Accel

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May 13, 2010
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 その翌日の、朝の事。

 朝露も美しく煌めき、さわさわとあたりの草が静かに風に揺れている。
 のんびりとした空気の中で、ほれ!と男の声が上がり、小鳥が2,3羽向こうへと飛び立っていった。

 低くてしかも苦味も甘みを含んだその声は、金髪を持つ青年カンのものである。
 そのカンに小突かれるように、ちょっとひょろ長い感じの少年が歩いていた。
 ひょろ長い・・・と表現するのは、ややおかしいかもしれない。
 これは、カンと対象するとそう見えてしまうという事もある。

 カンに並ぶその少年も、本来はきちんと幅広の腰や胸を持っているのだが、なんといってもまだ幼い部類の年頃であり、その上、青年カンは少年よりも10年程の鍛錬を積み重ねており、更に青年は甲冑を着こんでいた。
 ハーギーに身を置いていた頃、まだ”ハーギー”に認定されていない者は、甲冑を着ることを許されてはいなかった。

 甲冑を着ているカンと並べば、頼りなげに見えても仕方のない事であろう。


 カンは、転がっている丸太を見つけると、それを机にし、剣の柄でビシ!ビシ!と叩いた。
 丸太の机の前では、蜂蜜色の髪の少年が、正座している。

「ちゃーーーんと、正直に、答えるのだ。
 お前の回答次第では、俺が、いい方向を考えてやる」

 ビシ!
 金髪の青年、カンが、剣の柄を丸太に叩き付けた。
 その相手をさせられている?少年ニルロゼは、はあ、と、情けない声を出した。

「いいか、”一人の女に逢いたい”というのは、特別な事なのだぞ」
「は、はあ・・・」

 ビシッ!

 情けない声を出す少年に、カンは眉間に皺を寄せ、キッキとなって丸太を叩いた。

 な・・・なんか、前、ナーダにも、同じような事を言われた気がする・・・
 ニルロゼは、首をすくめ、そんな事を考えた。



「では、質問だ。
 お前は、なぜ、”一人のナーダ”に逢いたいのだ?


 うーーん・・・
 少年は、首を右に傾けて、言った。
「会いたいから」
「だあああ!
 それは、理由ではないっ!」


 ビシッ!
 カンは唇を尖らせ、剣の柄で丸太を鋭く叩きながら言った。
「なぜ会いたいっ!」
「なぜって・・・えーと、無事を確かめる」

 カンは、思いっきりムッとし、この男~と思いながらも言った。
「昨日確かめただろうが」
 青年に言われると、ニルロゼは全く屈託のない笑顔で応えた。
「そうだね」

 はあ~・・・
 こいつは、なんなんだ、一体。

 カンは、危うく脱力しそうになるのを必死に堪えるしかない。
 今、俺の目の前に居るのは、ハーギーを出る時に一緒だったあのニルロゼなのだろうか?
 この俺でさえも、近づくのが恐ろしいと思ってしまった程のあいつなのか?
 燃えるような闘士、視線だけで相手を斬るかのような剣術を持っている、あいつなのだろうか?


 ハーギーでのニルロゼは、もしかして俺より強かったかもしれない。
 剣の柄に手をかけすらりと立つ姿は、見ている俺でさえ、ぞくぞくとしたものだった。
 立ち回りで何人も斬って行くあいつの手、脚、怒涛の精神は、間近で見て来た。

 しかし、なんじゃ・・・・


 カンは、ふう、と目の前の少年にまた瞳を据える。
 今自分の前に居るのは、背はまあ高くなっているものの、ちょこんと座っていて、その瞳はなんの疑問も持たないようにさえ見える。
 正座している膝に置かれたその手が、あの東の鍛冶の剣を持って立ち回りをしていたなどと、全く想像できないのであった。

 これが、本来のニルロゼの姿なのだろうか。
 カンは人差し指で唇をちょっといじりながら考えた。
 そうだ。
 こいつは、まだ15とかなんだから・・・。



「では、次の質問。
 お前本当に、女を”知っている”のか!?」
 カンが、やや顔を赤くしながら聞いた。

「え?」
 ニルロゼは、カンの言わんとする事が、掴みかねない。
「だから、知っているってば・・・」

 ビシッ!!
 カンは、額に血管を浮かばせ、またも剣の柄で丸太を叩いた!
「どーゆーーふーーに!!!」

「えっ??」
 ニルロゼは、首を傾げ、ただそう言うだけだ。


 ああ・・・こりゃ・・・
 しらん、な・・・。

 へいへい、と呆れながら、カンはぶっきらぼうに聞いた。
「次の質問っ。
 子供の作り方は知っているのか」

 しーーーん。

「ほら、知らないな」

「いや、うーーん、っていうか、知っている・・のかな・・・?」
「な!?なにっ!?!?」
 カンは、いきなり立ち上がる。
 ニルロゼが、その青年の様子を慌てて遮り、言った。
「な、なんだよ。あいつが先にしてきたんだ」
「な、な、、なんだと・・」

 カンは・・かなり、狼狽した。
「先に、してきた・・・?だと・・???
 そ、そんな」
 カンは、血相を変え、首を振り、頭を抱えた。
「ありえん~!!!」

「だって、そうだもん」
「う”わあーーーーーそんなあああ」
 カンは、とうとう抱えた頭を地面にこすりつけ、突っ伏した。


「おい、大丈夫?カン?」
 ニルロゼがおずおずと手を差し伸べたが、カンはいきなり、ガバっと立ち上がった!
 その顔は総毛だっている。

「大丈夫な訳ないだろ!
 って事はなんだ!
 相手からお前に・・・・し、してきた・・・と・!!!??」
 カンにかなり近い距離に迫られ、ニルロゼは、戸惑った。
「う、うん」


「あ”あ”~」
 再び、カンはがっくりとした。
「うっうっ・・・そんなのありかよ・・・
 なんでお前はそういうイイ目にあうのよ・・・」

「なんでって知らないよ・・・
 あ、そうだ、ナーダは、富豪の所で知り合ったんだ」
「な、なんだと?」
「そうだよ」
「・・で、知り合って、目をつけられた、と・・?」

 ニルロゼはすっとんきょうな声をだした。
「なに?その、目を付けられるって・・・」
 カンは、酷く情けない顔をして言った。
「だから、相手がお前を好きに・・うっ・・・なったんだろ?」

 ニルロゼは、やや、考えた。
「うん。
 俺の事が好きだって言っていた」


「う”っ」
 カンは、思いっきり衝撃を感じた。
「好きって・・・どういう事か、知っているか・・・」
 カンは、恐る恐る、聞いた。
「うーーん。
 わからない」
「お前、アホか」
「ナーダにもそういわれた」
「・・だめだこりゃ・・・」


「ねえ、カン。」
 がっくりとしているカンは、少年に呼ばれて青い瞳を上げた。
「なんだ?」

 ニルロゼが、真面目な顔で言った。
「あんた、ナーダと同じような事、言うね」


 カンは、右手で拳を作ると、拳に、はあああああっと息を吹きかけて、言った。

「お前、一発、なぐっていいか」




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Last updated  May 13, 2010 01:44:03 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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