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May 19, 2010
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「ナーダ!遭いたかった!
 大丈夫なのかよ!」
「あなた、同じ事しか言わないのねえ・・・」
 ニルロゼの若さと嬉しさが溢れる声に、女ナーダの、どうしようもないわね、といった雰囲気がまざまざと、崖の下のカンにまで響いて来た。

「同じ事ってねえ・・・。
 俺はずっとそればっかり考えていたよ・・・」
「はあ・・・だからあなたは朴念仁なのよ・・・」
 ざあ、ざあと川の流れる穏やかな音に混じり、崖の上には木々が茂っているのか、風に揺れる木の歯の音が、爽やかに辺りを包んでいた。


 それっていけないのかよ・・・」
「いけなくはないけど・・・
 でも、あたしの事を、考えていたのね?」
「う、うん」
「なら、許してあげる・・・」

 カンは、思わず、直立不動の姿勢になってしまった。
 うわーーー!
 うわーーーーー!
 ここ、早く、立ち去りたいぞ?
 だけど、今、動く訳にはならんぞ~!?!?
 なんなんじゃ、こりゃーーー???


 カンが真っ青な顔になって、川に浸っているなどとは崖の上の二人は勿論判る訳もない。
 彼らは、恋人同士と言うにはちょっと何かが足りないような感じのやりとりを続けるのである。


「ニルロゼ・・・
 ハーギーの頃と今では、まるでここまで違くなるなんて、夢みたい。
 あの頃は、貴方にはもう・・・遭えないと思っていたわ・・・」

 俺はうれしいよ?」

 ざわ、ざわ・・・
 木々のこすれ合う音に誘われ・・・うかつにも上の方に目線を送りながら、カンは寒くもないのに歯を鳴らした。


「・・・あんた、たまに、嫌な事言うわよね」
「・・・?
 嫌な事、言った?」
「うれしいだなんて。
 なにがどううれしいのよ?」
「そりゃあ、君が無事だから」
「ああ・・単細胞・・・・」


 それはそうだ。
 女の声を聞き、カンは、思いっきり頷いた。


「あなたは、事の次第を全然判ってないわ。
 大体、あたしの気持ちがきちんとわかっているの!?」
「うーーーん」
「ほら、わかってない!」


 そうだっ!
 カンはなぜか両手に拳を作り、女の意見に同調した。


「きゃあ!
 ちょっと、なにするの!!!」
「え?
 だって、”こういう時”はこうするんだろう?」


 わあああああ!!!!
 なんだ、なにをしたあ!!!!!!
 金髪の青年は、思わず頭に手をやった。
 少年ニルロゼが、ナーダになにやらやらかしているらしい!!
 くそ、あやつは~!!!!!



「あ!
 ナーダ、腹が大きくなっているよ!?
 どうした!
 なにか悪いの食べた??」
「・・・」


 ナーダは黙っていたが、怒っているのはカンにも伝わって来た。
 ああ、本当にあのアホニルロゼは、救いようのない少年だ・・・。


「子供が大きくなったのよ!」
 カンの予想通り、ナーダは叱責の声を高めている。
「え?
 子供が大きくなるの?」
「馬鹿っ!!!
 あんたも大きくなったでしょーーーーっ!!!!!」
「ああ・・・。
 そういえばそうだね」

 はああ~・・・。
 カンは、途方もないため息と共に頭を抱え込んだ。
 ・・・なんか、俺、怒っている”ナーダ”の気持ちが判る気がしてきた・・・


「俺ね、君にずっとお礼を言いたかったんだ。
 君に助けてもらったから・・・」
「助けた・・って・・・?」
「うん。
 ハーギーの時・・・
 牢に君が来てくれた。
 もしあの時、君が来てくれなかったら・・・
 俺は大事なものを、全部、放棄してしまっていたかもしれない」
「・・・」

 ざわり、強い風と共に、ほのかな木の花の匂いがカンの元に届いて来た。


「君が、大事なものを、もう一度、俺に教えてくれたんだ。
 だから・・・」
「そう・・・?」


 ああ・・これは、まずい展開だな。
 カンは、密かにそう思った。
 男女の想いに温度差があるのを、青年はこの会話だけで察知してしまったのである。


「だから、その、君が来てくれてうれしかったんだ」
「あ、そう」
「あの・・・だから・・・」


「ナーダ・・・
 どうして泣くんだ?
 俺・・・なんか悪いこと言っているかなあ・・・」

 うう、充分言っている!!!!
 お前は、ナーダの気持ちに応えてやらなきゃならんのだよ!!!
 そこが判ってないっ!!!


「君が泣くと、なんだか辛いよ。
 泣くなよ」
「うるさい!この女泣かせ!」
「な、なんだよ」
「もう、何回言わせるのよ!
 あたしあなたが好きなのよ!?」

 しばし、無言。


「前にも・・・聞いたな・・・好きになるとどうなるかって・・・
 魂が、引き寄せられるんだったよな」

 ざあ、ざあ・・・
 青い川の流れに融けるように、青い空の風もまた、冷たかった。


「ごめんよ・・・
 俺、どうやら、そういう気持ちは判らないんだ・・・」
「ニルロゼ。
 前にも言ったでしょう・・・
 それならそれでも、別に構わないって・・・」
「じゃあ、抱きしめてもいいかい?」

 ぐっ。
 カンは、いきなりの事に頭をこん棒で叩かれたような衝撃を勝手に受けた。

 あいつう~、言っている事、かなり、矛盾している!


「どうしてよ?」

 そうだ!
 女の言うとおりだ!


「抱きしめてみたい」


 う”う”っ!
 流石のカンも、ニルロゼの歯に着せぬ言葉にキリキリと歯を鳴らした。

 う”~!!!
 くそーーー!!!
 なんでだ~!!!
 どうして~!!!!


 好きというのが判らない。
 だというのに、女を追いかけ。
 その上だ・・・・だきしめてみたい~~い~だと~!!!

 うううううゆるせんゆるせん・・・・



「うん。
 ありがとう。
 君が無事でよかったよ。
 ナーダ、また、逢える?」

 しばし、間が開いた。

「また会える?」

「わからないわ・・・」
「どうして?」

「子供が生まれるの・・・」


「子供が生まれると・・・どうして逢えないの」
「そんなの知るか!
 あとで大人に聞け!朴念仁!」

 女が大きな声を残し、去って行った。



 うーーーむ。
 朴念仁。
 まさに、奴のためにあるような言葉だ・・・

 やたら、首を縦に振り、一人で感心するカンであった。

 だが、首のあたりまでずぼっと川に浸かっている身として、流石に寒くなって来た。


 早くこの川から出たいが・・・
 問題は・・・アヤツが、いつまで、岸の上で、ぼへーーーーーとしているか、だ・・・。  


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Last updated  May 19, 2010 11:34:36 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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