近代日本文学史メジャーのマイナー

近代日本文学史メジャーのマイナー

Calendar

Archives

・ 2026.10
・ 2026.09
・ 2026.08
・ 2026.07
・ 2026.06
・ 2026.05
・ 2026.04
・ 2026.03
・ 2026.02
・ 2026.01
全て | カテゴリ未分類 | 明治期・反自然漱石 | 大正期・白樺派 | 明治期・写実主義 | 昭和期・歴史小説 | 平成期・平成期作家 | 昭和期・後半男性 | 昭和期・一次戦後派 | 昭和期・三十年男性 | 昭和期・プロ文学 | 大正期・私小説 | 明治期・耽美主義 | 明治期・明治末期 | 昭和期・内向の世代 | 昭和期・昭和十年代 | 明治期・浪漫主義 | 昭和期・第三の新人 | 大正期・大正期全般 | 昭和期・新感覚派 | 昭和~・評論家 | 昭和期・新戯作派 | 昭和期・二次戦後派 | 昭和期・三十年女性 | 昭和期・後半女性 | 昭和期・中間小説 | 昭和期・新興芸術派 | 昭和期・新心理主義 | 明治期・自然主義 | 昭和期・転向文学 | 昭和期・他の芸術派 | 明治~・詩歌俳人 | 明治期・反自然鴎外 | 明治~・劇作家 | 大正期・新現実主義 | 明治期・開化過渡期 | 令和期・令和期作家
2010.09.15
XML
カテゴリ: 明治期・明治末期

『隣の嫁・春の潮』伊藤左千夫(角川文庫)

 そもそも「恋愛小説」というものを、私はあまり読んでいません。
 ……いえ、この言い方は、ちょっと違うかも知れませんね。

 例えば漱石の「前期三部作」、あれは恋愛小説なんでしょうかね。
 あれが恋愛小説なら(というかよく考えてみれば、三作の内少なくとも『それから』は恋愛小説ですよねー。テーマとしても、まー、普通そう理解しますわねー。)、私は恋愛小説の類をあまり読んでいないとはいえません。漱石はフェイヴァレットであります。

 「恋愛小説」と本の帯に銘打っていた小説に、村上春樹の『ノルウェイの森』がありますね。あの小説も、私は再三愛読させていただきました。
 今ふっと思い出したんですが、中河与一『天の夕顔』ってのもありました。本ブログでも取り上げています。あれもあっけらかんとした恋愛小説であったという記憶があります。

 とすれば、私は恋愛小説をあまり読んでいないのではなくて、どういった本が恋愛小説なのか、よく分かっていないと言うだけのことでありますかね。

 なるほど。考えてみたら、漱石がフェイヴァレットな作家であると言っておきながら、恋愛小説をあまり読まないもないものだという気がしてきました。
 漱石の小説は、全編三角関係小説だという説もあるほどでありますのに。(全編ホモセクシュアル小説だという説もありましたっけ。)

 さて伊藤左千夫であります。
 『野菊の墓』のみが人口に膾炙され、まー、「一発屋」といって一概に誤りといえない気のする作家であります。
 (でも、歌人としての業績は、なかなかのものがあるようです。小説家でだめでも他の文芸においては第一人者という人は、石川啄木とか高浜虚子とか、結構いらっしゃいますものね。伊藤左千夫は「一発屋」でもましな方です。)

 その『野菊の墓』は、なんかのほほんとした「ノー天気小説」という感じでしたが、今回の二作品も同様でありました。
 これがこの人の小説の「個性」なんでしょうね。何をとぼけたことを書いているのだと思わないでもないですが、これはこれで、私としては、今読んでもなかなか味があると感じました。
 基本的に、健康的な田園小説であり純朴な恋愛(性欲)を描いています。

 タイトル通りの二小説が収録されているんですが、内容としても繋がっています。『春の潮』は『続・隣の嫁』です。
 『隣の嫁』の方が純朴で、作品中に詩情が流れており、なかなかキュートな一作です。
 一方『春の潮』は、やや通俗性に流れ、描かれるエピソードも人物描写も類型的な気がしないでもありません。でも今読み直してみると、そんなあたりがみんな時代のパロディのように読めて、私としてはとてもユーモラスな作品と読んだんですが、ただそれは作者が企んだ効果なのか、……うーん、たぶん違うでしょうね。

 でも娘「おとよ」の望まぬ結婚話を勝手に進めて、こんな事を娘に喋る「頑固親父」は、今ではパロディ以外には読めないでしょう。

「おとよ……お前の胸はお千代から聞いて、すつかり解つた。親の許さぬ男と固い約束のあることも判つた。お前の料簡は十分に判つたけれど、よく聞けおとよ……ここにかうして並んでる二人は、お前を産んでお前を今日まで育てた親だぞ。お前の料簡にすると両親は子を育てても其の子の夫定には口出しが出来ないと言ふことになるが、そんな事は西洋にも天竺にもあんめい。そりや親だも、可愛子の望みとあれば出来ることなら望みを遂げさしてやりたい。かうしてお前を泣かせるのも決して親自身の為でなく皆お前の行末思うての事だ。えいか、親の考へだから必ずえいとは限らんが、親は年をとつていろいろ経験がある、お前は賢くても若い。それで我子の思ふやうに許りさせないのは、これも親として一つの義務だ。省作だつて悪い男ではあんめい、悪い男ではあんめいけど、向うも出る人おまへも出る人、事が始めから無理だ。許すに許されない二人の内所事だ。いはば親の許さぬ淫奔といふものでないか、えいか」
 おとよは此時はらはらと涙を膝の上に落した。涙の顔を拭はうともせず、唇を固く結んで頭を下げてゐる。母も可愛さうになつて眼は潤んでゐる。


 「向うも出る人おまへも出る人」というのは、「おとよ」も嫁として家を出てゆくべき女で、相手の「省作」も次男故養子に出るべき男だという意味であります。
 しかしこんな読みは、作品の成立時代を無視した邪道なんでしょうが、今となっては笑う以外に反応しようのない理論でありますなー、失礼ながら。

 というわけで、この二小説は、いかにも『野菊の墓』の作家の作品らしい、私としては、読んでいてとても楽しいものでありました。
 いえ、やはりそんな感想自体が失礼なのだという気はしないでもありませんが、その時代には高評価をされていても、今読めば作家の変なプライドや無理解や無教養のせいで、いやーな読後感の残る小説がいかに多いことかを考えれば、この二作品は、筆者の人柄の賜物といってもいいような「珠玉小説」だと、私は思うのでありました。


 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓

俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.09.15 06:41:29
コメント(2) | コメントを書く
[明治期・明治末期] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


恋愛小説のフシギ  
nao さん
恋愛小説って・・ホントなんなのでしょうね。
オトコの論理の網で、オンナの感性をとらえることができるものなのかどうか・・ワカリマセン。
漱石の小説・・自尊心の揺らぎを執拗に描出した稀有な作家という認識しております。結果、恋愛小説とは無縁の作家。自分も漱石は「フェイヴァレット」です。
中河与一『天の夕顔』・・憶えてません。
(「田園交響楽」「林檎の樹」「友情」「愛と死」・・同時期でした)
自分は村上春樹『ノルウェイの森』のよい読者ではないのですが、
「誰か自分たちのことを、もっと素敵に描いてくれないかなぁ・・」
と多くの女性たちが思い願っていて、
そんな描き方を巧みに村上は嗅ぎつけたのだと思います。
(誰も成しえなかったワケで、その手腕は凄い!)。
「隣の嫁」・・よい意味でも別の意味でも、もう書かれない小説でしょうか。因習の粘り気、その息苦しさに身悶えするさまは確かに「味」(佳品)であると、自分も思います。 (2010.09.18 21:53:24)

Re:恋愛小説のフシギ(09/15)  
analog純文  さん
 naoさん、コメント有り難うございます。
 ブログ中では、漱石作品が恋愛小説であることに触れましたが、ご指摘のように「結果、恋愛小説とは無縁の作家」という感じはとってもよく分かりますね。
 例えば、恋愛小説として読むと、女性読者は漱石作品に感情移入のできる登場人物がいないと思いませんか。
 しかし、女性読者にももちろん漱石愛読者は多いわけで、そのような方は、おそらく「人間」として、登場人物に感情移入しているのだろうと思うのですが、いかがでしょうか。 (2010.09.19 08:09:57)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Comments

analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
シマクマ君 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  ボクも読みました。結構素直な作品とい…
analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
シマクマ君 @ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  昔、この作品が出たころ読んで面白かっ…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: