Accel

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February 12, 2010
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 やわらかな桃色がまぶしく感じられる程である。
 ふわりとした、その色の香りさえも漂ってきそうだ。
 その部屋の中に、黒い衣装の我が母が・・・鎮座していた。

「母上・・・!」
 わたしは、思わず、真中に座る母の傍に歩み寄ろうとした。
 母は・・・うっすらと、美しい笑みを浮かべた・・・。

 そして、相変わらず背筋を伸ばし、正座したままの姿を崩さずに、長いまつげだけを伏せて言った。
「ウー・・・あなたか、またはナーかが・・・。
 そなた等がいずれ来るであろう、この日を・・



 母のその声は、桃色の空間に吸収されてしまいそうである。
 ああ、なんということか。
 母は、最期にわたしが目にしたその時の姿と・・・
 全く変わりのない姿であった。

 母は言った。
「ウーよ・・・
 そなたが、なにを求めて此処へ来たのかは・・
 判っております。
 実は、わたしも、我が神を求め、ここへ来だのです」

 わが母の言葉を聞き、わたしは自分の頬が涙で塗れるのを感じた。
 なんと・・・この恐るべき『ラ族』の宿命から逃れるため、大陸を放浪していると、噂では聞いた母であったのに・・・

 ずっと、この部屋に、これまで居たというのか・・・



 母の声が吐息のように言った。
「ウー。
 この場には、神はおりません。
 しかし、ここは、また別の次元なのです。


 わたしは、ここにおります。
 わたしがここに居る限りは、この大陸、枯れる事はないでしょう。
 このわたしとて、ラの末端。
 なんとか努めようと思っております」

 語る母の瞳にも、涙が溢れていた。



「ウー。
 神への場は、ここではございません。
 あなたなら、神との交渉の場がみつけられますでしょう。
 さあ、早くここを出るのです。
 あなたがこの場に留まりたくないのであれば・・・・」

 わたしは、母に抱きつきたい衝動を必死に抑え、わななく足を無理に後ろに下がらせた。
 どれほど、時間をかけたことだろう。
 母から目を離さずに足を少しずつ下げ、入口の扉に私の手が触れた。
uu-10.jpg

 わたしは、鼻にかかったような情けない声を一瞬出してしまった。
「母上・・・」

 自分の声に気が付き、ぐっと顔を振り、左手の指に力を込め、わたしは自分の額を鷲掴みにした。
「母上。
 わたしが・・・
 わたしが、神とお目通り叶ったあかつきには・・・・
 ふたたびお会いしましょう。
 我が母よ・・」


 わたしは、溢れる涙の瞳を閉じて・・・・
 桃色の部屋から出て・・
 美しき、扉を、閉めた。



 三本の槍の描かれた扉を後にすると、わたしは暗い階段を上がって行った。
 一度降りた階段であるが、母の居た場所が一番下であったからには、上にまた上がるしかない。


 この城のどこに・・・
 神と繋がる場所があるはず・・・・

 我が神よ。
 遠い遠い昔、共にこの大地にいたという神よ!
 わが、ミョール神よ・・・



 ふふ
 ふ

 どこからか・・・
 父の声がする。
 わたしは、階段の踊り場まで戻って来ていた。
 城の塔の上にでも、昇ろうか・・・??

 ふと
 鏡が目に入った。
 わたしの姿。
 わたしの、この三本の槍の紋章。
「神よ・・・」
 わたしは、紋章を見ると、わが神に聞こえぬかと、つい口走ってしまう。

 ふふふ
 ふふ


 鏡に映ったわたしに、右手で触れてみた。
 三本の槍
 それは
 大地
 空
 太陽
 それらを示しているという

 そして
 ひとつかけているものがある
 それが
「われら”ラ”に架せられた・・・
 月の力・・・・」


 月が足りない、我らラは、名前にその月を頂いている。
 私は、三つの槍の紋章・・・無論鏡の中の紋章に、触れてみた。

「月を示しているものを探せは、我が神の所へ・・・・?」
 ふと、つぶやいた。



 ふふ
 ふ

 すすす・・・・
 静かな音で・・・・
 わたしの背後から・・・・
 父が・・・
 出てきた。

 わたしとよく似ているその姿
 黒い髪
 黒い服
 白い顔・・・


「ウーよ・・・
 神に近づくと・・
 ふふ・・
 失うぞ・・
 己を・・・
 ふふふ」

 ふふ
 父は、笑っていた。

 なんということか・・・
 父は、ミョール神と、既に交渉していたのか!?
「父上!
 父上・・・
 神とお目通りなられたのですか??
 お願いです!
 わたしはどうなっても構わないのです!
 この大地!
 そしてこの大地の民!
 そのため神の所へ交渉しにまいりたいのです。
 民のためなら己など・・・」


 ふふ
「ふ
 ふふ
 もちろんだ
 わたしもそういったとも
 神に・・・

 ふふふ・・・・」


 わたしはやや下を向いたが、再び顔を上げた。
「それでも、参ります」
 わたしは、階段を上がろうとした。

「まて」
 父の声が静かに響いた。
「戻れぬぞ・・
 わたしのように・・
 つまのようにな・・・
 ふふふ・・・」


 父の声を無視して、そのまま階段を上がって行った。
 上に行っているというのに、徐々に暗くなって行く・・・

 戻れぬことを恐れ、先に行けるであろうか?
 己を失うなど、なにが怖いか?
 この大地と
 わが民のために・・・

 わが神よ!
 神よ、あなたは、あなたの民を、ごらんになっていないのですか!


 ひたり
 ひたり、

 石段を上がる足の音さえも、ここでは響く!
 上に昇れば昇るほどに・・・
 塔の幅が狭く
 階段の幅も狭く
 だというのに上にきりがない。


「神よ!
 我が神よ!
 お応え下さい!
 ”わたしはここにいます!”」

 わたしの声は、何度も何度も、楼閣の中を響き渡り・・・
 反響し、吸い込まれ、静かになった。

「神よ・・・
 父とお会いになった神よ・・・
 わたくし、”ラ・ルー・ヴァ・ウー”の名にかけ・・・ 
 あなた様の末裔の末裔、ラの一族の名にかけ・・

 ミョールよ・・・」


 わたしは、ゆっくり、左手で、西を示し、その手をそのまま上にと翳した。
 右手を、東に示す。

「いらすのであれば、あなたの末裔の御前に・・・・」

 わたしは何度も、ミョールと我らに交わされた礎・・・
 わたしがわたしであり、わたしがラ家の者であることを示すもの、そして、そのラ家がミョールと大いなる繋がりを示すもの・・・
 それを、わたしは、唇を軽く開けて・・・喉の奥から、息を吐くように、そっと言った。
「この地を愛したもうわれらの神ミョールよ」

 わたしは、首をそっと上に伸ばし、瞳を半開きにし・・・
 言葉にならぬ、ため息のような、長い長い呼吸の中で陰影をつけるその独特の”音”を、絞り出した。


 きけよ
 わがこえを


 わが
 われらをあいしたもう
 われらのかみ
 あたえられし
 このちからより

 たかくひびきたる
 このこえをきけよ



 すう、と深く息をゆっくり肺に入れ、また大きく長く、静かに、神へのことばを紡いだ。


 いずこかより
 まいられらん
 うつくしきひかりと
 あたたかきひかりと
 かぐわしきひかりと

 それら
 もてして
 このちをうるおし

 それら
 もてして
 たみをうるおし



 だが、どこまで紡いでも・・・・
 なにも、なにも変化がない
 ここには、神の領域ではないのであろうか?

「この白き・・・」
 わたしがそこまで言った途端、急に、空から光が一筋、煌めいてこちらを照らしたような気がした。
 細い、細い光の筋だ。
 ゆらめいて、ちらちらと、くねっている・・


 神よ・・?
 あなたの光?

 わたしは、迷わず、その光に触れた。
 手を触れた途端に、その光に囲まれ・・・
 目の前が白い世界となった・・・










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Last updated  February 13, 2010 12:52:46 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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