Accel

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May 10, 2010
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「おい・・・ナーダ。

 大丈夫かよ?
 体は・・・変わりないのか?
 もう具合悪くない?」


 ニルロゼの不安と優しさに溢れる声が、カンの耳に届くと、青年はまたも顔を渋くさせた。
 一体全体どういう事なんだ、これっ!
 カンは、指先をプルプルさせながら、声の方に更に瞳を凝らす。


 ニルロゼは、ハーギー崩壊に向けての事で頭が一杯のはずだった・・・。
 あいつが居た牢に女をやったというメンの話でも、目もくれてもいなかった、という事だ。
 これまでもずっと、女のことより剣術の事ばかり、ハーギーを出てからも、女などと口にはしなかったのに・・・。

 こうして何度か、休息を取るようになって、いきなりなのだ。
 女に逢いたいだなんて言いだして・・・


 はあ~っ。
 カンは、魂さえも抜けるようなため息をでっかくついた。
 ハーギーでは、”女”は禁制された言葉に近かった。
 ある一定の力を持つ男は、何人かの女を近くに置いていたようだが、その女達も子供ができれば別の場所に移される。
 そして、自分達はといえば・・・
 時としてメルサの許可が出ると、牢に入っている女達に手を出す、という図式であった。


 俺にももう少し力があれば、ある一定の女性を傍に置けたかもしれない。
 そういう気持ちもどこかにはあった。

 ずっとずっと以前に、俺が富豪に買われた時、沢山の書物を読ませて頂いた。
 俺にはとても夢のような中身がそこには書いてあった。

 それは、ハーギーの一部の男たちがしている姿とはまた違う、と未成熟であった自分の頭でも理解できたのだった。

 俺にも、心を癒し、そして俺が癒してあげられる人がいないだろうか・・・
 そんな事を、ぼんやりと考えた事もあった。


 ああ、だというのに。
 なんだ、あのニルロゼは。
 あいつは、くっそー、俺がまだ到達してない、んーとえーと、なんだその、
 とにかく、一人の女に絞るってのは、なんだか判らんがまだ早いっ!!!!!!



「顔くらい、見せてくれよ。
 どうしたんだよ。
 俺、君に会いたかったのに・・・」

 ニルロゼがそう言うと、カンはとうとう、くううう、と口の端から半泣きの声を漏らした。
 うう!
 あいつは!いつの間に女泣かせな言葉を覚えたのだ!!


「ねえ、どうしたんだよ・・・
 ナーダ。
 なぜ出てきてくれないんだ」


 そこまで、ニルロゼの言葉に一々怒り燃えていたカンであったが、段々、なんだか彼が思っていたような状況とは違うような気がしてきた。


「俺さあ・・・君と話したいんだ。
 また、後で来るから、その時は逢ってくれる?
 じゃあね、ナーダ」

 言葉が途切れ・・・
 少年の気配が消えた。


 カンは、じりっ、と、体を動かした。
 先ほど、会話が聞こえて来たあたりに、ニルロゼの相手がいるのだろうか・・・?
 すると、そこには大きな葉をまとめ上げて作った、ちょっとした小屋のようなものがあった。
 彼は、相手を驚かせないよう、気配を殺さずに、ゆっくり近づき、声を出した。
「やあ。
 すまないね。
 ちょっと、教えて欲しい事がある」

 小屋から、数人の気配がした。
 カンは、ちょっと唇を笑わせると、できるだけ陽気な声で大きく言った。
「俺は、さっきのマセガキのお守りで、カンって言うんだ。
 どうも、あいつは熱血漢で突っ走るからこうやって監視している。
 ちょっと奴の情報が足りなくてね。
 少し、ニルロゼの事を教えて欲しい。
 礼はできないがな」

 すると、小屋から一人、女性が出てきた。
 カンの見覚えのある女性だ・・・
 牢で少し長く彼女を拘束していたことを、カンは覚えていた。
 女性はつまらなそうな雰囲気で言った。
「あなたねえ。
 いい年していて判らないの?
 私たちは身篭っているのよ。
 私達がどれだけ苦しんだか、知らないとは言わせないわ」

 カンは、面食らうと、やや後ずさりした。

 女性はビシッと腰に手を当てると、ツンとした態度で言い放った。
「ハーギーから出ても、今後、追っ手が来るかもしれないわ。
 私達は、段々体が言うこときかなくなるの。
 そうしたら、動けなくなるのよ。
 判る?
 そして、この集団について行けなくなるわ。
 ふっ・・・見捨てられるのよ、私たちは・・・」
 女性は、鋭くカンを一瞥して、小屋に戻った。


 カンは、思わず、その場に立ち尽くした。
 身篭った女性だって・・・?
 これから異動できなくなる・・・?

 今の今まで、全く考えてもいなかった事だった。


 そうだった。
 今後追っ手が来ないとは、言い切れない。
 これからも、絶えずこの集団は異動していかねばならなかった。
 そのくらいは、考えていた。
 だけれども・・・・?


 ひゅう、と風が吹いて、彼の顔を撫でると、はっとカンは我に返った。
 1刻で、ここから戻る約束だった。
 しまった。
 金髪の青年は、慌てて、女性の広場を、後にした。




 カンが、とぼとぼと、元いた場所に戻ると・・・
 少年ニルロゼが、既にそこにいた。
 カンが尾けていたとは、お見通し、という事だろう。

 少年は、黙っていたが、どたっと仰向けになった。
「わからん」
 少年が言った。

「女の考えることは、さっぱり、わからない、カン。
 あんた、少し、わかる?」
 いきなりそう言われ、カンは、戸惑った。

「わ、わかるわけ、ないだろ」
 ぶっきらぼうに言い、預かっていたニルロゼの剣を少年に投げやった。
 鞘に納まった剣は、少年の腹の上に、ボタリと落ちた。


「あんた、俺より、かなり年上だろ。
 少しは”知っている”んじゃないの??」

 うぐっ。
 これは痛い。
 直球の質問だ。

「”知っている”よ・・・」
 青年はとりあえず、そう答える。
 ニルロゼは、ふう、と向こう側を向いて言った。
「じゃあ、教えてよ。
 前はさ、”あいつ”が、勝手に、俺にくっついて来たんだ。
 なのに今度はさ、傍に行くのも、顔も見るのも、許してくれない」

 カンは、やや、眉毛を上げた。
「くっついて来た・・・って?」
 彼は青い瞳を、キラリと光らせ、思わず少年に聞いた。
「どのぐらい」

「やってみせる?」
 ニルロゼがいきなり近づいて来た!
「いや、いや、いやだああああああああああ!!!!!!
 お、俺はそういう趣味はない!」

 ぜー、ぜー。
 呼吸を荒くしながら、カンは、胸に手を当てた。
 こいつ、何を考えておるのだ!


 ニルロゼは、ふう、とまた下を向いて、指で地面を突いていた。
「あいつにくっつかれて、俺も嫌だったんだけどね。
 まあ、結果的に、俺はナーダに助けて貰ったんだ・・・」
 少年は、ぽつり、と、言った。

 はあ~・・と、深いため息を、カンが漏らした。
「でもさあ。
 お前、いくつになったよ」
 蜂蜜色の髪の少年は、ちらり、とこちらを見た。
「さあ。
 14、5じゃないの」

 カンは、両手を肩までの高さに上げ、しみじみとニルロゼに向かって言った。
「お前な、人生は、長いぞ。
 女は、一人ではない。
 うん」
 少年、ニルロゼは、上を向いて言った。
「そうなの?」

「そうなのって、そうだろうが。
 女は一杯いる」
「・・・・」

 少年は、ふっとまた向こうを向いた。
「一杯いるかもしれないけど、俺を助けてくれた人は一人だ」


 うっ・・・
 こやつ、なかなか、言うな・・・

 まだ子供だと思っていたが、いっぱしの言葉を言いやがる。
 なんだか面白くないぜ、と思ったカンは、それではどうだ!と、トドメの言葉を刺した!
「おまえさ・・・
 そいつにほれているのか」

「・・・・」
 少年は応えるのにしばらく、時間がかかった。


「・・・そうじゃないっ!!!!!!!」
 ニルロゼはいきなり高声になり、跳ね起きた!

 カンは、少年のその表情を見るや思いっきり腹を抱えて笑った。
「くっ!
 こりゃ、傑作だ!
 ふふふ・・・惚れてる!絶対!」
 カンに言われるが、ニルロゼは、やたらに両手と首を振った。
「ち、ちがう!!」

「くくくく」
 カンは立ち上がり、腹を抱えて走りだした。
 無論、怒っている少年から逃げるためである。

「そんなんじゃない!
 ちがうーーっ!!!!」

 追ってくる少年から逃げ、カンは叫んだ。
「その年でまあ・・・
 ・・・お兄さんとしては、まだ早いと助言しておく・・くくく」
 ニルロゼも、カンを追いかけながら叫んだ!
「だ、誰がお兄さんだ!」

 カンは余裕の表情で後ろを振り返り、ヘヘっと悪戯っぽい表情で言った。
「で、どういう女だよ」
「どういうって・・・」

「そこ、重要だろうが」
「重要・・・?」

「あらあ・・・重要だろう・・・
 お前、好きなんだろ?」


 カンにそう言われ、ニルロゼはまた、キッとなった。
「だから、ちがううう!!!!!」

 サッと木陰に逃げ隠れたカンは、チッチッチと指を鳴らすと、年上ならではの余裕の表情で言い放った。
「うふふ。
 弱味、発見」

「だああああ!なにが弱味だ」

「ふん。
 お前はナーダにベタ惚れって事さ!!!」
「ちがうちがうちがう」

「どこらへんが違う!」
「と、とにかく違う!」


 段々、日が傾いて来た。

 以前とは違った、大空の下。
 すがすがしい風の中。
 自由な時間。
 樹の香りが充満している・・・

 こんな伸びやかな中で、年の離れた者と、じゃれるように追いかけ合うなど、考えたこともなかった。
 カンは、肩の痛みさえも忘れ、年端のいかぬ少年をからかう事に、つくづくとハーギーでは味わえない幸せを感じ、自らもまた我を忘れて年甲斐もなく、相手の少年と同じ年になったかのような気持ちになっていた。

 ニルロゼは、ふっと足を止め、一枚上手で身を隠してしまったカンに叫びかけた。
「好きって言うんだったら、俺はあんたが好きだぜ、カン!」

 すると、カンが遠くから応えた。
「おいおい、俺は男に好かれても、いい気分じゃ、ねえなあ~!!!」

 夕日が・・・森に落ちて行く。


 少年は、赤く染まる森をぽつんと一人で眺めていた。
 カンに言われ、好きという言葉の意味を自分の中で繰り返してみる。

 好き・・?
 ナーダを・・・?


 だが、相変わらず少年にはよくわからなかった。 
 これは、富豪の所に居た時から判らなかった言葉なのだ。
 ”好き”という事が、ニルロゼには、理解できていないのであった。





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Last updated  May 10, 2010 10:45:23 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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