Accel

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April 3, 2013
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 アモは、いつも通り、皆の集まる場所から、城へと向かっていた。
 それは、今までは、必ず早朝に出て、日が沈む頃帰るとう時間帯にしてもらっていたが、大人のハーギーが一緒だったからで・・・
 今は、少年、若い青年、女性だけで結成されているこの班では、特段問題も起こっておらず、アモは城に泊り込む事もあった・・・
 アモは、段々、班を単独で出たくなってきた。
 もしかして・・・
 いつか。
 自分も、あの大人たちのように、自分勝手な理由で、女性をないがしろにしてしまうのではないか。
 または、仲間が、また、そのような事をするのではないか。

 なんだか、もう、そういう思いばかりが、頭を廻ってしまう・・・

 しかし、つい先日、ソジンに言われた。
 腰を据えて、地盤を固め、
 ちゃっかりと、やりたいことをやっても、誰も咎めはしない、と。

 王から金を得、住む場所も確保し。
 そして、あの街を脅かす黒い者を追っていく・・・
 それも、また、乙かもしれない。


 城の庭で、体操をしながら、アモは太陽を見上げた。
 ヘプターが、3日も、帰って来ない・・・
 中将バーゲルには、ヘプターの妻が怪我をしたから、と言い訳をしておいたが・・・
 あれから、どうなったのだろう・・・

 アモの脇に、4名、青年がやってきた。

 ようやく、気心が知れてきていた。
 アモ達は、少し距離を取って、剣を振り合って、互いに楽しむのであった・・・

 と、向こうの方で、少しざわめきが起こった。
 アモ達は、目配せした。
 城の入り口だ・・・

 彼らは、素早くそちらへと移動を始めた。



 その人物は、侵入者ではなかった。
 すぐに、王の所へと案内されたようであるが、どうやら、ヘプターが帰ってきた、というのだ!
 アモは、一呼吸した。
 だが、また急に一つの心配が沸いてくる・・・
 彼らの夫婦仲はどうなったのだろう・・・
 黙って休んでいたから、王に怒られてはいないだろうか・・・
 まさか、辞めるとか言わないだろうか?


 それほど時間がかからずに、ヘプターは、宿営地の方へと、手のひらをヒラヒラさせながら、やって来た。
「いやあ、悪い、悪い!
 ちょっと長休みした分、しっかり働くよ!」
 ヘプターの顔は、明るかった。
 どうやら、アモの悪い予想は外れていたようである。
「ヘプターさん!」
 アモが駆け寄ると、ヘプターは、小声で言った。
「あとで、西の小屋に・・」
 そう言うと、ヘプターは、彼よりも位の高い者へ挨拶するために、また城の中へと戻って行ったのであった・・・


 アモが待ちくたびれた、夜となった。
 その夜は、虫の音が響き・・・
 西の小屋は鍵がかかっていたので、草むらに腰をかけ、ぼんやりと少年は月を見ていた。
 ヘプターが、あとで、と言ったのは、夜だ、というのは、すぐに判っていた。
 なにしろ3日も無断で休んでいたのだ。
 沢山の中将や、大将、兵士に挨拶しているに違いなかった・・・


 こんな、夜だった。
 あの、黒い奴に、遭ったのは・・・・

 アモは、少し肩を抱いて、震えを止めた。
 メルサだけだと、思っていた・・・
 この世に、恐ろしき・・・
 人々を、恐ろしき支配に置き、その血を見るのを好んだメルサ。
 赤い、メルサ・・・・

 ここらへんでは、ああいう力は、黒い衣装の者達のようだ・・・・


 と、少年の目線が素早く、左に動く。
 が、それは鋭い目線ではなかった。
 ヘプターの気配であるのは明らかである。
 まだ、その足音さえも、しないが。
 この少年には、その距離でも判るのだ。

 ヘプターがガサガサとやって来てから、アモは立ち上がった。
「遅いですよ」
 ちょっと拗ねたような声を出す。
「悪い、悪い」
 相手も、わざとらしく頭をかいていた。


 二人は、少し濡れた地面に並んで座った。
「・・・シーヤから、聞いたか・・・」
 ヘプターが、いきなり切り出し、アモは、ぎくっと肩をすくめた。
「・・・色々・・・」
「そうか」
 ヘプターは、ちょっと、アモににじり寄った。
「俺は、知らなかったんだ・・・
 あいつが、”最初の女の子”だとはな・・・」
「・・・」
 アモは、ヘプターの方に顔を向け、複雑そうな顔で聞いた。
「俺は、ハーギーでしたから、さっぱり意味が判りません。
 ”最初の女の子”が、なんだかに、差し出されるとかって・・・」
「エゲルさ」
 ヘプターは、足を投げ出して言った。

「エゲルには、最初の女の子を、かならず、差し出す決まりなんだ・・・
 俺の親は、結構ここらで力を持っていたからな。
 さらに力を持っているやつに頼んで、シーヤを見逃してもらったらしい・・・
 ああ、というのは、俺の親が、あいつの親と、友達だから、という理由らしいが・・」
 ヘプターは、少し顔を横に逸らした・・・

 間が開いた。
 虫の音が、寒々と聞こえる・・・
「そ、そして、その条件が、結婚だって・・・」
 アモが、言いにくそうに、聞いてみた。
「それも、知らなかった」
 ヘプターは、俯いていた。
「しかも、”お互いに愛してはならない”、と更に条件つきでな・・・・」
 ヘプターは、顔を上げると、星を眺めるような目線で言った・・・

「なんてこった・・・
 なんて、つまらない・・・
 どうして、そんな契約なんか・・・」
 と、ヘプターが半分言った時。
「つまらなくないです!」
 アモが立ち上がった!
「だって、だって、シーヤさんも、ヘプターさんも、好きなんでしょう?お互いに!」

 暗くてよく表情が見えない少年の顔を見上げ・・・
 ヘプターが、フフ、と笑った。
「お前は、若いよ・・・」
 つぶやいた。

「まさか・・・」
 アモはヘプターに詰め寄った。
「まさか、シーヤさんと、別れて来たんじゃないでしょうね?
 そんな・・
 あの人は、なにも悪くないじゃないですか・・・
 あの人は、必死だったんですよ??」

 両肩を捕まれ、ヘプターは・・・
 少し、微妙な顔を見せていたが・・・
 堪えられなくなったようで、とうとう・・・
「ククク!」
 笑い出した!
「お、おかしい!お前!」
 ヘプターが、思いっきり笑い始め、アモは、開いた口が塞がらなくなった。

「な、なんです、なにがあったんです・・・」
「だって、お前、真面目すぎる・・・鈍感すぎる!
 ああ、これだから、ハーギーは。
 空気が読めないなあ・・・」
 クックッと笑いながら、ヘプターは、アモに、ちょいちょい、と、耳をよこせ、と手で合図した。
「ごにょごにょ・・・」
「・・え・?」
「うむ、だからその、ええ、つまりだ。
 まあ、ようやくというか、その・・
 まあ、ええと、その・・・・」
 ヘプターは、夜目にも赤くなって、言った。
「つまりだ。
 まあ、うん、ええと、やっと、うん、まあ、夫婦としてだな、、、うん。
 まあ、そういうことだ。」

 しばし、間。


「夫婦?」
 アモが、眉間に皺を寄せた。
「だって、ヘプターさん、もう夫婦なんじゃないの?」
 率直な、少年の質問に、ごほん、ごほん、とヘプターが咳払いした。
「う、いや、ええと、その。
 だから、シーヤから聞いただろうが・・・
 俺は、ずっと、家では寝てばかりだったんだ・・・」
 ヘプターが、少年の様に、首もとの襟巻きをいじりながら言った。

「・・・・・・・・・」
 アモは、更に眉間に皺を寄せた。
「・・・
 ヘプターさん・・・」
「なんだ?」
 ヘプターは、まだ襟巻きをいじりながら応えた。
 目の前の少年は、首をかしげて言った。
「ヘプターさんは、おいくつでしたっけ・・・」
「26だが?」
 ヘプターは、少し、不思議そうな声でそう言う。
 と、アモは、とんでもない事をのたまったのだった・・・
「・・・その年まで、なんにも・・・してなかったんですか・・・」

 その後、アモが、こっぴどく、ヘプターにしごかれたのは、言うまでもないことであった・・・



 夜が白々と開けて来て・・・
 アモとヘプターは、また、並んで小屋の前に座っていた。
 一方のヘプターは半分寝ているようだった。
 アモは、別段、寝ないのは平気だったので、ぼんやりと城壁を見やっていた。
 ソジンに言われた事を、再度思い出していた・・・
 ここの護衛が多いこと。
 このヘプターも気が付いているのだろうか・・・
 そういえば、ヘプターの親は、それなりに有力者だったという。
 だから、城勤めとなったのだろうか・・・

「アモ・・・そういうお前は、いくつだ・・」
 ヘプターが、欠伸をしながら言った。
「ですから、前も言ったとおり、正しい年齢は判りません。
 多分16くらいです」
「フン、ませガキが」
 そう言って、なにか、赤い布を寄越して来た。

「お前が先に帰った次の日にな、可愛らしい女の子が、親付きで、”お礼”にいらっしゃったぜ!
 ”ぜひ”また遊びに来てね!だってよ!ククク」

 アモは、布の様に頬を赤らめた!
「・・・な、なにか勘違いしてますよ・・・
 俺は、偶然、あの子を助けただけです。
 中身が男であれ大人であれ、誰でも助けます・・・」

「ほほおおおおお」
 ヘプターは、わざとらしく口を尖らせて言った。
「どーーーせ。
 俺はこの年まで、なーーーーーーんにもしてなかったんだもんなーーーーーーー!!!!!!!!
 じゃあ、お前は、別に女に困ってないって事ね!
 じゃあ、そういうふうに、あの子に言っておくもん!」
「ヘ!ヘプターさん!!!!!
 い、いえ、そう、そうじゃなくて・・」
「ほおおおおおおお
 そうじゃなくてなんだ?」
「え、、ええと、その」

 赤くなったり青くなったりするアモを見ながら、ヘプターはいちいち笑うのだった。
「・・・お前、苛め甲斐があるなあ・・・」
「・・・ど、どうせハーギーですから!」
「そう卑下するなって・・・
 まあ、可愛い女の子のお礼はありがたく受け取っておくのが、礼儀なのよ。
 そして、ちゃーーーーーーんと、遊びにいくのよ。
 それ以上は、しちゃだめよ?」
「う、うるさいですっ!」
「クックク・・・」

 アモは、赤い布を受け取った。
 サラサラしていて、ちょっといい匂いがした。
 白い糸で、刺繍がしてあった・・・
 彼の、名前が。




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Last updated  April 3, 2013 11:11:27 AM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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