草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年04月02日
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天満に年経る、ちはやふる、神ではない紙様と世の鰐口(わにぐち、神前の軒に釣る銅製の楽器)に乗る

ばかり、世間の口に噂されるだけ。小春に深く逢う因縁で、大幣の腐り合った身、御注連縄(しめなわ)

、今は結ぶの神無月、堰かれて逢われない身と成り果て、あはれや逢瀬の首尾があらばこそ、それが

二人の最後日と名残の文で言い交わした仲、毎夜毎夜の死に覚悟、魂抜けてとぼとぼ、うかうかと、身を

焦がすのだ。

 煮売り屋(飯、又は副食物の似たのを売る店)では小春の沙汰、侍の客で河庄方と耳に入るより、さあ

あ、今宵と覗く格子の奥の間に客は頭巾でおとがいが動くばかりで声は聞こえず、可愛や小春が灯火に背

けた顔のあの痩せたことわい。心の中は皆俺のことだぞ。

 此処に居るぞと密かに知らせて、連れて飛ぶなら梅田か北野か、ええ、知らせたいよびたいと心で招く



 奥の客が大あくび、心配事のある女郎衆の御伽で気が滅入る、門も静かだ。端の間に出て、行灯でも見

て気を晴らそうか。さあ、ござれと連れ立ち出れば、南無三宝と格子の小陰に肩身をすぼめて、隠れて聞

いているとも内では気もつかず、のう、小春殿、宵からのそぶり、詞のはしに気をつければ、花車が噺の

紙冶とやらと心中する心と見た。違うまい、死神がついた耳には異見も道理も入るまいとは思えども、さ

りとは愚痴の至り、死んだあとで先の男の無分別は恨まずに、一家一門がそなたを恨み憎み、萬人に死に

顔を晒す身の恥、親は死んでいないかもしれないが、もしあれば不孝の罰、仏は愚か地獄へも温かに二人

連れでは落られぬ。

 痛わしいとも笑止とも、一見(いちげん、初対面)ながら武士の立場として、見殺しには出来ない。定

めし金で解決のつくことであろうが、五両や十両であるならば用に立ててでも助けたい。神八幡、侍冥

利、他言は致さない。心底を残さずに打ち明けてくれないか。そう囁けば、手を合わせて、ああ、忝ない

有難い、馴染み好(よしみ)もない私、ご誓言でのお情けの御辞に涙がこぼれまする。忝ないことです。



 如何にも如何にも、紙冶様とは死ぬる約束、親方に堰かれて逢瀬も絶え、差し合い(金の工面がつかな

いこと)があって今急には請け出すことも叶わずに、南の元の親方と此処にまだ五年ある年季の中、人手

に取られては私はもとより主(紙冶のこと)は猶更一分が立たず、いっそ死んでくれぬか、ああ、死にま

しょと引くに引かれぬ義理詰めにふっと言い交わして、首尾を見合わせ合図を定め、抜けて出よう、抜け

て出ようと何時何時を最後とも、その日送りのあえない(儚い)命、私一人を頼りの母様、南辺(島の内



これだけが悲しみの種。

 私だとて命は一つです。水臭い女と思し召すのも恥ずかしいことですが、恥ずかしい思いは捨ててでも

死にたくないのが第一です。死なずに事が済むようにどうぞどうぞ頼みやすと語れば頷く侍客の思案顔、

外では聞いてはっと驚く、思いがけない男冶兵衛の心だ。木から落ちた者のようで、気も急き狂い、さて

は皆嘘だったか、ええ、腹が立つ。二年というもの騙されたぞ、化かされた根性腐りの女狐め。踏み込ん

で刀で一打ちに斬り殺すか、それとも腹が癒えるように有りっ丈恥を掻かせてやろうか。歯噛みしてきり

きりきり、悔し涙。

 内では小春がかこち泣き、卑怯な頼みごとながらお侍様のお情けで今年中一杯と引き続き来年の二、三

月頃まで私に揚げ詰めに逢って下さんして、かの男が死にに来る度毎に邪魔になって期を延ばし、自ずか

らに手が切れてしまえば相手も殺さず、私も死なずに済みます。何の因果(不幸な巡り合わせ)で死ぬる

契約をしてしまったのでしょう。思えば悔しゅう御座んすと膝に凭れて泣く有様だ。

 むむ、聞き届けた、思案がある。風も吹き込む、人も見るだろう。格子の障子をばたばたと閉めた。立

ち聞いていた冶兵衛は気も狂乱、ええ、さすがは売り物安物女郎め、ど根性見違えたぞ。魂を奪われたこ

の俺、巾着切り。切ろうか突こうかどうしよう。障子に映る二人の横顔、

 ええ、喰らわせたい、踏み込みたい。何を抜かすやら、頷き合い、拝む、囁く、吠え(泣くを罵って言

う)るざま、胸を抑えさすっても堪えられない堪忍ならぬ。心も急く、関の孫六(美濃の国関の刀工、孫

六兼本が鍛えた)一尺六寸を抜き放して格子の狭間から小春の脇腹をめがけて、ここぞと見極めてえいと

突いた。しかし、座は遠くて部屋の中では「是は!」と驚いただけで怪我もなく、間髪を入れずに侍客が

飛びかかり両手を掴んでぐっと引き入れ、刀の下げ緒を用いて格子の柱に手早くがんじ絡みに括りつけ

た。

 小春騒ぐな、覗くまいぞと言う所に亭主夫婦が立ち帰り、これはと騒ぐ。ああ、苦しゅうない、障子越

しに抜き身を突っ込んだ暴れ者、腕を障子に括り付けておいた。思案があるので縄は解くな。人立があれ

ば所の騒ぎ、さあ、皆奥へ。

 小春、おじゃ。行って寝よう。あい、とは答えたものの見知っている脇差、突かれなかった胸にはっと

貫かれて、酔狂のあまり色里では有る習いです。沙汰なしで(穏便に済ましてそのままに許して)去なし

てやらんしたら。なあ、河庄さん、わしゃ良さそうに思いやす。

 いかないかな、身次第にして、皆入りや。小春、こちへと奥の間の影は見えるのだが、括られていて、

格子が手枷になりもがけば締まり、身は煩悩に繋がれる犬にも劣った生き恥をかく。覚悟を決めていた血

の涙を絞り、男泣きしているのは如何にも哀れであるよ。

 ぞめき戻りの身すがら太兵衛、さてこそ河庄の格子に立っているのは冶兵衛めだな。投げてくれんと襟

をかい掴んで引きかずく、あ、痛たた。あ痛とは卑怯者め。ああ、こりゃ、縛り付けれれているのだ。さ

ては盗みを働きおったな。や、生き掏摸(すり)めどう掏摸めと言ってははたたと喰らわせ、や、強盗

め、や、獄門めと罵っては蹴飛ばして、紙屋冶兵衛が盗みをし縛られたと、呼ばわり喚けば行き交う人、

隣近所も駆けつけて来て集まる。

 内から侍が飛んで出て、盗人呼ばわりしているのはおのれか。治兵衛が何を盗んだのだ、さあ、抜かせ

と太兵衛をかい掴み土にぎゅっとはいつくばわせ、起きれば踏みつけ、踏みのめし踏みのめし、引っ捕え

て、さあ、冶兵衛、踏んで腹を癒せと足元に突きつけたのを縛られながらも相手の頬げたを踏みつけ踏み

つけされて、太兵衛は顔中土まみれ。立ち上がって周囲を睨め廻し、辺りの奴原よう見物して踏ませた

な。一々に面は見覚えたぞ、返報する、覚えておけよ。そう減らず口を叩きながら逃げ出した。

 立ち寄った人々はどっと笑い、踏まれてもあの頤(おとがい)が広言をはくことよ、減らず口を叩くこ

とだ、誰か橋から投げて水でも食らわせてやれ。遣るな、逃がすな、と追っかけて行く。

 人立ちが減ったので侍が立ち寄って縛り目を解き、頭巾を取ったる面体、やあ、孫右衛門殿、兄者人、

あっあ、面目なやとどうと坐し、土にひれ伏して泣いている。

 さては兄御様かいの、と走り出た小春の胸ぐらを取って引き据え、畜生め、狐め。太兵衛よりも先にう

ぬを踏みたかったのだ。そう言って足を上げると孫右衛門が、やい、やい、やい、その戯けから事が起こ

ったのだ。人を誑すのは遊女の商売、今目に見えたか、思い知ったか。この孫右衛門はたった今一見(い

ちげん、初対面)、初めて会っただけで女の心の底を見る。二年あまりの馴染みの女、心底をみつけぬ狼

狽え者(心の据わらぬ者、粗忽者)、小春を踏む足でうろたえた己の根性を何故踏まない。ええ、是非も

ない、弟とは言いながら三十におっかかり勘太郎とお末と言う六つと四つの子の親、六間間口の店を張り

ながら身代が潰れる弁えもなく、兄の異見を受けるとはどういう次第なのだよ。

 舅は叔母婿、姑は叔母じゃ人、親も同然、女房のおさんはお前にとっても、その兄の自分にとっても従

兄弟の間柄、結び合い血縁の濃い親戚の間柄だ。一家一門の参会にもおのれの曽根崎通いの悔みより外の

事は何もない。可愛そうであるのは叔母じゃ人、連れ合いの五左衛殿はにべもない昔人、女房の甥に騙さ

れて娘を捨てた。おさんを取り返して天満中に恥をかかせようとの立腹だ。叔母一人の気扱いで、敵にな

り味方になりして病になるほどに心を苦しめ、お前の恥を庇っているのだ。その恩も知らずに、この罰ひ

とつだけでもどうせ行き先に良いことはないだろうよ。こうして家も保てないだろうし、小春の心底を見

届けて、その上でのひと思案、叔母の心も休めたく、ここの亭主に工面しておのれの病の根源を見届けよ

うが為に細工をしたのだが、女房子にも見代えたのも尤もだ、誠に真実な女郎である。ああ、お手柄、結

構な弟を持ち、人にも知られた粉屋の孫右衛が祭りの練衆か気違いか、遂に差した事のない大小をぼっこ

み蔵屋敷の役人との触れ込みで下廻り役者の真似をして、馬鹿を尽くしたこの刀だが、捨てどころがない

わいやい。小腹が立つやら可笑しいやらで、胸が痛いと歯ぎしりをして憤る。泣き顔を隠す渋面に小春は

始終むせ返り、皆お道理とばかりにて詞もなく、ただ涙に暮れるのだった。

 大地を叩いて冶兵衛は、誤った、誤った、兄じゃ人。足かけ三年前からあの古狸に魅入られて、親子一

門妻子まで袖にして(粗略にして)、身代の手縺れ(破綻)も小春と言う家尻切り(やじりきり、家・蔵な

どの後方の板や壁を切って忍び入る盗人を言う)に誑されて後悔千万、ふっつり心残らないので決して足

も踏み込まないでしょう。やい、狸め、狐め、家尻切め、思い切った証拠を見よと、肌にかけていた守り

袋、月初め取り交わした起請文(男女の愛情が変わらないことを神仏にかけて誓った証文。神社・仏閣で

出す護符に書くのが例)合わせて二十九枚を戻せば恋も情けもない。こりゃ受け取れと、はたと打ち付

け、兄じゃ人、あいつが方の我らが起請、数改めて受け取り、あなたの手で火にくべて下されば、さあ、

兄貴に渡せ、心得ましたと涙ながらに投げ出した守り袋、孫右衛門が押し開き、一二三四(ひいふうみい

よ)、十二十九枚、数は揃っている。外に一通は女からの手紙、こりゃなんじゃ、と開くところを、あ

っ、そりゃ見せられぬ。大事の文よ、と取り付くのを押しのけて行灯で上書きを見れば、小春様参る、紙

屋内さんより。

 読みも果てないのに何食わぬ顔で、懐中して、これ小春、最前は侍冥利、今は粉屋の孫右衛門、商い

冥利、我が妻をも隔てて妻にさえ見せないぞ。我一人だけが披見して、起請ともに火に入れる。誓約の文

言に違いはない。

 ああ、忝ない、それで私の面目が立ちますると、再び伏して沈み込めば、はあはあはあ、うぬが立つの

立たぬのとは人がましい言い草だ、これ兄じゃ人、片時もきゃつが面を見たくもない。いざ、ござれ。さ

りながら、この無念、口惜しさはどうにも堪らない。今生の思い出に女の面を踏んで、ええ、しなした

り、我ながら大失策、兄に対して「御免あれ」と一礼して小春の傍につっと寄って地団駄を踏み、無念至

極だ、足掛け三年、恋し、床しいも、愛しい可愛いも今日と言う今日は、たった一本の足の暇乞いと、

額際をはったと蹴ってから、わっと泣き出し、兄弟連れで帰る姿も痛々しく、跡を見送り声を上げて歎く

小春も惨(むご)たらしい。

 その小春の心は不心中か、心中か、誠実なのか否なのか、小春の底意は冶兵衛の妻からのあの一筆の奥

深くに秘められたままで、誰も見てはいないのだ。

 孫右衛門と冶兵衛の兄弟は小春と別れて立ち帰ったのである。





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最終更新日  2025年04月02日 15時53分15秒
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