草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年10月17日
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肝が太い、入道に取りつかんとは、蟷螂が斧、鉞(まさかり)よりもこれを見よ、とさ足にかけて、

えい、えい、えい、頭(こうべ)を微塵に踏み砕き、がはと踏み込む波が逆巻き、潮の響きが震動し

て死したる千鳥の骸(むくろ、死骸)から顕れ出でたる瞋恚(しんい)の業火、清盛の頭(こうべ)の上

車輪の如くに舞いくるめく。

 ぞっと身を震い、色変わり、うんと一声顛倒し、眼口をはって(開いたまま)わななきける。

 隨人雑式、これはと驚き、抱き起し、薬よ水よと呼びかければ、すっくと立って辺りを眺め、汝

等は何も見ぬか、気味悪し、気味悪し、法皇も逃げるのであれば逃がしてよい。

 命が物だね(命あってこそ、何でも出来る、と言う意味の諺)、都に帰らん、船急げと、水主か

ん取り(舵を取り)玉の汗、海は水玉、火の玉は離れず去らず、都の空を慕い行くこそ恐ろしけ



 身が滅びようとする時は、災害並びいたるとかや、さても入道相国御心地例ならず、殊更、御所

中に様々な妖怪、或いは家鳴り、光物(ひかりもの)、色々の姿が現れた。

 物怪しき事は限りなく、いかさま変化の業ならんと昼夜を分かって宿直の武士、そよと物音・風

音に火鉢の白炭(じよう、炭が燃え切った後の白い灰)が動くのさえ心を配って守りける。

 常に外様の男とは顔を見合わすのも法度であり、互いに心を置く、奥女中、二十三四の色盛り町

の風とは一位、顔も姿も格別に、土器(かわらけ、素焼きの盃)・瓶子(へいし、徳利)携え出で、愛

想らしく手をついて、私は入道様の御台所(御台所)二位の尼君様の御使、今日はいついつよりも心

をつけてのお宿直(とのい)、化け物も顕れずお心の騒ぎもない。

 上にもすやすやと御鎮まり、ひとしお二位様が御満足がり、酒(ささ)ひとつ召されて、いよいよ

御番油断なきように申せとの御ことである。と、述べければ各(各々)はっと頭(こうべ)を下げ、中

でも番頭(ばんがしら、殿中の雑務・警衛に当たる番衆の頭)難波の次郎経康、冥加に余る仕合



憚りながら御物語と尋ねれば、さればいな、過ぎつる厳島への御下向より夜昼に四五度づつただ身

が焼ける、あたあたとばかり御意なされ、お熱のさす折柄は辺り四五間の熱さ、暑さ。

 真夏の土用に百・二百の釜を一度に焚くかとも思わせ、御看病を申す私を始め、一人もお側には

寄り付かれず、せめて御心も涼しいようにと、御覧なされ、あの如くにお庭に水船を据えて、比叡

山千手(せんじゅ)井の水は日本一冷たい水、毎日毎日汲み寄せてはあの筧(かけい、地上にかけ渡



れるようになさるれども、その水さえに湯の様になりまする。

 お熱のさそう知らせにはこの御所が鳴り渡り、あそこの隅がめきめきめき、ここの隅がぐぁた、

ぐぁた、ぐぁた。

 半分聞いて一座の者、そろりそろりとにじり寄り、して、その跡は何と、何と。

 この後が猶怖い、こう並んでいる畳の下がむく、むく、むく。何がお目に留まるやら、空を睨ん

で、やい、又来たか、来たか。遣らぬぞとてはがさ、がさ、がさ。逃さぬとてはどたどたどた。

 それは、それは恐ろしい事と語れば、一座の者、色青ざめて、片息(息も詰まって)になって聞い

ている。

 難波の次郎は気がさ者(負けん気の者、気の強い者)、いやさ、変化化け物は臆病な気を見透かし

て業をなす。難波がかくて候えば天狗にてもせよ鬼でもあれ、障礙(しょうげ、障り、妨げ)など思

いも寄らぬこと、哀れ、化け物、こういう内にも来たれかし。取ってねじ伏せ手取りに致してや

る。そして、薬要らずにさっぱりと御快気を見せ奉らんと、目に見ぬ先の口広言。

 女はにっと会釈して、天狗の鬼のと言うまでも無し、誠は我はあづまやとて俊寛が妻の幽霊ぞ

や。さあ、手取りにしてみよと言うより姿はぱっと消えて、忽ち人のしゃれこうべが座中いっぱい

に満ち満ちたり。

 言葉には似ず動顛して、やれ、恐ろしや、なう、怖や。と駈け出した裾を引っ咥え、追い廻し追

い竦め、逃げもやらず居もやらず、念仏陀羅尼お題目、一つごっちゃにしゃれこうべ、上に成り下

になって転び合い、覆(ころ)びのき、火鉢の中に飛び入り、飛び入り、ぱっとふすぼる煙の内、一

塊に山の如く頭(かしら)ひとつに目は百千、睨む光は流星が渦巻きあがる如くであり、わっとわな

なき肝を消し、こけつまろびつ逃げ散れば、俄かに家鳴り震動して大地も崩れるばかりである。

 能登守教経萌黄匂いの腹巻、上には狩衣引き違え、重藤(しげとう、細かく籘・とうを巻いた

弓)の弓張月、星切り斑・ふのとがり矢をかいこみて大床に躍り出で給えば、女の姿が又顕れて、

珍しや教経殿、我あづまやは幽霊ではあるが御身は蟇目(飛ぶときに音を発する矢、魔を退ける時

に使う)を以て我を引き退けんとの弓矢の威光に押されて、情けなや、入道に近づくことが叶わな

い。恨みを報ぜんようもなし。

 情けある能登度に恨みはない。弓矢を伏せて帰ってたべ給えとよ。

 何、あづまやが幽霊とな。事可笑しいぞ、化け損ないのふるだぬきめ、正体を現わせ、さもなく

ば能登がひと矢と引き絞った。

 後に女がまたすっくり、我は千鳥と言う女、わ殿に請けた恩はない、帰れと言うのに帰らなけれ

ば入道諸とに同じ憂き目を三瀬河(みつせがわ、三途の河)、来たれと髻をしっヵりと取り、えいと

引かれたが教経は気後れせず梓弓の端で払う、本はず(弓の弦をかける最下端)・末はず(同最上端)

に恐ろしや三十番神(ひと月三十日間、毎日交代で守護の番に当たる神)ましましても魍魎鬼神(も

うりょうきじん、山川の精と言う魔物)は汚らわしや、出でよ、出でよと責め給うぞや。

 腹が立つ、思う人を取らないで、剰(あまつさ)え、神々の責めを受けるのか、口惜しやとかっぱ

と轉(まろ)べば大音を上げて、正四位下能登の守平の朝臣(あっそん)教経と鳴弦(矢をつがえずに

弓を鳴らす事、妖魔を払う時の作法)し、きりきりと引き絞りひょうど放つ矢さけび(矢が当たっ

た印に射手が叫ぶ声)に、二人の女も行方なく、忽ちに障礙が消え失せて御所の震動安全たり。

 二位殿が悦び、帳台を出で給い、今に始めぬ教経の弓矢の徳、御手柄、御手柄、

 これにつけても、なう、過ぎつる夜、我がみたる夢の話、能登殿、ちこうと招き寄せ、声はひそ

めて眼に涙。言うも語るも忌まわしや。

 音に聞く火の車と言う物か、牛の面、馬の顔なる鬼どもが猛火の燃え立つ車一輌を御所の内に遣

り入れた。

 恐ろしや、この車に如何なる者を乗せているのかと夢見心地に尋ねると、平家の大政(う)入道悪

行超過し、閻浮(えんぶ、世界)第一の大仏を焼き亡ぼし給う咎によって、無間地獄に沈めよと閻魔

王の仰せにて迎えの車だと答えた。が、夢はそもままで醒めてしまった。神明の守りも絶え、三世

の仏の綱も切れ、長い苦患(くげん)や見給わん。今度や娑婆の限りかと思えば気も消え、心消え、

入道殿よりみづからが命ぞ先にとばかりにて、身を投げ臥して泣きなさる。

 教経は両手をはたと打ち、あら、不思議や、某が夜前の夢、所は大内の神祇館(じんぎかん、祭

祀・官社の事を掌る神祇官が詰める所)、束帯匡(まさし)い人々があまた寄合い給いしが、遥か上

座なる老翁(ろうおう)、この二十四年間平家に預けたる将軍の節刀(せっとう、出征の時に天子か

ら賜る刀)を取り返し、伊豆の国の流人兵衛の佐(すけ)頼朝に得させんずるわとの給えば、一座の

各(おのおの)了承あり。かたえの人に名を問えば、上座の人は八幡大菩薩、かく申すのは武内(た

けうち、武内宿禰、軍神とする)と、言いもあえずに霧霞と消えたり。

 御夢と言い、我が見た夢、かたがた御慎み、家門の大事と宣う所に、信濃の国の倉人が庭上に畏

まり、故帯刀先生(こたてはきせんじょう)が次男、木曾の冠者義仲が義兵を起こし、その勢既に雲

霞の如く、安曇(あづみ)の城に楯こもり、又東国では流人兵衛の佐頼朝、院宣を申し下し(申し受

けて)、北条の四郎時政を語らい、山木の判官・和泉判官兼隆を夜討ちにして石橋山に城郭を構

え由々しき御大事に候と、未だ訴え終わらぬ所に、筑紫宇佐の大宮司公道(きんみち)慌ただしく罷

り出て、鎮西(九州)の住人緒方の三郎惟義(これよし)、平家を背き彼に従う戸次(へつき)・臼杵(う

すき)・松浦(まつら)党、皆々源氏に心を寄せ、伊予の国では河野の四郎、紀州に熊野の別当湛増

(たんぞう)鈴木を語らい、源氏に従い、平家に弓を引かんとす。早く討っ手を遣わされ然るべから

んと言上した。

 二位殿を始めとした人々は耳を驚かし、あきれ果てたるばかりなり。

 教経眉に皺を寄せて、東国北国が背く上に、南海・西海悉く敵となった。急なることは眉に火が

ついたも同然だ。

 病気の障り、入道には沙汰無用、宗盛公に参上して一門を集め、追手の手分けを致さんと、言い

捨てて御所を退出ある。





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最終更新日  2025年10月17日 16時12分27秒
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