草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年10月14日
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宗清はときはに目もやらず、顔打ち振って独り言、 あっぱれ宗清は今、小松殿と言う能い主を

取った果報の武士、いにしえの如くに源氏を主と仰ぐならば、世間に恥辱をかくであろう。 あ

あ、嬉しや、嬉しや、俊寛が妻のあづまやの最期の詞、ときはが如き根性を下げまい物。道知ら

ず、悪戯者と笑い謗って、その身は伊邪那美の尊(みこと)以来、貞女の手本を世に残し、刃に臥臥

して空しくなる。想えばあづまやは四想(四相、我・人・衆・寿者の四相)を悟る女賢人。 小松

殿も賢人、平家の仇となるときにはときはとて容赦をするな。討って捨てよとの仰せ。徒に極まれ

ば平家に弓引く仇ではないが、その身ばかりの恥辱か、義朝の尸(かばね)の恥辱だ。 牛若の生い

先、源氏一統の恥、恥さらしだ。 

 さりながら、今、宗清が主でなければ構わぬこと、狐や狸が人を化貸し失うにもあらず。 とき



情けなや。俊寛の妻の自害は身の貞女を守るばかり、死んで源氏の為になるならばあづまやづれに

負けようか。生きて心の辛抱は、ああ、恐らくときはには及ぶまい。 牛若を助けるために清盛の

心に従ったが、病と偽り帯を解いて一度も肌を穢さぬもの。そもやそも往来の人を呼び入れて仇の

枕を並べようか。牛若は日蔭もの、誰を頼りに詮方なさ、往来の人を呼び入れて色に迷うのは男の

習い。

 騙し、透かし、誑し込んで心を見届け、従う者には源氏一味の血判させ、牛若に義兵を挙げさ

せ、平家一門の首を見ん為と言う言葉を打ち消して、抜かすな、言うな、噓つきのときはめ。今お

のれの不義を見付けられ、当惑しての作り事、聞くのも弓矢の穢れであると、立って行こうとする

のを再び引き止めて、いや、ときはに不義がないことは聞いても聞かする(是非とも聞かせる)、聞

かないでも聞かせる。むさぼりつくのを取って突きのけ、ええ、平家に敵対するときはならば討っ

て捨てよと御意を受けた宗清に、偽り者・恥知らずと、懐中の巻絹をひと捩ねじて丁々(ちょうち



(寝乱れ)髪と打ち乱す。 杉戸を隔てて笛竹が南無三宝、顕われしと裾端を折って杉戸を蹴放し、

袂の下の二尺三寸(の長さの刀)を隙も有らせずに切りかけた。老巧の宗清が抜き合わせて渡り合

い、踏み込み、踏み込み撃ち合う音、ときはは驚き杉戸をはずして引き抱え、相の小楯と身を棄て

て、前に覆いうしろに隔て止めても止まらずに抜け潜っつ。 太刀と太刀とが閃く影、暗夜の稲

妻、流れる汗、軒の雫の如くである。 ときは御前が声をかけて、大人げなし宗清、はやまるな牛



い立つゆえに母上と心を合わせ、下女腰元に様を変えて心を尽くすと聞くならば、忠節を為すべき

所主君たる母君を何故に打った、何故叩いた。 やあ、主君とは舌長(過言)なり。彌平兵衛宗清の

今の主人は平家の大将・小松殿。平家の仇となる者は討って捨てよ。義ある武士と見極めし、とお

眼鏡に適い迎えてくれた。不義放埓のときは手を以て討つのも腕のけがれと、肌身離さずに持った

この雑巾で打ったのは有り難しとは思わぬか。 不義者の恥知らずに廻り遭うこともあるかと、隠

し置いたるこの雑巾、親子の恥を押し拭い、押し拭い、早立ち退けと巻絹取って牛若の額にはった

と投げつけたり。 ええ、推参なり、いで切り裂いて捨てんずと引きほどけば、こは如何に、正八

幡大菩薩とありありとしるした源氏の白旗である。

 二人ははっと押し頂き、我々に廻り遭うまでと肌身離さずに持ちたるとや。今この旗を拝する事

は父義朝の蘇生とも千騎万騎の味方とも、この上があるべきか。奥が深い宗清の心を計らずに卒爾

の雑言、許してたべ、宗清と、親子が頭を下げ伏し沈み給うのを見て、色には出さないが宗清もつ

れなの人界や、譜代の主人に頭を下げさせ、冥加なし、勿体無し、痛わしとさえ言い遣らぬ奉公の

身の浅ましさ。想えば胸も裂けるばかりである。 しおれる瞼を見開き、見開き、せきくる涙をの

み込み、飲み込み渋面を作るのも哀れであるよ。 や、主人顔して怪我をするな、牛若と聞けば逃

されぬ。宗清を討って親子共に早く立ち退け。と急いた所、おお、誠ある宗清の詞は父の教訓、い

ざ、立ち退かん。尤もと走り出そうとすれば、これこれ、小松殿お眼鏡の宗清である、おめおめと

見逃して我が武士道がたつべきか。この宗清を一太刀うて。討ってから立ち退け、立ち退けと呼ば

わったり。 むむ、尤もと、牛若が飛び掛かって太刀を振り上げれば、ときはが縋って、やれ、情

けなや。心ざし(好意を寄せてくれる)の宗清を太刀を当て斬っては天の咎め、氏神の御罰、苔の下

なる義朝の御照覧も恐ろしい。たとえ親子が一生を朽ち果たすとも道を立て、義を立て、誠を尽く

す侍に何と刃が当てられようか。許して呉と泣きなされば、ええ、言い甲斐がない。薄手も負わず

に落としては宗清の武士が廃る。

 いや、それも斬らさぬ。いや、討て。いや、打たさぬと義を争う。 ええ、曲もない、腹を切る

のは易いのだが、敵を見てぬくぬくと腹を切ったのでは逃げたのも同然だ。小松殿の御詞、昔はと

もあれ、今は平家の禄をはむ。我が死後までも目がねを違えるな、畏まったと請け合った一言は須

弥山よりもなお重い。彌平兵衛の一生が廃ると知らないか。恨めしやと睨みつけた。血眼に涙が混

じっている。

 声の下から縁の下、敷板の外れから宗清の弓手の高股をぐっと通す切っ先は、朱に染まって現れ

たのだ。人々がはっと驚けば、宗清にっこと打ち笑い、ははあ、誰かは知らぬが我を突いたのは源

氏の忠心、さあ、宗清こそ牛若に出で合い、深手を負って討ち漏らした。やれ、のけ、のけと呼ば

わる隙(ひま)に牛若君が縁の敷板を引き退け給えば、ひな鶴が顔も形も朱に染み、這い上がって来

た。

 なう、懐かしの父上や。一年母上に連れて別れた娘の松が枝、今の名はひなづる、床しゅう御座

るとばかりにて縋り付いて泣いたのだ。

 母上に遅れて(死別)からはときは様に仕えてても、宗清の娘とは今日が言い始め、最前よりの御

詞始め終わりを縁の下でつくずくと聞き、お主の命も助けたし、父上の武士も立てたく、親の身に

刃を当て八逆罪を身に請けたのは親と主が愛しい故、さあ、牛若様、ときは様早く御退きなされ。

なう、父上、印ばかりにちょっと切ろうと思っても当て推量の切っ先が悲しや思わぬ深疵になりま

したが、たった一言許すと言う言葉を掛けて下さいませ。と、血を吸いのごい、疵を撫で、声も惜

しまずに泣いている。

 宗清も諸共に咽ぶ涙を押し隠して、離別の母の娘であれば親でもなければ娘でもない。女ではあ

っても源氏の郎党、平家方に刃を当てて許せとは何事ぞ。源氏方には誰ならん、藤九郎盛長の姪の

松枝ではないか。縁の下からつかなくとも何故に)名乗りを掛けて打たなかったのだ。

 宗清が怖いか、卑怯者め、腰抜けめ。とは言いながらでかしおったぞ。と、引き寄せて縋り付き

て泣いたので、ときは御前も牛若も、さてはおことは宗清の娘かや。血筋程ある心ざし、子と言

い、親と言い、かかる忠義の武士(もののふ)の敵になったる源氏の運、この行く末もいかならん

と、四人は顔を見合わせてわっと泣き入るばかり成り。

 宗清は猶、泣かぬ顔、やい、慰みに人を斬るか、主君を落すためならずや、お供申して立ち退

け。吠えな、吠えなと突き退ければ、如何にもお二人を落しましょう。

 我が身は残って父上の看病をさせて下されと、又、立ち寄るのをはったとねめつけ、母さえ離別

したる物、看病とは狼狽えたか。手負いに心を揉ませるな。勘当と言わないのを嬉しいと思わない

か。但しは勘当を受けたいか。不幸者めと叱るのにも涙。

 ああ、ああ、お供しましょう、お供せう。あれ、父の心ざし。立ち退いて下さいませと涙を押し

拭い押し拭いながら先に進めば、親子の人、身の大事をも思いやり、宗清父子の忠節も想い遣る方

涙ながらに出で給う。

 宗清は突っ立ち、牛若やらぬ、ときはやらぬ。足が立たない、口惜しやと態(わざ)とよろよろど

うとまろび、おのれか程の薄手に怯みはしないぞ。又立ち上がって太刀を杖、よろりよろりとよろ

めく姿、見兼ねては立ち戻り、逃さぬ、やらぬは声ばかり、両方で泣き顔、睨む顔、ひらめくばか

りも刃を向けはせぬ。

 勇者の振る舞いには情けが有る。恩愛あり、哀れがある。分別有る、仁義ある。心は太刀の光に

見えて義理に引かれる牛若君、親に焦がれるひな鶴の翼を絞る涙の雨、ときはが森の木の葉の露の

様に涙を落しながら去っていくのも哀れであるよ。





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最終更新日  2025年10月14日 14時27分29秒
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