Accel

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April 28, 2010
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 西の塔に、小走りに走る少年の影があった。
 このハーギー崩壊の作戦での伝令役、ズーシーである。
 彼は、とうとう西門の周りのハーギーを堕とした事を伝えるために、南へと移動していた。

 ズーシーは先ほどまで主に西を攻略する少年や仲間のハーギーの情報を収集し、それらを頭で整理しながらも足を動かしていた。
 彼がいたこの西の塔では、仲間は女性の部屋にたどり着き、そして女性たちを解放させることにも成功して、彼女達を外に向け少しずつ移動させ始めていた。

 だが、とにもかくにも、焦りは禁物だった。
 行く先々、どこにハーギーが居るかわからない。
 目立つ行動は、避けなければならなかった。



 それにしても・・・

 赤や、敵にばれないように、見つかりにくいようにという点を最も重要視されていたが、こういう方法を採り続ければ、マンサガが赤の部屋から出るまでの時間に間に合わなくなってしまう・・・。
 既に、計画を実行してから3刻ほど、経過している。


 しかし、ズーシーは仲間に言った。

 落ち着いて、少しずつ行動しろ。
 マンサガが出る1刻前になったら、一斉に脱出だ。
 それまでは、少しずつ、だ。
 少しでも、多くの仲間を出すことに専念しろ・・・・

 今、事がばれれば、ほんの少しの、一握りの仲間しか出ることができない・・・
 ぎりぎりまで、粘るんだ。



 そして、そのマンサガの様子を監視していたのはジルダという少年だった。
 ”赤”の部屋が見える場所から、密かにずっと、変わりがないかを見ていた。

 この男は、赤の部屋の手前の廊下を監視するハーギーだった。

 エグゾはたまに、おもむろに手で顎を掻いている。
 それがジルダへの”変わりなし”の合図だ。

 すると、ジルダは、仲間の少年に、それを仲間に伝えるように言って散らせるのだった。



 この作戦で何人もの少年と大人が・・・


 そして、戦闘だけが、戦いではない、と・・・
 大人のハーギーが言っていた。

 ただ、切り込めば、それでいい訳ではない。
 ”皆”で出る、それが目的であれば・・・
 地道に。
 確実に。
 状況を伝える。
 それが、一番の、功績である、と・・・


 その、功績の一部を担っていることを、数名の伝令係りは誇りに思っていた。
 実際、年上で剣術も上のハーギーに、態度と言葉で褒められ、少年らは完璧に自分の任務の重要性を認識していたのである。



 そして、ハーギーの外にまでもう出ている者たちもあった。
 数人の少年が、中から出て来た女性を纏め始める。
 彼女達が捕らえられてはまた元の木阿弥。
 ハーギーから離れた場所へと・・・彼らは足を向けて行くのであった・・・。



 もう、マンサガか来てから5の刻が経過した。
 赤の部屋の前のハーギーが、両手で顎を掻いた。
 ”そろそろ時間だ”

 そうだ。
 いつもであれば、あと1刻過ぎると、マンサガは出てくる・・・。
 ジルダは、仲間を再び散らせ、自らも行動に出た。
 時間がもうないのだ。
 あとは、とにかく、女性と仲間の移動に専念するのみ!


 段々、移動する女性の数が増えた。
 少年達は、移動にかなり気を使いながら行動していた。
 裏手で、誰かが死んでいく気配が伝わって来る・・・。
 敵を減らす役の少年達が、剣を振って闘っているのだ。

 自分達も、自分達の役を全うするのだ。
 このハーギーを、出るために。




 ひゅう・・・
 西の塔に、風が吹いた。
 塔の屋上は、ほぼ平らでなにもない空間が寒々と続いていた。
 この下で、今沢山の仲間が外に出るべく移動しているのだとは、到底信じられない程、この屋上は静まり返っていた。
 静かな風を受け、ゆっくりと、壺を傾けて中身を水路に流す少年がいた。
 水路に流されているものは、塔の上の小屋になぜか一杯あった油の一部である。
 少年は脇に小さな壷も5つ用意していた。
 これからそれぞれの塔に持って行き、撒く予定である。


「おい、気配くらい、殺せば?」
 ニルロゼは、急に小さな声で言った。

 そのニルロゼの脇に気配も殺さずやって来たのは・・
 ニルロゼと先刻まで共に闘っていたメンだった。

 メンは、赤茶色の瞳をにやりとさせた。
「油、俺にも売りなよ」

 ニルロゼは・・・黙ってメンを見つめていたが・・・
 そこに、カンもやってきた。
「高く買うぜ」
 カンも、笑みを見せた。


 ニルロゼは首を振った。
「駄目だ。
 あんたらは、外に出た後の、みんなの守りを頼んだじゃないか。
 あんた達がいなきゃ、みんなが困る」

 カンは、ふっと鼻で笑った。
「とか、ガキが言ってるぜ。
 メン、どうする?」

 すると、メンがひょいと壷を持ち上げた。
「大丈夫だ。
 俺ら二人よりも、頼もしいのが、”あっち”に居る」

 メンの声を受け、歯を見せて一瞬カンは笑うと、彼も壷を持った。
「俺は東に行こう」


「お、おい!駄目だ!」
 そう言うニルロゼを無視し、もうカンは歩き出した。

「よう、ニルロゼ。
 結構楽しかったぜ・・・」
 カンは、少しだけニルロゼを振り返ると、両手に持った油をひょいと肩まで上げて言った。
「俺らも昔な・・・
 富豪に買われたんだ。
 あの時にも、ハーギーから出ようって皆で頑張ったんだが、結局駄目だったのさ。
 なぜだと思う」

 カンは向こうを向き、彼の厚い肩が波打つ。
 大きくため息をついたようだ。
「ある一人の大馬鹿が、最後の仕上げを独り占めしたのさ・・・」
 カンは、言い残すとそのまま東へと行ってしまった。


 メンも、指先で壷を取った。
「あの時の仲間で生き残ったのは俺とカンだけさ」

 メンは・・・・西へと行った・・・。


 油を撒いて火をつける。

 すなわち・・・

 撒いたものは命を落とす。



 ニルロゼは・・・
 ゆっくり、北へ向かった。

 赤の部屋がある北へ。   





 ニルロゼは、風のある屋上から階段を使って下の階に下りると、窓からそっと外を見た。
 外に数名の少年が隠れていたが、ズーシーが、鏡を使った合図を送っていた。
 もう、殆どの者が出たようだ。
 どうやら、時間に間に合ったのだ。


 ふっと、ニルロゼの唇から穏やかな吐息が漏れた。
 それから彼は、その唇を湿らせると、瞳を細くつり上がらせた。

 赤の部屋への廊下を・・・
 長い影がゆっくり。
 音もなく、歩き出す。

 蜂蜜色の髪の毛。
 蜂蜜色の瞳。
 鍛えられたその体の腰には、東の鍛冶の剣が下がっている。

 ふらりとしてやる気のなさそうな歩き方だが・・・
 隙は全くない。

「マンサガ様は、お帰りになられたかな?」
 少年はわざと声を出して、赤の部屋の廊下に姿を出した。

 数人のハーギーが、殺気立て自らの左腰に手を回す。
「てめえ、なんだ!?」
 ハーギーが、5人。
 少年を囲んだ。

 囲まれた少年は、それでも表情を全く変えなかった。 
「マンサガ様は、お帰りになられたか、知りたいんだ」
 少年は、再度言った。

「なにい??」
 一人の大人が剣を抜く。
 別の大人が、それを制した。
「まあ待て、まて。
 ガキ相手にそう色気立つな。
 おい、ガキ、マンサガ様のことなど聞いて、どうする」
「こうする」
 あっと言う間もなかった!

「・・・」
 どたり。
 いきなり・・・
 先ほど、剣を抜いた大人が倒れた。


 蜂蜜色の髪の少年の右手に・・・
 血が滴る剣が握られていた。
 少年は静かに言った。

「さて。
 俺の抜刀が見えた奴がいたら、相手になって貰おうか」

 少年は、赤く染まった美しい剣を上段に。
 構えた。



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Last updated  April 29, 2010 12:08:13 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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