『Love And Theft』の収録曲はすべて先生のオリジナル。 このアルバムをして、先生は「ヒット曲のないベスト盤みたいなもの」と言っておられる。 言葉のトリック・スターであるこのお方の真意は自分のような凡人には分かりかねるのだが、はっきり言えることが二つある。 ひとつは、ロックンロール、ブルース、カントリーなどの"アメリカン・ルーツ・ミュージック"的な音楽、言い換えるならディラン自身のルーツに立ち返ったような内容であるということ。 もうひとつは、(彼の作品としては)非常に聴きやすい仕上がりになっているということだ。
基本的にライヴ録音(一発録り)らしく、サウンドは軽やかでシンプルなものとなっている。 また、全体を包む解放感がとても印象的で、前作『Time Out Of Mind』('97年)の重苦しい雰囲気が好きになれなかった自分には嬉しいものだった。
そんな中でも自分が特に好きなのは二曲目にあたる「Mississippi」だ。 前作『Time Out Of Mind』で一度録音されながらボツになっており、シェリル・クロウのバージョンが先に世に出た(※)作品である。 ディラン先生は、みずからのプロデュースでそれを再録音。 結果、クロウのヴァージョンを上回る好トラックに仕上がった。