Accel

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May 9, 2010
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「なぬいいいい~!?!?」
 明るい日差しが降り注ぐ広間で、すっとんきょうな声があがった。
 声の主は、金髪の髪を持っている。
 なかなかの美青年といっていいであろう、眉目が深く青い瞳は明るい光を湛えている。
 年頃は大体、24歳位。
 その青年、カンが、端正な口を、思いっきりでっかくして、すごい声を上げたのだ。

「な、なんだよ、そんな大きな声だすなよ」
 カンの目の前に居た14、5の少年は、周りを気にしながら唇に人差し指を当てた。
「なんで、驚くんだよ・・」


「お、お前、お前が、女に逢いたい・・だと・・・・??」
 カンは、再々度、驚きを口にした。

 そんなこと・・・あ、ありえん。


「ニルロゼ・・・お前、女に、興味、あるのか・・・」
 カンは、かなり首を捻りながら、やっと目前の少年、ニルロゼにそう言った。
 彼の左肩は、ぐるぐる包帯が巻かれてある。
 彼の肩は、ハーギーを出る際に敵に斬られていた。
 その上に、この少年に、踏み台にされのた。
 今でもその痛みがジンジンと響くが、そのそぶりは彼の顔つきには全く表していない。
 流石は闘技場屈指の剣士集団の一員で、弱みなどは一切出さないのが彼らの上下関係を保つのに役立ち、事によれば自身が殺戮の対象にならないための保身のためでもあった。

 もはや、ハーギーを出ている身であったにかかわらず、長らく・・・というか、生まれた時からその生活であった彼にとって、すっかり板についているこの行動、今更治る訳でもなく、勿論意識してそうしている訳でもなかった。
 痛むからといって庇うこともなく、こうして胸を張り背を伸ばしているのである。


「きょ・・・興味・・・」
 少年、ニルロゼは、自分よりも背の高い大人の青年の呆れた声を聞き、首を傾げるしかない。
「興味?


「そ、そうだろうなあ・・・」
 カンは、答えに詰まる少年に、眉間に皺を寄せた。
 額に滲んで来た汗に気が付くと、はっと肩を上げ、ぐりぐりと左手でぬぐった。
 そして、青い瞳を宙に泳がせながらモンモンと頭を巡らせる。


 こやつ、女を、”抱かなかった”はずでは?
 というか、そういう情報なのだが・・・


「お・・お前さあ、女を、”知っている”のか?」
 ずずずいっと、カンは少年の耳に近づき、ぼそりと言った。

 少年は、へ?という顔をしたが、答えた。
「知ってるよ」

「だ、だあああああああああああああああああああ」
「わあーー!
 カン、だから、声がでかい!!!」


 ぜー、ぜー。

 カンは逞しい指で頭をガシガシと上下に掻きむしり、ブンブンと首を左右に振る。
 いや、いや落ち着け。
 そう、そうだ。
 俺だって、そう。
 あの年には、うん、”している”。
 別に、ニルロゼが、していても、おかしく、ないのだ。
 うん。

「で?つまりだ。
 その”知っている”女に、逢いたい、そういう事か」
 ニルロゼは屈託ない笑顔で応えた。
「うん」


「・・・・。
 お前・・・意外と・・・
 熱血なのな・・・」
 カンが途方に暮れたため息をつくが、少年は意に介さない。
「そう?
 俺が熱いのは、あんたがよく知ってるんだと思うけど」
「・・・・」


「って訳で、俺、ナーダの所に行って来るから、これ、預かってて」
 ぽーーーい、と、ニルロゼは東の鍛冶の剣をカンに投げ寄こして来た。
「あ”あ”っ!!!
 お、お、お前だけ・・・・~
 ・・・なんか、ずるい・・・」
 カンは、鍛冶の剣を受け取ったものの、思いっきり打ちのめされた。


 なんということだあ!
 あの、滅茶苦茶、女に無縁そうな野郎が、
 ”一人の”女に逢いたい、だとおおお!?
 というかメンの話じゃ、まだ、女を・・・というはずだぞおおお


 カンは、勝手にメラメラと燃え上がると、ふんっと立ち上がり、がっしと両手に拳を作った。


 あんのやろうーーー!
 ガキのくせに、絶対生意気だああ!
 この俺だってだなっ、”一人”に絞った事はないんだぞーーー!!!
 ”それ”がどーゆーことか、わかってるんかああああああ!!!!!

 と、訳の判らない事を頭で数秒で考え、気配を殺して、カンは少年の後を尾け始めた。



 そうだっ!!!
 今は、ハーギーの内じゃないから、いくら”自由”とはいえ!
 そんなの許さんぞ!!

 大体俺だってだなあ!
 お、俺だって、女にきょーみあるんだぞっ!!!うん。

 そうだ、他の男達だって、
 ”我慢”してるのだ!うん!!!


 カンの瞳がギラリと光った!


 この俺が、えーと、うーんと、
 そう、お目付け役としてだ!
 あやつを、よーーーーく、偵察しておかねばならぬ!


 ニルロゼの”お目付け役”に勝手になったカンは、少年に気づかれないよう距離を取りつつ、その後を尾行して行った。




 ハーギーを出てから、時は既に2月は経過していた。
 あの場所からどれ程離れたであろうか。
 最初の頃こそ、昼夜を問わず異動していたが、流石に張り詰めた緊張がほぐれるにつれ、時に怪我をする者もあったり、疲れる者も出るようになった。
 何分、女性は特にその傾向が強かった。

 女性たちの安心のためーーー、それが大きな目的でハーギーを出た訳であったからにして、集団は一時期の休息の場を所々に設けながら、少しずつ東へ移動していたのである。

 現在、やや大きな集落めいた物を作って休んでいるところであった。
 程良く森も沼もが近くにあり、くぼ地があって、食材を取ったり何かの際は逃げたりするのに適する場所だった。


 移動して歩いている間もそうであるが、女性は一つの塊になっている。
 その周りは、十数名の大人と、同じ位の人数の少年が守っていた。
 そして、こうして休息の場を作った時も同じで、女性は男性と別の場所に纏まっており、一定の男性が守っているという形となっていた。


 少年ニルロゼは、その集団の中へとノコノコ向かい・・そして正面突破ですんなり入ってしまった。


「あ、ああ・・・あっさり入って行ったぞ・・・うう・・・」
 それを見ていたカンは、なぜか涙目になってきた。

「はあ、なんなんだ、あいつが子供だから入れるのだろうか・・・
 いや、というか、俺も入れるんかしら・・・」

 カンは、恐る恐る、女性の集団を守る一帯に近づくと、そこを守る仲間に言った。
「あのーーーー」
「よっ!カン!
 お前もここに入りたいの?
 1刻の間なら、いいぜ」
「あ、あ、そう・・・」

 あら・・・
 いいの・・・?それで・・・


 肩までの長さの金髪を掻きながら、カンは中に入った。
 これまで牢番という立場だったカンは、女性が纏まっているという場所の想像がひどく偏っていたのだが、まるでそれとは違っていた。
 女性たちは何人かで笑いあいながら話をしたり、髪を結びあったり・・・
 驚くべきは、数名、男性もいた事だった。
 一人の男性が数人の女性に囲まれ、話し込んでいる。


 その光景に、驚きを禁じ得ながらも、カンは辺りを見回した。
 ニルロゼは、どこに行ったのか?


 あら あの人カンじゃないの?
 こっそり、そういう声が聞こえる。

 ハッと青年がそちらを振り返ると、数名の女性が彼に視線を送っていた。
 途端に、彼は顔を青くし、身が縮みあがる思いがして来た。
 これまで、何人牢獄に出し入れしただろうか。
 全てはメルサの命令のままであったが、自分の扱った人の割合の多くは女性が占めていた。
 女性が自分に見せた憎悪、疎ましげな表情、涙は、ハーギーを出てからも消して脳裏から離れる事がなかった。

 彼はその場を逃げ出したかったが、なにしろ女性だけの集団の場である、どこに行っても女性ばかりであった。

 くそ、もう出る、こんなとこ!!!!


 顔を両手で覆い、当てずっぽうに歩を進め始める。


 ニルロゼ・・・
 あいつは若いし、まだ俺のような苦しみを知らないから、のん気に女と逢おうなんて思えるんだ。
 ハーギーではどんな女でも、男が身近にいてもいいなどと思う奴なんて、いる訳ないよ。
 まったくこれだから、ふん、どうせどうせ・・・


 と、ここでカンはふと空しくなって手を降ろすと、自分の居る場所から逃れないために顔を上げ、唇を結んだ。

 理不尽さは何度も感じて来た。
 悲しむ女性を増やしたくなかった。
 だが、メルサの恐ろしさに、従うしかなかった・・・


「でも、今はハーギーではない。
 しかしニルロゼは、なんだって数多くの女性の中から?
 誰かを一人、思っているなんて・・・」
 そこでカンは、瞳を釣り上げながら、ぐるりと後ろを振り返って、あの憎き少年の姿を再度探した。
 その肩は微妙に揺れ、彼の心中を表しているようである。

 大体にしてだ、あいつはこの俺より10歳位年下の子供だぞっ!!!
 だっつうのに、特定の女に逢いたいというのは、これいかにということなのだ!!!
 俺でさえ、まだ悟りの境地に至っていないというのに!



 カンはなぜか、鼻息を荒くして、左右に目をやる。
 あやつは、どこに!?見失ったか?


 少年の姿は、どんなに見回しても見つからなかった。
「俺も大人気ないかなあ・・・」
 青年は、肩を落として、傍に生えている樹にもたれ掛かった。


 すると、ぼそぼそと・・・
 小さな声が、どこからか聞こえた。

「ナーダってば」
 カンの青い瞳が、ちらり、と左を見つめる。
「ナーダ。
 俺だよ。ニルロゼだよ・・・」


 ニ・・・ニルロゼ・・・?

 カンは、ゆっくり、樹から、声の方に身をずらしてみた。
 少年、ニルロゼの姿は、それでも、見えなかった。
「ナーダ。
 どうしたんだよ・・・俺だよ・・・。
 ねえ、居るんだろう?」


 な、なんじゃこりゃああああ!
 カンは、わなわなと、髪の毛をかきむしった。
 こ、これは!
 俺の知っている、アヤツの声色と、ぜんぜん!ちがうっ!!!!

 こんなんゆるさねえええええ~・・・
 あいつ、あとでぎったんぎったんにしてやるう・・・


 カンはなぜか、勝手に瞳を燃えあがらせると、樹の幹に指を喰い込ませた。
 というか、彼は今にも樹に噛みつきそうな勢いであった。




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Last updated  May 13, 2010 01:34:04 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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