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2022.03.01
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カテゴリ: 歴史散歩
『ベケット、または神の名誉(Becket ou L’Honneur de Dieu)』は、12世紀のイングランドを舞台にした実話に基づく戯曲です。
征服王ウィリアムのひ孫で英プランタジネット朝の初代王となるヘンリー2世(Henry II of England)と、後にカンタベリー大司教となるサクソン人(実際はノルマン人)の貴族トマス・ベケット(Thomas Becket)の友情と葛藤を描いています。

劇の中で二人は、幼少期より一緒に悪戯を繰り返す親友同士でした。
ヘンリー2世は、ベケットの知性と熱意に敬服し、サクソン人という被征服民であるにもかかわらず彼を大法官に任命、全幅の信頼を置き、寵愛を与えます。
さらには教会を王権に従わせるため、カンタベリー大司教に抜擢します。

ところが、大司教になったベケットは、義務に対して常に忠実な聖職者に一変、教会の権利を守るために、ことごとく王権に歯向かうようになります。
業を煮やした王は、結果的に部下によってベケットを殺害させます。
ベケットはこれによって殉教者とみなされ、カトリック教会からも列聖に祭り上げられます。
立場を悪くしたヘンリー2世は、衆人環視の中で罪を懺悔させられます。



ここにはかつての親友であったが、後に立場上対立しなければならなくなるという二人のジレンマや葛藤が見事に描かれていますね。
易的に言うと、環境によってもたらされた運命が二人の関係を徐々に変化させてゆく様が見て取れます。

ヘンリー2世は王であるにもかかわらず、無邪気な悪ガキ(子供)のように描かれています。
その無邪気さは2の沢(兌)ですが、同時に王としては法と秩序を守らなければなりませんから、環境としては7の山(艮)がもたらされているわけです。
つまり、先祖からはリーダーシップ(1の乾)を取るように求められ、「兌」の魂を持つ王が、環境によってもたらされた「艮」によって、親友に代表される人間関係を意味する4の雷(震)を切り捨てなければならなくなったわけです。

実際のヘンリー2世もベケット暗殺事件の後、権威が失墜し、臣下の反逆や息子たちの離反や反乱を招くことになりますから、易的にも面白い符合が見受けられます。
人間関係の「震」が崩壊したことが示唆されるからです。

これに対してベケットは、知恵のある賢者のように描かれていますから、6の水(坎)の性質をもっています。
おそらく先祖からもたらされた性質だと思われますが、人間関係を大事にしたことから、4の「震」を持っていたことがわかります。
そして環境によって、大法官、大司教という、権威や秩序を守らなければならないという7の「艮」がもたらされます。
ベケットもまた、環境によってもたらされた「艮」を、「震」よりも優先させました。


ここで、ベケットとアンチゴーヌの面白い対比ができます。

アンチゴーヌは5の風(巽)を持っています。
一方、ベケットがもっているのは6の水(坎)。
7の艮(法律・権威)と4の震(人間関係)の対立ができたとき、前者が4を選び、後者が7を選んだのは、魂の性質がそうさせたのであるとも考えることができます。
易では4が5を招き、6が7を招くからです。


このようにアヌイの戯曲は、環境によってもたらされた「艮」にどのように対処したかをテーマにした作品が多いように思われます。
クレオン、アンチゴーヌ、ヘンリー2世、ベケットとそれぞれが違った選択をしたのは、魂の性質や持って生まれた個々の運命がもたらした然るべき結果であったと、易的に解釈することができるのです。
(続く)





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最終更新日  2022.03.01 18:05:09
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