Accel

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January 13, 2014
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「はあ」

 しかも、夜に近かった。
 木の下に入っていても、雫が降り注ぎ・・・
 街の人の家に泊めてもらおうにも、ルヘルンの街からは、数日前出てきたばかりだ。

 細い道が1つ。
 ざあざあと雨が降る中、少年二人が、とぼとぼと歩いていた。

「街を出ると、殆ど家ってないんだなあ・・・」
 溜息まじりにぽつりと言ったのは、茶色の髪の少年、セルヴィシュテ。

 当初、母がいるかもしれないと思っていたこの地。
 その思いが砕かれ、そしてそれが諦めを通り越したとき、少年にはまた別の、旅の目的ができた。
 それは、それでもやっぱり不思議な布の成り立ち、
 そして・・・
 この布より、もっと不思議な、相方のラトセィスの事だった。


 セルヴィシュテは、今回は、なぜか少し焦っていた。
 なんとなくだが・・・
 ラトセィスは、あまり、水が、苦手かもしれない、と、思っていた。

 このあいだ、川に入った時の、あの表情。
 切なくて、苦しそうだった。
 今も、また・・・


 炎の魔法使いだから、水が苦手?
 いや、そういう次元の問題とは思えない感じがした。

 道なりに進んでいくと、どんどん森が近くなる。
 また、森に入ってしまえば、・・・
 ”ああいう犬”がいたりして・・・


 などと思っていたセルヴィシュテの瞳に、神が導いたかのように、小さな明かりが灯っているのが見えた!
「おい、ラトス!誰かの家があるぞ!
 こりゃ、よかった!泊めてもらおう!」
 明るい笑顔で笑うと、半分走り始める。
 この少年に、泊まることを断られるなどという状況など、まったく入っていないのだ!

「あ」
 少年が、家の前に着くと、その家の脇に、馬が繋がれていた。
 セルヴィシュテは、注意深く、馬に触れてみた。
 馬は、ブルル、と啼いた。

「おい、ラトス。
 この馬、結構いい馬だぜ・・・
 この家の人、どういう人だろう・・・」

 少年セルヴィシュテは、ちょっと表情に緊張感を走らせた。
 なにせ、父親が、城勤めだったのだ。
 馬のよしあしは、ある程度わかっていた。
 毛並みがたいへんいいし、よく調教されていて、筋肉のつきの均衡もいい。

 ああいう馬を持つ人が、こんなおんぼろの家に?

 セルヴィシュテは、躊躇しつつも、扉を叩いた。
「はあーい」
 間髪いれず、すちゃ!と扉が開いた!

「あら」
 扉を開けたのは、背の高い少年だった。
 とにかく、セルヴィシュテに、更にラトセィスの頭を足したよりは、身長があるだろう。

「これは、驚いた。
 さっき、馬をみていたね」
 背の高い少年は、ジロジロとセルヴィシュテを見やった。

「ど、どうして見ていたって判るんです」
 セルヴィシュテも、視線だけは負けないように、睨みをきかせ、背の高い少年をみつめた。
 相手はかなり、筋肉があるようだ。

「ふふ。
 まあ、俺の目は千里眼ってところよ。
 馬を盗みに来た輩かなと思っていたのさ。
 だから、どうやら違うようで、驚いた。
 さあ、どうした?
 こんな夜に。しかも雨だ。
 寒いんだろ?
 俺の家ではないが、まあ上がれ」

 背の高い少年は、鼻歌を歌いながら、奥に招き入れてくれた。
「あ、ありがとうございます。
 俺の名前はセルヴィシュテです。
 こっちは、ラトセィス・・」
 背の高い少年は、釜に火をつけ始めた。
「俺は、ニルロゼ。
 その様子だと、どうせ飯もまだだろう?
 なんか作るぜ」

 ラトセィスが、疲れたように、壁際に座り込んだ。
「おい、ラトス。
 なにか、ご馳走をいただけるって。
 食べてから休みなよ」
「・・・」
 なんとなく頷いたように見えた。

 セルヴィシュテは、小さい室内をゆっくり見回した。
 入り口からど真ん中に机。
 右側に釜。
 入り口の奥に、野菜と、扉。
 左側に、なんか、毛布。

 その、なんか、毛布があると思われるあたりが、もぞり、と動いた。

 セルヴィシュテは、ちょっと驚いたが、目の錯覚かな、などと思いながら、ニルロゼと名乗った少年の近くに寄った。
「すみません。
 助かりました。
 俺もなにかできることがありますか」
「ん?」
 振り返りながら、ニルロゼの手元で、ひゅひゅっと包丁がひらめいた!

「わ!わああ」
「あ、驚きすぎだよ!
 ははは。
 こんなの、朝飯前だ。」
 ニルロゼは、そういいながら、再度包丁を、一旦手からすっかり宙に浮かせ、4回転もさせて、まるで魔法のように手元に収めている。
 そしてさっと野菜を切って、鉄鍋で炒め始めた。

「上手ですね~」
 セルヴィシュテが感嘆の声を出すまでもなく、あっというまに2、3種類の料理をニルロゼは作り上げてしまった。
 セルヴィシュテはそれを皿に盛って、机に運んでいく。
 そして、壁際のラトセィスを揺すった。
「おい、ラトス、ラトス・・・全く、またラトスの病気だ」
「病気?」
 ニルロゼが、笑いながら、セルヴィシュテ達の方へと歩いてくる。

「ええ。
 こいつ、疲れると、いつまでも寝てしまうんですよ」
 それを聞いたニルロゼは、ちょっと頭に手をやった。
「ほほー?
 なんか、誰かに似ているなあ、それ・・・」
  背の高い少年のその視線は、ちらり、と・・・
 毛布の方に、行った。


「あっちはラトセィス?だっけ?
 まあ、疲れているなら、泊まっていくといい。
 だがこの家も狭くてなあ。
 もともとは、一人だけ住んでいたんだ。
 そこに、俺が転がり込んで、いま密度は2倍だ」
 ニルロゼは、蜂蜜色の瞳を笑わせた。

「すみません。長居はしませんから。
 でも、どうしようかなあ・・・
 なんか、ルヘルンには、もう入れそうにないんですよ。
 ほかに、街はないですかね?」
 セルヴシュテは、背負っていた荷物を降ろすと、くくりつけていた毛布をラトセィスにかけてやった。

「ルヘルン?
 君達、ルヘルンにも行ったのか」
 ニルロゼが、ちょっと興味ありげな顔つきになった。
「まあ、飯が冷める。
 先に食べなよ」

 背の高い少年は、セルヴィシュテを食卓の椅子に座らせた。
 もう一組の食べ物には、皿で上手に蓋をしている。
「こうしておくと、明日も食べられるってやつよ。
 別の料理に混ぜたりな」

 ニルロゼは、茶色の髪をしていて・・・同じく茶色の瞳をし・・・そして、ボロボロの茶色の服を着たセルヴィシュテを、まじまじと見た。
「あ、あの、なんでしょう」
 セルヴィシュテは、ちょっとその視線に赤面しながら、ニルロゼを見返す。

「ああ、あまり気にするな。
 俺は人間観察が好きなんだ。
 まあ、遠慮しないで食ってくれ」
「は、はあ・・・それでは、遠慮なく」
 セルヴィシュテは、我慢できずに、匙を取ると、いただきまーすと言って、食べ始めた。

「しかし、君。
 いつも、こうやって、誰かの処に転がり込んで、夜露を防いできたのかい」
 ニルロゼが、やや意地悪い笑いで、食べているセルヴィシュテに聞いてくる。

「ええ。そうです。
 最初の頃は、洞窟とか、あったのですが、こっちは、あまりそういう場所がなくて。」
「ふうん」
 ニルロゼは、お気楽な奴だぜ、という言葉を、半分飲み込んだ。
 ただ、お気楽だ、というだけでは・・・
 この地を旅するのは、並みではない。
 目の前の少年は、どの程度旅をしていたのかは知らないが・・・
 あの荷物の様子や、服の様子からして、かなり旅をしているのだろう。

 それだけの長い旅を、今まで・・・
 乗り切ってきている。

 ニルロゼは、段々、セルヴィシュテに興味を持ち始めて来たのであった。



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Last updated  January 13, 2014 06:47:56 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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