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2026年10月06日
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カテゴリ: 読んだ本


何年か前、蜻蛉日記を読んだことがある。
雨の庭を眺め、なかなか来ない夫を待つ女人…というのが全体の印象だった。
藤原兼家は位人臣を極めるほどの男でもちろん常人ではないのだが、一流の政治家らしく豪放磊落といったところがあり、そこが繊細な芸術家肌の筆者とは気が合わなかったようだ。実際に気性が合わないといったようなことは筆写本人も書いてあった。
兼家の正妻の座を勝ち取ったのは時姫で彼女とて家柄は道綱の母と似たり寄ったりだ。才色兼備の誉高い道綱の母としては、彼女に一番嫉妬しそうなものなのだが、文中にそれらしい記述はない。ただあちらには子供が沢山いるので…と達観している様子だ。蜻蛉日記が世に出たころには道隆も権力を得ていたし、時姫の息子達の繁栄はゆるがなかった。時姫のことを悪くは書けなかっただろう。時姫がどれほど優れた女性だったかはともかくとして、一夫多妻の時代の妻同士の競争では、どれだけ優秀な子を何人産むかということも重大な要素だったと思われる。
それでも道綱の母は当時の貴族社会の中では権門の婦人で美しく歌才ある女性として羨望の的であることにはかわりない。そんな女性が自身の悩みを赤裸々に書いたということで、文章自体の流麗さだけでなく、その内容自体が貴族社会の女性にうけたのだろう。あんな恵まれた人でも本当は…というのはいつの時代でも人々が大好きな話題である。そうした蜻蛉日記の中で嫉妬をあからさまにぶつけているのは町の小路の女である。あたりまえだが当時と言えども平安貴族が皆寝殿造りの邸宅に住んでいたわけでもないし、身分の低い女との間に生まれた場合には貴族とも庶民ともいえない身分で過ごす場合もあるだろう。町の小路の女のことなら筆者も好きなだけ書ける。
素性も分からず、行方も知らない母の婚外子として生まれた室生犀星は、町の小路の女に母を重ね、時姫とも道綱の母とも違う理想の女性として描いている。詩人が母を愛惜して書いた小説としてはそれなりに読ませるのだが、普通に歴史小説、いや単に平安時代を舞台にした小説として見ると、それほど出色の出来とは思えない。杏っ子は、娘の別れた夫についてここまで描くのはどうかとも思ったが、非常にリアリティがあり、読ませたのと対照的だ。むしろ「かげろうの日記遺文」は小説と言うよりも、蜻蛉日記に仮託して母を描いた詩のようなものなのかもしれない。





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最終更新日  2026年10月06日 12時10分03秒
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