Accel

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January 31, 2014
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「この銀貨はまあ、支度金だ。

 新調し、見目も悪くないようにし、隣国へ行く。
 この銀貨。
 早い者勝ち。
 さあ、恨みっこなしだ。
 早く来たもの順にやろう。
 身支度をして、俺についてこい」

 タツーーーーーン・・・・


 木々の葉から、雫がまた。
 落ちた。

 大きな木の傍にいた少年・・・
 セルヴィシュテは、レガンの姿が見えなかった。
 しかし、目の前の少年達は、動こうとする気配はない。

 足元の水溜りに、茶色の自分の姿が崩れた格好で映っていた。

「なあ、ラトス」
 セルヴィシュテは、ラトセィスの方を何度も見た。
 これで、この会話は何度したであろう。
 ラトセィスは、仕方ないですね、といった感じで、顔を僅かに振った。

 ザ、・・・

 歩き始めた。
 ハーギーであった少年達が、驚愕の目線でそのセルヴィシュテの姿を追う。
 ある者は体をどかし、ある者は批難するように、ある者は息を呑みながら。

 服があちこち焦げている少年が、ゆっくりと、歩み進めると、レガンの姿が目に入った。
 レガンの足元に、銀貨が4枚。並んでいた。

「あ、えー。
 俺は、こちらの皆さんの仲間ではないので、部外者で付いて行っていいですかね?
 部外者には、身支度金はいらないと思います。」
seruregann.jpg
 セルヴィシュテが言った途端!
 数名の少年がレガンの前に駆けつけた!
 彼らは、お互い牽制の火花を散らしたが、流石にどちらが早く着いたかは己が一番判るというもの・・・
 早いもの順に、4人。並んだ。
「レガン。
 ラマダノンへ付いて行く・・・
 身支度なんて、クソくらえだ!!!!!」

 と、レガンは余裕の笑みを見せた。
「お前ら・・・
 結構、鈍いぜ」


 セルヴィシュテは、これまで歩んできた旅で・・・
 ラトセィスと離れるのは、初めてであった。
 が、ラマダノン。
 彼を、駆り立てる、その国の名前・・・

 そして、ラトセィスは・・・
 ラマダノンへは”行けない”と言ったのだった。

 どうしてか?
 判らなかったが、聞かなかった。
 このハザの・・・
 王子であった、ラトセィス。
 であれば、出入りできぬ国も、あるのであろう・・・
 国交というのは、えてして、そのようなものであろうから。

 ラトスと離れるのは心配だったが・・・
 でも、ラマダノンに行かないのもまた、心残りである。
 ラトスは意外と、ハーギーの人々となじんでいたようだし・・・
 それに、最近疲れているようだし・・・・・

 ラトス・・・
 俺が、代わりに、見てくるから。
 今の、ラマダノンを。


 セルヴィシュテは、班の女性に、服を縫って貰っていた。
 ハーギーの時、富豪に買われ、裁縫を教わったのだという。
 優しい雰囲気のその女性に、セルヴィシュテは見ぬ母を思い描いた。
 ラトセィスも、班の同じ位の年の少年と、パオの焼き方とか、ロワベの村の話で盛り上がっている。
 そんなラトスを見ていると、エルダーヤで何も知らずに育った自分は、幸せだったのだな、とつくづく思うセルヴィシュテであった。
 目の前の女性も、ハーギーで辛い思いをしているのだ・・・

「ラトス、6日くらいで戻るってさ。
 それまで、おとなしくしてろよ?」
「どっちがですか」
 こうやって、少しは嫌味みたいな会話までできるようになってきたラトスと、少しばかり離れて・・・
 見ぬ王国、ラマダノンへと。
 レガンと共に、行く事にしたセルヴィシュテであった。


 レガン達・・・レガン、ルッカ、リュー、オガラ達は、全く、あの班を出たときの格好そのままであった。
 セルヴィシュテの目からみても、異形である。
 それぞれが、異なる甲冑・・・形も年代も違うものを、見に纏っている。
 それらは、明らかに大量の返り血を浴びた跡がある。
 まあ、そのぐらいなら・・剣士であれば、致し方ないかもしれないが。
 醸し出されている雰囲気が、まるっきり、”普通の少年ではなかった”。

 どこをどう表現したらよいのやら。
 その目つきや態度。
 その足の歩み。
 全てにおいて、無駄もなく、研ぎ澄まされ、危険な雰囲気が漂っている。

 しかも面白いことに、本人達にはその自覚があるらしく、少しはその雰囲気を抑えようという努力をしているようである。


 いやしかし。
 これじゃせめて、格好くらい、やっぱり代えたほうがいいよと、セルヴィシュテは思うのだが、そのセルヴィシュテもまた、ボロッボロの上着を縫い合わせた物を着ているから、人のことは言えない。
 言い方を一つ誤れば、”危険な集団”に、一人だけ、人質めいた少年が一緒にいるかのような、なんとも釣り合いのないご一行であった。
 ご一行は、西へと向かっていた。
 一人だけ、やや、小走りであった。
 勿論、”まるで人質のような少年”が。
 その他の少年にとっては、その速度が、普通の速さであった・・・・

 風が、駆けて行く。
 若々しい少年達の後ろから。

 どこまでも、障害などなく吹き行くその風に、茶色の髪が揺らめいた。
 ラマダノン王。
 お遭いしないと、始まらないのだ、全ては。

 俺の、この布のことと・・・
 あと、きっと、ラトスのことも・・・・

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Last updated  January 31, 2014 10:46:18 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
風とケーナ @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) 月夜見猫さま、こんばんは♪ いつも本当に…
オスン6757 @ Re:「フィギアスケート選手を応援しよう!」(02/18) おはようございます。 いつもありがとう…

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