草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年07月01日
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元信は家の幸甚、早速帰って本懐を遂げ、この御恩には父御の事も請け取り申す。万のお礼は本

国よりと立ち帰ろうとするのを、是、申し神の御告げに任せたからには恩にはかけませんよ、末掛

掛けて情を思召すならば必ず外に御内儀様を持ちてばしくださんすな。奴殿、頼みます。何が扨

て、何が扨て、天神様よりは大夫さま、おっつけおふたりは連理の松、中に立ったるこの松は嶋臺

(婚礼に使う蓬莱の島台)持っての取り結び、千年万年、万々年綴じ付きひっつき松脂の離れぬ仲と

ぞ寿した。

 されば江州(ごうしゅう、近江の国、滋賀県)高嶋の屋形に左京太夫頼賢(よりかた)卿が参勤の為

に上洛あった。執権不破入道道犬(どうけん)、同嫡子不破の伴左衛門宗末(むねすえ)は国を預かる

留守居役である。



るが某ことは雪舟の的傳(てきでん、正統を伝えた者)として代々の御扶持人、この高嶋の御屋形

にて絵筆を執って誰人か拙者が上につき申さん。

 然るをこの度、狩野とやんら申す青二才が武隈の松を描いたとて、過分の恩賞を下され、古参を

踏みつけにして御前にはびこり、あまつさえ今日は奥方(おくかた、女性の住む奥の建物)に召さ

れて姫様よりお料理を下されると承った。殿様の御留守に誰が許しての推参(無礼に参上する事)、

御家老の仰せ、一国に違背する者はいない。きっとお仕置きしかるべしとぞ支え(遮る、邪魔をす

る)ける。

 道犬は頷いて、つっと寄れ雲谷、そうじてこの四郎二郎めは相役の名古屋山三の取り持ちで召し

出された。山三は元来お小姓立ち(小姓から立身した者)、前髪の酒林(さかばやし、杉の葉を束ね

た酒屋の看板)、少年の容色で殿をたらした傾城のような男、口嘴(くちばし)が黄色い子雀が家老

並みに連なり威をふるうその山三めを甲に着て、のさばりかえる四郎二郎、我々親子が睨んでも事



 又、乙の姫君銀杏の前は御愛子(あいし)ではあるが脇腹であるから御台所を憚りなされて、田上

郡七百町の御朱印を付けられて、京都有徳の町人か由緒有る御家中にへ下されんとの、御内意故

に某嫁に申し請け、この伴左衛門に縁篇(えんぺん、夫婦の縁を結ばせ)し七百町を主づかん(所有

させる)と当てはめて置いたもの、姫君は狩野めに心を通わして今日密々に祝言がありと、奥目付

から聞いたのだが、御意とあらば詮方なし。御在京のその間は山三めも留守であるから彼奴の方人



ば打ち殺せ、御留守の間国中は某の裁きなり、この不破と言う鰐が見入れて余りほどはあらせま

い。試してみたい新刃(あらみ)はないか、一の胴(試し斬りの際の上の胴)か二の胴(一の胴の少し

下)か望んでおけと言いければ、雲谷は甚だ笑壺に入り、政道正しき御家老様、御屋形の心柱と追

従たらだら見苦しい。

 かくとは知らずに四郎二郎は桜の間に伺候して、姫君の銀杏の前さまから御掛物を仰せつけられ

て、持参仕り候お取次ぎを頼み奉ると言えども入道伴左衛門はじろりと見たるばかりにて返答もせ

ずに睨め付けた。

 やあ、痴れ者よ。そばには雲谷、いかさま、我に手を取らせる企み(我に一杯食わせる企み)があ

る。立ち帰るのも不覚(面目が立たない)である、幸い、幸い、奥に通じる通路の鈴の綱がある。ふ

りはえ(引っ張って)引くと鈴の音がして、おう、と答える女の声。

 宮内卿と言って中老(老女の下位の者)の局が立ち出でて、やあ、狩野殿か、姫君さまがお待ち

かね、お直の御用もあるとのお事、さあさあ、こちへと有りければ、畏まって四郎二郎が入ろうと

すると伴左衛門が声を掛けて、待て、待て、待て、御家の掟を知らなければ何故に物頭に伺いを立

てなかったのだ。それとも知っていて背いたのか、不届き千万、上から御許しが無い時に刃物を帯

して奥方に参ることは禁制(きんぜい)との御条目、あれ、大小をもいで引きずり出せ、当番、当番

と呼ばわれば、宮内卿が、いや、是は私事ではない。姫君様から殿様にお伺い、即ち京から名古屋

山三殿の指図があり、奥に召される四郎二郎、何のお咎めがございましょうか、と言えども更に聞

き入れずに、御留守を預かる家老の耳に承らぬ御意であれば、殿の御意でも叶わぬこと、それ、伴

左衛門出で取れ。まっかせ、と立ち上がった。

 四郎二郎も身がまえして、すがらば切らんず眼差し。左右なく(容易には、直ぐにも)寄り付かず

に、さあ、渡せ、渡せと詞で脅すだけである。

 時に奥から腰元がつかつかと出て、これこれ、いづれ御姫さまより御意がある。四郎二郎殿には

直に御用の事があるけれども丸腰でなければ奥に通さない御法度とあれば、是非に叶わず(止むを

えません)、姫君様がこの所までお出でとの仰せである。

 四郎二郎は御用人(上の御用を仰せつかる者)である。その外の男の分、雲谷は言うに及ばず、

御家老殿を始め誰も御前へは叶いません。皆、御広間に立ちませい。立ちませいとの権柄さ(権力

に任せた尊大な態度)に道犬親子は無念ながらにつっと立ち、さあ、雲谷、姫君の御前には男たる

者は罷り出でず、男でもない奴ばらに侍の時宜(礼儀)は無用の沙汰と、四郎二郎に刀の鐺(こじ

り、刀の鞘のはし)を打ち当て、袴の裾を踏みたたくって睨みつけ、御次の間にぞ出たのだった。

 お留守と言い、女中の邊なお穏便に事ともせずに御好みの掛け物、梅に淡雪・雉山鳥を仕って候

と紐を解いて懸けた所、この由を姫君に披露致さんとする。

 さあ、先ずはお茶を進ぜようと局は奥にあい、あいと、愛想らしく声々が、男の側に寄ることは

常に無い、梨地の煙草盆、落雁・かすてら羊羹より、菓子盆運ぶ腰元の、饅頭肌(白くふっくらし

た肌)が懐かしい。

 物に臆したりはしない男子であるが、女中の色に目移りして、気を取られた折節に、十八九なる

脇詰めの後ろ結びも格別の、銚子盃を前に置いて淑やかに手を突いて、私は御姫様の御髪上げ係り

の藤袴と申す者、しみじみとお話申し上げいとの御事です。御存知の通りに御手掛け腹のお姫様、

御臺様への憚りにて大名高家(こうけ、武家の名門)への御望みはなく、心次第、縁次第にと田上郡

(たがみごうり)七百町、御朱印を握って殿好み、つれないのは其方様でいつそやから色々とお乳の

人お局が口が酸い程に勧めてもどうでもお請けないとのこと、御愛しや姫君はあまりの事に恋焦が

れて私を寝間に召して、やい、藤袴、せめてのことに其方なりと四郎二郎と名を付けて心床しに抱

いて寝よう、そちもおれを抱きしめて姫、可愛いと言って呉れ。との、藻掻き言が御愛しさ、

 とんと下紐を打ち解けて、寝る程だく程、締める程に二人の心は急くばかり。どちらぞ男になり

たいと言っても泣いても叶わばこそ、上手くはいきません。のう、大名の手業のも有るべき道具

(男の一物を暗示する)の足らないのはひょんな物であるとおむつかる(おじれになる)。

 みずからに否應(いなせ)の返事を聞き切れ参れとのお使い、私も一分が立つようにお返事なされ

よと述べたのだ。

 元信は額を畳に付けて、冥加に余る仕合せながら、度々お返事いたした如く諸朋輩の嫉みと申

し、欲心に紛れる事は世間の嘲り、よしご機嫌に違って改易されましょうとも御恨みには存じませ

ぬ。御請けの事はなりませぬ。良きようにお取り成しを頼み入るとぞ言い切ったのだ。

 ははあ、にべもなく埒があいた。如何にとしても上つ方に左様な慮外は申されまじ。少し物に品

をつけて始めよりの女房が有るとでも申しなば、御胸が晴れることもあるでしょうが、さりなが

らその女房は何者と後度をつかるる、念のために、今此処で私と夫婦固めの盃をして、とっと前か

ら藤袴と契約が有ると申すならば、いかな主でも大名でも、この道ばかりは先(せん)が先、この談

合はどうでござんしょうか。

 おおう、幸い望む所だ、さあ、盃を仕ろう。いやいや、いやいや、我とても仮にはいや、仏神か

けての夫婦ぞや、誓文、誓文、絵筆を取らぬ法もあれ、かうじゃ、かうじゃ、と抱き付く、近頃嬉

しい忝い。是は祝言の盃と一つに受けて元信(もとのぶ)に妻の盃を頂く作法儀式は固くと、四海

波、腰元中が謡ったので、奥からお局が嶋臺に七百町の御朱印箱、姫君様の御祝言、三国一だと祝

ったのだ。

 四郎二郎は合点がゆかずに、逃げようとするのを抱き留めて、藤袴とは仮名である。自らこそは

銀杏の前、誓文立てての盃、否やはならぬと述べ給えば、いや、我等の名指しは藤袴、外に妻はこ

れなしと尚も意地を張れば、そんなら本の藤袴、早く、早くと呼び出した。

 お茶の間の切り嬶(かか)五十余りにの厚化粧、三平二満の口紅、しなだれかかる会釈顔、これが

何で藤袴であろうか。しゃちらごわい皮袴、どっと笑いのどやくや紛れに、尽きせぬ妹背となった

のだ。

 かかる所に不破伴左衛門宗末が雲谷を伴って遠慮もなく座上にどっかり直り、是、四郎二郎、汝

如何なる野心でか、御屋形を調伏し、亡ぼさんとの存念あり、きっと詮議を遂げるべき旨の父道犬

の下知、申し譯仕るか、直ぐに縄をかけようかと早くも縄を手繰って見せかけたのだ。

 四郎二郎は少しも騒がずに、せめて形の有る事には申し譯も有るべし。御屋形を調伏とは此の方

の言い訳よりも先ずお咎めの証拠を承らんと申しける。

 雲谷が下座から、こりゃ、こりゃ、証拠は某だ。総じて絵描きが秘密裏に絵を描いて調伏するこ

とは、人は知らないと思うであろうが、この雲谷が見つけた。この掛け絵は和主が筆、梅に山鳥、

雪に雉、そもそも当家は高嶋の御屋形と号し、山偏に鳥と書いて嶋と読む文字である。梅の梢に山

鳥が高々と止まっているのは、是は高嶋ではないか。雉にほろろの声があって、雪は降っていると

の心が有る。読み下せば高嶋滅ぶる調伏。で、狩野とは狩りの野と書く。

 姫君と心を合わせて屋形を亡ぼし、一国を己の狩場の野原にすると言う表相、重罪は逃れのない

所だ、縄に懸かれと取り着く所をひっぱずして、胸板をはたと蹴倒した。その間に、飛び掛かった

伴左衛門の真向、刀の柄ではっしと打ち、直ぐに抜こうとする所を隠しておいた取り手の者、十手

八方鉄鞭をぶち立て、ぶち立てて、ねじ伏せ、高手小手にいましめ、黒書院の床柱に思う様に縛り

付けて姫君の御朱印を奪い取れと群がるのを、女中達が手に手に枕槍(護身用に枕元に置く槍)や長

刀でひっ包み、囲い防げば、あまさじと奥を指してぞ追い詰めたのだ。

 腰掛に控えていた雅楽(うた)の介はかくと聞くよりたまられず、駆け回っても奥方の勝手は知ら

ず中口の開けずの門を砕けてのけと扉を叩き、狩野四郎二郎元信の弟子、雅楽の介之信(ゆきのぶ)

と言う草履取だ、主と言い、師匠である。死ぬる道ならば共に死なん。

 高が絵描きの丁稚風情だ、怖い事も有るまい。相手の首を取る分のことだ、開けよ、開けよと貫

の木も折れるばかりに踏み叩き、鳥居立ちにぞ跨りたる。





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最終更新日  2025年07月01日 20時29分21秒
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