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May 23, 2010
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 カンが、川辺で包帯を巻いて貰ったナーダに語った内容は、その翌日、集団を作っていた皆に伝達された。


 威厳と人望のあるブナンを筆頭とし、主だった大人達が、平等に人々を分けて行く。
 まずは、男と女に。
 次に、年齢順に。
 そして、強い男らは均等に4つの班に分散されるよう、配慮された。


 カンは、友のロジーと、少年らの分配に行き交いしていた。
 人の表情というものは、ある程度見抜ける。

 離れたくないという友同士でも、別の班に入れる提案もした。
 班では、心、技、体の調和が必要だ。
 仲がよい者が多く集まると、その者ばかりの意見が押し通される場合もある。
 調整は難航していた。
 ざわつく沢山の人々に指示を出しながら、カンはニルロゼの姿がないのに気が付いた。
 そして、数日経過しても、ニルロゼはどこにも見当たらない。
 この期に及んで逃げたり、どこかの輩に殺されるような男ではない。
 心配に及ばない少年であるが、ややひっかかるのであった。



 班がいよいよ分かれる日が来るという時が近づいていた。
 ハーギーを出た集団の元に、ある人物がやってきた。
 その人物は、レンハーという男だった。

 彼は素晴らしい脚力で、この集団が逃げて来た逆の方面・・・ハーギーへ行っていたのだ。
 最新のハーギーの様子を見、それを皆に伝える役目を終え、必死になって逃げ伸びて帰って来たのだ。
 レンハーは、ぎらつく瞳と、乾いた喉を潤す暇も惜しむように、恐ろしい事実を語った。

 ハーギーが・・・
 今でも、燃えている。



 赤い色。
 それは、あの恐るべきメルサの色・・・。
 よもや、ハーギーは機能しているのか?
 いや、メルサが生きている!!??

 剣士達は一同に戦慄し、驚愕した。
 もう、一刻の猶予もなかった。
「明日にも移動を開始するぞ!」
 ブナンが叫んだ!

 とうとう、集団は全体的に4つに区切りがついてきた。
 その中の一つに収まっていた青年カンは、やや楽になった左肩を撫でて、ふっと空を見た。

 ニルロゼ、一体どこに行っている?



 夕方。
 数人の大人の男達が話しこんでいる所に、誰かがやって来た。
 その人物を見つけたのはジューロだ。
「ニ、ニルロゼじゃないか?」
 その声を聞いて、カンも振り向く。

「ニルロゼ!
 どうしていたんだ?
 全く、一人で行動なんて、危険だぞ」

 ニルロゼは、やや荒い呼吸を吐き、ぐったりと両膝を地面に付いた。
 近くに居たクュートが、逞しい手で少年を柔らかな藁の上に運び、いたわった。
 が、カンの言ったとおり、別行動は、レンハー以外は許されていない。
 大人たちは戸惑いを隠し切れなかった。

 少年は、閉じた瞳を開けもせず、ごろりとうつ伏せになって言った。
「ハーギーが、なんか、怪しい・・・」
 大人たちは、顔を見合わせ、異口同音に言った
「それは、もう判っている
 って・・・!!
 お前ハーギーに行ったのか!?」
 誰かが大声を上げた。

 大人たちは驚き、呆れ、そしてやや怒りを含んだ声を上げた。
 怒るのは当然で、この集団は規律を守らないと成り立たない。
 だというのに、一人で勝手に行動し、その上・・・ハーギーに行って来たとは。


 そんな仲間の声を聞いて、逆に冷静になって来たカンは、いや、ニルロゼの気持ちは判る、とキラリと青い瞳を光らせる。

 レンハーがハーギーに行っていたのは、ニルロゼは知らない事だった。
 俺が一番、あいつの近くに居たから判る。
 ハーギーがどうなっているのか、あいつは自分の目で、見たかったに違いない・・・


「これから、どうするんだ?」
 少年は、首だけ大人たちの方に向けてぼんやりと言った。
 カンが素早くそれに答える。
「明日からこの集団は、4つに分かれて移動する。
 もしハーギーに攻めて来られたら、これだけの人数、目が行き届かない」

「そう」
 ニルロゼは、カンに目配せした。
「カン、こっちの話が終わったら、来てくれ・・・」
 少年は気だるそうに腕と膝を使って体を起こすと、じっくりと時間をかけてその場を去って行った。

「しかしなんじゃ?
 あいつは・・・」
 そういうレンハーに、カンが応えた。
「剣は強いが、他の事にはぜんぜん疎い子供だよ」





 すっかり夜が更け、カンは少年が居いそうな所へと向かった。
 彼の思った通りの所に、蜂蜜色の髪の少年が居た。
 いつぞやの朝、カンが少年を質問攻めにした場所だ。
 まだそこには・・・カンが怒りを込めて剣の柄で叩いた丸太があった。
 その前に、少年がきっちりと正座していた。

「カン。
 俺は、折り入ってあんたに頼みがある」
「な、なんだ、改まって・・・」
 カンは、やや焦りながら、丸太の前に座った。

「ハーギーに行って来たよ、俺」
 なに?
 同じことを言うニルロゼが、なにを意図するか、一瞬カンには飲み込めなかった。


「ハーギーは、遠くから見ると燃えているようだった。
 だけど、近くへ行くと、それは幻で・・・
 そう、まるで、メルサに纏わりついていた赤の色が、ハーギーを包んで居た、そういう風に感じた。
 中にも入った。
 ハーギーの大人の居る気配はあったけれど、敵は殆ど誰も出ても来ない。
 ”アイツ”の部屋にも行ったけど、特段変化はなかった。
 だけど、なにか、おかしい」

 カンは、冷や水をかけられたように顔が引き締まって来た。
 ハーギーを、潰さなければならぬ。
 その思いに、キリキリと、腕が、手指が、闘士で充満されて行く。

 それにしてもこの少年は・・・
 そして、この俺も・・・
 やはり、戦い抜く宿命か・・・



「カン。
 あんた、言ったよな。
 メルサの力の元があると・・・
 俺、それを探そうと思うんだ」
「なに?」


 少年、ニルロゼは、ゆっくりと言った。
「俺は、4つの斑どこにも入らない・・・
 俺は、メルサの力の元を探す!
 俺は、そうしたい!」
 ニルロゼが、真っ直ぐに青年を見据えている。


「カン・・・
 あんたに、頼みたいんだ。
 ナーダのことを・・・。
 俺は、あいつのことはさっぱり判らない。
 けれど、あんたは”知っている”んだろ?
 なんだか俺は、あいつを悲しませるようだし。
 カンは、頼れるからな。
 俺は、本当は・・・」
 ニルロゼはそこで初めて下を向いた。

「本当は、ナーダの傍にいたい。
 けれど、俺は、赤も、追いたい。
 だがふたつのことは、選べない」


 青年、カンは、あまりの事に両手が震えた。
「ニルロゼ」
 カンは思わず首を左右に振り、奥歯で物を言った。
「かなり、自分勝手だ。
 お前は・・・」
「そうだね・・・」

 カンは、改めて目の前の少年を見た。

 こいつは本当に、俺よりも10位、年が下なのだろうか・・・
 恐ろしいことを言う男だ・・・


 ヘッと顎を上げ、ぶっきらぼうにカンは言った。
「勝手にしろ」
「悪いな、カン」

「でも、俺も、女の居る班に入るつもりはない」
「ど?
 どうして?」
 カンは、フフッと笑って応えた。
「そりゃ、本当は俺も、全然わからないからさ」
「な、なんだって・・・?」

「そりゃそうだろ。
 わかるわけない。
 女の事は、ブナンの斑にまかせた」
「そ、そんな」

 ニルロゼはあっという間にヘナヘナと倒れこんだ。
「じゃあ・・・ナーダはどうするんだ?
 あんたに頼もうと思っていたのに・・・」



 カンは、しみじみと、少年に言い聞かせた。
「いいか、女だって、好みというのがあるのだ。
 ”あの女”はお前を好きだが、女達が必ずしも俺を好きになるとは限らない」

 ニルロゼは、恨めしそうに唇を尖らせ、言った。
「好きとか、関係ないじゃない」
「は?」
「好きって、必要かよ」
「は・・・?」

「好きじゃなきゃ、守れないのか?」


 カンは、ドキリとした。

「あんたなら、きっと、守れるよ・・・」

 金髪の青年は・・・
 とりあえず、頭を掻いた。
「そ、そうかな・・・」
「俺が好きになった男なら大丈夫だ」
「うぐっ」
「なんで嫌そうな顔をするんだよ」
「お前、すごく、矛盾しているぞ・・・」

「だから言っただろうが、信頼しているんだってば」
 ニルロゼは、赤くなって言った。


 カンは、ようやく渋い笑みを浮かべだ。
「で、俺にどうしろと?」
「だから、身重の女性を守ってくれ。
 あんたなら、できる」
「かな?」

「できる!」
「かな」

 カンは、苦笑しながら、このニルロゼという少年の本質に、少し触れた気がしたのだった。

 ああ。
 こいつは、こういうところが・・・
 女に好かれたのだな・・・


「じゃあ、お前に頼まれて、仕方なく、守るか」
「仕方なくじゃ、駄目!」
「はいはい!しっかり、守ります!」
「本当だな!」
「本当です!」
「よしっ!」

 なんだか一体、どっちが、年上だか・・・
 カンは、青い瞳を瞑って、忍び笑いを漏らすのだった。


 好きじゃなくても守れる、か。
 そうだ。
 確かにそうだ・・・

 そう思い巡らす彼の手に、なにかが触れた。
「?」
 彼が瞳を開けると、それは剣の柄である。
「それ、あんたの剣だ」
 ニルロゼが、そう言って来る。

 カンは、よく判らないまま、それを受け取った。
「これは?」
 聞かれて、少年が再び言った。
「だから、あんたの剣」

 カンは、やや重いその剣を、鞘ごと何度か振り回してみた。
「俺の剣?」


 ニルロゼが、向こう側を向いて言った。
「俺が、剣を貰った人にだ、
 頼んで、もう一つ、貰った。
 これから、沢山の人を守る人の剣」

 少年は、いきなり向こう側へと歩き出した。
「俺はメルサを追いかける。
 ナーダを頼んだよ」


 カンは、なにか言いたかったが、言葉が首から出てこなかった。
「ニルロゼ・・・」
 やっと言うと、少年はもう、どこかに行っていた。

 沢山の人を守る・・・
 俺が?


 すらり、と鞘から剣を抜いてみた。
 夜にもかかわらず、それは美しく光った。
 無駄のない、すばらしい、輝きだった。

「へっ。
 餌で俺を釣るのかよ・・・
 意外と頭が回るな、あいつ」
 剣を構え、振ると、見事な美しい音が鳴った。



 富豪に昔聞いた事がある。
 ハーギーに剣をやらぬ男がいると。

 ハーギーだった少年ニルロゼは、カンが知りうる限り唯一・・・
 その男から、剣を譲り受けた。
 そして、その少年が、カンに剣を持って来た・・・。


 この剣は・・・東の鍛冶の剣・・・?

 カンの瞳に、剣の光が瞬いた。
 美しい剣は、まるで己を照らすようだった。


 この剣で・・・ 
 守るか。


 あいつの頼みを・・・ 




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Last updated  June 19, 2010 08:08:25 PM
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月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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