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(サン・テグジュペリの『夜間飛行』の一節が、 ふと頭をよぎる。パイロットは、嵐の中を飛びながら、 星を見上げる) (「ガラスの目玉の奥で、傾きかけた太陽が小さく燃えている」) 「(情痴のような可憐ななまめきがちらつく、、、 電源すら入っていな―――い・・。 “資本主義という巨大なアルゴリズムの中で、 ひどくピッチの狂ったワルツみたいだ” それなのに、音楽は鳴り続けている。 (ユーラシア大陸の西端、 ポルトガルのロカ岬から吹きすさぶ塩分を含んだ海風を、 浴びているような気が一瞬する・・・・・・) 、、 、、、 ―――ああ、そうか。 これは、僕の記憶が鳴らしている音なのだ。 自由落下なら、重力加速度は秒速九・八メートル。 それでも落下は誰にでも等しく、 どこまで落ちても九秒後には時速三百キロに達する。 落ちているあいだ、体重は完全にゼロになる。 無重力とは、束縛の完全な不在なのか、 それとも降下の別名なのか・・・・・・。 映画館を出る解体予定の告知が貼られた正面の看板を見上げて、 中身がなくなった建物って、ただの箱だと思う。 いま、その夜を思い出そうとすると、 記憶は古いVHSを何度もダビングしたように、輪郭から滲んで、 色が転び、ブロックノイズが走り、彼女の顔の細部が、 少しずつ四角い粒に置き換わっていく。 パターン ―――列 (パスポートの査証欄が各国のスタンプで真っ黒に埋まるほどにさ、) (ここは、ダマスカス鋼と真鍮で設えられた精巧な天球儀・・・) そのメリーゴーランドは九十二秒で回る、 ―――後悔、罪悪感、愛情の残骸、 終わった場所には、いつまでもいられないけど、 光が、自分の中に残っているものまで、 照らしてしまうことを恐れている。 、、、、、、、 ―――終わらない旅へ、 、、、、、、、、、、、、、、、 あるいは今度こそ帰ってくる旅へ。
2026年10月05日

「デートしよう」春先の午後だった。彼女がそう言ったのは、駅ビルの自動ドアのガラスに僕等の姿が二重に映り込んだ、ちょうどその時だった。駅前広場の花壇ではパンジーが植え替えられたばかりで、湿った黒土の匂いが風に混じっていた。改札から吐き出される人波の頭上には、広告用モニターが白く瞬いている。平凡な地方都市の平凡な日曜日。その瞬間、何の前触れもなくガソリンスタンドが爆発した。まず音が来た。空気そのものが巨大な拳になって胸を殴るような衝撃。続いて橙色の火柱。蒸留された炭化水素の匂い。熱膨張した金属板が悲鳴のような音を立てる。吹き飛んだ価格表示板が回転しながら空を横切り、一羽の鳩の群れが黒い煙の中へ消える。「・・・・・・」「・・・・・・」顔を見合わせた。彼女の睫毛が、爆風で運ばれた埃をまとって、逆光の中で細く輝いていた。 でも、問題はない。こんなの序の口だから。「今の、爆発だったよね」「うん」「大丈夫かな」「たぶん」「デートする?」「する」消防車のサイレンが近づいてくる中で、僕等は約束を確定させた。でもそれが地獄へと一本道の落とし穴、陥穽であることも知っている。けれど、知りたくなかった、この恋の運命法則、お約束、彼女と幸せなことがあるたびに世界に不幸が起こることを。この現象を、僕は後に『恋人災害誘発症候群』と名付けた。英語で言えば『ラブ・カタストロフ・シンドローム』我ながら壊滅的にセンスが悪い。だが、名前を付けることで、少なくともそれが実在する現象であるという確信を得たかった。また僕はこの現象を、密かに『ラブ・カタストロフ定数』と呼んでいた。幸福度をH、周囲に発生する災厄の規模をDとすると、D=k・H²。幸福の二乗に比例する。手を繋ぐのが『1』なら、キスは少なくとも『10』つまり災厄は百倍。物理学科の僕が、半年かけて大学ノート三冊分のデータから導いた経験則だ。指導教官に見せたら、たぶん二度と口をきいてもらえない。でも、僕は必死だった。たとえ、どんなに滑稽であろうとも。だって偶然肩に手が触れただけで蛍光燈が爆発した!喫茶店の二階席。窓硝子には夕方の雲が映っている。僕がメニューを取ろうとして腕を伸ばし、ちょうど身を屈めた彼女の肩に軽く触れた瞬間。―――パァン!白色照明が弾けた。蛍光灯が割れたのではなく、爆発した。ガラス管内部の低圧水銀蒸気が、何らかの異常な圧力上昇によって一瞬で膨張し、外側のガラスを内側から粉砕した。フィラメントは蒸発し、白色の蛍光体が微細な粉塵となって空気中に拡散する。 もう蛍光灯が手榴弾に早変わり。破片が雪のように降ったが、机の上を滑って身を挺し硝子の雨を背中に受ける。背中に当たる破片の衝撃は、それぞれが小さな拳で叩かれるようだった。熱い。ガラス片が皮膚を切る。血が出る。だが、彼女は無事だ。それだけが重要だった。 テーブルの上のクリームソーダが倒れ、緑色の液体がメニューを浸していく。さくらんぼが一個、床を転がって階段を一段ずつ落ちていった。店員が悲鳴を上げた。「大丈夫!?」「大丈夫!」嘘だ、大丈夫じゃない。絶対に大丈夫じゃない。リア充の呪い、昔ネット掲示板で見た言葉。聞くだにおぞましい、エロイムエッサイム。中世ヨーロッパの魔女裁判でさえ、もう少し論理性がある。僕は本気でそう思った。二度あることは三度あるなんて嘘だ、もうずっとこんな超常現象に悩まされっぱなしだ。最初は偶然だと思った。次は偶然が重なっただけだと思った。三度目で、これは偶然ではないと確信した。そして四度目、五度目と回数を重ねるごとに、その確信は確信の確信へと変わっていった。つまり、疑いの余地がなくなっていった。それを認めるなら逃げ場などなかった。手を繋いだ。それだけだった。本当にそれだけだった。付き合って二ヶ月目、河川敷の帰り道。夕陽が川面にオレンジ色の帯を引き、遠くの鉄橋を貨物列車が渡っていた。コンテナの数を数えていたら、二十六両目で彼女の指が僕の指に触れた。彼女の手は思っていたより柔らかくて。少し冷たくて。指先だけがかすかに震えていて。僕はそれが嬉しくて。次の瞬間、頭上からアンテナが落下した。携帯基地局の保守作業に使われていた指向性アンテナ。重量約十二キログラム。角度調整用ボルトが何故か外れ、放物線を描くように落下した。ボルトは六本あった。そのうちの何本かが同時に外れる確率は、通常ならば天文学的に低い。だが、今はその天文学的低確率が現実になっている。「危ない!」ゴッ!僕の頭の横二センチを通過。風圧で髪がなびく。アンテナの角が耳をかすめる。 アスファルトに激突。その衝撃でアスファルトが陥没し、周囲に放射状のひび割れが走る。 火花。沈黙。舗装に、アンテナの形そのままの凹みが残った。後でそこに雨水が溜まり、小さな水たまりになった。僕はそれを、勝手に『僕の墓穴(仮)』と名付けた。「・・・・・・」「・・・・・・」目を合わせて笑顔を作る。笑え、笑うんだ、怖いときは笑え。チャップリンは言った。人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ、と。ならば僕等の恋は、どこまで引けば喜劇になるんだろう。たぶん人工衛星くらいの高さから見る必要がある。「続き、歩く?」「歩こうか」でも清純可憐な彼女と俺的人生最高の恋がしたい。この時点で、僕はまだ解決策を探していた。ネットで調べた。オカルト掲示板を読み漁った。スピリチュアル系のブログを漁った。『恋愛 不幸 ジンクス』で検索した。『カップル 呪い』で検索した。しかし、どこにも答えはなかった。当然だ。こんな現象、誰も経験したことがないのだから。また別の日の待ち合わせの駅前で、力士がいた。本当に力士だった。地方巡業へ向かう途中らしく、浴衣姿の巨体が群衆を割って進んでいた。体重百五十キロ以上。鬢付け油の甘い匂い。大銀杏ではなく、まだ髷の結い方を見るに幕下だろうか。浴衣の柄には、部屋の名前と四股名が藍で染め抜かれている。雪駄がアスファルトを、ずっ、ずっ、と擦る。すれ違う、彼女が笑う。僕も笑う、大きいなあとそう思っていた。その瞬間、何故か張り手が飛んできた。パァン!視界が真っ白になった。力士の体重と筋力を考えれば、控えめにいっても、その衝撃は軽自動車の衝突に匹敵する。(オーバーにいえば、世界が壊れたかと思った)実際、僕の頬骨はひび割れ、鼓膜は一時的に機能を停止した。 「ごっつぁんです!」という声だけ聞こえた。ライフポイントが削られる。視界が戻ると、世界はまだ回っていた。三半規管が損傷したらしく、平衡感覚が失われている。地面が斜めに見える。空が近い。倒れたのだ、僕は。「ごめんね」と彼女が言う。「なんで君が謝るの」「わたしといると変なこと起きるし」「そんなことない」本当はあった。滅茶苦茶あった。でも言えなかった。何故なら、その時の彼女は、夕方の斜光を受けて、硝子細工みたいな睫毛をしていた。だから、どうでもよくなってしまった。彼女が頬に触れる、心配そうに。優しく、すると道路脇のマンホールが突然開いた。轟音、高圧水柱。そしてわかりきったことだが、いやわかりたくないんだが、僕だけ直撃。一切の迷いなくダイレクト。上水道本管内で生じたウォーターハンマー現象による異常圧力。普通なら起きない。統計的にあり得ない。でも起きた。頭上三メートル、くじら仕様。僕は噴き上がった。僕は数十メートルの高さまで打ち上げられ、そして重力に従って落下した。この頃には徐々に気づいていた。これは事故じゃない。偶然でもない。何かがいる。何かが僕らを見ている。暴走トラック、インパクト寸前危機一髪!冷凍食品を積んだ四トントラック。荷台の側面に描かれた、笑顔のペンギンのイラストが、僕の鼻先三十センチで止まった。ペンギンは最後まで笑っていた。駄目だ、死ぬ、彼女に悪いけど帰りたい俺。どういうシチュエーション、包丁が手裏剣のように飛んでくる。おそらく、何らかの事故だろう。だが、その包丁は回転しながら、僕の首のすぐ横を通過した。 好きだ、愛してる、でも大型犬に尻を噛まれて気絶しそう!散歩中のゴールデン・レトリバーが、突然僕に飛びかかってきた。犬は悪くない。犬はただ、僕の匂いに反応しただけだ。だが、その体重は四十キロ。僕は倒れ、犬は僕の尻を噛んだ。痛い。だが、彼女が笑っている。それだけで、痛みが消える。いや、消えない。痛い。でも、笑っている彼女が見たい。だから、痛みを堪える。映画館にも行けない、だって巻き添え食う人が可哀想。水族館も駄目、ショッピングモールも駄目。観覧車も駄目、人混み全部駄目。観覧車については、一度だけ乗りかけた。夕方なら人気が少ない、恋人らしいことを一度ぐらい、そう思った。ゴンドラの扉が閉まる直前、彼女がそっと僕の袖を引いて首を振った。後でニュースで知った。その日の午後、あの観覧車は落雷で四時間止まったのだ。それは、まるで隔離病棟のようだった。いや、僕等自身が隔離されているのだ。社会から。世界から。そして、僕等はその隔離を受け入れた。他に選択肢がなかったから。 恋人の思い出作りといいながら、友人や友達とだって行けるような場所ばかり行く。―――公園、河川敷、裏山、廃線跡、誰もいない神社。そんな場所ばかり。だが、それでも、彼女と一緒なら何処でも楽しかった。 そして、今日は人気のない公園。「安全そう」「安全そうだね」ベンチに座る。鳩が歩いている。首を前後に振る特有の歩行モーションで、平和の象徴としての記号を空間に振りまいている。平和だった。たぶん五秒くらい。その瞬間。電動こけしが飛来した。「なんで!?」「わからない!」地域イベント用の巨大こけし型マスコットが突風で転倒し、そのまま坂道を時速四十キロで転がってきたのである。電動こけし状態!あと、ちょっと無表情の顔が怖い。シュールな恐怖。そしてさらに続く。サッカーボールではなく、サッカー選手そのもの。Jリーグ下部組織所属の高校生が放った渾身の無回転シュート。ボールが腹部に直撃。オーレ、この恋は、カフェオーレを鼻から出すような悲しさだ。そして僕は決意する。やめよう、と。この恋を。きっとこれは人類最悪の恋・・・・・・。きっと彼女の猛烈な片想いしている人間の怪電波か、サイコネキシスなのかも知れない。あるいは神の嫉妬。ギリシア神話でアフロディーテが美しいプシュケーに嫉妬して、数々の試練を課したように。あるいは中東の伝承で、人間に恋したジンが、恋敵の身にあらゆる災いを降らせたように。この恋を諦めよう、幸せになるたび死にかける。なら、終わらせた方がいい。そう思った瞬間だった。彼女が背伸びした。スニーカーの踵が、芝生から三センチ浮いた。風が吹いて髪が揺れる。そして。不意打ちのキス。柔らかかった。温かかった。世界が一瞬だけ止まった。次の瞬間、地盤沈下。僕だけ十メートル落下。さすがに病院だ。湿布の匂い。消毒液の匂い、窓の外の夕暮れ。左大腿骨にひび。肋骨二本骨折。全身打撲。医師は、「十メートル落ちてこれは、ちょっと説明がつかない」と首を傾げた。落ちた先に、なぜか廃棄された古いマットレスが、十二枚積み重なっていたのだという。不幸の中に、ほんの少しだけ、誰かの手加減のようなものがあった。点滴の滴下が、一定のリズムで落ちる。一分間に六十滴。そこで僕は初めて見た。彼女の尻尾を。黒かった。漆黒というより天体望遠鏡の奥に見える宇宙の黒。先端だけが小さな三角形になっていることを。「バレちゃった」と彼女は笑った。「うん」「やっぱり怖い?」「少し」「そう」沈黙。心電図モニターの規則的な電子音が、病室の静寂を一定のBPMで刻んでいく。廊下を、夜勤の看護師のサンダルが、ぱたぱたと通り過ぎていく。「でも・・・・・・」僕は言った。「好きだよ」彼女は少し驚いた顔をした。まるで何百年も誰にも言われたことがない言葉を聞いたみたいに。その瞳の奥には、人間の恋愛感情というより、研究者が未知の深海生物を見る時の好奇心があった。「あのね」と彼女は言った。「うん」「百三十七人目なの」「何が?」「耐久試験」沈黙。「前の百三十六人は?」「途中で逃げた」そして彼女は。少しだけ寂しそうに笑った。「でも君だけは・・・・・・」情に絆されたわけじゃない、死ぬ、でも死にたくない、僕と彼女、神社。山の中腹にある、創建千二百年と伝わる古い社。参道の石段は百八段。煩悩の数だ。一段登るごとに、僕は自分の煩悩を一つずつ数えた。全部、彼女のことだった。彼女は鳥居の前で、少しだけためらった。悪魔が鳥居をくぐっていいのか、と僕が訊くと、彼女は、「神様同士の付き合いがあるから、挨拶くらいは」と言った。冗談なのか本当なのか、最後までわからなかった。神社の鈴は、通常、麻縄で吊るされている。だが、その日は、なぜか鈴が落下した。神様助けて、そして賽銭の鈴がパカーン! 俺、脳震盪!もう嫌だ、こんなの恋じゃない、でも膝枕で介抱・・。おっぱいがあたる、そして、雀蜂が僕を本気で追う!顎をかちかちと鳴らす警告音。その翅音は、小型のドローンに似ていた。後で知ったが、境内の古い杉のうろの中に、直径六十センチの巣があったらしい。毒性は強く、アナフィラキシーショックを引き起こす可能性がある。僕は必死で逃げた。だが、蜂は執拗に追ってきた。おそらく、僕の身体に彼女の匂いがついていたからだ。つまり、蜂は悪魔の匂いに反応したのだ。 でもね、僕はもう逃げたくなかった。百八段の石段を、僕は全力で駆け下りた。逃げてるじゃないか、と思うかもしれない。でも違う。僕は蜂から逃げていたのであって、彼女から逃げていたのではない。石段の一番下で振り返ると、彼女はまだ境内にいて、片手を挙げていた。僕も手を挙げた。その瞬間、二匹目に刺された。ああ、平穏無事な日々よ。リア充爆発しろ。そう言っていた昔の僕へ、お前、知らなかっただろ。爆発した後も、人は恋を続けられるんだぞ。君と楽しく過ごすデートプランは全部ご破算だけどね。僕らは「普通」のデートができないからこそ、特別なデートをしたのだ。例えば、廃墟探検。例えば、夜の墓場。例えば、台風の日の海岸。そんな普通じゃないデート。それだって楽しかった。頭おかしいけど、君が好き!人類最悪の恋だけど、諦めきれない―――よ、解決方法があってもなくても、これが最初で最後の恋、でも何百日、耐え切れば、何かが変わる―――かも・・。だってそれは―――『本物の恋』だから・・。そして猪が藪から出てきて、ぱかーん!そして別れ際、ずたぼろ、満身創痍の僕へ。彼女は笑う。「またね」「うん、また」「明日は、何時?」「十時。駅前で」「ガソリンスタンド、まだ工事中だよ」「じゃあ、安全だね」「安全じゃないよ」「知ってる」その笑顔は、地獄の門番にも、天国の天使にも。たぶん作れない笑顔だ。遠くで救急車のサイレンが鳴る。夜風が神社の杉を揺らす。境内の石灯籠には苔が生え、その緑は何百年もそこに在った時間を語っていた。悪魔は不老で、人間は脆い。銀河の寿命から見れば一瞬で終わる恋だった。けれどだからこそ尊かった。夜の繁華街で見た、悪魔を思い出した。付き合う、ずっと前のこと。終電を逃した雨の夜。ネオンの滲む路地裏で、黒い翼のように見える影が、数人の男達の上に覆いかぶさっていた。彼女は数人の男達を殺していた。ルミノール反応すら追いつかないほどの鮮血、頸動脈の完全な切断。静脈血と動脈血がアスファルトの上で混ざり合い、幾何学的な死の紋様を描いていた光景。殺人事件になり、そして警察は捜査したが迷宮入りした。後で地方紙の小さな記事で知った。死んだ男達は、近隣で連続していた女性への暴行事件の容疑者として、以前から名前が挙がっていた者達だった、と。まさか、違うな、でも彼女は近付いてきて、雪女のような禁句、それが僕等の最初の約束。一目見た時から、彼女の瞳に魅了されていたんだ。あの悪魔が、転校生の彼女だったかは分からない。でも、本当はそんなことどうでもよかった。多分、変なことをしようとしたのだろう。あるいは、必要だからそうしたのだろう。どちらにしても、あの夜、僕は助けられた側ではなかった。ただ、見ていただけだった。そして彼女は、見ていただけの僕を、殺さなかった。僕は手を振る。こんな棺桶に両足を突っ込む恋なんて好きじゃない。破滅と引き換え、地獄と隣り合わせ、天国直通の恋。それでも、明日も生きていたら。いや、生きていなくても、また君に会いたい。
2026年10月04日

(それは、スプラッシュマウンテン、濡れたんだぜ、) (だ、)―――(だ、)・・・。 ―――本当とか嘘とか、考えちゃいけない。 ―――だって僕等まだ人間でいたい。 (言ったじゃないか、人生はXを必要としない、Yを必要とする、 場合によってはIという一本道を望む)
2026年10月04日

防波堤の上を越えた風は、金網の目を舐めながら細長く引き伸ばされる。錆びた支柱の穴が共鳴管になり、空気はその内部でわずかに震える。ファァァァァ・・・・・・。霧、宇宙空間、海流、建物の残響。ある現象を左右反対に映し出す、現象上の鏡像関係、たとえばさ、十円銅貨を表にして三枚並べ、これをどんな順序でもよいから一つずつ裏返していく、これを偶数回くりかえす限り、その結果のパターンは最初のパターンを必ず含む。逆に、奇数回ばかり裏返していると、最初のパリティと最後のパリティはさかさまになる。 、、、、、、、―――保存するんだよ。プラスチック製の青い椅子が、等間隔に置かれている夢を見た、何千メートルもその景色が続く、世界は連続的に変化しているのに、 人間はそれを離散的な名前で、認識してしまうということだろうか。いや、そのことに意味があるかどうかよりも、いまはその感覚のなかに溺れたい。AH...ah...酸素と窒素の違いは、物質にひそむ手のつながりかたによって決まっていく。そこで、僕は、何を、見る、だろう。S...S...Sensory Deprivation......[ピッ・・・・・・ ピッ・・・・・・ ピッ・・・・・・、“操作パネルのボタン”を押しながら」そこで、君は、何を、見る、だろう。A...A...Alienation......大したことじゃない、目の前のランダムな動きと、計算した予測モデルが、『どれくらいズレるか』を、飽きずにずっと比較し続けているだけ。ライン取りとか、ブレーキのタイミングを考えてる。紙コップに降り注ぐ終わりのない雨のように、言葉はすり抜けながら通り過ぎ、(ゲシュタルト心理学の『図と地』の反転)宇宙の彼方へと滑り去っていく。そのことを思い出しながらのんびりと、少し遠くのコインランドリーまで歩いた。人生の陰影が、開かれた僕の耳に鳴り響き、砕けた光のイメージが、無数の目のように僕の周りで踊り、宇宙を越えて、僕を何度も呼び続ける。(自己治癒ーセルフケアとか、心理的余白ーメンタルスペースとか、)すべてがプログラムされて規則正しく回っていたら、不条理な人間関係に悩むこともなく、もっと生きやすいんじゃないかと、極端なディストピア的思考を考えなが―――ら・・。世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業を思った、モンサント、デュポン、シンジェンタ、バイエルといった、巨大アグロバイオ企業は、「生命の特許化」と「プラットフォーム(OS)戦略」を通じて世界の食糧市場を支配する戦略を推進してきた、、、 、、、、、、だが、それは同時に、「特定の多国籍企業への食糧主権の明け渡し」「農薬依存による環境・健康リスク」という深刻な懸念を世界中にもたらし続けている。砂浜が消えていた。正確には消えていない。数億個の砂粒が同時に位置を変えただけだ。その移動量が閾値を超えたとき、人間の耳はそれを、シュアアアア、と呼ぶ・・・・・・。回転数、 遠心力、 秩序への渇望。民話、死生観、古い森。そこで、僕は、何を、見る、だろう。S...S...Sensory Deprivation......[ピュゥ・・・・・・ ピュロロロ・・・・・・、視界の端で、誰かの記憶が受信待機状態のまま明滅する]そこで、君は、何を、見る、だろう。A...A...Alienation......大したことじゃない、そして僕の顔が段々表情をなくした、レッサーパンダのような虚無の顔になっていった。あるいは、眠いのを我慢している、コアラみたいな顔になっていっ―――た・・・。いっ―――た・・・夜は朝の一部にすぎない、と。いっ―――た・・・朝も夜の一部にすぎない、と。カオスな軌道をしてる色んなものが、脳内でシャツの襟になり、靴下になる、そして何年に一度かの大きなうねりで、色んなものが混ざり合―――う・・・。東日本・太平洋巨大地震。マグニチュード9・0。途方もない大津波を、思い出す、津波によって建物の上に取り残された船や、ブロック塀の上を進む自衛隊、放射線量の検査をうける子供なんかを思い出す、あれだ、あれだな・・・・・・。、、、、、、、、、、何も言いたくないんだ。口の中でジャリジャリと砂を噛むような、不快な今のこのモヤモヤした気持ちが、永遠に続くわけじゃない、そして僕の気持ちは変わらないだろう、永遠に続くわけじゃない、そして君の気持ちは変わらないだろう、永遠に続くわけじゃない、そして何もかもが変わらないだろう。
2026年10月03日
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