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2011.04.09
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カテゴリ: 昭和期・新戯作派

『白痴』坂口安吾(角川文庫)

 かつて坂口安吾の作品は、たくさん角川文庫に入っていたんですが、今はどうなんでしょうね。
 それは別に角川文庫だけの話ではないでしょうが、多くの文庫から、いわゆる「純文学」作品が次々と姿を消しているような気がして、私としてはとっても残念です。

 文芸作品に力を入れていると言われる新潮文庫でも、例えば三島由紀夫や大江健三郎や川端康成など、かつてはそれぞれ20冊~30冊くらいはラインナップがあったと思うんですが、今はどうなっているんでしょうか。

 さらに「売れ筋外し」の、採算度外視的な岩波文庫ですら(まー採算度外視なんて事は決してないでしょーがー)、純文学作品についておそらくは凄い数の絶版がありますものね、他の文庫は推して知るべしですかねー。うーん。

 そのかわりといっては何ですが、今となっては時代がかった純文学作品を少しずつ文庫本にしているのが、講談社文芸文庫でしょうか。しかしいかんせん、あの文庫本は、ビックリするくらい値段が高いですね。なるほど、現在では純文学作品を読むということはとても贅沢なことで、ヒマな金持ちしかしてはいけないということなんでしょうかねー。慎ましき暮らしの私としてはとても困ったことなんですがー。

 そこで、いきおい古書店巡りということになります。
 今回取り上げた文庫本も、古書であります。
 冒頭で触れた、かつてたくさんあった角川文庫版安吾作品の、もう一つ前のバージョンの文庫です。収録作品が三編しかありません。この三作です。

『白痴』『外套と青空』『青鬼の褌を洗ふ女』

 とっても薄い文庫本ですね。
 私がこれらの作品を初めて読んだ時の角川文庫の版は、これではありませんでした。もう少し厚みのある、つまりもう少したくさん作品が収録されていた文庫本でした。

 だからこれらの作品は再読なんですが、前回読んだ時の記憶はほぼ残っていませんでした。
 で、この三作の中では、『白痴』が頭一つ抜けて面白かったです。

 ただ、相変わらずというか何というか、やはり圧倒的に観念的な書きぶりですね。
 そもそも安吾の資質がそういったものなんでしょうが、エッセイについてはあれほど面白い安吾作品が、小説になるとどうしてこんなに、うーん、面白くないとは言いませんが、……うーん、やはり面白くないといっていいのかなー。

 でも、今回、『白痴』はとても面白かったです。
 図式としては、観念としての「孤独」や「白痴」などが相変わらず書かれているんでしょうが、空襲の中を白痴の女と必死で逃げ回るシーンにはかなりの迫力があり、大いに小説的肉付けのなされた展開になっていたと思います。

 ちょっと安吾について調べてみたのですが、この『白痴』と『堕落論』をもって安吾は時代の寵児となったという趣旨の文章を読みましたが、なるほど大いに納得できる評価であります。

 それに比べますと、『青鬼の褌を洗ふ女』は、安吾らしい、時代に対する鋭い目の付け方をしながら、作品のまとまりとしてはとても「端正」とは言い難いものになっています。

 今回特にこの『青鬼の~』を読んで、私は太宰治の晩年の作品との類似にかなり驚きました。
 『親友交歓』とか『饗応夫人』とか『男女同権』といった作品群です。テーマや漂わせているものが酷似していると思いました。

 もちろん同じ時代を描いた作品ですから、酷似していてもいいのでしょうが、しかし、こうして個々の作品を具体的に挙げながら比較すると、どうしても「優劣」を考えてしまい、そして太宰の作品に、圧倒的な「洗練」を感じます。

 例えばこの『青鬼の~』のテーマを一言で書くなら、たぶんこんな言い方が可能なんじゃないかなと思うんですが、こう。

私は格別うれしくもなく、
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」
 と言いました。


 この文章は、おや?と気づく方もいらっしゃると思いますが、太宰治の『ヴィヨンの妻』の結語であります。
 安吾が格闘して描いていたテーマを、実にさらりと、寸鉄人を刺すごとくに、太宰が表現として定着させていることに、惚れ惚れとするような太宰の才能が見られそうです。

 生きていさえすればいいと言うところに、時代の身の丈に応じた希望をつないでいく主人公達。それをニヒリズムと見ればそうなのかも知れませんが、精一杯のオプティミズムとしてそれを描くぎりぎりの世界観。

 これらの作品を読んで、今回特に私は、なんだか切ないほど「誠実」な安吾を想像してしまいました。
 いえ、もちろん、いつも安吾は、本当に命がけで文学と向き合っていたのでしょうけれども。


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Last updated  2011.04.09 09:39:49
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久し振りです  
今猿人 さん
太宰、安吾、織田作。これ、無頼三羽烏ですよね。
でもこの三人、何が「無頼」なのか、若い頃は分かりませんでした。と言うのも、作品はどれも皆、誠実で、しかも作風はそれぞれ全然違いますからねぇ。で、気付きました。なーんだ「無頼」なのは、その生活なのかと。でも只の酔っ払いでしょ。そんなに「無頼」かなぁ。

センチメンタルと言うか、断然「純情」なのは、今回の安吾ですね。会った事も、話した事も、一緒に酒飲んだ事もありませんが、これはまず間違いありません。
あとの二人はどうなんだ。太宰は何となく嫌な奴かな。織田作は、喧嘩上手な勤め人。うーん。よう分からん。

安吾、戦後に寵児となりますが、その頃、いろいろなエッセイを書きます。その中の紀行文。週刊誌か何かのシリーズものでしょうか? ある日、ある県を訪れます。秋田か山形か、確かその辺りです。その時、記者が聞いたのだったかな?
「ここの印象派どうですか?」
安吾
「ここは、私にとっては特別な所です。ここは、彼女が生まれ育った所です。」

その彼女とは、「吹雪物語」他、安吾の作品のモデルでもあったろう、若き小説家。終に一緒になれず、若くして亡くなった、悲恋の相手なのであります。

確か、そんなだったかな。 (2011.04.09 11:28:50)

Re:久し振りです(04/09)  
analog純文  さん
 今猿人さん、ひさしぶりです。
 コメント、ありがとうございます。
 太宰、安吾、織田作のうちの誰とつきあいたいかを考えると、うーん、私のような気の弱い人間は、誰ともつきあいたくないってのがたぶん正解だと思います。
 それは、少し前に本ブログに報告した、壇一雄の小説からもわかります。
 結局、優れた才能というものは、持っている人間にとっても、とても苦しいものであるということですかね。モーツァルト、ゴッホなどの例を挙げるまでもなく。 (2011.04.10 10:59:59)

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analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
シマクマ君 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  ボクも読みました。結構素直な作品とい…
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