Accel

Accel

March 22, 2010
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 女性の髪の毛が、少年ニルロゼの首元にあたり、くすぐったく感じた彼は必要以上に顎を上げていた。

 ニルロゼは、この奇妙な感覚が怖くさえあった。
 これまで、どのような状況にあっても、こんな思いはしたことはなかった。
 これまで、何度となく恐ろしい相手と殺し合う羽目となった事がある。
 心臓が高鳴り、体の血が熱く滾るのを感じた。

 だが、今の・・・今、感じているこの鼓動や、体の熱は、それまでの物とは異種であることは、はっきりしていた。


「あ、あの」
 ニルロゼはとうとう、蚊の泣くような声を絞り出した。


 途端にナーダは抱きしめていた腕にぎゅっと力を加え、ますますくっついて来た。
 そして、ふわっと柔らかい声で言うのである。
「どうして?」


「・・・」
 ナーダがそう言うと、全く応える事ができない少年は、蜂蜜色の眉毛を情けなく眉間に寄せた。

 これは・・・困ったな・・・。
 どうして、と言われると、さて、はたして・・・・

 少年は、必死になりながらも言った。
「う、うーんと、そうだな、なんか、くすぐったいから」
「そういう理由じゃ、駄目」


 少年は、眉間に皺を寄せて、どうしたものかと考えを一生懸命に巡らせる。
 これは、困った。
 今まで、俺は、単純に生きて来すぎたのだろうか!?


「う、うーんと、くっついていると、変な気持ちになる」
 ナーダが言った。


 少年はまた考えた。
「うーん・・・なんだな。
 なんか、わかんない」


 ナーダは、少しだけ、腕の力を抜いて・・・
 少年の顔を見た。
「何度でも言うわ・・・
 あたしはあなたが好きなの。
 好きな人のために、こうして、ここに来ているのよ・・・」



 少年は、ナーダの目線をまともに受けられなかった。
 闘う時は、相手の目が見れない事など、ないのに・・・


「・・・ごめんよ・・・
 好きっていう気持ちがわからないよ・・」
 少年は、そう言うしかなかった・・・

 すると、ナーダは、またくっついて来た。
「別にいいわ・・それでも。
 いつかあなた、判るわ・・・
 だから教えてあげる。
 魂を引き寄せられるように・・・
 ぜーーーんぶ、かけて、相手を求めるのよ・・・」

「・・・」


 ニルロゼは、自然に自分の手が動いて、ナーダの背をそっと抱いた。


 魂が引き寄せられる。
 そのような人がいるというのか。
 俺は・・・
 ンサージだ。

 あの人に、俺はまさに、引き寄せられたのだ。
 そしてあの人は、魂をかけて・・・この俺に・・・
 この俺に、行くべき道を示したのだ。


「ナーダ」
 ニルロゼの顔が、少しばかり遠くを見る雰囲気になった。
「今日は赤が・・・いないんだったな」
 少年の蜂蜜色の瞳が、きりっと煌いた。

「俺は・・・仲間の所へ行くよ・・・
 教えてくれてありがとう・・・」

 ニルロゼは、そう言うと、ナーダの体をゆっくり、離した。
「君が来てくれて・・・
 教えてくれて・・・
 うれしかったよ。
 ありがとう」

 ナーダは、きっぱりとした表情のニルロゼを見、ふう、と、笑った。


「あ・・・それから」
 ニルロゼは、ちょっと照れて言った。
「ええと、その・・・
 前、牢で一緒だったとき、なにもできなくて辛かった。
 今も、君の気持ちが、まだよくわからないよ。
 だから辛い。
 こういうときは、どうすれば、いいかな?」


 ナーダは、急に、赤くなった。
「あ、あなた、いきなりそう来るか・・・」

 ナーダの言うとおりで、このニルロゼ、まったく状況を把握していないのである。
 ほんの先ほど、もう仲間の所に行くと言いきったではないか。
 だというのに、彼は、話の方向性と真逆の事を言いだしている。
 ナーダの気持ちに応えるにはどうしたらいいか、と言っているのだ。

 本来、この言葉に対し、ナーダは怒りを覚えるべきなのだが、あまりに突拍子すぎて、彼女は動転するしかない。
 なにしろ、心奪われている相手が・・・
 自分の気持ちに応えるために、どうすればいいか、と言っているのだ。

 ナーダは、今まで自分から好意を明らかにしていたにかかわらず、急に振られたこの言葉に、しばし顔を真っ赤に染め上げ、少年に背を向けて一人で照れてしまうしかなかった。

 そして、ようやく呼吸を整えると、瞳をキラリとさせて少年の方へと振り向いた。
「ニルロゼ。
 こういうときは・・・
 とりあえず・・・」

 ナーダは一歩彼に歩み寄った。
「あたしの唇に、口付けを・・・」

「は、はあ・・・」


 少年の間の開いた返事に、ナーダは本来の姿を取り戻し、やや声を高くしてキッと言った!
「はあ!
 じゃないの!
 前に牢を出るとき、あたしあなたにしたでしょ!
 あれよ!!!!
 さあ!
 するの!しないの!」

「あ、あれ、ね・・・」
 ニルロゼは、首を捻り、ええっと、と口の中で呟いて、頭を掻いた。
 そして、おずおずと女性に近づいて、えいっ!と唇を重ねた。


 あっと言う間に少年が離れてしまうと、ナーダは、はあーーーーーーーーっ、と深く溜息をついた。
「ああ・・・あんたは・・・
 情けないわ・・・。
 将来、一体どうするつもりなの・・・
 まあ、あんたはそういう男なのよね。
 そういう男に惚れたあたしが悪いのよ・・・
 このぐらいで勘弁してあげる。
 さっさと行きなさい、朴念仁」

「う、うん」
 少年が部屋から出ようとした時・・・
「待って・・・」
 ナーダは・・・少年の服を引っ張った。

「もう一度」
 ナーダは、すがるような目つきでニルロゼを見つめ、ニルロゼはその瞳に一瞬囚われた。
 と、ナーダは少年の二の腕に手をかけて来た。
 ニルロゼは、ナーダの、自分へ向けた視線を、解くことは無理であった。
 引力、なのであろうか。
 それとも違った。
 これはなんだろう?
 だが、考えている時間が、なかった。

 彼らは、再び唇を重ねた。
 少年は、温かくも胸がざわつく感覚に囚われてしまう恐れを感じ、すぐに離れてしまいたかったのに、ナーダは両手で首元に抱きついてきた。
 このままでもいいのだろうか?
 この感覚はなんだろうか?
 熱い思いが、こみ上げて・・・ナーダの知らなかった部分が自分に入って来る気分だった。


 ナーダが腕をほどくと、ようやくニルロゼは解放されたが、しばし少年は自分の感覚を取り戻すのに時間がかかった。
 少年は、己になにが起こっているか判っていなかった。
 しかし、少年がそのような状態になってしまっているとは流石に判らないナーダの方は、自分の気持ちの整理をつけるのに必死なのであった。
「ニルロゼ・・・
 多分、もう、二度と、こうして二人でゆっくりできないのね・・・」
 ナーダは瞳から溢れる涙を何度も指で拭った。
「あなたと逢えて、うれしかった」


「・・・」
 ニルロゼは・・ナーダを見つめていたが・・・
「俺も、うれしかったよ」
 そう言うと、さっと彼女から背を向け、部屋から足早に出てしまった。


 そんな少年の去った先を見つめていたナーダは、ちょっとお腹をさすり、それから瞳を伏せて笑うしかなかった。

  あーあ。
  なにが、”うれしかった”んだか。
  どうせ、あの男のことだから、
 ”別の事”がうれしかったのよ。
  あいつはあたしのことは・・・
  眼中にないのよね。

  まあ、でも、
  そういうところが・・・
  好きになっちゃったんだけど・・・



 これほど、熱く引き留めたいと想う人が現れるなんて、思いもしなかった。
 でも、一緒に居ることができたのは、一時であった。
 なんと短い時間であったろうか。
 本当に、一時の間だけだった。
 以前も・・・今回も。


 この、ほんの少し彼に触れた時間を糧に、これからも、ずっと想い続けるのだろうか・・・



********************
参加ランキングです

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ 人気ブログランキングへ


Accelバナー を、第5章まで!UPしました!!
FTPが調子悪くて音楽がついてないけど、見てけらいん~☆ 海外の音色 さんの音楽は、多分3章くらいまで入ってマス★

最近のイラストは pixiv にのっけてます。よろしければ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  March 22, 2010 10:14:16 PM
コメント(2) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

月夜見猫

月夜見猫

Comments

月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: