草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年01月27日
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大経師昔暦(だいきょうじむかしこよみ)

 唐猫が男猫を呼ぶので薄化粧をする。それはしおらしい、猫でさえも、夫ゆえに忍ぶ、我が身は何と唐

打ちの縺れた綱のようにどうして思いがすらりと通らないのであろうか。えい、そりゃ、綱より解けない

契であろうか、じゃれて、甘え巫山戯て手鞠取れ取れ、ま一つ、二つ、三つ四つ五つ六つ七つる八つる九(

(ここの)ほんほ十(とお)んえ、えいころ、えいころ、えいころ、ころり炬燵にしなだれて人に媚びて甘え

るのも、懐くのも自分の恋であろう。

 それは昔の女三の宮(源氏物語中の人物。朱雀院の第三皇女で源氏の妻に定まるっていたが、六条院の蹴

鞠の日にたまたま寵愛の猫が飛び出したはずみに御簾が掲げられて、その隙間から美しい容姿を内大臣の

息柏木に見られた。柏木は宮に侍女小侍従を通して切ない思いを訴え、やがて密かに通じることになる)、



 夫の名前も春を以ては色香に鳴る、梅花の暦の元締め、大経師(朝廷御用の表装工の長で、新暦刊行の特

権を与えられた)の以春と言い、袴要らずで長羽織の姿、家居も京の中心部で諸役御免(全ての課役を免ぜ

られる事)の門構え、名高い四条烏丸、既に貞享(じょうきょう)元年甲(きのえ)子の十一月朔日、来る丑の

初暦を今日から広める古例に任せ、主人の以春は未明から禁裏院中親王家の五摂家清崋の御所方に新暦を

献上して方々で目出度い祝い酒、嘉霊の如くに去年の如くに、十徳(羽織に似た服。僧侶の直綴・じきとつ

の略制でその名を訛ったもの。医者・儒者・絵師・大経師などの礼服)着ながら炬燵にとんと高鼾で寝てい

る。

 算用場では手代ども、進上暦(武家屋敷に出す暦)の折包み、江戸や大阪への下(くだし)暦、地売り(一般

の土民に売りさばく者への指図)子供の取り捌き、一門振る舞い祝儀の使い、竈の霞、膾の雪、春めき渡る

すり鉢の音、今日の霜月朔日を元日として祝うのだった。

 主手代の助右衛門はこの家の取締をする束ね役、綿の小紋の羽織を着て、主人も一目置く存在だ。奥縞



みか、未明から方々のお勤めで草臥れたのは道理だ。申しおさん様、茂兵衛めが戻ったら代わって休もう

と思うのだが、何処でのらくらと怠けているのやら、二条城方面の武家屋敷への進上暦が遅くなってしま

うぞ、働きついでに休まず一息に廻ってきましょうぞ。嘉例の通りに御一門衆様方がお出なさりましょ

う。

 御台所か姫君のように猫をからかっていても済まない事だ、これ玉、おなじようにその様は何だ、奥の



掃除をしなさいよ。炬燵には火を入れなさい、違い棚の埃を払って、双六盤や将棋盤、碁石の数も読んで

調べて、手水鉢には水を入れさせて、手拭いも掛け替えなさいよ。煙草盆には切り炭(佐倉炭などを適当な

大きさに切ったもの)をいけて、膳立てをして椀を拭いて、お給仕に差し障りが出ないように夕飯は早めに

食べてしまいなさい、等と一口に千色ほども用事を言いつけて、まだ面倒なのはその猫で、ぎゃあぎゃあ

と吠えるのが能で、鼠の一匹も獲りはしないぞ。男猫を見てはふらふらと付きまとい、屋根も垣もあった

ものではない、重なって屋根でさかったら四足を括って西の洞院に流してくれようぞ。などと何の関係も

ない猫にまでも悪口を言い、茶の間中の間や隅々を見回して、それ、久三や挟箱だ、暦を配る家によって

心付けのお引きがでるぞ、ただで取ると思うな、貰った分だけ給金から差し引くぞ、今から念を押すぞと

言い打ち連れて表へ出た。

 おさんと玉が顔を見合わせて、何と、今のを聞きましたかいの、同じ物の言いようでも茂兵衛のように

物柔らかに言っても事は整うもの、その人も悪気はないようだが、地体(ちたい)の顔が憎く体で邪険に見

えるので言葉付きも愛想が無いように聞こえる。何と、助右衛門を自分の夫として欲しくはないか、なん

なら世話をしてやろうか。ええ、おさん様、いやらしいことを仰らないでくださいな。あんな男を夫に持

つくらいなら牛に突かれたほうがまだましです。同じ手代衆の中でも、茂兵衛殿のように仮初に物を言う

のにも愛想がよくて、どのような時でも腹を立てたりしない。本当にあの様な人を男に持つ女は果報者で

ありますよ、本当にそう言えばそうだね。猫にも人にも合縁奇縁で、隣の紅粉屋(べにや)の赤猫は見掛け

からして優しくてこの三毛をを呼び出すのにも、声を細めて恥ずかしそうに見えるのでこの子の男にして

やりたい。又、向かいの灰毛猫は憎らしい肥え太りの形(なり)で遠慮会釈もなく屋根の上を馬でも追い立

てるように怖い声を出してこの三毛を呼び出すよ。先日も下立売りの母(かか)様と親子のたった二人でい

る縁先の蔵の屋根でこの三毛を可愛げに、それは見られたものではない、あんまり憎らしいので竹竿を持

って追い払ったところが、おれを睨んだ目元の怖さ、こりゃ三毛よ、悪い男を持つなよ、灰毛の猫が濡れ

かけたら物事は最初が大事だ、思い切り嫌ってやれ、此のさんが家来分の婿として良い男猫を添わしてや

ろうぞ。おお、可愛やと猫撫で声、にゃんにゃんと甘えるめす猫の声、余所に漏れたのか、妻恋いの男猫

が声々、三毛は焦がれて駆け出した。

 やい、淫奔ないたずら者め、大勢男猫の声がする中へ行ってどうするのだ、ええ、気の多い奴だな、お

りゃ、男を持つならたった一人を持つものじゃぞ。間男すれば磔の刑にかけられる女子の嗜みを知らない

のか。そう言って抱きすくめても爪を立てて掻きつけるのを、あっ、痛いと放せば離れて駆け出すのだ。

やい、間男しいの淫奔者、刑場のある粟田口に行きたいのか。と、後の我が身を魂が先に知らせて言う、

祝日に追いかけて奥に入りければ、玉の続いて立つところを以春がむくむくと立ち上がり、後ろだきにぴ

ったりと、さあ、美しい女猫を捕らえたぞと、乳のあたり手をやれば、ああ、くすぐったい、またもやま

たもや抱きついたり、手を締めたり、もう一度こんなことがあったら、おさん様に告口してどこもかしこ

も紫色になるほど抓らせますよ。ああ、煩いと突き放し、どっこいやらないぞ、本妻の悋気と饂飩には胡

椒がつきものだぞ、何とも思わない。紫色はおろか、全身が樺色になったとしても、君のためならば厭い

はしないぞ。思いやりがない、薄情だ、毎晩毎晩、寝床にお見舞い申せども一度も本望を遂げせてはくれ

ない。お前の為にこの以春名を変えて鎌足大臣、玉を取る思案ばっかり、今夜こそは嫌とは言わせない。

謡曲の「海士」ではないが、一つの利剣を抜き持って彼の海底に飛び入るぞ、応か応かと抱き締めた。

 どうなりと致しなさいな、こちゃおさん様に言いつけまする。あれ、おさん様、おさん様、やれ喧し

いわ、その外おさん鰐の口、口のついでに口と口、顔を寄せると門口で、頼み申すと、台に据えた鯛や赤

貝、あれ、お客様ですよ、おどきなさいな。いや、大事はないぞ、構わないぞ、赤貝持参なのは女中客だ

ぞと言っている所に駕籠乗物、下立売りのお袋様がお出での由を案内す。

 南無三宝、姑の古赤貝、これは困った大変だぞ、言い捨てて以春は奥に駆け込んだのだ。

 程もなく駕籠を舁き入れると、おさんは端の玄関まで出迎えて、母(かか)様よくいらっしゃいました。

父(とっ)様はどうして遅いのですか、そのことだがね、父様(とつさま)は一昨日に花の本の連歌師の所で

の会合で夜を更かして、少し風邪気がある上に、風早宰相様の朝茶の湯、いよいよ風邪をこじらせてそれ

でよう来られないのですよ。先ず先ず今日は毎年変わらない初暦、商売繁盛、目出度い、目出度い。以春

殿は何処にいらっしゃる。悦びであろうの、ありがとうございまする、推量して下さいませ。御所方、

方々で御嘉例の九献(きゅうこん、酒の異称)に酔って裏の数寄屋茶室で寝て御座いまする。さあ、先ずは

奥へお通りくださいませ。りんとはつや、お供ご苦労でしたね。晩にはこちらから送らせましょう、六尺

駕籠舁き共を帰しなさい。そう言って親子ともども中に入ったのだ。

 奉公を出過ぎぬ気立て、傍輩の下手につくのも自分自身の性質からであり、茂兵衛は早朝から暦配りに

余念がない。先々での美酒の振る舞い、その米麹が発育する際に小さな花が群がり咲く状態を呈するが、

その米麹の発芽ではないが、目元をほんのりと赤らめながら立ち帰り、ああ、よく歩いたことだな、七介

休憩しなさいよ。御一門衆がおいでであるから直ぐに袴も着ていて、此処で一服しよう、楽しみ煙管を。

そうして少しばかり酔を醒まそうか。そうして、暫くは寛いで休んでいたが、炬燵の間から、これ茂兵衛

此処へいらっしゃいな、そう呼ぶ声はおさん様、はっと居直り、たった今帰りまして少しばかり酒の気は

ございますがもしや急な御用でございまするか、と言ったところ、さぞ草臥れではあろうけれども、急い

で話したい事がある。此処へ此処へと膝許近くで小声になり、父様の方に面倒なことが起きてきて、相談

したいと言う事です。自分の恥を言わなければ筋道が通りません。お前も知っての通りの実家の財産状態

で下立売りの主人が常に住む屋敷を町役人の連判で、一昨年三十貫目の家屋の抵当に入れたたのですが、

それでも昔からの古い格式のある家、物と人が続いて今年の春に町会所へも隠して二重の抵当に入れたの

である。それを前の銀方が聞きつけて、それとはなしにこの月の三日限りで家を渡すか、金を渡すか、返

事次第に五日には告訴状を法廷に差し出すと足元から鳥が飛び立つように、突然に意外な顛末になって急

に町に届けを出したと言う。

 愛しや父様の家を渡しても大事はない。目安をつけるのも構わないが、家一軒を両方に質入れした事実

が露見しては、この岐阜屋道順の一分が廃る。そう言ってほろほろと泣いているいるそうです。それで

色々と仲裁が入って、今月の三日迄に二貫目の利を支払ってひとまず事は落着したが、そうと決まった

所で肝心の金がない。やっとのことで、壱貫目は黒谷のお寺で借用してあとの一貫目がどんなにもがいて

も出処がないと言う。

 以春様に言ったならば、直ぐにも埓が空くけれども、父様も母様も婿に無心したのでは何時までも大事

な娘の引け目になる。お年寄りは我が強くて、以春様には鼻息でさえ知らせてはいけない。助右衛門に言

ったところ又例の如くに顰め顔、眉合いに皺を寄せて、聞き入れてくれぬばかりか直ぐに夫に告口するの

は必定だ。我が夫を差し置いて手代に言うとは何事じゃと、結局事が大袈裟になるだけだ。この月末には

兼ねて用立てていた或るお公家様からの支払いがあり、三十両程の戻る金がある。これは私も知っている

ことで、その金が入るまでの二十日余りの事だ、頼むのはそなただけだ、壱貫目を整えて親たちの苦を晴

らしてはくれないかい。

 ええ、無念じゃ、私が男の身であったならば、これくらいのことで親たちに苦労はかけまいに。娘を生

んだ親も損なら女子に生まれた私も因果じゃと、しみじみと口説き頼んだのだ。

 茂兵衛も一杯機嫌で、はれやれ、御婦人と言うものはお気が細い。五十貫目や百貫目でもあることか、

仰山そうにそれくらいの銀、長々と言葉を続けて言われる事ではありませんよ。旦那の印判一つを問屋に

持ってまいれば江戸為替の二貫目や三貫目は年中やり取りを致しておりまする。どちらにしても二十日の

間です、お気遣いなされますな。今日のうちにきっと一貫目整えて進ぜましょう。私がちょつとの間横着

を決め込めば済むこと。と申しても盗みをするわけでもありませんで、一時人の目をごまかすだけのこ

と。仮に盗みをするとしても、自身の欲心からではないことは天道様にかけて明白なこと。お前様とて、

ご主人様であることに変わりはありません。親御の恥は娘の恥、舅の恥は娘の恥、二人の御主の恥をすす

ぐのは畢竟はお主への奉公。落ち着いて奥へおいでなさい。

 ああ、嬉しい、嬉しい、物は言ってみるものですね。母様にも囁いて御心を休めて進ぜよう。そなたに

任せた、これ、女子共よ、お料理がよければ、早くお膳を出しなさい、と勇んで奥に入ったのだ。





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最終更新日  2025年01月27日 20時59分36秒
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