ハートをわしづかみ!!

ハートをわしづかみ!!

2006.05.17
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カテゴリ: シゴト
・・・なんて、スカして言ってみたいものだ。

銀行にいたとき私は何度か泣いたことがある。
その「何度か」の全てを思い出すことができる。
悲しくて・・・というのは人と別れるときばかりで、
悔しくてというのが大半であとは嬉し泣きだった。
一度をのぞき、人前で泣いたことはない。
しかもそのたった一度は人に見せるために泣いた。
うそ泣きだ。

入行3年目の春、恒例の採用活動に参加していた。

出身大学ごとにチームを組み、自分の後輩達をリクルートするのだ。
チーム内では出身学部や体育会などのしばりでいくつかの班にわかれていた。
私は経済学部班所属。班長は1年先輩のAさんが、
全体のチームリーダーは2年先輩のBさんがやっていた。

Bさんは入行が私と同じ支店だったこともあり、
私のことをとても気遣ってくれるいいアニキだった。
いや、私にだけでなくみんなから慕われる親分のような人だった。
前年度は4年目だったBさんが経済学部班の班長で活動したのだが、
私が活動に対してあまり乗り気でなく、よくBさんに注意された。
その反省もあったし、今度はBさんが全体のリーダーだったのでわりと頑張って活動していた。
私の担当した学生がトントン拍子で内定をもらい、後輩達も私の姿を見て活動のやり方を学んでいった。


私が頑張っていたのはもうひとつ理由があった。
私の同期・・・平成10年入行の総合職と1年下の11年入行総合職との間で研修プログラムの見直しがあった。
そのせいで、平成10年入行組に色々としわ寄せが来ていた。
最大のしわ寄せは、
人事部が11年入行者を先に法人業務のジョブローテーションに組み込んだことだった。

後輩が法人業務の見習いに入るということは、
支店の中で若手に任せられる仕事・・・雑用に近いことまで・・・を引き続き我々がやらなくてはならなかった。
「俺達のことはどーでもええんやね!!」と見捨てられたような気分になり、
私の同期の多くが仕事に対するモチベーションを失くしていた。
元気がない同期に「もうちょっと頑張ろうよ」「人事部をギャフンと言わせてやろうよ」
と私は言い続けていた。
一方で人事部に対しては
「こういうやり方で平成10年組のモチベーションを下げていることにたいして
人事部としてはどういう考えをお持ちなんですか!?」
と、機会があるごとに食って掛かっていた。
そんな私だったから、人事部の権限の下でやる採用活動でも絶対に手を抜きたくはなかった。

そんなある日、そろそろ帰ろうかとしているとBさんがやってきた。
「はよ帰れよ」
「今日はもう帰ります」
Bさんはしげしげと私を見つめて言った。
「華岡、 今年は ようがんばってるやんか。みんな言うてる」
ああ、去年の私と比べてるのね・・・・と私は思った。
「私も3年目ですから、要求されるレベルは違ってきますからね」
Bさんはふふーんと言って、ニヤッと笑った。
「まあ今のお前、支店で大した仕事もしてへんからな」

<『大した仕事してへん』って!?>
一瞬めまいがした。
私や同期が同じ場所に足止めされて、
モチベーションを維持するために必死で戦っているのはBさんも知っているはずだった。
しかもその人事部のやり方について、「絶対問題がある!!」とつい最近議論したばかりだった。
何よりも、大好きなアニキであり若手のリーダーとして期待しているBさんには冗談でもそんなことを言って欲しくなかった。
<Bさんに謝らせなきゃ!!
自分がどれだけ華岡のモチベーションをぶち壊したか反省させなきゃ!!>
しかしBさんはいつも私を冗談でからかい、私を子供扱いしておちょくる達人だ。
「そんなこと言わないで下さい!!」
と正論をもって議論へ持ち込む正攻法では、ハイハイとなだめられるのがオチだ。
Bさんに「本当に悪いことを言った」と悟らせるためには・・・・。
<泣くしかない・・・か>

判断から行動まで1秒とかからなかったと思う。

中学~高校時代に自己流で訓練した私は、実は自由に泣くことができる。
北島マヤや小早川志緒並みとまではいかないが、ある程度コントロールがきく。
私はBさんをみつめながらゆっくりと両目に涙をため、
ほおの一番高いところまで伝わせて止めた。
鏡を見なくても、自分がどんな表情をしてどういうふうに周りの目に映るかは把握していた。
あくまでもテクニカルなやり方だと思うのでオーディションは落ちるに決まっているが、
若手銀行員をビビらせるには十分だったはずだ
「おい!華岡!!」
Bさんが真剣な顔になり驚いて声を上げたので、周りのメンバー達もいっせいにこちらを見た。
私は涙をあふれさせながら壁を向き、自然に出そうになってくる声を無理やり押し殺した。
こうすると嗚咽になるのを知っているからだ。
「華岡、済まなかった」
Bさんが真剣な声で謝りながら、私に近づいてきた。
どうやら、自分の言ったことの重大さを悟ったらしい。
しかし、いきなり泣き止むのも変なので、自然にフェードアウトしようとしたのだが・・・・。
「どうしたんや華岡!?何かあったんか!?」
いつもクールで女性の涙にさえ動じないはずのAさんまでも飛んできたうえ、
人事部の役付者までが部屋に入ってきた。
<やばい!!やりすぎたかなあ・・・>
私はBさんの手を振り払い、部屋を飛び出した。

姑息な手段を使ったものだと思う。

だけど、これ以上に効果的な方法は他になかったと今でも思っている。
この時の私はBさんに人の気持ちのわかるいいリーダーでいてほしかったのだ。
生意気だった3年目の私。

少し後でうそ泣きの真相を告白して謝ったら、やさしいアニキは許してくれたけどね。














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最終更新日  2006.05.18 11:09:59
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