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2022.03.12
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カテゴリ: 文学・芸術
プルーストがなぜ無意志的記憶や想念を重視したかというと、理性による思慮・選択という意志が介在すると、そこに当時の道徳や既成概念が必ず忍び込むからです。
そういう観念が忍び込むと、作品は体のいい、偽善的な教会の訓諭のようになります。
心の奥底に眠る人間の本質に迫る作品を生み出すために、時流や時勢、特定の観念を切り捨てる必要があると考えたのだと思います。

無意志的想念を活用することによって、これまでタブー視された同性愛に対する偏見や欺瞞的貴族社会の価値観といった既成概念に支配された壁を破壊することができます。
実際に物語も、その既成概念への疑問もしくは挑戦を背景にして展開してゆきます。
しかしながら、それだけでは、オカルト的世界に入るにはまだ足りないんですね。

本当に宇宙の真実や神秘性に近づきたければ、無意志的想念からさらに一歩進んで、無意識的想念に入り込まなければなりません。
というのも、無意志的想念だけでは自分の願望、欲望といった無意志の領域に潜む「感情のゴミ」を排除できないからです。
余分な思考を介在させると、願望や欲望の虜になり、真の神秘的な様相が見えなくなります。


もちろんプルーストも無意識の領域のことを無意志の領域と同一視していた可能性はあります。
ただ、意志を「理性による思慮・選択を決心して実行する能力」と定義するのだとしたら、それだけでは足りません。
無意志的に偶然に起こる出来事や過去の思い出をただ羅列すればいいというモノではなく、その偶然の羅列を意志の力で読み解かなければならないからです。
むしろ意志を持ちつつ、無意識の領域に分け入る必要があるとさえ言えます。

プルーストも、「無意志的領域」から一歩進んで、潜在意識に「意志」を落とし込みつつ、「無意識的領域」に広げた想念を喚起することができれば、きっとさらに広大無辺な新たな地平線を拓くことができたはずです。
それができれば、たとえば主人公の「私」は、マドレーヌの香りから、幼時のコンプレーの記憶がまざまざと蘇るだけでなく、ある特定の時代に生きた過去生の自分を思い出すことも可能でした。
無意識の領域は宇宙(神)とつながっていますから、時間や空間すら超えた壮大な宇宙的物語が実際に展開していることを知ることになったはずです。

しかしながら、退行催眠にみられるような無意識や潜在意識の領域の活用といったオカルト的技法は、今日ですら、オカルトを毛嫌い人たちによって疎んじられているわけですから、当時はそこまで踏み込まなくて良かったのかなと思っています。
後述しますが、そこに行くには、まずジョイス的な「意識の流れ」の手法が必要になります。

プルーストは無意識の領域に入る一歩手前まで到着していたのです。
それは彼が『失われた時を求めて』の冒頭で語られる真夜中や未明のまどろみがもたらす半覚醒状態の描写からもわかります。


さらに偶然がもたらす記憶(たとえば亡き祖母の記憶)の想起も、ほとんど無意識の領域のそばで起こります。
それが「意味のある偶然」であることに気づくかどうかで、無意識の領域に入ることができるのです。

この無意志的想起と無意識的想起の違いを知るには、私が退行催眠の実験をした時の経験が役に立ちます。
(続く)





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最終更新日  2022.03.12 15:28:10
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