Accel

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February 19, 2013
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 偶然助けた少女をその家に送り、通った道を踏みしめている影がある。
 黒髪の少年、アモであった。
 彼は、なんとなく肩を落として岐路を辿っていた。
 この土地に来てから、ずっと、ハーギーであることを、他の人に隠して来た・・・
 ヘプターに教える気になったのは、いつもヘプターが、自分をとても可愛がってくれて・・・
 なにかを、隠しているのを、悟られていたからだ。
 他の、城に勤めている者は、あまり自分に干渉をして来なかった。
 ヘプターには、安心できる、なにかがあった・・・

 少女の紐を切った剣を少し抜いて、アモは自分の顔を剣に映した。

「・・・」
 少し、剣から目を逸らす。


 今住んでいる場所にも、何人か、同じくらいの年頃の少女がいる。
 ハーギーの時、数名、肌を見た・・・女性もいる・・・
 でも、女の子のことは、よくわからない、アモである。
 ちょっぴり、赤くなって、雑念を拭うように、少年は頭を振った。
 なんだか、心臓の鼓動が早まっている。

 どうってことはないのだ。
 久しぶりに・・・女性の肌を見てしまったから、ちょっと驚いただけで・・・
 別に、それだけなのだ。
 アモは、剣を鞘に収め、ヘプターの住む屋敷へと、急いだ。



 ヘプターの部屋の明かりが・・・・点いていなかった・・・・
 二階を見上げる少年が、少し、ごくりと唾を飲み込んだ。
 自分が帰る前に、婦人が先に寝ているとは、思えない・・・
 どうしたんだろう・・・

 アモは、慌てて扉にすがりつき、屋敷に入ると、二階へと上がる。

 少年は、いきなり、とんでもない事を想像してしまった!
 よもや、夫婦水入らず・・・?


 アモは、いきなり、顔が真っ赤になってしまった!

 ど、どうしよう。

 アモは、勝手に思案に明け暮れ、勝手に、赤くなり、勝手に、廊下をウロウロとした。

 どうしよう。
 じゃ、じゃあ、俺、外で寝ていようかな・・・・

 アモは、別に、外で寝るのは慣れていた。
 危険があれば、自らの事くらい、守れる。
 しかし、だ・・・・
 アモは、唇に手を当てた。
 困り果てた少女を、外に送って来たのだ。
 そのアモを、婦人が待たずにいるとは、やはり、思えない・・・


 アモは、思い切って、扉を叩いた。
「シーヤさん・・?」
 控えめに、声をかける。
「俺です、アモです、戻って来ました・・・」
 しかし・・・中から反応はない。
 アモは、やや日焼けした手を、扉に当てたまま・・・
 眉を少し、上げた。

 その瞳が、僅かに、細くなる。
 血の匂い・・・だ。

 アモ達、ハーギーのものは、すぐに、判るであろう、ほんの僅かの、この匂い・・・
 中から、血の匂いがする・・・!


「シーヤさん!?」
 アモは、扉を開けようとした!
 閂が下りているらしい!
 アモは、サッと剣を抜くと、閂と反対側の蝶番に剣を当て、こじ開けた!
「シーヤさん!」
 ガタリ、と音を立て、アモは部屋に飛び入った!

 中は、暗かった・・・
 が、アモには見て取れた・・・・
 ヘプターの妻・・・シーヤが・・・
 食卓に半身をぐたりと横たえていた・・・

「シーヤさん・・!!!!」
 アモは、すぐにその脇に駆け寄った!
 なんということだろう・・・・
 シーヤは、小さな剣で・・
 手首を自ら切りつけていた・・・

 アモは、とっさに、シーヤの頚動脈に触れた。
 まだ生きていた。
 少年は、素早く蝋燭に火を点し、辺りを見回して綺麗な布を見つけ、それをシーヤの手首に巻きつけた。
 それから、食べ物の置いてある戸棚に駆け寄ると、酒を取り出し、自分でそれを口にした。
「失礼」
 口移しで酒を飲ませてから、短くそう言った。

 アモが、辛抱強く、シーヤの手を上に持ち上げ続けていると・・・
 やっと、シーヤが、気が付いたようだった・・・
「・・・」
 アモは、なんともいえない目つきで、ヘプターの妻を見つめた。
 どうしたというのだろう・・・
 なぜ?
 そう聞きたかったが、今それを聞いては、彼女を更に追い詰めるのは、目に見えていた・・・

「どうです、気分は・・・」
 やっと、それだけ、言うと、シーヤは、青ざめた顔で笑った・・・
「どうして死なせてくれないの・・・」


 アモは・・・
 軽く首を振った・・・
 なんだ・・・
 どうしてだ・・・
 わからないことばかりだ・・・・

「俺の大事な人の奥さんは、死なせる訳にはいきません」
 アモは、やや怒ったように、そう言った。

 シーヤは、目の前に酒があるのに気が付くと、小さく言った。
「・・・少し、飲ませて・・・」
 少年は、黙って、それを椀に注ぐと、シーヤの口元に運んだ。
 シーヤは、本当に少しだけ飲むと、まだ青い顔で言った。


「私・・
 死ななきゃならないのよ・・・」
 それを聞いたアモの手が、ひどく震えた。
「な、なぜです・・・」
 アモは、シーヤの肩を支えながら、震えを堪えきれず、そう言った。
「アモ・・・
 気が付かないの・・・
 どうして、あの人が寝たままなのか・・・」
 シーヤは、奥で寝入っているヘプターの方に目線を送って言った。

 アモも、はっとした。
 確かに、おかしいとは思っていた・・・

「あなたも知っているとは思うけど・・・
 それでもなお、私は、特殊な契約を結ばされているのよ・・・
 私は、最初に生まれた女の子なのよ・・・
 だから、本当は、エゲルのところに行くはずだったの・・・」


 アモは、なにが言われているのか、判らなかった・・・
 だが、あの助けた少女のように、”それが判らない”というとなれば、”ここの人ではない”ことが、たちどころにばれてしまう・・・

「でも、あの人の親が、特別に計らって、私を助けてくれたのよ・・・
 ただし、条件があったのよ・・・
 それは、あのひとを愛してはいけないことと、それと・・・」
 シーヤの瞳から、大粒の涙があふれた・・・
「それから、生まれた子供を、かならず、”差し出す”ことよ・・・」

 シーヤは、たまらなくなったのか、アモにすがり付いてきた。
 アモは、多少赤くなりつつも、シーヤの背をだまってさすった。


「だ、だから、あの人が帰って来て、二人になると、私は、あの人を、色々、知ってしまって、愛してしまいそうだから、いつも、ああやって、眠らせるしか、なかったのよ・・・」
 シーヤは、泣きながらに、そう言うのであった・・・

 アモは、若々しい顔に、苦渋の表情を浮かべた。
 なんということか・・・
 ハーギーの時のような・・・恐ろしい、辛い、思いを、している人が、ハーギーの”外”にも、あったとは・・・

「だ、だけど、もう終わりよ・・・
 黒が来たわ」
 シーヤは、首を振りながら、やっとアモから離れた。
「・・?」
 アモは、危うく、質問したかったが、なんとかそれを飲み込んだ。
 シーヤは気が付かずに言葉を続けた。
「あなた、連れてきたでしょう・・小さな子を・・・
 黒が、近くに来ているわ・・・
 黒に、もう気が付かれてしまっているわ・・・
 わたしは、あの人を裏切り続け、そして、契約も裏切って・・・
 もう、どこにも、立てる顔がないわ・・・」
 シーヤは、がっくりとうなだれた・・・


 アモは・・・
 まだ、シーヤの左手を掴んでいた。

 あの、助けた少女。
 そしてこのシーヤ・・・
 共に”黒”が、大きくかかわっているのだ・・・・


「・・・シーヤさん」
 アモは、表情を殺して言った。
「俺らは、誰かを、大切に思う、そう思う、自由があるはずです」
 シーヤの肩が、僅かに、ピクリとした。

「ヘプターさんは、俺のことを、隔てなく、大切にしてくれました。
 だから、俺は、とてもヘプターさんが好きです。
 シーヤさんだって、そうなんじゃないですか・・・」
 アモは、ゆっくり、シーヤの手を離した。

「俺は・・・」
 アモは、後ろに下がると、一つだけ点けていた蝋燭に息を吹きかけた。

「俺は、この大陸で、人々を殺すことを好むといわれる、恐ろしい闘技場、ハーギーの出身です」
 アモは、ゆっくり、部屋の扉の方に向かった。

「だから、ハーギーの外の事をしらない・・・
 だから、あなたの恐れる、黒のことも、よく知らない」
 アモの声は・・夜に熔けるようだった・・・
「俺らは、恐ろしいものと、闘ってきた。
 それは、俺らを恐ろしい目に遭わせた、ハーギーの中枢の奴。
 そして、今は、俺らハーギーを、忌まわしいと思う人々の目線が恐ろしい・・・」
 シーヤは、闇の一部に混じってしまった少年の方に、その目をひたすらに、向けた。


「だけれども、シーヤさん。
 あなたの旦那さんは、そんな俺でも、暖かく、接してくれた。
 あなたは、ヘプターさんを、信じて、愛しても、いいと、おもいます」

 アモは、音を立てずに、部屋から出ると、これまた音を立てずに、扉を閉めた。




 アモは、素晴らしい速さで、山道を走っていた・・・・
 背中の弓筒が、いちいち音を立てた・・・

 黒の者・・・
 契約。

 ここらへんの、人は、みなが、恐れ、そして、従わなくてはならぬもの。

 あの、メルサに、似通ったような、そんな力・・・

 アモの目が、ぎらりと光った。


 ニルロゼ・・・・

 アモは、口をきつく食いしばった。

 ニルロゼ!
 赤、メルサは、まだ死んでいないと、お前は言っていたな・・・
 ここには、赤の力だけではなく・・・
 別の力がある・・・


 そして、それに対抗する力もある・・・?

 アモは、あの白い弓のことを思い出した。

 あの、弓。
 あれは、なぜ、現れたのか・・・
 なぜ、自分の元に。

 アモは、足を止めた。


 謎が、沢山ありすぎた。
 これだったら、まだハーギーに居たほうが、謎が一つで楽だったか・・・?

 アモは、馬鹿め、と自分を叱咤した。
 そう、もはやハーギーではないのだ。
 ハーギーでない以上。
 全てを受け入れ、全てに立ち向かわなくては。

 そのためには、もっと強さが必要だ。


「ニルロゼ・・・」
 アモは、呟いた。
 大きすぎる。
 沢山のものが、ありすぎる。
「ニルロゼ」
 アモは、暗い夜空を見上げた。

「俺も、”赤の核”を・・・
 それから、”黒”を探す・・・」
 アモは、自分に言い聞かせるように、そう言った。




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Last updated  February 19, 2013 10:41:18 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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