Accel

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May 17, 2010
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 とどのつまり・・・

 まあ、していてもしてなくても、この際?・・・関係ないが、
 とにもかくにも、当のニルロゼは、まだまだ子供で、女の事など、まーるで判っていなかった。
 一体、相手の女は、あんなぼんやりした子供のどこがよいのか・・・?
 ニルロゼと同じ年頃の女なのだろうか?


 カンは、そんな事を考えながら女性の集まる場所に行き、例の場所・・・子供を身ごもっている女性が居る場所へ向かっていた。
 カンは、それなりの経験年齢を重ね、富豪にも数度買われ、女性の扱いについて、ある程度知っているつもりである。
 女とは、押しすぎても駄目、引きすぎても駄目。

 そういう戦法を取ればいい。
 いや、”いい、らしい”。

「おーい。
 俺だぜ、カンだ。
 また来たよ。
 この間は失礼したね」

 女性が奥から誰も出て来ないので、カンはつい痛む肩を摩り、一生懸命言葉を選んで言った。
「えーとだ。
 ハーギーではな、まあ君らも知っているだろう。
 俺は東の塔で牢番してたんだ、でも、つまらない役だったよ。
 そして更に知っての通り、この年になってもだ、まともに女と話した事がないぜ。


 青年は一呼吸、入れた。
「俺が興味のある男に対してだ・・・
 そいつに興味を持っている女、というのも、同時に興味があるんだな・・・」
 ぼそりと言った。

 カンは、近くの樹にもたれ掛かった。

 右手で左肩をさすり、とうとう座り込んでしまった。

「身重の女性・・・ねえ。
 ハーギーでは、別の部屋にされていたなあ。 
 だからそういう人に出会った事がない。
 どうすればいいか全然判らないよ・・・。
 君達は、どう思っているんだ?
 俺は、女の気持ちは、さっぱりわからない」

 これは、彼の素直な気持ちだった。
 同時に、ニルロゼの言葉の代弁でもある事に、カンは気がついてはいなかったが。
 青年は、深く青い瞳をそっと伏せると、息を吐くように言った。
「君たちの気持ちを判らないから、今まで俺らは酷い事ができたんだろう。
 でも、俺も苦しんでいたんだ。
 少なくても、俺の知っている範囲では、ここに居る仲間のほとんどは、そう思っていた。
 ハーギーで強制されるのは、嫌だったんだろう?
 嫌がっていたってわかっている、俺だって、嫌だった・・・」

 青年がすっかり樹に半身を寄りかけると、太い樹が包み込むように、カンを抱きとめた。
「女が嫌がる事をして、で、子供ができて、身重になった女性はどっかに纏められて・・・
 その後どうなる?
 生まれた子供はどこに行く?
 子供がある程度大きくになると、少年少女は、また、ハーギーの闘技場の生贄のように、戦闘の下積みをさせられ・・・
 そして、俺らも彼らの存在を知るようになる。
 でも、今君たちが直面している事・・・
 子供がいる、小さい子供が生まれるという部分は、俺らは全く知らないんだ。
 判っているだろう?」

 カンは、胸で息をしながら、続けた。
「でも今はもう、ハーギーじゃ、ないだろう・・・
 教えてくれ・・・
 俺は、わからないことばかりなんだ・・・」


 カサリ・・・
 音を立て、誰かが・・・こちらへ近づいて来る。
 カンは、瞳を閉じたまま、同じ格好を取り続けた。
「俺ら・・俺らは・・・
 協力して、ハーギーを出たんだ。
 だから、君達も、色々、教えてくれ・・・
 判らないと、対応ができないよ・・・」

 女性の声が、した。
「子供を生むと・・・すごく、体力を使うのよ・・・
 そして、子供を生んでからも・・・」

 カンは、瞳を開けた。
 最初に小屋から出てきて話をした、あの女性だった。

「体力を使う・・・。
 動けなくなるのか?」
「それもあるけれど、生まれた乳飲み子を抱えるわ」


 そう言われ、カンは、ぼんやりと、昔を思い出した。

 そうだ・・・
 女性が、俺を、育ててくれたんだな・・・・


「そうだったな・・・
 ハーギーの時は、一人の女性が、何人も、子供を育てていたな・・・」
「そうね」

 しばらく、さわさわと、二人の間に風が吹いた。
「すまないが」
 カンは、バツが悪そうに言った。
「君が、ニルロゼを好きな人かい?」

「いいえ?」
 即答だ。

「あ、ああ、そう。
 あの、俺の、かなり、興味本位なのだが、奴の相手って、誰?」
 女性はまた、つまらなそうな顔をした。
「それを、野暮っていうのよ」
「そうかも」

 はあ、と女性が溜息をついた。
「あなた、好きになるって、どういう事か、知っている?」
 カンは、へっ?という顔になってややうろたえた。
「どうて・・ええと・・・
 確か、なにもかにも投げ出してしまう感覚だと・・・」
「それは、富豪に教わった言葉でしょ!」
「うーーむ・・・」
 カンは、頭を抱えた。

「とにかく、私達、”そういう体”なのよ。
 そこらへん、よく、考えなさい!
 判らないうちは、来ないでよね!!」
 冷たく言い放ち、女性は小屋に戻ろうと背を向けた。

 えーーい、くそ!この際・・
 カンはいきなり立ち上がって、大声を上げた。
「ナーダ!
 ニルロゼのアホが”遭いたい”って、年不相応な事言っていたぞ!
 俺は、伝言役は、冗談じゃない!
 だけれど、あいつは、純情なんだ。
 その気持ちにくらいは、応えてやれ!
 健全たる少年の育成には、不可欠だ!」


 言ってから、カンは無性に馬鹿な役回りをしたものだと思い、勝手にイライラするのであった。
 大体にして、女は全員”ナーダ”なのだ、どの人にその言葉が伝わったのやら。

 あーーーっ。
 本当に、むかっ腹立つ。
 なんで俺が、橋渡しをせなあかんのだ。
 はあ、情けないなあ・・・

 カンは、思いっきり足元の小石を蹴って、その場を後にした。



 果たして昼刻となった。
 森や川で木の実や魚を採取した男達が、昼食を作り始める。
 数人、女がその場にいる。
 どうやら、食事の作り方を教える役らしい。

 なんと不思議な光景だろうか。
 ほんの数日前まで、殺伐とした所に居たとは、思えない。
 女にまとわりついている小さな少年もいる。
 そりゃそうだろう。
 子供なんて、本能的に、優しいもの、暖かいものに、惹かれるのだから・・・

 ん?本能的に?
 それだったら、ええと、俺も、同じなのだろうか・・・

 金髪の青年は、そのままの体勢を崩さず、料理を作る女性を遠目で見ていた。
 女性らはやや、年配だ。

 俺のおかあさんって・・・
 どんな感じだったんだろう・・・

 青年がえもいえぬ感傷に浸った視線を送る先では、どうやら食事ができたらしい。
 数人の女性は、男に鍋を担いで貰い、女性の集団に戻って行った。
 小さな少年少女は、一緒に女性の群れに入って行く。


 あ、いいな。
 俺も、あそこに入りたいなあ。

 と、考えてしまったカンは、勝手に頬を赤らめながら、こめかみを必要以上に掻いた。


 なにを考えているのだ、俺は!
 俺は子供じゃないぞ!
 全く・・・

 カンは、やたら変な事を考えてばかりだと気が付き、自分で頭を叩いた。
 彼は、別な事を考えようと意識を集中させ始めた。
 あの、ニルロゼの相手がいる所の女性が言っていたように、すごく小さな子供や、身重の女性の移動にまで、今まで考えていなかった。
 他の仲間はどう考えているだろう?
 彼は、食事を貰うと、仲間を数人集め、議論を交わしたのであった。



 話し合って、大体の方向性が、決まって来た。
 身重の女性や、年少の子供は、ここに留まること。
 そして、大人がそれを守ること・・と・・・

 なんだか、「ハーギーの時」と似ている、と思ったが、それ以外、方法はなかった。
 好みの女性がいれば・・・その女性と共にここに残る・・・と言った雰囲気が、あったのだ。
 好み・・・ねえ・・・。


 金髪の青年は、煩悩を抱え、ふらふらと、川縁に行った。
 細かい石が沢山あるのを踏みつけ、川に近づき、彼は肩に巻いてあった包帯を解く。
 包帯は、血がこびり付いて、皮膚からなかなかはがれない。

「うっ・・・ずいぶん痛むな」
 彼は眉間に皺を寄せながら、川に入った。
 水で流せば、包帯が取れる。
 川の深い部分は、対岸の方であった。
 そちら側は、切り立った崖になっていて、その上は、飛び上がっても見えない。
 深い位置まですっかり身を川に晒し、カンは瞑想した。



 俺は、まだまだ、女を守るなんて、無理だな。
 好きとか、つまらない感情なんか持たないで、女性は他の奴にまかせよう・・・


 青年が瞑想していると、誰かの気配がした。
 岸の上に、誰か来たらしい・・・

「ニルロゼ」
 女の声が呼びかける声がしてきた。

 ニ・・ニルロゼ・・・だと?
 カンが、やや、体を揺さぶった。


「ナーダ!
 本当に、来てくれたの!」
 少年ニルロゼの跳ね上がるような声が、崖の上から響き渡って来る!


 カンはまさに身震いした。 


 な、なぬ?
 こ・・・これって・・・
 俺、もしや、逢引現場に直面してるう!?!?




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Last updated  May 17, 2010 03:26:06 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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