Accel

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February 2, 2014
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 ラトセィスがボボドの山だと言っていた、青い山が、大きく裾野に広がっていた。
 どこまでも続くかのような平原を駆ける人影が5つ。
 そのうちの一人は、一人を背負っていた。

 背負われているのは、15歳位の少年。
 背負っているのは、大体17歳位の少年だろうか。
 駆けている少年達は、年上でも18歳位。
 その一番年長者が、一番先頭を切って走っていた。
 時は夕刻。
 もう、日が傾き落ちて、暗くなり始め、辺りは寒々としていた。


 まあ、この走っている少年達から言わせれば、足手まといというところであろう。
 この少年は走っても早くないし、休息や、眠る事も必要である。
 ところが、他の少年には、殆どそれらは不要であった。
 一般的な少年達の走りとはまた違った、足の運びで・・・
 腰に差した剣が邪魔にならないような走り方、そして、無駄のない動作、速さ。
 俊敏さ、迅速さと、そしてなにより、洞察力に優れていた。

 彼らが向かっているのは、今まで彼らが腰を落ち着けていた国の隣の、ラマダノン王国だった。
 そこに行こうと言ったレガンは、昼間・・・
 仲間が今背負っている少年セルヴィシュテが言った言葉を反芻していた。


 ハーギーって、西にあるんですよね・・・
 ここまでに来る途中、ラマダノンは通らなかったんですか?


 レガンも、おや、と思った。

 そう、通らなかった・・・。
 その名前は知っていたが、神々の住まう山という場所だということを恐れ、やや南を移動して来たのだ。
 勿論、ナイーザッツに来るまでの間、色々な町で落ち着こうと努力もしてきた。
 が、結果的には追い出されるように東、東へと来たのだった・・・


「おい、レガン」
 チルセが声をかけてきた。
 一番最後、つまり5番目に並んだ少年だった。
「ああ。
 判っている。
 馬車が俺らを追っているな・・・」
 レガンが頷くと、少年達は、わざと足を止めた。
 しかもその上、わざと分散しなかった。

 これまで、日中も馬車と廻り合わなかった訳ではない。
 それらは、かなり遠方を通り過ぎて行っただけである。
 だが、今度の馬車は、明らかに少年達を目標にしているのを、彼らは察知していた。
 もし・・・追ってくる馬車が敵意を持っているのであれば、5人は散って、相手を包囲した方が戦術的にいいに決まっていた。
 しかし、ルッカは足元に薪を焚き始め、オガラは地面に腰を下ろした。
 レガンも腰を下ろすと、セルヴィシュテを背負っていたリューも腰を下ろし、眠そうな少年の目を少し開けさせた。
「腹減っただろう。
 夕食にしよう」

 だが、それほど時刻も経たぬ間に、馬の嘶きが、セルヴィシュテの耳に聞こえてきた。
「こんな時間に、馬・・・」
 遠くを見るようなセルヴィシュテの目線に、オガラがカカカと笑った。
「こんな時間にガキが走っているのも怪しいからな。
 こうやって、わざと休息しているのさ」
 セルヴィシュテは、はっとしながら、周りの少年達の表情に目を配った。
 みな、一見穏やかな表情をしているが、その目線は、これから来る馬車を、見えても居ないのに捕らえているかのようだ。

 しん、と静かになった。
 どこからともなく響く馬の蹄・・・
 一頭ではない。
 ・・・三頭?
 明らかに、こちらに向かっていた。
 特に道などないから、他にも経路がありそうなもの・・・
 こちらに、人が居るのを知って来ている。
 少年達は、焚き火に目を落としていた。
 体温を落とさぬよう、旅人が焚く火・・・
 逆にまたそれは、旅人が望まぬ略奪者を呼び込む火でもある。

 ガツ!
 ガツ!

 馬の蹄の音が鳴り響き、ブヒヒヒ~ン!と嘶く声が、傍で停まった。
 年上のルッカが、チラリとレガンを見、それからゆっくりと立ち上がった。
 もはや、陽は落ち切り、辺りは暗い。
 平原であるこの地で身を隠す事はかなり無理に近かった。
 しかし夜となれば、常人であれば、闇に身を隠すこともできる・・・
 その闇に馬を溶け込ませ、馬車がそこにいた。

「こんばんは。
 なにか、ご用件ですか?」
 ルッカが、なにげない足運びで馬の方に近づいて、声を発した。
 すると、意外にも落ち着いた雰囲気の声が返ってきた。
「うむ。
 実は、明るいうちから君達を見ていた。
 私達は商人でな。
 その様子では、なにかと入用ではないかと思ってな。
 追いかけてみた」
 その声の主が火の明かりに照らされると、茶色の髪の少年は、あっと驚いた!
「あなたは・・・チューレンド王の時の?!」
「おや、おや・・・」
 商人は、とことん呆れたような顔になった。

「君は、たしかセルヴィ。
 どうしたんだね・・・
 まったく、我らの行く先々に待ち構えるとは」
 商人の後ろから、もう2人、商人が現れた。
 茶色の髪の少年セルヴィシュテの記憶に強烈に刻まれた、あのチューレンド王への道のり・・・
 その道のりを乗せてくれた、あの3人の商人達であった。
「あ、あなた方は、チューレンド王のお抱え商人だったのではないのですか?」
 急き込むように聞くセルヴィシュテの頭に、衣装の商人が手をあてがった。
「まあ、そう慌てるな・・・
 まったく、君と関係を持つと厄介な事になるようだな。
 それよりもだ」
 最初に声をかけてきたその商人が、セルヴィシュテ以外の少年達に、笑いかけながら言った。
「このセルヴィとは、かなり前に知り合ったのだよ、君達。
 君達を見たときに、面白そうだと思ってついてきたのだが。
 どおりで面白いはずだ、このセルヴィがいるとは・・・」
 衣装の商人は、どっこらしょっと言いながら、薪の脇に座った。
 もう一人の剣の商人は、優しげな笑みを見せながら、6人の少年の姿を見回した。
「わたしたちは、色々な方々と取引をする商人。
 これまで沢山の人たちを見てきた・・・
 半年前であろうか?
 このセルヴィに出遭ったのは」
 剣の商人も薪の前に座った。

 少年達は、目を見合わせながら、ゆっくりと座った。
「セルヴィシュテ。
 知り合いのようだな」
 レガンに言われ、セルヴィシュテは照れた笑いを見せた。
「俺の名前は長いから、セルヴィでいいよ。
 あの方々は、知り合いっていうくらいでもないんだ・・・
 ほんの少し、馬車に乗せて頂いた程度だよ。」
 セルヴィシュテは、薪に手を伸ばして言った。

「セルヴィ、チューレンド王とはお会いしたようだが、君の用件はそれでは済まなかったのかな?
 今度はどこへ行くのやら・・・」
 剣の商人は、一番自分の近くに居たチルセの剣に注目していた。
「・・セル・・・ヴィ・・・。
 君は、チューレンド王という方にも、お会いしたのか」
 レガンがたどたどしく聞いてきた。
「うん。
 素晴らしい方だったよ。
 この3人の商人の方が、お城まで運んで下さらなかったら、辿り付かなかったと思う」
 にっこりと、セルヴィシュテは笑った。

 レガンは少し、セルヴィシュテを見る目つきが変わった。
 ニルロゼが、この少年に剣術を教えた事には、確かに驚いてはいた。
 が、ややタカをくくっていたかもしれない。
 このセルヴィシュテ・・・何者だ?


 衣装の商人が言った。
「それにしても、セルヴィ・・・
 君は、友達を増やすのが得意なようだね。
 しかも、かなりの手練の少年ばかり」
 剣の商人が、チラリと5人を見回した。
「うん。
 有難いことに、俺の行って見たいところに、彼らも行くというから同行をと言ったら、嫌がらずに引き受けてくれたよ」
「な・・・」
 レガンが慌ててセルヴィシュテの方を見たが、茶色の髪の少年は、軽く片目を瞑って合図を送った。
 そして、縫い合わせた茶色の服を着込んだ少年は、腕を組んで、自信満々に喋った。

「俺はいつもこうして・・・・
 都合よく、自分の行きたい先に、誰かが連れていってくれる運命なのかしら。
 まあ、半分以上はきちんと自分の意思で来ているはずなんだけど。
 でも、ここっていうところで、こうして、俺を連れにきてくださる方も・・
 ねえ、そうだろ、衣装の商人」


「いや、しかし、君には参った」
 ルッカが、やや呆れたようにそう言った。
 鎧が積まれた馬車の荷台に、少年2人が乗っていた。
 一人は、18歳くらいのルサである。
 濃い金髪を短めに切り上げ、鋼の胸当て、皮の肘当て、銅の腰当と、まるでチグハグな出で立ちである。
 それらは、ハーギーで勝つたびに、褒章で得たもので・・・
 その度、得た年代も違うものであるからにして、一貫性がなくなっているそうだ。
 とはいっても、かなり使い込んでいるので、本人に馴染んでおり・・・勿論、本人との均衡もなぜかあっていた・・・。
 ルッカは、淡い色の青い瞳で、馬車の中の光景を眺めた。
 なぜ、商人の行き先が・・・ラマダノンだと、このセルヴィシュテは判ったのだろう。

 あれから、セルヴィシュテは、商人がラマダノン王とお会いするはずだ、俺らもそちらに向かっていると言い切った。
 すると、商人たちは示し合わせたように頷き、馬車に自分達を分けて乗せ・・・
 馬車は3台並んで西へ走っていた。
 ラマダノン王国に本当に行くのかどうか、実は・・・
 やや、不安でもあった。
 が、着いても着かなくても、この際ややどうでもいいのだが・・・・

 大体、この風貌では、庶民が怖がってまともに接しないことを、ルサも自覚していた。
 例え、身なりを整えても、放つ雰囲気が、尋常ではないのだ・・・
 だから、ラマダノン王国に行ったとしても、レガンが言ったように、偵察であり・・・
 ちょっと、内部を見ればそれでいいのだ、と思っていた。
 でなければ、6日で戻れる訳がない。
 だというのに・・・・
 いきなり、王と会う・・・とは・・・

 ルッカは、固唾を呑んで・・・茶色の髪を持つ少年、セルヴィシュテの横顔を見やった。
 そのセルヴィシュテは、ルサの様子などお構いなしで、荷物の甲冑に見入ったり触れたりと、忙しそうである。
「いいなあ。こういうの・・・。
 前回の積荷と、嗜好が違う感じもするなあ。
 創っている場所が違うのかな」

 天然なのか、強運なのか。
 いきなり、馬車に乗せて貰うことになって・・
 その上、目的地にいける・・・
 これは、幸運なのか?

「あのさ、君は、疑問に思わないのか・・・」
 ルッカは、思わずセルヴィシュテの手元に近づくと、声をかけた。
「なにがです」
「だ、だから・・・
 あの人たちが、俺らの行こうとする先に行くなんて、都合がよすぎない?」
 馬車の車輪の音が鳴り響き・・・
 荷台は何度か傾いた。
 硝子の嵌め込まれた窓は今は閉じられ、外は暗い・・・
 この馬車がどこに向かっているかなど、中の者にはわからない・・・

「都合、いいかな」
 セルヴィシュテは、軽く笑った。
「都合だというなら、それは向こうからやってきたんです・・
 そうでしょ?
 向こうが、先に声をかけてきた・・・
 彼らは、俺だって判って声をかけてきていた・・・」
 セルヴィシュテは、鎧の山の中の一つに触れながら、ゆっくりと言った。
「俺は驚いているんです。
 あの方々は、チューレンド王のお付の商人だと思っていたから・・・。
 でもそうじゃなくて、ほかにも行き来しているなら、勿論・・・
 他の王のところ・・・
 こう思うのは自然ですよね」
 セルヴィシュテはにっかりと笑った。

 表情こそ笑ってみせた少年セルヴィシュテだが・・・
 心境は穏やかではなかった。
 また、商人と出会うとは思っていなかった・・・
 それが都合よいというなら、確かにそうだろう。
 でも、それはまだ序の口なのだ・・・

 チューレンド王の城のような・・・
 あのような、城なのだろうか?
 ラマダノン・・・





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Last updated  February 2, 2014 04:42:15 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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