2006年03月15日
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成金|気質《かたぎ》
 欧洲戦乱は誰も知つたやうに、其辺《そこら》ぢゆうに成金を拵《こしら》へて、成金|気質《かたぎ》といふ一種の気風さへ出来たが、その気質《かたぎ》にも東京と大阪とでは、大分色彩《だいぶんいろ》が異《ちが》ふところが面白い。
 東京の成金は、資金《かね》が出来ると、誰に勧められたともなく、直ぐ茶器を集めにかゝる。そして文琳《ぶんりん》の茶入とか嫩古《のんこ》の黒茶碗とかに大金を投げ出して、それを手に入れる。
 出入め骨董屋が焼鳥のやうに滑《すべ》つこい頭を前へ突出して、
 「檀那、どうも素敵な物がお手に入りましたな。ところで文琳と嫩古とかう揃へてみますと、是非一つ一休の一|行物《ぎやうもの》が無くつちやなりませんな。」
 「俺《わし》もさう思つてたんだよ。金は幾らでも出すから、一つ捜し出して貰ひたいもんだな。」と成金は顔を蟄《しか》めて薄茶を一服ぐつと煽飲《あふ》りながら「あの人の書いた君が代の歌つて無いもんか知ら。」
 「さあ、無い事も御座いますまいて。」
と骨董屋は物の五日も経たないうちに、一休禅師の書いた君が代の歌を担《かつ》ぎ込んで来る。
 かういふ訳で、東京の成金といへば、茶人と言はれるのが何よりの自慢で、誰も彼もが流行のやうに大金を投じては、いか様《さま》な茶器を集めてゐるが、大阪の成金には、そんな道楽は薬にしたくも無い。

 唯もうせつせと自《フちフ》分の仕事に精を出す。そして咽喉が渇いたら、有合せの安茶碗で番茶をぐつと煽飲《あふ》る。これが上方《かみがた》成金の心意気である。
 往時直江《むかしなほえ》山城守〔兼続《かねつぐ》〕は坊さんの承兌《しようたい》に贈つた手紙に、
 「其の兵器を鳩集《きうしふ》する所以《ゆゑん》のものは、恰《あたかじ》も上国孱士《やうこくせんし》の茶香古器を玩《もてあそ》ぶが如し。東陲《とうすい》の武夫《もののふ》皆弓槍刀銃を嗜《たしな》まざるなし、これ地理風質の異《ことな》るに依《よ》るのみ。」
と言つて東国人が茶器を玩ばないのを、大層もなく吹聴したものだ。
 山城め、江戸成金の茶道楽を聴いたら、銀行の監査役のやうに鼻を蟹《しか》めてぶつ/\呟《ぼや》くだらうて。





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最終更新日  2006年04月17日 00時38分15秒
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