相川彰一の Keep Walking ~歩き続けよう~

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カテゴリ: 小説
 ★毎週、土曜日の朝に連載している小説の続きです。

===
前回の続き
 「こちらからの積極的なモーションの結果、悪い事態を迎えて、最終的に“彼女”を失ってしまうのが怖いのも事実なんです」
 「嫌われるのが怖いか」と阿部さんは言うと、プツッと電話が切れた。ツー、ツーという機械音だけが残った。すぐにかけ直したが、つながらなかった。仕方なく、携帯を脇に置いてベッドの上に転がり天井を見つめた。いろいろな言葉が、起承転結も何もない、思いつきの寸劇を見ているような感じで頭の中を駆け巡った。
===

 愛している。今、彼氏とはどういう関係なの?このままでは、宙ぶらりんだ。
 彼氏とは、どうするつもりなの?それが分からないと、自分の気持ちの整理がつかないんだ。
 何でもいいから、ストレートに今の想いを“彼女”にぶつけてみよう。その結果、 “彼女”は恋人と別れるかもしれない。反対に、自分がフラれるかもしれない


 考えれば考えるほど、自分が何を考えているのか分からなくなってきた。気分転換したいと思い、意味もなく本棚にあった本に手を伸ばし、ページをめくった。パラッと一枚の写真がこぼれ落ちた。年配の友達らと以前訪れたキリンビール工場での写真だった。その写真を見ながら、ボクは以前年配の友人から聞いた話を思い出した。
 「俺は今の妻とは遠距離恋愛でスタートしたよ。今のような携帯もインターネットもない時代だったからね、大変だったよ。電話をするだけでも緊張したし。でも、ボクは自分が相手と結ばれると信じていたな。『縁』は存在すると思うよ。出会いも縁。結ばれるのも縁。六十四億もの人間の中から運命の出会いが生まれ、一生を共にする付き合いが始まるるんだから、その確立は六十四億の二乗分の一。奇蹟以外の何ものでもないよ」
 ふとボクは“彼女”の顔が見たくなった。携帯の画面に保存している”彼女”の写真を取り出した。整った顔のライン。知性と優しさに包まれた、にっこり笑った笑顔。いつもと変わらない“彼女”がそこにはいた。
 「結果は重要じゃないのかもしれない」
 そう思いかけたとき、携帯の画面が変わり、阿部さんの名前と番号が映し出された。その電話を取ると、阿部さんが、ごめんね、バッテリーが切れたみたいで充電器を探してたのと言ったので、いいですよ気にしてませんから、とボクは答えた。
 「それで、受話器を探してる間に前田さんのことを考えたんだけど、どうやら前田さんは、その“彼女”に彼氏がいるから告白できないというよりも、ふられるのが怖くて告白できない、というのが真相じゃないの?」
 「分かりますか?」
 「分かるわよ。誰だってそうよ。彼女との恋愛よりも、自分が傷つかないことを優先しているように思える、っていのは言い過ぎかしら?女性の立場で考えれば、保身だけを考える男って、すごくだらしなく映るの。何よりも自分との幸せを最優先してくれることを女性は望んでいるからなのよ。虎穴に入らずんば虎児を得ず、よ。
 失恋なんていう経験は無いに越したことはないけど、きっとその人にとってより素敵な人と出会えるステップになるかもしれないし、もっと良い人生となるための通過儀式になるかもしれないわよ。
 思うままに行動する。前田さんに今必要なのは、こんな考えじゃないかしら?」

 「思うままに行動してみればいいじゃない?」
 阿部さんの最後の言葉が、何度も頭の中をこだましていた。

<続く>





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Last updated  2006年08月05日 09時23分15秒
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