Accel

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January 16, 2014
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 いきなりやってきた二人の旅人、セルヴィシュテとラトセィス。
 疲れて寝てしまったラトセィスを気遣いながらも、食べ終わった食器を片付け、セルヴィシュテは興味ありげに入り口の真向かいにある扉に置かれた野菜を指差した。
「一杯ありますね。
 さっき、お二人暮しだと聞きました。
 あれは、売るんですか?」
「ん?」
 ニルロゼは、微笑みながら、茶色の髪の少年の表情をゆっくりと見た。
「ああ、俺に敬語はいいぜ、別に。
 年も俺とそんなに変わりなさそうだな。

 食べるのが大変だよ」
 ニルロゼは、釜に木を足した。
「今日は、寒くなりそうだ・・・
 焚いたまま、寝るかい」
「・・・」

 セルヴィシュテはまた、背の高い少年ニルロゼの目線を何度か受け、ある意味の戸惑いを感じていた。
 この少年は、自分をどうしてこんなに見るんだろう。
「あの」
「なんだ」
 セルヴィシュテは、思い切って核心に触れた。
「ええと、あなたは、どうやら、人を見ると、色々なことを察する事ができるんじゃない?

 切り出され、ニルロゼは、ちょっと首を捻った。
「あ?いや?
 そういうつもりはなかったが・・・」
 ニルロゼは、食卓に右手を置いて、ちょっと笑った。
「珍しいなと思っていたのさ・・・

 君の剣の腕は、君が想像したとおり。
 俺は、大体は、察しがついている。
 とっくの前からね。」
 ニルロゼは、椅子に座った。
「君の剣の腕なら、長旅をする間に、もっと強い奴に出遭って、とっくに死んでいただろう。
 でも、こうして旅を続けている。
 だから、不思議だなと思っていた」

「そうですかね」
 セルヴィシュテは、挑むような目つきで、机を挟み、ニルロゼの向かい側に立った。

「確かに危険なこともあったけど・・
 まあ、運がよかったんですよ、俺達は」

 しばし・・・
 焚き木の音が、した。

「じゃあ、すごい強運だろうね」
 ニルロゼは、ふふ、と笑った。

「ルヘルンの街に入られなくなったと言ったな。
 まあ、あそこも色々あるからな。
 もう少し西に行けば、ラマダノン王国があるから、そっちに大きな街があるかもしれん」
「王国?」
 茶色の瞳の少年が、身を乗り出した。
「あ、ああ。
 なんだよ、王国なんて、興味あるのかい」
 ニルロゼが、やや驚いてちょっと言葉を詰まらせる。
「あ、いえ・・」
 セルヴィシュテは、ちょっと息を整えた。
 あまり、深く詮索されては困るのだ。


 二人は、しばし、黙っていた。
 セルヴィシュテは、久しぶりに緊張していた。
 今までは、それほど、突っ込んでこられなかったのだ・・・
 なんだか、この背の高い少年に、色々見透かされているようで、やや、冷や汗をかいていた。

「セルヴィ・・」
 その時、ラトセィスが苦しそうに呟いたので、セルヴィシュテは、ちょっと慌てながらラトセィスの方へと駆け寄った。

 ニルロゼは、座ったまま、考え込んでいた。

 いくら、運がいいとはいえ・・・
 まだ、ハーギーが少しウロウロしているし
 盗賊もいるし
 最近わかったことだが、黒い輩もいるし

 奴らは、少年といえども、容赦などはしない。
 ほんの僅かな金であっても。
 ほんの僅かな食料でも。
 奪ったり、面白半分で命さえも奪っていく。

 この地で、か細い少年二人が、これほどボロボロになりながら、いったいなにを目的に旅を・・・


「どうやら、悪い夢でもみていたようです」
 セルヴィシュテは、軽く笑いながら、ニルロゼの方を見た・・・
 と!
 ガシッツ!

 一瞬の火花が散った!

 カツーンという音と共に、セルヴィシュテの剣は、向こうの扉の方へと弾き飛んでいった。
 セルヴィシュテは、右手がビリビリとしていた。
 呼吸をする間もなかった。
 まったく、相手の動きが見えなかった。

 ニルロゼが、やや短い剣を構えていた。

 ニルロゼが、無表情に・・・剣を、構え。
 足を、進めてくる。

「・・・」
 ほんの少しの殺気に、剣を出したはいいが、あっと言う間にそれを飛ばされ・・・
 なす術もなく、セルヴィシュテの足は、後ろへと、下がってしまう。

「さて」
 ニルロゼは、ゆっくりと笑った。
「こういう事も、何度かあったはずだ。
 そういう時、どうしていた」

 セルヴィシュテは、わなわなと震えた。
 そういう時は・・・
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「あなたには・・・
 俺を殺す理由がない。
 なぜなら、俺は海の向こうエルダーヤ大陸から来た・・・
 ここの大陸の理屈は、俺には通らないんだ」

 きりっと瞳を輝かせると、背の高い少年を睨んだ。

 少し、剣が・・・
 セルヴィシュテに近づいてくる。

「ふん・・」
 ニルロゼは、鼻で笑った。
「それだけかい、理由って」
 ひゅう!
 剣を宙に放り投げ、2度回転させると、パシッと受け取った。
「色々な奴を見てきたけど、あんたはなかなか面白い。
 なるほど・・・海の向こうから来たのか」
 ニルロゼは、のそのそと向こうの扉の方へ歩いて行って、セルヴィシュテの剣を拾った。

「ずいぶん、長旅だな、セルヴィシュテ。
 それを、この剣だけで、乗り切ったか。
 たいしたもんだよ」
 ニヤリと片目を瞑って、剣を渡してきた。

「まあ、そんなに緊張するなよ。
 驚かせてすまかなったな。
 なかなか、感じたことがない雰囲気だったからな。
 最近嫌な事が多くて、俺も猜疑心が絶えない。
 色々深読みしたくなっちまったようだ」
 人懐こい顔をして、セルヴィシュテに椅子を勧めた。

「か、感じたことがない・・?」
 まだドキマキしながら、セルヴィシュテは自分の剣を握った。
 その手はまだ震えている。

「ああ、そうだ。
 君がこの大陸の人じゃない、というなら、それを信じよう。
 こっちには、色々いやーーなのが、多くてな。
 おっと、君の大陸の方にもいるかどうかはわからないが」
 ニルロゼは、言いながら、奥の戸棚からなにかを取り出してきた。

「大体、君が馬を見ているのがいけないのさ。
 あの馬は大事な馬なんだから」
 ニルロゼは、笑いながら、戸棚から出してきたものを差し出した。
「これは、もらい物だが、なかなかうまい菓子だ。
 俺も、いつかは、料理の幅を広げて、菓子も作りたいものだ」
 ニルロゼは菓子をボリボリと食べ始めた。

 セルヴィシュテは、恐る恐る言った。
「あ、あの・・・
 大事な馬なら、馬舎をお作りになったら?
 ああやって、軒もないところに繋いでいれば、誰でも見ますよ・・・」
「ん?」
 ニルロゼは、これまたにこやかに答えた。
「そうだね。
 なんたって、リュベルちゃんは、昨日やって来たばかり・・・
 明日あたりから、馬舎を作るかなあ・・・」
「・・・?」
 セルヴィシュテは、ちょっと頭を捻った。
 いきなり、リュベルちゃん、なんて名前が飛び出てきたが・・・
 馬舎の話が続いていたので、どうやら、馬のことらしい、と思った。
 ようやく、剣を仕舞うと、セルヴィシュテも、菓子に口をつけてみた。
 今まで全く味わったことのない、素晴らしい味である。
「俺の大陸のお菓子とは全然違う」
 素直な感想を述べるセルヴィシュテに、ニルロゼは笑った。
「はは、こっちのお菓子は始めてかい」
「ええ・・・」
 ようやく、セルヴィシュテも笑った。



 翌朝。
 なかなか起きないラトセィスに、セルヴィシュテは悩まされていた。
 こうして明るくなってみると、本当にこの家は小さかった。
 今まで二人が暮らしていたのが不思議なくらいだ。
 食卓が家の半分位を占めているかもしれない。
 ニルロゼは、裏庭でなにかをしているようである。

 そういえば・・・
 二人で暮らしている、とニルロゼが言っていたが・・・
 そのもう一人は、どこに居るのだろう。
 昨日は、別なところに出かけていたのであろうか。

 背の高い少年は、裏庭から戻ってきて、釜の様子を見ていた。

 セルヴィシュテは、雑巾で床を磨いていた。
 まだ、ラトセィスは起きない。
「ほんとうに、お狭いところ、色々すみません。
 まったく、なかなか起きなくて・・・」
 そこまで言って顔を上げたセルヴィシュテの茶色の瞳に・・・・
 驚愕の光景が繰り広げられた。

 微動だにしなかった向こうの毛布が、もぞりと動いて
 そこから、黒い服の腕が、にゅっと出た。
 そして、腕が、面倒くさそうに、毛布をかきわける・・・・

 毛布から、黒い外套を羽織ったままの
 人物が、出てきた。

 「・・・・」
 あまりのことに、セルヴィシュテは、息をするのも忘れていた。

 茶色の少年が、完璧に固まっているのを見て、ニルロゼは、フーン、と、深く息をついた。
「もしもーし?大丈夫?」
 セルヴィシュテの肩をつついてやる。

 ニルロゼの予想は、大体こんな感じであった。
 見たこともない美しい人物を目の当たりにして、硬直しているのであろう、と。
 そして、そのニルロゼの予想は、半分当たっていた。
”見たことのある”美しい人物を、目の当たりにしていたのだ、セルヴィシュテは。

「あ、あ、あなたは・・・・・」
 セルヴィシュテは、思わず右手の人差し指で、毛布の中の美しい人物を指差した!
「く、黒髪の方っ!?!?」

 愕然としている少年のことなど目に入っていないのか・・・
 いや、入っていないであろう。
 美しい人物は、まだ、目を閉じていた。
「んーーーー」
 そう言いながら、ふらふらと毛布をどかす。

「ほら、ビアルちゃん・・・
 しっかり起きろっつうの」
 ニルロゼが、美しい人物に寄り添って、抱き起こした。
「・・・・」
 セルヴィシュテが、目をまん丸にして、その光景を見続けていた。
 あの、傍に寄ることを躊躇させる、そのような雰囲気を醸し出していた、黒髪の少女・・・
 何度となく、ふしぎな薬と魔法のような力で、自分達を救ってきた少女が・・・

「はい、ここに座ってね~。
 いま、あったかいのでも、持って来るよ~」
 昨日、恐ろしいまでの剣術を見せ付けた背の高い少年に、甲斐甲斐しくその身の回りの世話をされていた。


「・・・・」
 まだ、驚き覚めやらぬセルヴィシュテは、必死に、なにか、言葉を探した。
 そう、あの”少女”に、聞かなくてはならないことが沢山・・・・

「あ、あの、黒髪の方・・・」
 必死に”少女”に語りかけたが、”少女”は、無表情である。
 その少女の前に、茶が置かれた。
「どうぞー」
 ニルロゼが語りかけると、”少女”は、無表情のまま、茶を手に取る。

「ああ、ビアルは、まだ寝ているぜ。
 こいつに今なに言っても馬の耳にナントカ。
 起きるのにはもう少し時間がかかる」
 ニルロゼが、笑いながら、釜の傍でなにかを作っていた。


 ビアル?
 この少女の名前・・?

 だんだん、セルビシュテの鼓動が正常なものになってきた。
 窓からの明るい光に照らされ・・・
 少女は、あいかわらず、美しかった。
 が・・・・

「髪・・・」
 セルヴィシュテが、ぽつりと呟いた。

 長くて、美しい髪が・・・

 今、目の前の少女は、あの髪が・・・
 首元で切ってあった。 





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Last updated  January 16, 2014 06:19:53 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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