ＣＲＹＳＴＡＬ　ＤＥＷ

　　なぁんとなく、息苦しい。どきどきする。涙が出そうになる。

　　私がパソコンに向かっているときには、丸ちゃんは部屋をのぞくことなく自分の

　　寝室に向かうのだが・・・　今日は違った。　

　　「ばあちゃんが何かへんやぞ」

　　「へん・・・って何が？」

　　「おかしなことを言っとる」

　　「なんて」

　　「庭にたくさん人がおるとか、犬がおってなんたらかんたら・・・」

　　え？？

　　テレビを見てブツブツ言うことは日常茶飯事だし、犬はサブがいるから問題ない。

　　庭に人がたくさんいる、っていうのはちょっと考えてしまうけど。

　　下に下りて部屋をのぞいてみる。

　　ごはんに鰹節をかけた「ねこまんま」を食べている。これもおかしなことではない。

　　母は味噌だけをご飯にのせて食べたり、かつおぶしとしょうゆだけのせたご飯を

　　食べたりするからだ。

　　「どうしたの？」

　「魚を食べようとしたらなくなっている」

　　「魚？」

「ここに持ってきたのに無くなっている」

　　指差すところにはタオルがあるだけで、確かに何もない。でもすぐそばにそれはあっ

　　た。

　　「これがそうじゃないの？」 

　「あ、ここか、どこにいったのかわからんで行ったり来たり何べんもしたんや」

　 「犬が何度も入ってくるで！おまえの躾ができとらんっ！！」

　　サブはたまに母の部屋付近をウロウロするけど・・・

　　う～ん・・・

　　庭におりて干したタオルを取り入れながらチラッと母の様子を見てみる。　　

　　母はテレビを見つつ、かつお節ご飯を食べている。

　　目と目があった

　「何を乗せとるんやって」

　　「は？何？」

　「何を背中に乗せとるんやって」

　　「これか、ひざ掛けを巻いとるんやて、２階でパソコンさわっとったで。クーラー効いとっ

　　てでさ」

　「ちがうわ、犬に何をかけて押さえつけとるんやて」

　　ああ、もう、もう、わけわからん、何を言ってるの？？

　　「犬なんて庭にはおらんて、うちは２階におったし、丸ちゃんはそこで寝とったし」

　　なんか、釈然としない様子の母だった。

　　なんか、変だ。イライラした様子で、自分の言っている事が通じないように思うのか

　　切れ気味で。入れ歯も入っていないから空気が抜けてうまく喋れないみたいだし。

　　なんか、変。

　　なんか、いや。

　　胸が苦しい。

　　父が亡くなってから病院に行くこともなくなった。それは決して健康になったからでは

　　ないと思う。

　　病院に連れていこう。血圧の検査をしてもらおうって・・・

　　なんか、いやだ。