「そういえば前にキオの故郷は桃の産地って言ってたね。俺の所もそうだけど」 「うん。桃で有名な所だったの。但し私が住んでいた地域では栽培されてなかったけど。うちのすぐ裏は大きな川の下流でね、少し南に行くと海に繋がってた。毎日部屋の窓から川を眺めてたわ。子供の頃はよく友達と一緒に川で貝を拾ったり魚を釣ったりして遊んだものよ。冬場は夜になると白魚漁の集魚灯が川面に映えて綺麗だった。リッキーも家の裏が湖で、ボートを楽しんでいたんでしょ?」 「ん?ああ、80年ぐらいだったかな、バンドのメンバー達と共同出資して湖畔に建つ家を購入したんだ。でも地元の人達と揉めちゃって、結局3年足らずでマンハッタンに引っ越したんだけどね。もう一度水辺に住んで、思う存分ボートに乗れると嬉しいけど、この町には残念ながらそういう所はないんだよなぁ」 私達は故郷や子供の頃の話に花を咲かせながら、田舎道をぽくぽくと歩いた。歩きながらふと、ある曲の歌詩の一部が私の頭に浮かんだ。“The friends that have walked on before us are waiting to take us to laughter and dancing. The friends that have walked on before us are waiting to take us to the sky.” リッキーがこの世界へ来た数年後、The B-52'sは「Dreamland」という曲を作った。バンド仲間で、リッキーの学生時代からの親友でもあったキース(Keith Strickland)曰く、この曲は向こう側(彼岸側)に行ってしまった人に対するラヴソングである、と。リッキーが夢に現れて、何だかそれがとても心地よかったんだそうな。キースの前を歩き続けた友人は、今もこうして夢の国の田舎道を暢気に歩いている。 「ふふふ、リッキーってホント、歩きっぱなしね」 「?」