ゼロの焦点

 3年後、清張は朝日新聞を退社、本格的に作家の道を歩み始めるが、このとき47歳。作家としては遅咲きだった。しかしデビューの遅れを取り戻すかのように、清張は「眼の壁」「黄色い風土」「ゼロの焦点」()「砂の器」などのベストセラーを次々と生み出していく。「ゼロの焦点」や「砂の器」など話題作は、何度か映画やテレビドラマにもなった。

 清張の推理小説は、トリックに凝る最近流行の作品とは少し違う趣を持つ。トリックよりも、登場人物の生い立ち、性格、心の内に秘められた思いなどをしっかり書き込むことに、真骨頂がある。主人公や犯人は、社会的弱者であることも多かった。おそらくは清張自身の不幸な生い立ちを映しているに違いない。昭和史発掘

 清張のもう一つの凄さは、好奇心と探求心あふれるその幅広い作家活動である。推理小説以外にも、「日本の黒い霧」では政治に潜む闇を描き、「昭和史発掘」( 写真右下 )では2.26事件、下山事件など現代史に残る事件の謎に迫った。さらに、「古代史疑」では、独自の視点で邪馬台国など古代史の謎に取り組んだ。

 いわゆる「学歴」というものには無縁だった清張。しかしデビュー後は、「学歴なんて、創作活動には関係ない」という反骨心で、有無を言わせぬ緻密な作品を創り上げていく。歴史研究では持ち前の探求心と努力で、専門家からも一目置かれる存在になった。その創作活動は、92年に82歳で亡くなるまで、終生ペースダウンすることはなかった。

 休むことなく作品を生みだし続けた多作の作家が、生涯に発表した作品は千篇を超えるという。「国民的作家」と言えば、夏目漱石、井上靖、司馬遼太郎…と、思い浮かべる人はそれぞれだろうが、社会派推理から実録もの、歴史・考古ものまで幅広くこなした松本清張こそ、僕は国民的作家にふさわしいと思っている。

 生まれ故郷の小倉には98年、 松本清張記念館 がオープンした。館内には、清張の東京の自宅書斎が移築され、再現されているという。清張ワールドに浸りたい方はぜひ一度お越しください(そう言う僕は、まだ訪れていません。すみません)。





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Last updated  2005/08/15 09:15:31 AM
コメント(12) | コメントを書く


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Re:松本清張:創造の巨人は努力の人/8月14日(日)(08/14)  
圓 Madoka さん
はじめまして。今日アップされた日記とは関係ないのですが、矢吹さんの名前をグーグルしてここに辿り着きました。私は今、オレゴンで絵描きをしています。そして、大好きな矢吹さんの作品の記事を読ませていただきました。ありがとうございます。お時間がある時に私の方のブログにいらしてください。http://blogs.yahoo.co.jp/mado_kaito/archive/2005/8/10 (2005/08/14 05:25:10 PM)

Re:松本清張:創造の巨人は努力の人/8月14日(日)(08/14)  
うらんかんろさんに同歩です。
小生も、父の本を読む事から始まりましたから。
特に、「点と線」「眼の壁」のトリックには脅かされました。
-PS-
うらんかんろさんの清張への思い入れは、私には分からんでも無いですよ。。。 (2005/08/14 06:48:42 PM)

Re:松本清張:創造の巨人は努力の人/8月14日(日)(08/14)  
久里風  さん
私も松本清張だいぶ読みました。その中で強烈な印象が残っているのは「砂の器」ですね。
うらんかんろさんが言われている「登場人物の生い立ち、性格、心の内に秘められた思い」が正に交錯していて、読んでいて最初は焦点が定まらず、頭の中がまとまらない状態が継続していきます。
最後の方でやっとつながっていく。そんな感じでした。
小説を読んだ後に丹波哲郎の映画を観ました。
結構小説を忠実に映画化されていると思いましたが、小説の中で夢中になっていたところが映像化されてなかった記憶があります。 (2005/08/14 10:17:26 PM)

Re:松本清張:創造の巨人は努力の人/8月14日(日)(08/14)  
私には難しすぎる松本清張です。
でもひとつ、最近知ったのは 砂の器 という小説が
清張さんだったという事を。ドラマで知りました。
すごい社会派推理小説だとわかりました。
砂の器は強烈な印象に残りました。



黒革の手帳もドラマでやってたけど
これは違うかった?
(2005/08/15 12:59:46 AM)

圓 Madokaさんへ  
 圓 Madokaさん、初めまして。ご訪問&書き込み、有難うございました。
海外在住の方も、僕のブログをよくご覧頂いているようなのですが、
書き込みしてくれる方は非常に少ないので、とても嬉しい限りです。

 僕はその昔、漫画家志望で、その夢が破れてからも、絵は、見ることも描くことも大好きで、
ずっと親しんできました。今は、パステルや水彩、時々アクリル系絵の具といった感じです。
とは言っても、生来の好奇心・趣味の多さが災いして、
音楽(聴く&演奏)、酒、BAR巡り、映画、グルメなど、
時間がいくらあっても足りない有様で、絵を描く時間はなかなかとれません(^_^;)

 矢吹申彦氏は、ブログの日記でも書いたように、随分長い間のファンで、
個人的な付き合いも、もうかなり長くなります。
madokaさんのブログも拝見しました。素敵なページですね。作品も見ましたよー。
やはり、大好きだという矢吹さんの画風の影響も少し受けておられるようですが、
僕は、madokaさんの絵の雰囲気大好きですよー。
関西で個展をされる際は、ぜひお知らせください。

 アメリカは大学生だった頃、コネチカット州に半年ほどホームステイしていました。
とくにニューヨークは大好きで、これまで7回ほど訪ねています。
(ブッシュが大統領になってからのアメリカはあまり好きになれませんが…)。
オレゴン州には一度も行ったことはありません。どんなところか、とても興味が沸きます。
(madokaさんは、日本の何県のご出身ですか?)

 ご覧のように、趣味的なことばかり書いているページですが、お時間があれば、
また遊びに来て気軽に書き込みしてください。
また、日記のテーマに直接に関係ないことなら、掲示板の方を気軽にご利用ください。 (2005/08/15 03:02:55 PM)

きんちゃん1690さんへ  
 きんちゃん、こんばんはー。

>うらんかんろさんに同歩です。小生も、父の本を読む事から始まりましたから。
>特に、「点と線」「眼の壁」のトリックには脅かされました。うらんかんろさんの清張への思い入れは、私には分からんでも無いですよ。。。

 そうですか、きんちゃんも清張にはまった世代ですか。
逆境のハンディを跳ね返して、自らの才能を精一杯生かし、成功した清張には、
とても共感する部分があります。あと10年くらい生きていてほしかったなぁと今でも思います。
「眼の壁」は読んだのですが、どんなトリックだったか忘れてしまいました。
時間があれば、もう一度読んでみようと思います。
(2005/08/15 03:04:23 PM)

久里風さんへ  
 久里風さん、こんばんはー。

>私も松本清張だいぶ読みました。その中で強烈な印象が残っているのは「砂の器」ですね。

 「砂の器」は何度も映画やテレビドラマになったので、
筋書きが有名になりすぎましたね。僕はやはり、最初に読んだ「点と線」の印象が強烈です。

>うらんかんろさんが言われている「登場人物の生い立ち、性格、心の内に秘められた思い」が正に交錯していて、読んでいて最初は焦点が定まらず、頭の中がまとまらない状態が継続していきます。

 確かに、清張は人間描写が複雑で、読んでいるうちに、頭が混乱してしまいますね。
「社会派推理の巨匠」と言われるゆえんでもあるかもしれませんね。 (2005/08/15 04:11:29 PM)

まつもとちあきさんへ  
 ちあきさん、こんにちはー。

>私には難しすぎる松本清張です。でもひとつ、最近知ったのは、「砂の器」という小説が清張さんだったという事を。ドラマで知りました。すごい社会派推理小説だとわかりました。

 清張の小説は、社会派と言われるだけに、難しいかもしれませんね。
「砂の器」は、僕はあまり好みではないのですが、やはり清張の代表作の一つです。

>「黒革の手帳」もドラマでやってたけど、これは違うかった?

 はい、「黒革の手帖」も原作は清張です。米倉涼子主演のドラマはよく出来ていましたが、
原作とはちょっと筋書きを変えていたような気がします。
原作は、ちょっと救いのない(ハッピーエンドではない)終わり方でした。 (2005/08/15 04:13:53 PM)

ただ今帰りました  
カピタン さん
お盆のアルバイトも終わりやっとひと心地着いて、ゆっくりHP拝見しています。
恥ずかしながら松本清張、興味はありありなのですがまだ読んだことがありません。ドラマなどで何度か見て「凄い面白い話だ。文章ならどうなのだろう。」と常々思ってはいるのですが、なかなか手をつけるには到っていない次第です。これを機会に読んでみようかな。 (2005/08/15 09:32:52 PM)

カピタンさんへ  
 カピタンさん、お帰りなさーい。

>お盆のアルバイトも終わりやっとひと心地着いて、ゆっくりHP拝見しています。

 ご苦労様でーす。アルバイトと言えば、
最近、マスターが忙しくて休みがちらしい「センパ」ですが、
「週の前半は、カピタンさんが代わりに店やってくれたら、
(客として)助かるのになぁ」と、ある徳島の友人が言ってましたよー。
ヘルプで店に入りませんかー?

>恥ずかしながら松本清張、興味はありありなのですがまだ読んだことがありません。ドラマなどで何度か見て「凄い面白い話だ。文章ならどうなのだろう。」と常々思ってはいるのですが…

 それは一度読んでみてください。読んだら面白くてやめられないという、
今風のミステリーではありませんので、若干の忍耐力は必要ですが、
清張作品は、味わいのあるものばかりですよ。 (2005/08/16 09:46:33 AM)

久々に涙しました  
アトムの妹 さん
こんばんは。お久しぶりです。松本清張、私もよく読みます。好きか?と聞かれると好きではない(内容が重いから)んだけど、吸い寄せられるようにして読んでしまうんですよね。さてさて、ここ数ヶ月の間、東京は東銀座の東劇では、昔の名作映画のデジタルリマスタリング版を上映していました。そこで「砂の器」を上映していることを知り、先日一人で見てきました。会場は様々な年代の方で埋め尽くされ、関心度の高さをうかがわせましたが、確かに俳優の皆さんが若い!話は淡々と進んでいくんですが、やはり親子2人で放浪の旅を送る回想シーンでは泣けました。私はほんとに映画やドラマを見て涙することはないんですが、しばらく涙が止まらなかった。親子の愛情、それでも離れざるを得なかった病、社会からの差別的な視線。またその差別自体は、現在も残っている・・。なんとも言えないブルーな気分になって映画館を出ました。3日間くらい、頭から離れなかったですよ。あのお父さんの表情が。原作も映画も名作ですね。大きなスクリーンで見ることができてラッキーでした。
(2005/08/25 11:09:53 PM)

アトムの妹さんへ  
 アトムの妹さん、お久しぶりです。

>松本清張、私もよく読みます。好きか?と聞かれると好きではない(内容が重いから)んだけど、吸い寄せられるようにして読んでしまうんですよね。

 確かに、社会派と言われるだけに、ミステリーとはいっても、
重いテーマの作品が多くて、読み通すには少々覚悟がいりますね。

>東銀座の東劇で、「砂の器」のデジタルリマスタリング版を上映していることを知り、先日見てきました。話は淡々と進んでいくんですが、やはり親子2人で放浪の旅を送る回想シーンでは泣けました。私はほんとに映画やドラマを見て涙することはないんですが、しばらく涙が止まらなかった。親子の愛情、それでも離れざるを得なかった病、社会からの差別的な視線。またその差別自体は、現在も残っている・・。なんとも言えないブルーな気分になって映画館を出ました。

 僕も昔、テレビで放映された際、見た記憶がありますが、ほんとに泣けるシーンでしたね。
時代がそういう時代だった、というのもあるのですが、
「砂の器」は、今も、私たち一人ひとりの問題意識を問う作品でもありますね。
清張のような骨太の社会派作家が、最近少なくなったのが残念でなりません。 (2005/08/26 02:46:04 PM)

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