Accel

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February 9, 2010
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 ごおお

 この地の底の、鼓動の音のような、暗く冷たい風が、果てもない闇を切って吹き荒れる。
 その吹き付ける、恐ろしき黒い風・・・
 暗雲たる霧が立ち込み、
 黒くどんよりした”なにか”があたりに充満してきた。

  ききき
  くくく

 あちこちから、小さな”黒い”音がする。



   き

 あちこちから、私を引こうとする力が、群れてきて、手、足、胴へと絡みかかってくる。
 しかし、その力を振り切り、ただひとつ。
 最も大きな力の元へと、私は歯を食いしばって足を向けた。



  ごお

 おおきな黒き塊の音がした。
 黒い、黒い闇の塊だ・・・。
 その塊から、黒い、瘴気のような風が吹きつけ、私は一瞬呼吸が止まった。
 黒さの圧力に・・・押しつぶされそうだ。
 ”黒”から黒い、音がした。


  ふふ・・


  おまえか
  おまえか

  また
  こりもせず
  ここへくるとは・・・



 そこから、辺りの黒さを一層”黒”に染めるかのような、心臓を握りつぶされそうな分厚い暗い音が、私を包んだ。

 そう、ここへは二度目だ。
 音もない。
 温度もない。
 風もない。
 魔物のなかの真髄、悪魔の王、ガルトニルマの場所・・・・


 炎を司るガルトニルマは、あらゆる僕から、数々の人間をを集め、その生血をすすっているという。
 その悪魔の炎の力は、人々の血の涙からできている、ともいう・・・
 飲み込まれたものは、悪魔のものとなり、そして悪魔の炎は更なる炎の力となるという・・・・
 その炎は、全てを飲み込み、焼き尽くされる・・


  ごおおお

 熱風がこちらへ吹き付ける。
 だが、この程度で、引き下がれるものか・・・
 これまでの悪魔とのやりとり、そして、こたびは再度、この王と対面している。
 この私ももやは尋常の域ではないであろう。

 しかし、相手は悪魔の王、炎の王、王の中の王。
 どこまで、この私が取引できるであろうか・・・・


 黒い音が、黒く語りかけてきた・・・・

  わたしのちからを
  えたいというなら
  それなりのものを
  よこすのだな

「その前にリュベナを!!!」
 私は叫んだ!
「リュベナは!
 リュベナは契約に入っていない!
 エゲルからもう私は聞いた、まだ、リュベナは居るはずだ!
 リュベナを戻して頂きたい!!!!」

 ふっ・・・と遠くに明かりがともった。


  おろかな
  ひとりをとりもどしてどうする
  ほかのものは
  ほかのものは、どうでもいい・・と?


  ごおっ
  つまらぬものよ、にんげんは・・・・・・・


「つまらぬと申しますか?」
 私は更に声を上げた!
「あなた方の目的こそつまらない・・・
 それに、大体にして、リュベナは二人目の女の子だ!
 その約束を破ったのはあなた方!
 私がとやかく言われる筋合いはない!
 リュベナを!」


 向こうにともった明かりが・・・
 こちらへと近づいてくる・・・・・

「リュベナ・・」
 私は呟いた。
 短い金色の髪。
 青い瞳。
 なんという事であろう。
 あのほのかな明かりの中に・・・リュベナが、居る。


  さて・・・
  とりひきだ
  おぬしはなにを
  さしだすのかな・・・


 ごおおおおお


 黒い、黒い炎が、今にもリュベナを包む光を覆ってしまいそうである。


「ふふ・・・勿論・・・
 もう既に、大抵の物を以前貴方に出してしまった。
 この私の過去を・・・
 残るは

 私の未来

 私の現在

 私の体

 私の魂」


 私が言うなり、大きな黒い塊が押し寄せた!

「リュベナ!
 リュベナは!
 戻して頂けるのですね!?!?」


 ごおお
 ごおうう
 ごおっっっ

 怒涛の黒い炎がのたうちまわり、亡者の悲鳴、泣き声、呻き、それらを乗せた炎の音がドロドロと押し寄せた。


  せいりつだ
  せいりつする


 ぎらり、と赤い光が一点。
 こちらを見据えていた。
 黒い力が私の体を撫でた。
 あの炎の神の、底なしの力が、さわり、と身体の上を沿って行く。
 私は、黙って黒い炎に身を任せた。
 この神の、申し子たりと、一度は決心したものの、またもこの味わいを感じなければならぬとは、と一瞬だけ想いながら・・・

 いや、リュベナ。
 君を取り戻すから・・・・
 君の所に行くためなら・・・・








 さらり、黒く長い服が床を擦ったが、その衣装をまとう者の足音はしない。
 衣装には、長く美しい黒い髪が、さらさらとこぼれるように流れていた。
 ちらり、と足元がめくれると、その足は裸足であり、輝くように白く瑞々しい、つま先を一瞬見せた。

『ラ』の城内では、燭台も持たず、一人暗い階段を・・・下へ、奥へと降りて行く者がいた。
 下の更に下。
 果てなく続くかと思われた階段に・・・
 突如、終点が現れた。
 それは、扉であった。


 扉を見ると、わたしは流石に瞳を何度も瞬かせるしかない。
 確かに、この階段を下りてみたことはこれが初めてであったが、一瞬、扉に対しての恐怖を感じたのだ。
 ここの先に行くことへの、躊躇である。
 すぐに、右手を軽く握り、顎を引いて軽く扉をにらんだ。

 三本の槍が、細やかに彫られた美しい扉。
 その槍が交差する真ん中にわたしは触れてみた。
 三本の槍は、われらの紋章。
 この『ラ家』の紋章。
 そして、守護神ミョールの紋章でもある。




 扉に手を触れると、彫られている紋章が蒼く輝きだした。
 と、なんとなくわたしの額が熱く感じる・・・
 思わず、扉の紋章を両手でなぞるように触れた。

 それは急なことであった。
 音も無く、左右に扉が開いたのだ。


 わたしは、感覚が麻痺していたのかもしれない。
 なにも考えずに、その先へと、踏み込んだ。
 桃色の、ふわりとした床・・・
 なんと、柔らかな世界なのだろう。
 桃色の光で充満していた。


 やわらかな、おとが聞こえる・・・。
 なつかしき、この音・・・。



「・・・」

 扉の奥の、桃色の世界は・・
 小さな部屋、であった。
 柔らかな、部屋だった。
 柔らかな部屋の真ん中に・・・
 その、桃色の部屋に・・・

 黒い服があった。
 黒き
 黒き服。
 その黒き服に黒き髪が流れていた。

 その黒き髪に包まれているのは
 白き顔


 わたしに
 似た顔・・・


 わたしは・・・
 母の姿を見た。

「はは・・うえ・・・」

 桃色の部屋の中で、わたしは夢を見るような声を出すしかなかった。
 そこに居たのはまぎれもなく、美しき、わが母の姿であった。






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Last updated  February 9, 2010 07:56:19 PM
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ラトス…!!  
風とケーナ  さん


>せいりつする

この言葉に背筋が凍るような戦慄を覚えます…!

おどろおどろしい黒い炎の感触までが不気味に伝わってくるかのようで、その渦中にいるラトスのことを思うと本当に居た堪れないです。
ラトスの断固たる決意――その強さと悲壮さに圧倒されて胸がいっぱいです。

(February 9, 2010 08:30:00 PM)

ケーナさま  
月夜見猫  さん
ラトスの、契約とはなにか・・・ガルトニルマとはなにか・・・それを、示すのが俺の役目のはずなのですが、実は俺自身もよくわかっていない部分があるんです。
判らないからこそ、俺も判るために、追いかけています。
そういう部分が、ラトスの「追いかけて行く」という姿の本筋と、かなり重なるので、こういう部分に重みが出るのかもしれない・・・のかな、と思います。
でも、本当は作者が判ってなきゃいけない部分ですよね。
だけど、まじめに、俺も判らないんです。
だって、前にも描いた通り、これは俺自身の・・・「俺の」コト、みたいなもので、俺のことって、わからないんですよね。
不思議だよね、そういうのを小説にしている俺も。 (February 12, 2010 10:41:02 AM)

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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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