Accel

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February 20, 2013
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 朝露に濡れたアモが、城に着いた。
 門番は、一人でやってきたアモに、少し懸念の目を送ったが、咎めることなくアモを中へと入れた。

 自作の矢と、なかなかに立派な弓を背負い。
 腰には中型の剣を下げたこの少年は、城の警備の者達に、一目置かれていた。
 王が気に入っている料理長が連れてきたから、というのもあるが、なんといっても、その弓の腕は城で一番ではないかというほどだった。
 そのアモが、中将のバーゲルに、王に面会したいと申し出た。

 バーゲルは、40代の男で、実はアモをあまりよく思っていなかった。
 これほどに若い少年なのに、うさんくさい匂いがプンプンするからなのだ・・・
 しかし、どうどうと、面会を求められ、断る理由がない・・・

 このバーゲルには、面会者を自分で断る権限がなかった。
 外からやってきた見ず知らずのものでもないのだから・・・・

 バーゲルが、王の間へと行こうとしていた時だ。
 後ろから、アモを追って、誰かがやってきた。
「よっと!
 おお、少し、待ちなよ・・・」
 軽い調子でそう言ってきたのは、アモやヘプター達の所属する、外の見回りで、アモも顔見知りの、ソジンだった。
 アモは、ソジンを見て、やや、瞳を曇らせた・・・
 この、ソジン。
 アモは、快く思っていなかった・・・


 みんなが、自分のことを、”普通ではない”と見て、やや距離を置いているのは、重々自覚していた。


「アモ。
 ヘプターの処に行ったんだろう?
 一人で帰ってきたのなら、疲れたはずだ・・・
 まあ、そんなに慌てるなよ。
 一旦、宿営地に来な」


 アモは、ハーゲルの方を一度みて・・・
 会釈すると、ソジンの方に体を向けた。

 自分がハーギーであること。
 この仕事を辞めようと思っていることを。
 王に、言おうと思っていた。

 王に言うのなら、もう誰に言おうとも、代わりはなかった。
 もうアモの腹は決まっていたのだ。
 ヤケッパチな気分で、アモはソジンについていくのであった・・・


 宿営地は、なかなかにいい造りであった。
 土台は石でできていて、天井もしっかりと樹が組み込まれている。
泊まりこみができるよう、仕切りもあるし、数名で炊事ができるよう釜も4つあった。
 ソジンは、アモをやや狭い仕切りへと案内した。
「大丈夫か?顔色が悪いぜ・・」
 ソジンは、意外にも、アモを気遣い、頭を拭くよう乾いた布をよこすと、湯を沸かし始める。

「・・・」
 アモは、黙って、ソジンの様子を観察した。
 この、ソジンは、いつか、自分を陥れようと、そういう目つきで時々見ていたように感じていたが・・・
 こうやって、優しく対応してくれるのは、油断させるためか?
 だが・・・


 アモは、ふう、とため息をついた。
 もう、自分の身分を明らかにする決心がついていた。
 今更ソジンを警戒してなにになるといのだ・・・
「ソジンさん、俺・・・」
「ああ、今は言うな」
 ソジンは、こちらを振り向いて、野菜を漬けたものを出してきた。
「まあ、お前が俺を警戒するのはわかる。
 そう、怖い顔をするな。
 どうも、お前は、危なっかしい」
 ソジンは、茶を淹れて、アモの向かいに座ると、素手で漬物を食べ始めた。
「まあ、食えよ。俺が作ったんだ。結構上手だぜ」
 ボリボリと漬物を食べるソジンを見ながら、アモは茶の入った椀を両手で包んだ。

「いただきます」
 茶を傾け、口に含む。
 不思議な香だ。
「・・?」
 奇妙な顔をするアモに、ソジンが笑って言った。
「俺の故郷、ラマダノンの茶だ」
 ソジンが再び素手で漬物を掴みながら、さりげなく、切り出した。
「まあ、そんなに警戒するな。
 先に俺の事を教えてやろう。
 俺は、ラマダノンの国の密偵さ。
 ずっと、この城のことについて、調べていた・・・
 いわゆる偵察者さ」
 アモは、わずかに眉をあげた。
 ソジンの言わんとすることが、その意図が・・・計りかねている。


「まあ、実を言えば、お前もその類かな、と思って、目をつけていたって事よ」
 アモは、少し、茶を飲んで、呼吸を整えた。
「偵察・・・城を?
 なぜですか?
 あ、いえ・・・といいますか・・・
 どうしてそれを俺に教えるのです・・・」
「いや?だから、さっきも言っただろう?
 同じ類だと思っていたのさ、お前もどこかの国の偵察かなと。
 目つきといい、腕といい、並じゃない。
 まあ、俺は、腕はたたないが、情報収集には長けていて、そっち方面だがな」
 ソジンは、茶をすすって、漬物を薦めた。

「・・・偵察。
 この城を?
 なにか、ありましたっけ?
 そんな、偵察するような、すごい秘密なんて・・・」
 アモは、少年らしい表情で、目をパチクリさせた。
「ハハ。
 なんだ、お前は結構間抜けだな。
 気がつかないか・・
 確かにこの城には色々財宝があるかもしれないが、それを守るにしては、護衛の数が多すぎることを・・・」
 ソジンは、指を組み合わせて言った。


「あ、あの、それと、偵察となんの関係が・・・」
 それを聞いたソジンは、すっかり笑って言った。
「おい、おい・・・
 まったく、お前は何者だ?
 まあ、ここまで教えたから、教えてやるよ。
 この城は、秘密が沢山ある。
 一番の秘密は、こんなに沢山の用兵がいる事。
 その給料は、どこから来る?」
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 アモは、目を宙に泳がせて言った。
「ええと、王様から・・・」
「カッカッカッ!」
 もう笑いを堪えられない、という表情で、ソジンは腰を屈めた!
「お前、平和だなあ!
 じゃあ、その王様、その金をどこから調達する?」

 アモは、更に眉をしかめた・・・
 金がどこから来るか、なんて・・・
 知らなかった。
「・・・わかりません」


「おや、おや・・・」
 ソジンは、軽く笑って、漬物に手を伸ばした。
「まあ、若ければ、仕組みもわからないか?
 大抵の国では、国王は、人民から税とかを集めてな。
 その集めたお金で、国を運営するのさ。
 まあ、俺らは、そのお金で雇われていることになる、って訳」

 ソジンは、葉を巻いて作った煙草を取り出した。
「ちょいと吸うぜ」
 火打石で火をつけ、ぷかりと煙をくゆらす・・・
「・・・国王様が集めたお金で、俺らが雇われているんですね。
 でも、それがなんの問題が?」
 ちょっと咳き込みながら、アモが聞く。

「フフ」
 ソジンは、目をアモに向けて笑った。
「集められている人民は、どう思うかな?」

 アモは・・・
 必死に考えた。
「え?
 ええと・・・
 お金のない人は、困ります・・・」
「だろ」
 ソジンは、煙草をもみ消した。
「・・・この国の人々は、お金がある人ばかりだと思うか?」
 2本目の煙草に火をつけた。

「・・・、じ、実はそれもよく・・・」
 アモはうつむいてしまった。


「フフ・・・
 やはり、お前はこの国の者ではないな?
 でも、偵察でも刺客でもない・・・
 何者だい?」
 アモは、茶碗をいじっていたが、思い切って言った。
「国王様に言おうと思っていたのですが・・・
 俺は、この大陸の西にある、ハーギーの出身です。
 ずっと、ハーギーで暮らしていたので、その外のことは、まるで知らないのです・・・」

 ソジンは、思慮深そうな目つきで、若い少年を見つめた。
 アモは、軽いため息をついた。
「ですから、お金の事も、国の成り立ちのこととか、ぜんぜん」
 アモは、やっと、素手で漬物に手をつけた。


「ソジンさんは、どうして、偵察などしているのです?
 差し支えなければ、教えていただけますか・・」
 ソジンは、更に煙草に火をつけた。
「なるほど。
 ハーギであったか。
 只者ではないとは思っていたが・・・
 しかし、おぬしら、殺戮を好むといわれているが?
 どうしてこんなところで、城の警護などしている・・」

 アモは、逆に質問され、軽く笑う。
「そう言われると思いましたよ。
 そう、ソジンさんのおっしゃる通り。
 ここのあたりでは、俺らは恐れられています。
 俺らハーギーは、確かに殺戮を繰り返していました。
 ですが、それは、ある恐ろしい者の命令を受け、歯剥くことができなかったからです。
 生まれた時からハーギーで、あの世界が当たり前だったのです。
 それ以外を知ることができずに、どのように、他を知るというのです・・・」


「なるほど」
 ソジンが、ぷかり、と煙をくゆらせた。
「では、今ハーギーから、出ているのかな?」
「ええ。
 皆で協力して出てきました。
 暮らしをよくするために、お金が欲しかったのです。」
 アモは、ちょっとしょっぱい漬物を噛んだ。

「なるほどね。
 で、国王のところに、なにを言いに行くところだった?」
「え・・・」
 アモは、ちょっと目を左右に動かした。
「・・・・ソジンさんはご存知かと思いますが・・・
 この付近では、なんだか嫌なものが蔓延しているようなのです。
 俺は、もう王から充分な報酬を頂きました。
 仕事を辞め、その嫌なものを、今後は追いかけていこうと思っています」

 ソジンは・・・じっくりと、煙草をくゆらせ、煙をはきながら言った。
「アモ。
 お前はまだ若い。
 お前の気持ちは判るが、核心に近づくには、並ではないぞ・・・」
「いえ、そうしたいのです」
 若者の目線を受け、ソジンは、煙草を消した。

「もう一度言おう、俺は、他国からの偵察。
 この城について調べ、もう4年・・・
 いまだ、まだ判らないことばかりだ。
 王がどこから、俺らの給料を調達しているか?
 どうして護衛がこんなに必要か?
 不思議に思わないか?」
 アモは、ソジンの日焼けした肢体を見つめた。

「この王家にも、秘密がある。
 だから偵察に来ている・・・
 アモ、もしかしたら、お前が探そうとしているのも、意外と近くにあるかもしれないぞ・・」
 ソジンは、笑いながら席を立った。
「辞めるのは、いつでもできる。
 給料を貰いながら、調べたいものを、調べて行った方が、いいのではないか?
 金はあったに越したことはないぞ・・・
 辞めたら、もう金を寄越す人のアテはないのだろう?」

 ソジンは、奥の厨房から、燻製の肉を持ってきた。
「慌てるな、アモ。
 焦る気持ちはわかる。
 だが、そういう時こそ・・・
 腰を据えて、地盤を固めながら、その上で・・・
 ちゃっかりと、やりたいことをやっても、誰も咎めはしない」

 ソジンは、自分の剣で、肉を切り始めた。
 アモは、少しだけ、肩の力が抜けるのを感じた。

 ソジンの言い分は正しいと思った。
 自分の力だけではどうにもできない事もある・・・
 アモは、切り分けられた肉を、ありがたく頂いたのであった。





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Last updated  February 20, 2013 10:48:24 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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