2006年03月16日
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三宅博士
 福岡医科大学の眼科教授大西|克知《よしあきら》博士が、人並すぐれた疳癪持であるのは、医者仲間に聞えた事実で、少し気難《きむづか》しい日にでも出会《でつくは》すと相手が誰であらうと、よしんぱサンタ・クロースのやうなにこ/\爺さんであらうと、氏は委細構はずいきなり自分の診察室に引張り込んで、臉《まぶた》に一杯眼薬を注《さ》し込まずには置かない。
 先日《こなひだ》も大学で教授会が開かれた。その折、医院長の三宅速博士が起《た》つて一|頻《しき》り何か喋舌《しやべ》つた。その言葉の端が大西氏の焦立《いらだ》つた神経に触つたものか、博士のお喋舌《しやべり》が済むか済まないうちに、大西氏はいきなり焼火箸《やけひばし》のやうな真赤な言葉を投げつけた。
 「禿茶瓶、要らぬおせつかいをするない。」
 それを聞くと、三宅博士は行《ゆ》き詰《つま》つたやうに黙つて大西氏の席を見た。そして検見《けんみ》でもするやうに自分の頭を頸窩《ぽんのくぼ》から前額《まへびたひ》へかけてつるりと撫で下してみた。成程大西氏の言ふ通り禿茶瓶には相違なかつた。
 お人好しの博士は初めて自分の禿頭に気が注《つ》いたやうに一寸変な顔をしたが、直ぐ例《いつも》の静かな表情にかへつて、
 「なんぼ禿茶瓶かて、言はんならん事は言ふわい。」
と云つてその儘席に着いた。居合した人達は一度に吹き出して了つた。疳癪持の大西氏も毒気《どくき》をぬかれて一緒になつて笑ひ出した。
 「なんぽ禿茶瓶かて、言はんならん事は言ふわい。」






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最終更新日  2006年04月18日 11時26分08秒
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