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深夜近くの社内。先輩社員二名を含めた男性陣が、結婚トークで盛り上がっている。先輩A「オレ、あした友だちの結婚式なんだよ~」先輩B「ええっ、そうなんですか? 実はボクも来週いとこが……」先輩A「結婚はさ~、いいと思うんだけど、自分の子どもができるのって、 ちょっと想像できないよね」やがて話題は、結婚→出産→育児へと発展し、問題は、養育費がどうだとか、夜泣きが続いたら大変だなどと、もっぱら子育てに対する心配事に集中した。先輩B「はぁ~、先が思いやられますねぇ」そんなBさんのため息が社内の空気を包む頃、Aさんがこれまでの議論を一蹴するかのように、こんなセリフを吐いた。先輩A「オレ、親にこう言われたことがあるんだよ。 “飛び込め。子どもと一緒に育つんだ、親は”」先輩たちの会話はその後もしばらく続いていたが、僕はいま耳にした言葉の意味を噛み締めるべく、少し仕事の手を休めることにした。そもそも、「結婚」というと、僕にはなにかとてつもなく大そうなイメージがあり(いや、実際に大そうなのだが)、夫婦となる二人はよほどの覚悟をしているか、あるいは非常に成熟しているといった観がある。しかし、実際のところはどうなのだろう。僕の周りで結婚した連中のことを考えてみると、「子どもができちゃったから」だの、「学生時代からよく知っているから」だのと、案外、勢いというか、どこかウキウキした気持ちで籍を入れてしまう人が多いように思う。考えてみれば、僕と歩んできた道は違えど、生きてきた年数に変わりはないわけで、両者の間にそれほど差があろうとは思えない。だとすれば、彼らもやはりAさんのお母様が言ったように、結婚生活に飛び込むことで、初めて親としての自覚を持ち、子育てとは何たるかを学んでいくものなのかもしれない。そしてこれはなにも、結婚だけに限ったことではないだろう。たとえば、新しい学校や職場、友人関係やうまい女性の口説き方など、事前にいくらマニュアルを読み、周到な準備をしてみたところで、現実はそれよりもっと切実でリアルな問題を、目の前に突き付けてくる。Aさんのお母様が口にした、「飛び込め。親は子どもと一緒に育つんだ」という言葉は、「人間は環境の中で成長していくものだから、恐れず世の中に飛び込め」という、息子Aさんに向けた激励のメッセージであるようにも思う。在学中に飛び込んだ出版業界、卒業後のライター活動に加え、編集プロダクションでのアルバイト。思えば僕も、生半可のまま飛び込んだ世界の中で、精いっぱい身をよじらせながら、人生で本当に必要なものの多くをつかみ取ってきたような気がする。
Nov 17, 2003
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今から1ヶ月ほど前、僕はめずらしい機会に居合わせた。その日、いつものように夜おそく、通勤帰りの電車に乗っていると、どこからか、「いい湯だな」(ザ・ドリフターズ)の軽快な着メロ音が聞こえてくる。こんな時、必ず誰かが大慌てでカバンの中を探りだし、ケータイの電源をプチッと切ってしまうのだが、その日はしばらく経っても、誰もそんな素振りを見せる者がない。車内はこのあたりで、「おいおい、誰がとるんだ?」という雰囲気になりそうなものだが、ケータイは相変わらずノーテンキな音を響かせている。さらに2秒、3秒と経ち、メロディは本編の「ババンババンバンバンッ!」に突入。ここらへんで間違いなく乗客のせき払いや、チッと舌打ちする音が聞こえてくるはずなのだが、今夜に限ってはそれすら聞かれない。そうこうしているうち、メロディは「いい湯だな、アハハ~ン♪」のフレーズをも通り越し、いよいよ「ゆげが天井から……」のパートへ進入。さあ、いいかげん誰かが怒鳴り出すぞっ……と、内心ヒヤヒヤしていた僕は、しかし、周りの景色を見渡してみて驚いた。このにぎやかな車内には、三十秒あまりの間、着メロの大コーラスを聞かされて、誰も気にした素振りを見せる人がいなかったのである。誰も止め手のないメロディは、そのままますます勢いづき、お馴染みの「はぁ~、ビバノンノンッ」や「はぁ~、ビバビバッ」のフレーズを炸裂させるなど、ノリノリの演奏を続けている。発信元となった人物は、この大きな音にも気付かないほどよく眠っているのか、設定した着メロの音を忘れているのか、とにかくそのメロディは鳴り続けた。そして、とうとうフルコーラスが終わった。考えてみれば、今日は金曜の夜。仕事で嫌なことがあったサラリーマンも、テストで赤点を取った学生も、みなみな一週間の勤めを終え、些事にはこだわらぬ心持ちになっているのかもしれない。その日、耳障りなはずの着メロ音は車内のBGMとなり、吊り革につかまっている人たちも、どこかしら心地よさげに揺られているように見える。僕はまだ耳の奥に響く、「風邪ひくなよっ」「風呂入ったか?」という加トちゃんの声を思い出しながら、我がアパートの湯舟を無性に恋しく感じた。
Nov 9, 2003
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