草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年03月31日
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紙屋冶兵衛 きいの國や小はる  心中天(しんじゅうてん)の網島(あみじま)

       上 之 巻

 さん上、ばっから、ふんごろ、のっころ、ちょっころ、ふんごろで、まてとっころわっから、ゆっく、

る、くる、くるくるたが、笠をわんがらんがらす、そらがくんぐるぐるも、れんげれんげればっからふん

ごろ、妓(よね)が情けの底深い、これかや恋の大海を変えも干されない蜆川、思い、思い、思いの歌、

誰が留めるのでもなく自分の心が心を止めるので、門行灯の門司と言う文字の関である。

 浮かれぞめきの口から出任せの浄瑠璃、役者の声色、納屋端唄、二階座敷の三味線の音色に引かれて立

ち寄る客もある。廓の祝日に遊女を揚げると約束して、それを果たさずに、顔を隠して遣い過ごしをさせ

られては堪らぬとばかりに忍び風、中居のきよがこれを見て、身を逃れるのがやって来た。頭巾のしころ



で逃さじと、飛びかかりぴったり寄り添って悪洒落、変な真似をしないで、さっさとお上がりなさい。

と、止めたのを女景清は錣(しころ)と頭巾を思わずに多額の費用を支払わせられる客もある。

 蜆川に架かる橋の名さえも梅、桜、梅田橋・桜橋と美しい花を揃えたその中で、南の風呂屋の浴衣よ

り、今この北の新地に恋ならぬ衣替え、紀伊國屋(きのくにや)の小春とはこの十月に仇し名をこの世に

残せとの印なのだろうか。

 今宵は誰が呼子鳥、おぼつかなくも行灯の陰を行違う妓(よね)の立ち帰り。や、小春様か、なんとい

の、互いに一座打ち絶えて貴面ならずに便りも聴かず、気色が悪いのか、顔もほっそり窶れさんした。誰

やらの噺で聞けば、紙冶(紙屋冶兵衛の略稱)様故とかや。抱え主からたんと客の吟味にあわれて、何処

へもむさとは(滅多のことでは)送らないとか。

 いや、太兵衛様に請け出されて在所(田舎)とやら、伊丹とやらに行かんす筈とも聞き及ぶ。どうでご

ざりやすと言ったところ、ああ、もう伊丹、伊丹と言って下さんすな。それで痛み入りますわいな。いと



者)が浮名を立てて、言い散らし、客という客はすっかり寄り付かなくなり、内からは紙屋冶兵衛ゆえの

迷惑だと私らの仲を割くほどに、割くほどに、文の便りも叶わないようになりました。

 不思議に今宵は侍衆(しゅ)とて河庄(茶屋の名)方へ送られるが、こうして行く道でも太兵衛に逢うか

も知れないと気遣いさ、気遣いさ。敵持ちででもあるような奇妙な身持。なんと、そこらに姿が見えない

だろうね。おお、そんならちゃっと外(はづ)しゃんせ。あれ、一丁目からなまいだ坊主(辻芸人の一種)



 その見物の中に、のんこに髪を結った(両鬢を細く、髷を高く結った伊達好みの若者の髪型)如何にも

放蕩者らしい伊達衆自慢と言いそうな男、確かに太兵衛様かと見た。

 あれあれ、これへと言う間もなく焙烙頭巾(ほうろくずきん、物を炒ったり蒸し焼きにするのに遣う素

焼きの土鍋に形が似ているので言う)の青道心(生臭さ坊主)が墨の衣に玉襷(たまだすき)、取り巻きぞ

めき(ひやかし客)に取り巻かれて、鉦の拍子も出合い(出まかせ)ごんごん、ほでてん、ほでてんご、念

仏のあだ口かみまぜて、樊噲流は珍しからず、門を破るのは日本の朝比奈流を見よやとて、貫の木逆茂木

(さかもぎ)引き破り、右龍虎左龍虎(うりょうこさりゅうこ)討ち取って難なく過ぎる月日の関や、なま

みだ、なまいだ、なまみだなまいだ、迷い行けども松山に、似たる人なき浮世ぞと、泣いつええ、ええ、

わは、わは、わは、笑うつ狂乱の、身の果何と浅ましやと芝を茵(しとね)に臥しけるは目も当てられぬ

風情だ、なまみだ、なまいだ、なまみだ、なまいだ。えいえい、えいえいえい、紺屋の徳兵衛、房にもと

より恋初めて、濃い染込の、内の身代は灰汁(あく)でも剥げない。

 なみだなまいだ、なみだなまいだ、なみだなまいだ、なみだなまいだ。ああ、これ、坊様(ぼんさ

ま)、何ぞ、ええ、忌々しい、ようようこの頃この里の心中沙汰が静まったのに、それを措いて国姓爺

(こくせんや)の道行念仏が所望じゃと。杉(小春を送って来た下女の名)が袖から御報謝の銭、たった一

銭や二銭で三銭ならぬ、三千余里を隔てたる大明国(だいみんこく)への長旅は引き合わぬ、阿弥陀仏。

あわぬだ、あわぬだ仏、あわぬだ。ぶつぶつ行き過ぎた。

 人立ち紛れにちょこちょこと走り、とつかわと(慌ただしく、そそくさと)河内屋(前出の河庄)に駆け

込めば、これはこれは早いお出で、お名さえ久しく言いませんでした、やれ珍しい小春様、小春様、はる

ばるで(お久しぶりですね)小春様と、主(あるじ)の花車(かゎしゃ、茶屋の内儀)の勇む声。

 これ、門にきこえまする。小春、小春と言って下さんすな。表に嫌な李韜天(りとうてん、国姓爺合戦

の敵役の名)がいるわいな。密かに密かに頼みやすと、言うのも漏れたのかぬっと入って来た三人連れ、

小春殿、李韜天とは珍しいあだ名を付けてくれましたな。先ず礼から申し述べましょうよ。

 連れ衆(つれしゅ、連れ立ってきた仲間への呼びかけ)、内々に話した心中よし(真実があり)、意気方

よし(気立ても良い)、床よしの小春殿、やがてこの男俺が女房に持つか、紙屋冶兵衛が請出すか、張り

合いの女郎だ、近づきになっておきゃ。とのさばり寄れば、えい、聞きたくもないことですよ。根拠もな

い噂を立てて手柄になるのでしたら精を出して言い囃しなさいな。この小春は聞きたくもないことです

と、ついと退けばまたもや擦り寄り、聞きたくなくても小判の響きで聞かせてみせよう。そなたも良い因

果じゃ。天満大阪三郷(天満を始め大阪中にの意。大阪を南組・北組・天満の三区に分けて三郷と言っ

た)に男も多いが紙屋冶兵衛は二人の子の親、女房とは従姉妹同士で舅は叔母聟(おばむこ)、六十日、六

十日に問屋の支払い金にさえ追われている身だ。商売だ。十貫目近い銀を出して請け出すの、根引きする

のとは蟷螂が斧(もと、カマキリが鎌を立てて車の通路を食い止めようとする意で、此処では分際不相応

の事を言う)で御座ろうよ。

 我らは女房子がいないので、舅なし親もなし、叔父を持たない。身すがら(一人きりで係累がないこ

と)の太兵衛と名を取った男だ。色里で僭上(せんしょう、思い上がった高言を吐く事)を言うことでは冶

兵衛めには敵わないが、金を持っていることでは太兵衛が勝ったぞ。金の力で押したならば、のう、連れ

衆、何に勝つかも知れない。今宵の客も冶兵衛に決まっているぞ、貰おう(他の客に呼ばれ、又は約束の

ある遊女を別の座敷に呼ぶのを、貰う、と言う)、貰おう。この身すがらが貰ったぞ、花車、酒出しゃ、

酒出しゃ。

 ええ、何をおしゃんす、今宵のお客はお侍衆、追っ付け見えましょう。お前はどうぞ脇で遊んでくだし

ゃんせ。そう言ったのだが相手はほたえた(巫山戯た、調子に乗った)顔つきで、はて、刀を差すか差さ

ないか、侍も町人も客は客だぞ。なんぼ差した所で五本六本とは差さないだろう。多く差したところで

刀と脇差でたった二本。侍客もろともに小春殿は貰ったぞ。

 抜けつ隠れつなされても縁あればこそお出会い申す、なまいだ坊主のお陰だ。ああ、念仏の功力(くり

き、御利益)有難い、こちも念仏申そう。や、鉦(かね)の火入れ、煙管の橦木が面白い。ちゃんちゃん、

ちゃんちゃんちゃん、えいえいえいえいえい、紙屋の冶兵衛、小春狂いが過ぎて、杉原紙で一分小判紙散

る散る、ちり紙で内の身代を透き、漉き損じた破れ紙で鼻もかめない紙屑冶兵衛、え、なまみだ仏、なま

いだ、なまみだ仏、なまいだなまいだなまいだ、と暴れまくる門の口、人目を忍ぶ夜の編笠、はああ、ち

り紙がわせたぞ(おいでなすったなあ)、はて、きつい忍びようだな。何故は要らない塵紙(ちりかみ)、

太兵衛の念仏が怖いのなら、南無阿弥陀仏ならぬ、編笠もこっちに貰ったぞ、と引きずり入れた姿を見れ

ば大小くすんだ(大小の脇差の拵えも渋く)本物の武士だ。

 編笠越しにぐっと睨みつけた。まん丸な目玉は叩き鉦を並べたよう。

 さすがの太兵衛も念とも仏とも口から出ないで、はああ、と言うのだが表面は臆した顔を見せずに、の

う、小春殿、こちらは町人で刀を差したことはない。しかし俺のところの沢山ある新銀(享保銀、享保四

年に改鋳した銀貨で、従来流通の四宝銀に対して四倍の価値があった)の光にあったら少々の刀も根締め

が歪もうと思うもの。塵紙屋めが漆漉し(漆を濾すのに使う吉野紙)程の薄元手でこの身すがらと張り合

うのは慮外千滿(生意気千万)、桜橋(さくらばし)から中町くだりぞめいたら、どこぞでは紙屑を踏みに

じってくれよう。皆おじゃおじゃと、身振りばかりは男を磨く町一杯に、肩怒らせて憚ってこそ帰ったの

だ。

 所柄、馬鹿者には構わずに堪えた武士の客、紙屋、紙屋とよしあしの噂、小春の身に応え、思いくずほ

れ(思いくっして)うっとり(ぼんやり)と無愛想である折節に、内から走って来て、紀伊国屋の杉がけう

とう(興ざめな、当惑した)顔附きをして、只今小春様を送って参りましたる時に、お客様はまだ見えず

何故見届けては来なかったのだとひどく叱られました。慮外ながらちょっとと編笠を持ち上げて面体吟

味、むむ、そでない、そでない、気遣いはない。跡詰めて(明朝までしっぽりとお契りなさいな)小春

様、しただる樽の生醤油、花車様、それでは後で青菜のお浸し物を届けましょうと、口合いたらだら(地

口・駄洒落を散々並べて)立ち帰った。

 至極堅手の侍は、大きに無聊して(機嫌を損じて)、こりゃ何じゃ、人の面を目利きするのは身を茶入

れ茶碗にするのか、嬲られには来申さないぞ。この方の屋敷は昼でさえ出入りが堅く、一夜の他出にも留

守居(蔵屋敷の留守居役。裏屋敷は大阪に置かれた諸藩の出張所で、領地から収納した米や特産品を商人

に払い下げ、藩の現金収入を図ることを掌った。留守居役はその事務を総括する役人)に断り帳を付ける

必要があるのだ。難しい掟ではあるが、お名を聞いて恋い慕うておるお女郎、どうぞと一座を願い、小者

(武家で走り使いをする下僕)も連れずに先刻参って茶屋に頼んで宿を取り、何でも一生の思い出、お情

けに与ろうと存じたのに、どうしてそれどころかにっこりとも笑顔を見せずに、一言の挨拶もなく、懐で

銭を読むように(銭勘定をするように)さてさて俯いてばかり、首筋が痛みはせぬか。何と花車殿、茶屋

へ来て産所の夜伽をするような事は遂にないことであるよ。と、愚痴を零せば、お道理、お道理、曰く因

縁・委しい事情をご存知ないので御不審が立つはずです。

 この女郎には紙冶様と申す深い馴染みの客が御座いまして、今日も紙冶様、明日も神治様と脇からは手

刺しもならず、外のお客は嵐の木の葉で、ばらばらばら、登り詰めてはお客にも女郎にも得て怪我のある

もの。第一に勤めの妨げになるものと、堰(せ)くのはどこしも親方の習い、それ故のお客の吟味です。

おのずと小春様もお気が浮かないのは道理で、お客様が御不審がるのも道理、道理、道理の仲を取って、

又、茶屋お主であるみからすればご機嫌が良かれと思うのが道理、肝心肝文、さあ、はっと飲みかけてわ

さわさわっさり景気よくあっさりと頼みます。

 小春様、春様と言えども何の返答も無く、涙ほろりの顔を振り上げて、あの、あのお侍様、同じ死ぬる

道であっても十夜(浄土宗で陰暦十月六日から十五日までの十日間。別時念仏を稱える行事。この間に死

ぬ者は成仏できると言う)の内に死ぬ者は仏になると言いますが、真実でしょうか。

 それを身が知るものか。旦那坊主(檀那寺の和尚)にお訊きなさい。ほんにそうじゃ、そんならお侍様

と見定めてお聞き申したい事がある。自害すると、首を括るとは、定めしこの喉を切る方がたんと痛いの

でございましょうな。痛むか痛まぬか、まだ切ったことはない。物を訊くにも程がある、大方なことを問

われるでないよ。あ、小気味の悪い女郎じゃとさすがの武士も不審顔。

 ええ、小春様、初対面のお客にあんまりなご挨拶。ちっと気を変えて、どりゃ、こちの人(外出中の亭

主を指す)を尋ねて来て酒にでもしましょう。そう言って立ち出た門は宵月で影が傾いて雲の脚、人足薄

くなったのだ。





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最終更新日  2025年03月31日 20時12分52秒
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