Accel

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March 31, 2010
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 沢山の少年らで埋め尽くされた部屋は、しばし凍てついたように静まり返っていた。

 すなわちそれは、幾度とない戦いに勝ち抜いている手練の者の集団の証しでもある。
 平均年齢、16、7歳。
 一番小さい者は13位の者さえいた。
 そのあどけない顔立ち、体つきからは、到底並の人からは、彼らが恐るべき剣技の持ち主で、数多くの者を殺し抜き、今ここに居るとは思えぬであろう。

 殺戮、流血のみが求められるこのハーギーで育った彼らでさえも、皆が口をつぼみ、あからさまに脅威の感覚で体を震えさせている者さえあった。
 部屋の奥で仁王立ちになっている、蜂蜜色の髪をした少年・・・
 ハーギーにやって来る者の中で、最も強いのではないかと言われた者を手にかけた少年が、自らの短剣を壁に食い込ませる程に突き立て、燃えるような声で言ったのだ。


 その前に、皆は出ろ、と。


 しばし、誰もが圧倒されていたそのニルロゼの姿に、ようやく一人の少年が足を近づけた。
「それは、許さないぜ・・・」
 茶色がかった金髪の少年、エフィールは、腰の長剣を鞘ごと抜くと、それを杖振り上げてニルロゼに指示した。
「ニルロゼ。
 お前、それは・・・
 自分だけ、いい所を持って行こうって魂胆が見え見えだぜ。
 それは、野暮ってもんじゃないかな」


 ざわり・・・

 室内で小さなざわめきが・・・大きくなった。
 蜂蜜色の瞳の少年、ニルロゼは・・・自分に向けられる沢山の少年達の目線から、逃げなかった。

 最高に、いい所、美味しいところってやつかな。
 そこんとこ、俺にくれないか」
 ニルロゼは、歯を出して笑った。

 そして、そのままの顔で、エフォールの剣の鞘を左手で触り、下げさせると、方目をパチリと瞑って言った。
「女性を外に出し、その後彼女達を守る人が欲しい。

 お前にまかせる」

 ニルロゼは、壁に突き立てていた短剣を、エフィールの向こう、アモに向けた。
「アモ。
 お前は、弓を活かして欲しい。
 常に、誰かと行動してくれ。
 多分地味な役回りだが、お前にしか頼めない。
 お前は前線には出ず、裏手で偵察になり・・・
 見方が敵に見つかりそうとなった暁には、敵を射って欲しいんだ」


 ニルロゼの剣の柄は、ズーシーに向けられた。
「ズーシー。
 お前にも、地味な作業を頼みたい。
 大人と俺らの橋渡し、つまり伝言役だ。
 この闘いは大掛かりとなるだろう。
 離れて闘う者同士、連絡が取れなければ、お互い潰れる」



 ニルロゼは、短剣を抜いた。
 その切っ先は、さらり、と、彼自身の首筋に当てられた。
「油の役は、俺にくれないか。
 みんなは、ここから出てくれ。
 女性のために・・・」

 ニルロゼを睨むように立っていたエフィールが、姿勢を崩さずに黙って被りを振った。
 蜂蜜色の瞳をやや伏せ、ニルロゼは低いながらも強い覚悟の言葉を紡いだ。
「俺らは、外に出ても、外のことを知らない。
 この闘いが成功したら・・・今後は、お互いに、手を取り合って、外で暮らして行くんだ・・・。
 だけど、このハーギーが残れば、追っ手は来るだろう。
 このハーギーが残れば、女性が捕まえられる。
 そしてハーギーは増える。
 頼む。
 俺に、最後の役を。
 このハーギー、堕ちる様、見届けたい」


 しばらくして・・・
 ふっと・・
 立った少年が居た。
 レガンだった。

「嫌な奴だな」

 レガンは、銅でできた胸あてと肩あてを鳴らしながらニルロゼの前に出てきた。
 そして、すらりと剣を抜いた。
 エフィールがやや右に体をずらすと、レガンは切れ長の瞳でニルロゼを見据え、鼻にかかるような声で言った。
「お前、最高の、花形を、やるっていうわけかい。
 随分俺らは損な役回りなようだな。
 それで、なんか、俺らに見返りはあるか?」
 レガンは、剣をニルロゼの剣に当てた。

 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳を・・・
 笑わせた。
「ない」

 レガンも、つられるようにニヤリと笑った。
「全く、お前は嫌な奴だよ」
niru09.jpg



 秋が来た。
 ニルロゼの手には、新しい剣が治められていた。
 東の鍛冶から、貰った剣だった。
 ンサージを手にかけてしまった、と言ったら、好きなものを持ってよい、と言われて頂いた剣である。
 やや中型の長さで、少し湾曲している。
 流石にあのンサージの剣を鍛えた鍛冶の剣である。
 こうして暗い中で見ていても、星の欠片で創られたかのように美しく光った。
 そして・・・手に最もなじむ、素晴らしい剣であった。


 この心に棲む人、ンサージを斬ってしまった、その事に鍛冶はなにも質問はしなかった。
 ただはっきりしているのは・・・
 今手元にある剣が、鍛冶の心そのもの、魂そのものの宿る剣であろうことだった。

 ハーギーでありながら・・・
 自分の意志ではないに関わらず、沢山の人を殺す身でありながら・・・
 彼(か)の人が持つ剣と同じ人が作った剣が、ここに。


 この剣で・・・
 必ず、このハーギーから、不条理な思いをする人々を、解放しよう!

 ニルロゼは、鍛冶の剣に映る自分の瞳にそう誓うのであった。


 あと、あと少しでマンサガが来る。
 仲間の戦略や配置は、もう決めてある。
 実行あるのみ!!





「マンサガだ!
 来たぞ!!」
 どんよりと暗い日の事だった。
 その日は闘技場での闘いが行われないのが判っていたので、よもやとは思ったが・・・
 マンサガの到着を、誰かが小さく言い、それは口々に伝わった。
 少年達は、一斉に・・・配置に着いた。
 今頃、仲間の大人も配置に着いている事だろう。
 マンサガが、赤の部屋に入ると、また合図があった。
 よし。


 まずは、女性が拘束されている部屋に繋がる廊下を監視する大人から狙う。
 その部屋は、西、北、南、東、全ての塔に、ある。

 ニルロゼたちは、北の塔に居た。
 廊下の入り口を監視する大人にまず狙いを定める。
 大人のハーギーが、その監視の男の後ろから巧妙に近づき・・・
 巧みな剣術で監視に致命傷を負わせた。
 斬られた男は・・・声も立てられず・・・
 しかも、どさりと倒れる事も許されなかった。
 念には念を入れ、倒れこむ音さえも、立てないよう・・・
 少年らが抱きかかえ、目に付きにくいところに置いた。
 今しがた、監視を仕留めた大人の、仲間のハーギーは、背後の少年らに目配せをした。
 これから更に奥に行くのだ。
 大人に対抗するには、やはり大人が必要なのだった。
 ニルロゼは、この仲間のハーギーに、絶対なる信頼を置いていた。
 その男の名はメンと言った。



 以前・・・このメンが、自分達に、女性をいたぶることを教える、などという行動を取っていたが、実はあれは、計算されていたらしかった。
 カンとメンとは、無二の親友なのだという。
 カンからそれを教わる前から、よもやそうではないかとは気が付いてはいた。
 彼らが繋がってなければ、あの時あれ程に都合よく、カンが現れる訳がなかったのだから・・・


 ハーギー崩壊に向けた計画は、大人たちの間でも考えられていた事であったのだ。
 だが、かなり昔実行した人が失敗したのだという・・・
 それでも諦められないでいた大人たちの燻った火種に、少年らの計画が匂ったようなのだ。

 それを確かめるために、カンとメンとで芝居を打ってみた、ということらしかったが、なんともこのハーギーでは、暗い方法、遠まわしな方法でしか、仲間を見つけることができないとは、と、カンは独づいていたのであった。


 とかくにも、それらが実り、計画はまさに実行に移されていた。
 ハーギーの至るところで、大人を先頭に、少年達が剣を手に息を殺し、瞳を燃えあがらせた。


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Last updated  March 31, 2010 04:17:33 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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