草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年10月15日
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第   四   舟路の道行

 頃は文月(七月)、半(なかば)の空、都方には亡き魂を迎えて帰る槇(まき)の露、これも都に帰り

往く。

 舟にぞ仏の誓いにて鬼住む嶋を逃れ出て、少将成経康頼は帰洛の舟の旅衣、今着てみるこそ由々

しけれ。ちどり一人は泣き焦がれ、仮初に親と頼みし俊寛を後に残して置き、沖の嶋、また逢いま

しょうではないが大嶋を漕ぎ放れ、余所に見捨てて行く、壱岐(いき)の嶋、硫黄が嶋より地の嶋ま

で海上七七四十九里は船を繋ぐべき磯も無く、蒼海天に連なって雲に漕ぎ入る沖の舟、眺めも遠く

漫々と(広々と)北は三韓(朝鮮)・壱岐・對馬、南は香椎・宇佐八幡、そもそもこの御神はすべらき

(天皇)の御代が始まりて十六代の尊主・応神天皇、みもすそ川の底清く、神徳あまねき夢想の告げ



鎮座有り。

 他の人よりも我が人と、誓いも固い石清水、今澄み上る我々が再び帝都の雲を踏み、九重の月を

眺める事、皆神明の加護ぞと各々が法施を奉り、波の白木綿・青弊(あをにぎて、麻で作った神前

の供え物)、かかる遠國波涛にも、名所は音に響きの灘、鐘が岬に明け渡る。箱崎の松、宰府の

梅、末は蘆屋(あしや)の浦伝い、海人の漁火影もなく、松吹く風の声ばかり。

 今行く舟に通い来る苫から潜るしたたりは、小倉の雨の糸に似て、波も縮(ちぢみ)を織っている

ようだ。そんな風に心を結ぶ中空に初雁がねが雲間から、ちらちらちら、と散らし書き、誰が玉づ

さの文字が関、和布刈(めかり)の明神を伏し拝み、潮の満ち干の玉嶋に続く光やあかねさす蘇芳

(すはう、黒みを帯びた紅色)周防灘とはこれかとよ。濡れた姿のあの姫嶋は誰(た)が思惑のゆかり

ぞと、沖の家室(かむろ)・禿(かむろ)にこと問えば灘の男波が打ち寄せていつも添い寝の床の嶋、

京とまりては上の関、明日は都も程近く、阿伏兎(あぶと)御手洗(みたらい)くろく嶋、右手(めて)



島々浦々、幾湊を風に任せ、櫓に任せ、舟な備後の敷名の浦、潮待ちしてこそいたりける。

 俊寛僧都の郎党・有王丸は主人の遠流赦免あると聞きしより、夜に日をついで備後の国敷名の浦

に着いたのだが、磯に寄せたる上り船、すはやこれかと渚に降り立ち、是々、御船に物問おう、鬼

界が嶋の流人帰洛の船は何国(いづく)まで参りしぞ。類船(ふねが一緒に航行すること)などはなさ

れなかったか。



 なう、これこそは尋ねる流人船である。丹波の少将成経と平判官康頼が舳板(へいた)踊り出で給

えば、御堅固の帰洛重畳千万、法皇の院宣(いんぜん)、小松殿の情により主人も赦免と承る。

 有王丸が御迎えに参りしと憚りながらお伝えをと、聞くより二人は打ち萎れ、千鳥を呼び出し

引き合わせ、これこそ俊寛の養い娘、僧都と思い宮仕えを致せと、有つる嶋の物語。

 有王はっと途方に暮れて、ええ、しなしたり、口惜しや。あづまや御前の最期にも一足違って御

命を助け得なかった。腹を切って申し譯をと思ったが、嶋には僧都がましませば無念の命を長らえ

て待ちおおせたる甲斐もなく、よっく仏神にも捨てられたか。娑婆での奉公はこれまで、腹を掻き

切って冥途での忠義に急がんと、既にこよと見えければ、千鳥は陸(くが)に駆け上がり、なう、は

やまるまい。此の度は帰洛がなくとも死に失せ為された身でもなし、御先途を見届けようと思うき

はないかと、縋り付いて留めている所に、浦守の下人が駆け来った。

 こりゃ、こりゃ、その船漕いで行け、清盛様が鳥羽の法皇を連れまして厳島を御参詣、この浦に

御船がかかる(停泊する)、筈、やれ、その小船漕ぎ退けよ。急げ、急げと言い捨てて、次の里へと走

り行く。

 丹左衛門の尉基康は有王丸を船近くに招き寄せて、成経・康頼が帰洛の趣を清盛公に訴えん、こ

の女性(にょしょう)を同船の事を咎められては事難しい。俊寛の養子娘であれば汝が主人である。

きっと預ける。これより陸路(くがぢ)を同道して都に上れ。

 あれ、舟歌が聞こえる、はや、御船も程近い。と、船をかたへに漕ぎつければ、有王は千鳥を介

抱して一群茂る葦の陰に隠れた。

 程も無く波の上に御座船の棹の歌、やんれ、龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ、貴人の船、二隻を

一対とし、一隻には龍の頭、一隻には鷁・げき 想像上の鳥の首を舳につける)の金(こがね)の楫

やァ、玉の棹綾や、錦を帆に上げてやらんやら、お目でたい、鯛を釣る、鱸(すずき)釣る、磯辺に

錨を下しける。

 流人船が漕ぎ寄せて、丹波の少将成経、平判官康頼を召し具して、丹左衛門の尉基康ただ今帰洛

仕る。御披露をと訴えれば、御簾(ぎょれん)を挙げさせて船館に法皇が安座なされていらっしゃる

ので、席を並べて清盛入道、我が下知を背いて俊寛も帰洛させよと病みほほけたる重盛を誑し、赦

し文を下されたる者ありと聞く。俊寛も連れ帰ったるか。

 御諚の如くに、一緒に帰洛すべき所、瀬尾の太郎と不慮の口論によって瀬尾を討った咎に任せ、

俊寛はすぐに彼の嶋に残し置き候。と、申し上げた。

 法皇はっと御驚き、入道くゎっと色を損じ、しゃつ憎っくき俊寛め。首取ってはなど帰らなかっ

た。手ぬるし、てぬるし。成経・康頼も心許されず。汝に預ける。連れ帰りきっと守れ。いそげや

っと忿(いかり)の顔色(がんしょく)。

 畏まって船を押し切り、元康は都に帰ったのだ。

 清盛は法皇をはったと睨み、潮(うしお)も逆巻く大声を挙げて、やあ、位抜け殿、法皇殿、保元

平治よりこの方朝敵に悩まされ、天下が暗闇になったるを悉く切り沈め、法皇と言わせた入道の恩

を忘れたのか。

 ややもすれば平家を亡ぼせ、入道を殺せなんどと俊寛を始め人を語らい、ぬっくりとした(自分

かってな、厚かましい)事を工まれた。今まではときはと言う女人を質に取り置きたれども、牛若

冠者めが奪い取り東国へ逃げたれば、一寸も油断ならず、この後平家追討の院宣などを頼朝・牛若

に出されては飼い犬に手を噛まれる道理、海に投げ込み人知れずに殺さん為に、厳島参詣と偽りこ

れまで連れ来れども、根性が腐っても王は王、手にかけるのは天の恐れ、みづから身を投げ給えば

清盛には罪はない。

 さあ、身を投げ給え、早う、早うと極悪、聞くに堪えかねて磯では千鳥と有王丸が出るにも出ら

れずさし覗き、ただはあ、はあと身を冷やす。

 法皇は御衣に御涙をかけながら、天照大御神に見放され奉ると思えば、世にも人にも恨みはな

し。神武の正統八十代、みづから身を投げた例を聞かない。入道の心に任すしかない。只末代こそ

心憂かれとばかりにて、昔を慕い行く末を思いかねては咽返り歎き沈ませ給う。

 入道が心に任せるとは、殺せとのことだな。おお、院宣には背かないと、勿体無くも取って引き

、海寄せ、両足をかいて(すくって、払って)真っ逆さま海へとざっぷと投げ込んだり。

 潮に引かれて玉對(ぎょくたい)は沖に誘われ磯に打ち寄せて、浮いたり沈んだりして漂ってい

る。

 千鳥はっと走り出で、続いて海に飛び入ったが、足が立つ程は立ち泳ぎ、御命を助け奉らん、必

ず御身をもむまいと乗りこす汐には抜き手を切り、泳ぎのぼれば、さら、さら、さら、さざ波高く

押し流されて海松布(みるめ)を力にたぐり、くるくる、みなぎる波を巴(は)の字に開き、うずまき

逆巻く波枕、海に馴れたる海女の業、ずっと水練(すいり、潜水)に姿も見えず。

 船では弓・槍・太刀・長刀、刃を並べて眼を配り、浮かばば斬らんと待ちかける。

 陸(くが)では有王が身を揉むが、烏が鵜の真似詮方なく、拳を握って控えている。

 清盛はいらって、やあ、うっそりめ(薄ぼんやりした奴等め)ら、陸を見よ。俊寛の下人の有王丸

がいるぞ。先ずきゃつから打ち殺せ。

 畏まって、飛び降り、飛び降り、命知らずの前髪首、さらえ落して根付(ねつけ、煙草入れ・巾

着・印籠などにつけ、落とさないように帯にはさむ物)にせんと憎ていにのさばれば、有王はくっ

くと打ち笑い、口有るままにほざいたな、物欲しいおりからよい慰みと、面も振らず(真っすぐに)

割って入り、磯打つ波のまくり切り、木の葉を誘う山おろし、揉み立て揉み立て斬り散らす。

 有王に斬りたてられ、むらむらぱっと逃げ散ったり。

 なんなく千鳥は法皇を肩にひっかけて、浮かび出たので、有王丸、はあ、御命安全、目出たし嬉

しい。こっちに任せと浪打際に降り立って、背中に潮で清めの垢離(こり)、法皇を肩に負い奉り、

足に任せて走り落ち行きけり。

 その隙に、清盛は長熊手をおっとり伸べて、千鳥の頭にさっくと打ち込み、えいや、えいやと引

き潮に逆らう千鳥の憂さ、浮き苦しみ舳にどうと引き上げ、背骨をしっかと踏まえねめつければ、

おお、引き殺せ、食い殺せ、俊寛の養子千鳥と言う薩摩の海士、あづまや様は母親同然、母の敵、

父の敵の入道、法皇様は一天の君。御命に代わると思えば数ならぬ海士のこの世の本望、殺されて

も魂は死なぬ。

 一念のほむらとなって皮肉に分け入り、取り殺さないでおくものか。ええ、無念やと、怒りの歯

ぎしり恨みの涙、磯打つ波に村雨の、篠を乱すが如くである。





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最終更新日  2025年10月15日 19時08分26秒
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