Accel

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April 4, 2013
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 マーカフは、少年達にも、葡萄酒を薦めて来た。
「まあ、少し飲め。あまり強くないから」
「え、でも・・」
 セルヴィシュテが困っていると、
「もう!酔っ払いオヤジ!早く寝なさい!」
 娘のマエーリに、マーカフは背中を叩かれた。

 ルヘルンの街の入り口に近い場所にある料理屋で、旅人とその家の者共が押し問答をしていた。


「それにしても、あれだなあ・・・
 よくまあ、エルダーヤからねえ」

「あ、ねえねえ」
 マーカフの娘マエーリが、ちょっと恥ずかしげに言った。
「あの、コココ。
 よく、見せて・・・」

 マエーリに視線を向けられたセルヴィシュテは、ハ?という顔しかできなかった。
「コココ?
 こいつが持っているのか?」
 マーカフも、興味を持ったようだ・・・

「・・・な、なんです、そのコココって・・・」
 すると、マエーリが、あれ?と不思議そうな顔をしてきた。

「あら・・・

 ドパガに取られそうになった・・・」
「ドパガ?」
 今度は、マーカフは、厳しい目線を娘に送った。

「う、うん、その・・・
 コココをね、このセルヴィシュテが落として、あいつが拾ったのよ・・・」

 マーカフは、まだ厳しい目線を娘に向けていた・・・


「こ、これ?」
 セルヴィシュテは、おそるおそる・・・
 貝を差し出した。
 この貝の名前が、コココ、なのだろうか?


 先に、手を伸ばして来て貝を手に取ったのは父マーカフだった。
 マーカフは、丁寧に、その貝をさすり・・・
 そして、額にそれをつけてから、娘に渡した。

「どうやら、君は、コココがどのような意味を持つか知らないようだね」
 マーカフは、また葡萄酒の瓶を傾ける。
「・・・え?ええ。
 旅のおまじないだって貰いました」

「ほう」


 マエーリも、貝を何度も透かしたり、さすったり、頬ずりしたりしていた。
「”あれ”は、ここらへんでは・・・
 魂の引き換えのものとして、大変高価に扱われているのさ」
 マーカフは、一瞬、厳しい目をして・・・
 そして、その瞳を伏せた。



 その夜は、親子は一つの部屋で寝て、セルヴィシュテ達はマエーリの部屋を貸してもらっていた。
 ラトセィスは、寝台で眠ってしまっていた。
 そう、この部屋は、マエーリの部屋・・・つまり、寝台は一つしかない。
 その寝台を、ラトセィスに占領されてしまっていた。


 あいつ、ここらへんの出身なんだよな・・・

 セルヴィシュテは、寝台のラトセィスを見やりながら、ぼんやりと考えこんだ。

 どうして・・・貝の意味を、教えてくれなかったんだろう。
 やっぱり、王子様だから、庶民的な事は知らないのかな?
 それとも・・・

 でも、魂の引き換えってどういう意味だろう・・・


 チラチラと光る蝋燭の光は、ラトセィスの所までは届かない・・・
 セルヴィシュテは、またも増えた謎に、一人悩むのであった・・・




 翌朝、少年達は早めにルヘルンの街を出ることにした。
 ドパガは、我侭で、横暴であるから、どのようなことをするかわからない。
 マエーリだけなら守るが、それ以上となると難しいと、マーカフから言われた。
 マーカフは、銅貨を数枚よこしてくれた。
 とんでもない、と首を横に振りまくる少年に、いや、持っていなさいと、無理によこした・・・

 少年達を見送りながら、マーカフは、朝の霧に溜息を溶かした。

 最近は、少年を泊める機会がなぜかできてしまった。
 そして、そのたびに、マーエリがいるというのも、また、おかしな運命というものなのかなあ・・

 そう考えていたマーカフは、先日泊めた少年達の事を思い出した。
 特に・・・・
 背の高い、蜂蜜色の、少年の事を・・・・

 その少年は、城で知り、料理を教えていた少年だ・・・



 マーカフは、両腕を回しながら、家の中に入っていった。
 娘が、ドパガに目をつけられたとなれば・・・
 城に連れて行った方がいいだろう。

 マーカフは、釜の辺りを整理し始めた。





 城の護衛をしている少年、アモが・・・
 ヘプターの家の付近で助けた少女の所へと赴いたのは、赤い布を貰ってから6日も経過してからであった。
 久しぶりの、丸1日の休暇であった。
 勿論、ここに行こうと思えば夕方にでも行けるのであろうが、あまり遅くの時間に行くのは失礼だろうと、休日まで待っていたのだ。
 周りの仲間にゆっくり休めよと労われたが、ヘプターにだけは、”ちゃんと行けよ”と目でニヤリとされた。
 そのヘプターは、なんと、妻シーヤを城に連れて来てしまった。
 この城の護衛で、家族で住み込んでいる者も確かにいた。
 ヘプターは、あの事件の後、王に頼み、自分達も城の一部に部屋を借りてしまったのである・・・

 そして、最近、どうやら、料理長も、城の一部に部屋を借りたという噂であった・・・


 アモは、赤い布をフォルセッツの小物入れに突っ込んだままだった。
 弓と矢は背負ったままである。
 小走りで、あの少女の家へと走っていた・・・
 少年の目には、やや、困惑の色が浮かんでいた。
 この布を返そうと思っていた・・・

「こ、こんにちは・・・」
 アモが少女の家に着いたのは、なんと昼過ぎである。
 それまでずっと走り続けた訳だが、この少年に疲労感は見えていない。

 戸が開いて、中年の男性が出てきた。
「・・・」
 アモが、なにか言おうとした時、その男性の後ろから、あの少女が姿を現した。
「あ、あら、アモ!いきなり・・・
 まあ、こ、こんにちは」
 少女は、なんだか慌てている様子である。
 中年の男性は、ゆっくりアモの様子を見やってから、言った。
「まあ、中に入りなさい」


 その家は、やや古ぼけていたが、最近手入れがされて、継ぎ足したり塗りなおしたりしているようである。
 男性は、アモに椅子を勧めると、自ら茶を入れ始めた。
「やあ。
 俺はこの間まで目が見えなかったんだ。
 最近見えるようになって、おかげで色々できるよ。
 久しぶりに娘の顔も見た」

 男性は、笑いながら天井を指差した。
 そこも、最近補修したようである。
「大変でしたね」
 アモは、深く頷いた。
 少年は、椅子にかける前に、弓と矢を下ろし、卓の脇に置いた。
「それは、君の弓かね」
「ええ」
 短く答える。


 男性は、茶をすすった。アモにも薦めてくる・・・
 どこかに行っていた少女がやっと姿を現した。
 なんと、わざざわ着替えてきていた。
「さっきまで、漆喰を塗っていたのよ」
 笑う少女の手は、二の腕まで白くなっている。


「あ、あの、俺・・
 ええと、あの布を、返そうと思って来たんです」  
 父の隣に座った少女が、思いっきり目を見張った!!!

 アモは、腰から小さな赤い布を取り出した。
「俺、とっても嬉しいけど・・・
 赤だけは、受け取れない・・・」
 アモが、深いため息を付きながら・・・
 少し、布をいじって、それを卓の上に置いた。

 少女が、かなり驚いたように、アモを見ていた・・・
 と、父親が、ほう、と小さく声を上げる。
「なぜ、受け取れないかね」



 アモは・・
 呼吸を整えると、決心を固めた。
 全て言おう・・・
 アモが、口を開けた時だ。

「残念だなあ」
 先に、父親が言った。
「うちのレシアはなあ、まあ、ここらの少女ではよくありがちな、叶わぬ方恋をしておった。
 そこを、ようやく、普通の男の子にも、興味を持ったと、喜んでおったのに」
「と!父さ・・!」
 抗議の声を上げる少女の頭を抑えて口を塞ぎ、父は、フフフ、と言った。
「アモ。
 お前、ここら辺の少年じゃないと聞いた。
 だから、この布の意味がわからないのだなあ・・・
 教えてやるぞ。
 これはだ。
 まあ、俺もこういうのを持っている。
 俺の妻から貰った・・」
 ジタバタしている娘などお構いなしに、父が意地悪そうな目線をアモに送った。

「かわいい娘がどっかの男にこれを送ったとなれば、本来俺は許さないと怒るべきだ。
 が、それを受け取らないと目の前で言われるのも、面白くないなあ~・・・」


 アモは、しばし、ポカーンとしていた。
 そんな少年の顔を見て、更に父はよく説明が必要だと感じた。
「う~む・・・かなり鈍感だな。
 つまりコレは恋する相手に贈るものだ。
 返すからには、うちの娘は嫌だということかな?」



「は?」
 やっと、アモは口を利いた。
 しかも、全然脈略のない言葉を。





 少年アモと、少女レシアは、ぼんやりと、湖の前に座っていた。
 あの後・・・アモは、レシア達に、自分がハーギーであることを話した。
 父はただ黙っていた。
 レシアは、アモをこの湖に連れて来た・・・
amo04.jpg

 レシアの気持ちがよく判らないアモだった。
 まだ出合ったばかりだ。
 恋する相手によこすもの、などと、大そうなものを受け取るような・・いや、自分には、そういう思いを受ける資格すらないように思っていた。
 レシアはずっと黙っている・・・
 なにを考えているのだろう・・・

 アモは、立ち上がって湖に少し足を入れてみた。
「あの日」
 後ろで、レシアが言った。
「あたしね、ここで水浴びしていたの。
 そしたら、あいつに浚われたのよ」

「・・・」
 アモは、後ろを振り返るのが怖かった。
「あの時脱いだ服は、どこに行ったのかしらね・・・
 浚われたときは、ここら辺に置いていたのに、後で探しても見つからないの」


 アモは、ようやく振り返ると、少しレシアから離れて座った。
「・・・・俺のこと、怖くないの・・・・」
 と、レシアは、どうやら笑ったようである。
「あら・・・少なくてもあの黒いのよりは怖くないわ」
 レシアは、手元の小石を湖に投げ入れた。

「あの布、染めてあげる・・・
 元が赤いから、紫ぐらいにしかできないけど」
 レシアは、湖に向かって言った。
「それに、また家に来てね。
 お父さん、あなたを気に入ったみたいだから」



 レシアが布を預かり、少年はまた城へと戻って行った。
 レシアは、懐から白い布を取り出した。

 少女達は、白い布に・・・”想う人”の名を刺繍するのだ。
 そして赤は、勇気ある人に送られ、沢山持っている男は、尊敬される・・・



 レシアは、家に着くと。
 だまって、その白布を、釜に入れた。
 誰の名も刺繍していない布・・・

 ビアルの名を入れるには、あまりに・・・切なかった。
 入れても、どうにもならなすぎた。


 赤い布に刺繍されたアモの名前に見入りながら、レシアは、溜息をついた。
 父が、”とんでもないこと”を言ってしまったが・・・


 軽く、彼女は笑った。
 しばらく、”勘違い”させても、別に支障はないような気も・・・してきた。





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Last updated  April 4, 2013 11:31:31 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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