Accel

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March 22, 2010
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 ニルロゼは、今まで居た部屋から出ると、まずカンの居る所へと赴いた。
 そして、彼から赤が居ない理由を教わった。
 赤は、以前自分が闘技場でンサージと戦った時、ンサージの剣を手中にしたという国王の所に行っているらしかった。

 カンは、再び精気を取り戻したニルロゼの顔を見ると喜び、今現在の、計画の進捗状況を詳しく教えてくれたのである。
 大人のハーギーの中で、”仲間”であるのはその数、34名。
 残りの大人のハーギーの数がどれほどかは、流石のカンも判らないとのことであった。

 ニルロゼは、素早く仲間の少年達の所に戻り、彼らにできるだけ人目に付かないようにハーギーの内部全部を回るように言った。
 普段の赤の居る日であると、自分たちは他の所に出入りできない。
 今日であれば、ある程度他の部分も見ることができそうである。


 そして、あのマンサガが・・・
 赤が、いつも取引をしているマンサガが、やって来るのだ。
 彼奴らが取引をしている間に、秘密裏に行おうという、少年らと大人の仲間との計画・・・
 ハーギーをぶっこわす、という大きな計画のために、色々情報が必要だ。
 このハーギーのどこになにがあるのかを・・・知っておかねばならない!


 ニルロゼ自身も、可能な限りの場所を偵察していた。
 少し身長が伸びた彼は、敵に見つかり易く、やや不利な条件であったが、素早い身のこなし、そして気配を殺す方法を体得していた。
 多少影が相手に見えようとも、自分の存在を感じさせる事ができなければ、それでいいのだ。

 少年は、一度も出たことがなかった、ハーギーの建物の屋上にも行ってみた。
 そこは以外にも、誰もハーギーが見回っておらず、延々と続く回廊のようになっている屋根はやや四角形になっていた。
 その、真中に・・・忌むべき闘技場があった。


 人気のない屋上を、それでも気配と足音を殺して歩いていると、所々に物置小屋があるのに気がついた。
 どれにも、鍵もかかっていない。
 それもそうだろう、この屋上に来るためには、誰かハーギーの許可・・・つまりは”赤”の許可が必要で・・・
 それは強いては”鍵”が入用である、という事を意味していた。

 屋上に来ることそのものに鍵が必要なのであるからして、物置には鍵は必要はない、というところだろう・・・。



 ハーギーの中で火を使うために必要なのであろうが、物置全てを覆いつくすように、ひとつ残らずの瓶に油が入っていた。
 少年は、これほどの量の油にやや疑問を感じつつ、一個の瓶を手にとって見る。
 と、その床が、赤黒く変色していた。

「・・・」
 蜂蜜色の髪の少年は、やや戸惑った。
 この色は・・・

 恐る恐る、指で触れると、生ぬるい感触がした。
 ほんのさっき、誰かが、ここで血を流していた、そんな感じの床だ。


 ニルロゼは、流石にぞっと鳥肌を立て、思わずその場所に瓶を置いた。
 そして冷や汗を流しながらその場を離れようとしたが・・・
 自分の指になお残る血を見て、思いなおすと、唇を少し噛みながらまた瓶を移動させた。

 二つ・・・三つ・・・瓶を、持ち上げては、別の所に置いた。
 床は、全体が、どこも隙間なく・・・血で染まっていた。


「・・・常に誰かがここで処刑されているのか?」
 思わずそう言いながら、移動させた瓶を戻していると、ある事に気がつく。
 瓶の底は、血が付いていないのだ。

 ざわり、と、底なしの冷たい風が、物置から吹いて来たような気がした。
 ニルロゼは、出した瓶を丁寧に戻すと、別の物置にも行ってみて、瓶を移した。
「・・・!
 これは・・・」
 思わず、少年も口から驚きの声を上げてしまう。
 そちらは、至って普通の床であったからだ。
 他の物置も、同様であった。

 血塗られた物置の床、しかもあの物置だけ、と、ニルロゼは若々しい眉毛に皺を刻むと、再び件の物置に行こうと思ったが、他にも見ておかねばならぬ場所もあった。
 あまり、時間はなかった。



 かくして、ニルロゼは、多方面の場所を見終え、また仲間もあちこちを見て来て戻った顔ぶれを確認すると、少年らの集まる部屋に数十人の少年を集め、こう言った。
「これは俺の勝手な考えだ。
 別の考えがあれば、構わずに言ってくれ。
 まず、マンサガは、赤と対面する。
 その会合時間はいつも半日かかる。
 その間に、敵の目を盗んで、仲間ではない大人のハーギーを殺してしまう。
 これが、一応、俺の考えている第一の作戦だ」
 少年らは一同に、頷いた。

 その同意の顔を見たニルロゼは、更に続けた。
「その時に、騒ぎが起これば、俺らのやっている事が・・・マンサガや赤は、気がついてしまう。
 だから、大人一人を狙ってこっそりと殺るんだ」
「一理あり」
 という鋭い声が上がった。

 ニルロゼは、すらりとした背を少し曲げて左手を上げた。
「そういう方法を採って、大人のハーギーを減らす。
 それから、女性を、外に出す係りが欲しい。
 殺すだけでは駄目だ。
 女性を、敵に見つからないよう、こっそり外に出す。
 つまりだ。
 最初に殺すべき相手は、女性の居る場所から外に繋がる道に居る敵だ」
 少年らはみな、頷く。

「そうすれば、つまり、俺らが逃げる道も確保できるな」
 少年の誰かが言った。


 その声を受け、ニルロゼも言った。
「そう、そのとおりだ。
 誰かを助けること、すなわち自らを助けること!
 でも、目的を誤ってはならない。
 女性がここに居る限り、女性は苦しむ。
 女性はハーギーを増やす。
 俺ら男は、ただ戦うだけだが、女性の苦しみは、それより辛いことを、俺は女性から教わった」

 少年達は、静かになった。


 ニルロゼは、腰の短剣の鞘に指で触れながら言った。
「だから、まずは、女性をここから出すことだ。
 女性の部屋の前から、出口までの間の敵は・・・みな、仲間ではない大人のハーギーだ。
 そいつらを、全員、一人ずつ、殺すのは、難しい。
 さあ、みんななら、どうする?」

 少年らはやや考えた。

「こういうのはどうだ?
 仲間の大人に、囮になっておびき出して貰う・・」
「なるほど!」

 囮の案には、少年らの喝采があがり、わっと明るい雰囲気になった。
 ここにいるのは少年ばかりなのだ。
 いくら個々人強いとはいえ、大人との差が出るのは必須だった。
 大人にも仲間がいる・・・
 その仲間に、大人の”相手”になって貰えば、非常に心強かった。


 ニルロゼは皆の方向性が纏まっている事に喜びながら、両手を開いて大きく言った。
「相手は確実に、一人ずつ、やるんだ。
 あせってはだめだ。
 ばれたら一貫の終わりなんだ」

 少年らの一人が立ち上がった。
 富豪のところでニルロゼと一緒だったズーシーという少年である。
「さて、では、女性を外に出したら、どうする?」

 ニルロゼは、ズーシーに向けニヤっと笑った。
「俺達は、”外”のことを全く知らない。
 信頼できる大人一人と、あと、俺らの中の誰か三人くらいで、女性を守るんだ。
 じゃないと、全然知らない外に出た女性が困るからな」


 アモが立ち上がった。
 このアモも、富豪に買われた少年である。
 その先で出逢った人に見込まれ、矢を習っていたというだけあって、こうして赤がいない日であっても中振りの矢と、矢筒を背にしょっていた。
 アモは、黒い髪を短く自分で切ったばかりで、比較的端正な顔立ちをしているというのに台無しの髪型になっている。
 が、格好など全くお構いなしの少年は、これから起こる大きな革命に似た流れに向け、その行く末を見ようとするような瞳で言った。
「女性を出したその後は?
 どうやって行くんだ?」

 ニルロゼはいじっていた短剣を鞘ごと抜いて、壁に剣の柄を当てた。
「後は、前と同じさ。
 中に残った俺らで、敵のハーギーを減らす!
 そして、マンサガが出る前に、俺らは全員ハーギーから逃走するのさ」


 同じく富豪に買われた少年、ズーシーも立って言った。
「でも、それでも、まだ残るハーギーは?
 全員をやっつけるなんて、できるのか?」


 ニルロゼは、そこで初めてふっと下を向いた。
 そして、ゆっくりと言った。
「このハーギーの屋上には、大量の油がある・・・。
 あれをハーギーのあっちこっちに撒いて、火を放つ!
 流石にこのハーギーも、焼け落ちるだろうよ」
「え!?」
 数人が一瞬、喜びとも驚きとも交った声を出したが、次のニルロゼの言葉には、誰も声を挟む事ができなかった。

「火は、俺がやる。
 だから、皆はそれまでにここから出るんだ」
 ニルロゼは、反論を全く許さない瞳を燃えさせていた。
 その意志の強さが、体中から湯けむりのように立ち上がるかのように見えるようである。
 少年らは、ニルロゼの圧倒的な気迫でビリビリと包まれ、誰もが身動きが取れずにいた。



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Last updated  March 28, 2010 04:08:55 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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