Accel

Accel

August 14, 2010
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類

 深い森の中であった。
「ええい、くそっ!」
 濃い緑の呼応の中に、少年の掛け声が響いた。

 鳥が、どこかで鳴いている。
 左右どこを見ても、老木ばかりだ。
 木の上から差し込む光に、茶色の髪が輝いた。


 茶色の髪を持つ少年は、セルヴィシュテといった。
 年の頃は14歳くらいである。
 皮でできた簡素な鎧を着ている。

 彼の足元には・・・大きな背負い鞄が置かれてあった。
 少年、セルヴィシュテは、自分が今まで持っていた荷物を降ろし、その背に少年を背負っている。
「な・・なんだこいつ・・・。
 結構軽いな」
 少年は、そう言いながらも、顔をひどくしかめた。
 背負った少年から・・・なにか、恐ろしい痛みを感じた。
「くそー、西だ、西!」
 セルヴィシュテは、今まで背負っていた荷物をこの場に置いて行くことを決心したばかりである。
 大事な荷物だけを小さな袋にまとめ、腰にくくり付けた。
「ラトス!
 死ぬなよ!!!」




 そもそも、ここはどこなのだろう。
 どこに向かっているかもわからなかった。
 ハザに??
 ハザに・・・向かっていた・・・。
 だが、ハザとは、どこにあるのか?


 でも、またいずこへか、その城は姿を消している。

 ハザ。
 なぜハザに・・・
 俺は、ハザに、どうして行きたいんだっけ?


 よいしょ、と背中の少年を背負いなおす。
 そうそう。
 この布の謎を解き明かすためだ。

 彼は腰に下げている、父から貰った布を思い描いた。


 でも、その謎解きの前に・・・・

「ラトス・・・」
 茶色の瞳の少年は、西に向かった。
「なんとか、お前を治してくれる人を、見つけなきゃ!!!!」




 だが、少年が必死に目星をつけて歩く割には、相変わらずいつまでも深い森が続いた。
 セルヴィシュテの歩みは、心なしか、重くなっている。
 森が深くなったからか。
 夕刻になってきたからだろうか。
 森が・・・暗くなってきた。

「誰か!誰かいませんか!
 誰か!!!」
 少年の声だけが、むなしく木霊する。
 セルヴィシュテは、とうとう、立ち止まってしまった。
 彼はすっかり疲れきっていた。
 背負ったラトセィスを地面にゆっくり降ろす。

 本当に、誰も居ないなあ・・・


 セルヴィシュテは、軽く方膝をついて、自分で首筋を揉んでみた。
 すっかりヘトヘトになってしまっている。
 疲れ切った上、お腹もすいていた。

 このままでは、ラトスが死んでしまうかもしれない・・・?
 ふと、転がったラトセィスを見ていると、急に不安になり、またラトセィスを背負った。
「くそーーーーーーーっ!」
 セルヴィシュテは、また、西を目指した。



 とうとう、あたりは暗くなり、寒くなった。
 おぼつかない足元のため、とうとうセルヴィシュテは転んでしまった。
「うっ・・・いたた・・・」
 セルヴィシュテは、なんとも言えない激痛にとうとう我慢できなくなっていた。
 荒い息をしながら、ゆっくりラトセィスを降ろす。
「あ・・・!?」
 少年の右手に、べたりと、なにか黒いものがついていた。
「ああっ・・・!?」
 左手で背中をさすると、黒いものが、またついてくる。

「ラトス・・・」
 降ろしたラトセィスを見ると・・・
 もはや、正視に堪えない姿になっていた。
 ラトセィスの体は、黒く変色し、その皮膚は、焼けただれ、体からはがれてしまっているようだった・・・
「くそっ・・・」
 セルヴィシュテは、あたりを見回した。


 誰か、誰か・・・居ないのか・・・・
 暗い森だった。
 静かだ。
 恐ろしいほどに。
 獣の気配もしない。

 ざわ・・・・・

 風が、吹いた。
 セルヴィシュテが、再びラトセィスを背負おうと、相方に近づいた時だ。
「リュベナ」
 ラトセィスが急に話しかけてきた。
「ラトス?」
 セルヴィシュテは、ラトセィスを覗き込んだ。



「セルヴィシュテ・・・
 わたしは、リュベナのために、恐ろしい契約をしました・・・・」

 ラトセィスは、瞳を開けずに、静かに言った。
「お願いがあります、セルヴィシュテ・・・
 リュベナを・・・」
 ラトセィスがそこで言葉を切った。

 ざわ・・・
 森が生きているかのように、生温かい空気を運んできた。

 森の異様な雰囲気に・・・
 セルヴィシュテは、思わず立ち上がった。
 なんだ?
 これは・・・?

 どこからか・・・
 なにかの声が・・・?


「!?」
 急に何かの危険を感じたセルヴィシュテは、剣を抜いた。
 風から、おかしな気配を感じる・・?
 ざわり
 森が・・・揺れている・・・

 背中が、ずきずきと痛んだ。
 それでもセルヴィシュテは必死に気配の方へと剣を構えた。
 向こうの方に、
 なにかが・・・
 なにかが、いる・・・・


 はっ、と少年は息を飲んだ。
 森の中の暗闇に・・・
 なにか、恐ろしい存在を感じた。
 額を流れる汗を拭いもせず、セルヴィシュテはそちらに剣を向けた。

 じりっと近づく。
 地獄の底から出る・・
 まさに、その言葉がぴたりと当てはまる、そんな音がしてきた。

 ふうう・・・・・・


 今や生暖かい空気が蔓延してきた。
 セルヴィシュテは、震える手を必死に押さえ、音の方へと近づいた。

「ぐうう」
 恐ろしい声の主が、その姿・・をあらわす。
 黒い塊だった。
 大きな犬の位の寸法だが、犬とは全く違う雰囲気を醸し出している。
 セルヴィシュテが、剣を構え、犬?を睨み付けていると・・・
 犬が、飛び掛ってきた!
 ひたすらに、剣を握っているしかできなかった。
 恐る恐る顔を上げると、また犬がこちらへ飛び掛らんとするところである。

 少年ンは果敢にも、今度は眼をつぶらなかった。
 跳躍する犬の方向にあわせ、剣を繰り出した!
「ぐうう!!!」
 ずしりとした、手ごたえがあった。
 セルヴィシュテは、目にかかって来る汗を、左手で拭った。
 手が震えているのが自分でも判ったが、ここで下がる訳にはいかない。


 ふうう

 犬が、ゆっくり首を一回りさせた。
「?」
 見ているその間に・・・
 犬の雰囲気が変わった。
「!?」
 少年は、戦慄を抑えられなかった。
 両手が震える・・・
 黒い物体、黒い塊が・・・大きくなっていく。
 恐ろしい雰囲気そのものも、大きくなり、曲々しい雰囲気がどんどん増していた。
 あまりのことに、少年は声も出ない・・・。
 ガクガクと震え、目が眩みそうだった。
 相手の黒さに、もはや、立ち向かえない・・・

 射てすくめられ、なすすべもなかった。
 少年が突っ立っていると・・・
 黒い物体に、更に黒いものが、纏わり付いた!
 あいつは、さらに・・・さらに、おおきくなるというのか?!
 ただただ唖然とその姿を見ていたセルヴィシュテは、纏わり付いた”黒”に、思い当たる節を感づいた!
 そして、その”新たなる黒”の正体を操る人の名を呼んだのである。
「ラトス!!」

 セルヴィシュテが叫び、相方の方を見た!
 ラトセィスが、あの言葉を・・・唱えているに違いなかった!

「ラトス!!
 やめろ!
 魔法をこれ以上使うと、死ぬぞ!?」
 思わず相方に駆け寄る。
 するとラトセィスは、目を見開き、かすかに、笑っているようだった。
「どうです。
 見事に燃えましたね・・・」
 ラトセィスは、かすれた声で言った。
 セルヴィシュテはもはや、後ろを見なくても、判った。
 黒い物体が、ラトセィスの恐るべき炎によって焼かれ、わめき、もがき、浸食されていくのを・・・

ratoss06.jpg
「や・・やめろ、もう・・・」
 セルヴィシュテの瞳から、なぜか、涙が溢れた。

「わたしが守りたかった人の名・・リュベナ・・・・
 わたしには、もう守ることができない。
 お願いできますね、セルヴィシュテ・・・」
 ラトセィスが、途切れ途切れに言った。

 セルヴィシュテは、首を振った。
「馬鹿かお前は!
 お前が守りたい物は自分で守れよ・・!?」
 必死に言ったが、もうラトセィスはその目を瞑っていた。
「ラトス!ラトス!
 おい!
 お、お前が死んだら・・・、またあんなの来た時・・、困るぞ??」

 ラトセィスの肩をゆすった。
 その手に、びりっとした痛みが走る。
「ラトス・・・」

 すると、ラトスがまた言った。
「リュベナは・・・ハザに・・・」
 セルヴィシュテは、食いつくように言った。
「ハザはどこだ!お前が案内しろ!!!!」
「・・・・」

 はっと、後ろを振り向いた。
 燃えながらも、まだ・・・・
 あの黒い物体が、うごめいている。
「・・・・」
 セルヴィシュテは、ラトセィスをゆっくり離すと、黒い物体に剣を向けた。
 あの黒い物体と対峙しようとするセルヴィシュテの手首を、誰かが握って来た。
「ラトス!駄目だ?」
 握られた手の方に思わずそう叫んだ先に・・・

 美しく、笑う、少女がいた。


「もう燃え尽きていますよ」
 その笑みは、まさに花の咲くような笑みだ・・・
 煌く美しいその瞳は、あくまでも黒い。
 その美しい視線の先で・・・
 黒い物体が、闇に消えていくのが見えた。
「・・・・」
 セルヴィシュテは、まだ自分の腕を握られながら、穴の開くほど少女を見つめた。

 目の前にいるのは、見間違う事もない。
 あの、来る途中の船で・・・
 出会った少女だった・・・・。




**************
参加ランキングです

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ 人気ブログランキングへ

**************

AccelバナーAccel HP を、第5章までUPしました! 海外の音色 さんの音楽は、多分3章くらいまで入ってマス★

最近のイラストは pixiv にのっけてます。よろしければ。
**************
おひさしぶりです。
「どうです、みごとに燃えましたね」のセリフのところにどうしてもイラストをつけたかったので、がんばってつけました!
ラトスの雰囲気が、段々最初と変わってきています・・・・うわああああああああああん(滝涙)
体調はボチボチでんなあです。次の更新もお待たせするかと思いますが懲りずによろしければおつきあい下さい。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  August 14, 2010 06:55:46 PM コメント(8) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Profile

月夜見猫

月夜見猫

Comments

月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: