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ネタバレあり。:::::上手く翻訳されたアメリカ探偵小説を読んでいる気分にさせる文体、発端の意外性のみならず、謎の着想からして奇抜。それでいながら、同じ設計の二つの屋敷のトリックと、最重要なストーリーの核になる謎は某名作の本歌取りであることを故意に読者に判らせる描き方なのは、むしろ気が利いている。作者の遊び心か、それともフェアな手がかりの提示だろうか。どちらも〇〇〇〇の作品なので、少なくともそのファンである私としては美味しく頂いた。スタンとケンとディーが三つ巴で捜査をすすめる展開で刑事小説の面白さが加わるし、探偵社のその他の面々が推理を合戦を披露する場面も多重解決ものを読む楽しさが感じられる。と、構築は非常に凝った読み物ではあるのだが、では要の謎の解決は如何なものかといえば、伏線の回収や推理のロジックが謎の複雑さに追いついていない。だから期待した謎解きは味気ないほど、 えっそんなので終わりなの?と拍子抜けし肩を落としたところであっけなく幕切れとなった。もとい謎を解決する探偵ピートの人物設定そのものが私には疑問である。取ってつけたように謎の日本人探偵があらわれ、唐突な事実を暴き立てられても違和感ばかりだった。探偵役はベッグフォード社のお仲間たちだけでも充分読ませるミステリーが描けたのではないか。同じく犯人像の造型も成功しているとは言い難い。犯人のどこからやってきたのか判然としないていの存在感のなさが、悪い意味で意外な人物でありかつ謎めいていると、こじつけられなくないが。謎を創造することには才能のある書き手だと思うので、他作も読んでみたいとは思う。出来ればピートコージもの以外で。
2020.04.29
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アメリカはメイン州、ベッグフォードのデクスター探偵社へ持ち込まれた奇妙な依頼。人里離れた屋敷で二人の探偵に一晩過ごして欲しい。そんな仕事を振られたスタンリーとケンウッドの二人の探偵が屋敷に赴いて遭遇したのは、血の海に横たわる4人の切断死体だった。首と片腕を切り取られた4つの死体は誰のもので、彼らは何故殺されたのか。誰が何の目的でそんな凄惨な犯行を、スタンたち二人に見せつけたのであろうか。理解不能な状態に陥ったスタンとケンは、一先ず探偵社に取って返し、所長のディーと警察を伴って事件現場に戻たものの、死体は忽然として消えていた。それでは彼らが目撃したものは何だったのか?それより本当に殺人事件は起きていたのか?謎が謎を呼び、状況は混迷を深めるなか、飄然として現れたのはこれまた謎めいた日本人被砥功児(ピートコージ)。彼の推理が暴いた真相も想像を絶する珍奇なものだった。------------午後から雨降り。当然のようにミステリーのおさらい。鮎川賞受賞作。それなりに読み応えのある、二度読みしたほうが良いと思われる作品なので今日は粗筋程度をあげておいて、チラ裏は後日のお楽しみ、それともお苦しみにしておこう。
2020.04.27
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焼け跡から発見された白骨。それは3年前行方不明になった歌手志望の美少女並木佐織の変わり果てた姿だった。容疑者として逮捕された蓮沼貫一は、23年前にも少女誘拐殺人事件の被告として起訴されながらも黙秘を貫き通し、無罪となった男だった。 今回も完黙と証拠不十分で不起訴となった蓮沼であったが、後日何者かによってその命を絶たれる。佐織を愛していた周囲の人々、あるいは誘拐された少女の遺族が復讐のために蓮沼を手に掛けたのか。それにしても、蓮沼は2つの事件の真犯人であったのかどうか......奇しくも23年前に続いて、佐織の事件でも担当刑事となった草薙は、旧知の大学教授湯川学に助力を仰ぐ。湯川が暴いた過去と現在の事件の裏に隠された意外な真相とは。--------------------ネタバレあり。「オリエント急行の殺人」へのオマージュと「容疑者Xの献身」へのセルフオマージュ。と思わせておいて、さらに捻った意外な解決へと読むものを導いていく。その推理の道筋はとてもわかりやすい。複雑な仕掛けをすっきり読みやすく描く、作者の筆致はあいかわらず見事だと思う。本来必殺ナントカみたいな、晴らせぬ恨みをはらす手合の復讐ネタが好きではない私にも、本作のスタイルは抵抗なく腑に落ちて読みすすめるのに抵抗や苦痛はほとんだなかった。(ロジカルだが無味乾燥ではない面白さ、とっつきやすく読みやすい文体が何時に変わらない東野作品の魅力なのだが)もっとも、東野作品を読み慣れている者には、〇〇の中に隠されたもう一つの〇〇というトリックはロジカルに思考せずとも、なんとはなしにでも感じ取れてしまうだろう。難を言えば、凝ったプロットに比べて犯行動機が呆気ないほど単純かつ弱い。さらにもう一つ。内海薫の登場はテレビドラマ風の味付けにするための余計な読者サービスに思われた。女性的要素は抜きにして、じっくり刑事としての草薙一人の人間像を描いて欲しかった。そのほうが読み応えがあったと思うのは、もちろん個人の趣味の問題ですけど。
2020.04.10
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森の中のハードカスール家所有のブラックヒース館では、仮面舞踏会が開かれていた。その館にたどり着いた「私」はすべての記憶を失っていた。しかし私は何者かの脅迫にあって失神し、目覚めると時間が過去に巻き戻っており、のみならず意識は他者の人格に転移していた。困惑する私に黒死病医師の仮面を付けた人物が告げる。今夜ハードカスール家の令嬢イヴリンが殺される。その殺人事件の謎を解かない限り、私は無限に同じ日を繰り返し、その都度人格転移も繰り返すと。本来の私とは「誰」か。私の人格転移と時間ループの秘密を知っているらしい「黒死病医師」と、「アナ」なる人物は何者なのか。どうすれば私は事件の真犯人を見つけて、タイムループから逃れことが出来るのだろうか。そしてイヴリン嬢の運命は.........-------------------人格移転するたびに、視点人物も人物名も変わり、時間軸も行きつ戻りつするのでよみてがが伏線を整理して推理するのの骨が折れすぎる。意味不明な悪夢を見ているようなストーリー展開と、複数のキャラを動かしてゲームを遊んでいるような感覚で、描かれる状況を楽しめる人には良いだろうが。ロジカルな推理が好きな人には如何なものか。さりとて、ゴシックホラー好きや幻想小説愛好者に薦められるかどうかも微妙。ネタバレ無しで感想を綴ったり、本篇の仕掛けの素晴らしさ(?)を述べるのさらに骨が折れそうなので今回これまで。再読して思いついたことがあれば後日何かしらの追記をするかもしれない。
2020.04.02
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中国の孤児院で育った盲目の少年阿大は、同じく孤児の少女とともにドイツ人の養子となり、ベンヤミンと改名して育てられた。19歳になった彼は、中国で起きた猟奇的な眼球摘出事件に関心を持ち、インターポールの中国人女性とともに現地へ赴く。少年が両眼を抉り取られたその事件で犯人とされた叔母は、井戸に身を投げて自殺したと言われていたが、ベンヤミンにはそれが真相とは思えなかった。事件の起きた村に滞在するうちにベンヤミンの前に現れる不審な人物と、遭遇する不可解な出来事の数々に、彼は視覚以外の全ての五感と、明晰な頭脳を駆使した推理で立ち向かう。過去と現在が交錯する物語の裡にはどんな秘密が隠されているのか。 あらかじめ、お断りしておきます。 この物語は叙述トリックです。そして辿り着いた真実にあなたが見出すものは、闇それとも光?ーーーーーーーーーー叙述トリックであることが前振りで断り書きされた、信用ならない語り手の視点で語られるミステリー。本作におけるホワイダニットは「犯人は誰か」よりも「語り手は何者なのか」でだろう。さらに「叙述トリックとは何か」ファットダニットととも言うべきメタミステリー的な問題をも読み手に提起している。物語は過去と現在が交互に描かれているが、時制そのものも果たして事実なのかも考え込んだり、読み手としてはついつい迂遠な推理を辿ってしまいがちだ。迂遠というより穿ちすぎの取り越し苦労だったりもする。とは言え、国内のある類似作品を読んだ経験値から主人公を取り巻く登場人物と環境、行動の背景に隠されたある真相は何となく掴めた。視覚障碍者が視点人物という言葉の矛盾ともいうべき設定は何ともアイロニカルで、最後に明かされる語り手の秘密を明かされたとき、読み手にこあった盲点を突き付けられる。ただしその「語り手のある真相」がフェアな推理の対象かどうかは意見が分かれると思う。私的には事件の真相と、犯人像と、犯行動機についても同様な感想を持った。やはり本格ミステリーに読者が求めるのは、手がかりがフェアに与えられたうえでの、意外な犯人と事件の記述そのものに仕掛けられたトリックであろうから。
2020.03.30
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瀬戸内海に浮かぶ霧久井(むくい)島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子がテレビ番組の撮影に訪れ、怨霊に祟られた土地として、オカルトマニアの間で知る人ぞ知るスポットだった。幽子が死の直前に書き残した「八月二十五日から二十六日の未明にかけて、霧久井島で六人死ぬ」という予言に興味を唆られた岬春夫に誘われた天宮淳は、友人大原宗作を伴ってこの島を訪れる。しかし、島民が未だに祟を信じるその島に到着した翌日、春夫は死体となって港に浮かび、宗作も何者かの襲撃によって意識不明の重体に陥る。さらに島の駐在が殺害され、島民が一人また一人と命を落としてゆく。奇遇にも島にやってきた宇津木幽子の孫娘沙知花は、霊能力や予言を否定し、一連の不可解な出来事を検証し、事件の謎を解明しようと試みる。しかし彼女自身にも危険が迫っていた。果たして予言通り六人目の犠牲者となるのは。そして沙知花と淳の運命は......------------孤島のクローズドサークルものや、見立て殺人ミステリーへのオマージュかと思いきや、そのミステリジャンルへの批判や警句が随所に散りばめられているのが何ともシニカル。これはその手のジャンルファンである読者への皮肉ともとれる。まさかのあるトリックが浮かび上がってくるののが、漸く終盤10ページに至って。見立てやクローズドサークルの定石にはまって推理をしていては、真相を見誤るのが落ち。不自然さに気がつこうと思えば、気付くことは出来るのに、読み過ごしてしまって不覚を取る読み手は相当数いるのだろう。徹頭徹尾フェアな記述がなされているかといえば疑問が残るが、このジャンルのミステリファンの心理の盲点をついた作者の発想の妙は、高く評価されても良いと思う。
2020.03.28
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シリーズ第二弾。明治18年、開業間もない大宮駅で脱線事故発生し、積み荷からはあるはずもない千両箱が発見される。捜査のため井上局長は再び元八丁堀同心草壁を呼び出す。今回も相方を組む小野寺乙松は結婚しており、その妻綾子はちゃっかり二人に同行する。徳川埋蔵金の謎を巡って警察、自由民権運動の過激派、不平士族それぞれの思惑が絡み合ううちに、列車爆破騒動、殺人事件までが起きてしまう。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー今回は前作に比べて、小さくまとまって推理の過程にも緊張感がなく最後の謎解きの場に至っても盛り上がらない。そんな物足りなさ。それに乙松の新妻は女学校出の才媛という設定だけど、なんか描き方がステロタイプ。不思議なのは男尊女卑の時代に自分の意志を持った聡明な女性を描けば、斬新さがストーリーに添えられるとか読者の共感を得られると思っているのだとしたら発想が陳腐だな。この調子で次作も書き継がれるのだったら、ちょっと読む気が起こらない。
2020.03.26
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昭和八年東京木挽座。六代目萩野沢之丞一世一代の舞台を桟敷席で観ていたはずの右翼結社幹部小見山と芸者の照世美が、不審な挙動を取り失踪したすえに惨死体となって発見された。江戸狂言作者の末裔、桜木治郎の親族である澪子もまた、その日見合いのために木挽座を訪れており、劇場内に現れた怪しい黒い影を桟敷席から目撃したと言う。警部笹岡に協力して事件の捜査着手した治郎は、事件の裏にある夭折した沢之丞の息子字源次の秘密を知るのだが、そうするうちにも木挽座の裏方が次々と殺される。バックステージに潜んでいる犯人、澪子の見た黒い影とは何者なのか。--------------------作者は武智鉄二に師事した人物とのことで、歌舞伎についての知識、その舞台裏についての記述は面白く、芝居ネタ好きの私としては満足。ただし、ミステリーとしては見るべきトリックもなく、なんとなく怪しい人物がやはり犯人だったという種明かしには意外性も何もないうえ、犯行動機も説得力に欠け、腑に落ちるものではなかった。バッドエンドの幕切れも、余韻を残すと言うより宙ぶらりんの後味の悪さ。それでも感心したことがひとつある。タイトルがある謎を解く重大なヒントになっていて、さらに扉絵をよく見ると一つの答えが示されてさえいる。この大胆な試みを、見抜くいるだろうか。私は読み終わってからそれに気付いた。不覚。またしてもシリーズ途中から読み始めたことが読後の不全感を強くしているのかもしれない。ガジェットやキャラ造形は好きな作風なのだから、この作者の他の桜木治郎ものも読んでみたい。
2020.03.16
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舞台女優ジョージアの謎の失踪を遂げた元婚約者が白骨死体で発見された。ピストル自殺を図ったらしい。その死因を探るため調査に赴くキャンピオン。しかし、その途上ジョージアの現在の夫レイモンドが不審死を遂げてしまう。検死の結果は心臓病。しかしレイモンドは、死ぬ前にキャンピオンの妹ヴァルがジョージアに渡した錠剤をのんでいた。さらにファッションモデルの刺殺事件が起きる。彼女はモルヒネを持っていた。やがて暴かれてゆくジョージアの過去と、レイモンドの死との関連性は?航空会社社長アランとジョージアは如何なる関係なのか。ジョージアの先夫との息子シンクレアの飛行機嫌いのレイモンドが、恐怖感を忘れるための薬を使っていた、という証言は事実だろうか。するとレイモンドの死は毒殺なのか。それではジョージアの婚約者の死もまた・・・・・ーーーーーーーーーーーーキャンピオンの妹、婚約者まで続々登場、各人物がそれぞれよく描きこまれている書き分けられて割には共感できる人物が皆無だった。毒殺トリックはうまく真相を隠せているし、毒物も意外性があるが、手掛かりが読み手に十分に与えられているとは言い難い感じ。殺害動機の証明、伏線回収の明瞭さが十分とは言えず、不全感が残る終わり方だった。というより、やはり恋愛要素や身内話を絡ませたストーリーは私にはすっきり読めない。
2020.03.08
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記憶に残らない夢を見た。目覚めて外を眺めると雨。夢の記録のかわりにミステリーのチラ裏を書くことにしたが.....先日読んだ「團十郎切腹事件」。ようやく集大成なった「中村雅樂シリーズ」待望久しいとのこと、直木賞受賞との相乗効果もあってか、巧者として褒めちぎる評ばかりだが個人的にはさして面白くなかった。歌舞伎の世界という舞台設定や、その専門知識をガジェット配したのは楽しくて、見せかけは斬新なようだが、肝心の事件の相貌、トリック、犯人像の描き方はどれだけなのかと。当然のように探偵役と語り手も魅力の薄い存在。はい、はい、あくまで私にとってですが。クイーン、ヴァン・ダイン、ドイルその海外ミステリーの影響がチラ見える筆使いだが、すべて中途半端で、むしろ悪いとこどりと思わされた。「立女形失踪事件」は実際起きたあの騒動がモデルになっているのかと期待したがストーリーも解決も肩透かしでがっかり。「團十郎切腹事件」は、一○二○のトリックをこう使うのかと手を打ちたい気持ちにさせられたのに、タイトルになっている 團十郎切腹 の真相解明がお粗末で、読み手のテンションが下がったところでラストを迎える。「等々力座殺人事件」は犯人像がクイーンの某作の本歌取りなこと余りにもバレバレなことに白けた。どうにか18篇読み終えたが、とてもシリーズ 全5巻読み通す気にはなれない。
2020.02.16
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傷害致死罪で二年服役して仮釈放となった純一は、元刑務官南郷に依頼され、死刑執行間近の男の冤罪を晴らす調査を引き受ける。報酬額一千万円、しかし猶予は三ヶ月。二人は弁護士杉浦に協力して、真犯人を見つけ出すことは出来るのか。そして純一は更生への道をあゆむことこが出来るのだろうか。--------------------乱歩賞、山田風太郎賞、日本推理作家協会賞の三冠受賞の作者だけに、圧倒的な筆力でこれがミステリーデビュー作とも思えない。それもそのはず、作者は脚本家と知って、プロットの巧みさ、ストーリー展開のスリリングな意外性、キャラ造型の秀逸さはそれ故とうなずける。死刑と冤罪に纏わる、被害者と加害者の関係性、人間の応報感情と正義感と復讐心、多岐にわたる重いテーマをしっかりした構成で支えながら、次々と意外な真相が露になる多重構造の謎の複雑さ、さらにもっとも深い根源的な真実がどんでん返しで暴かれる最後までを描ききった手腕には脱帽。ハードでありながら、抑制の利いた情熱と、人間観察の暖かい視線も感じられるスタイルは読むものをひきつけて止まず、ほぼ1日で一気読みしてしまった。 死刑宣告の主題と「罪と罰」の問題提起に、以前加賀乙彦の「宣告」を夢中で読んだときの記憶が蘇った.....(゜-゜)タイトルである、13階段を謎解きのキーワードに用いた手法も秀逸。W主人公の純一と南郷と、弁護士杉浦のトリオと岡崎検事の人物像と関係際の描き方、バランスが良く、非常に好感の持てる筆致。他の作者の作品も読んでいくつもりだが、本作は映画化されているので視てみたい。ついでに言えば、良いキャスト、良い演出でドラマかしないかなあ。もちろん、脚本は高野氏自身の執筆で。
2020.02.04
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ミステリーを読み終えてかなりネタバレ。 ↓あの 屍人荘の殺人事件 から三か月。殺戮を生き延びた神紅大学ミス研会長葉村譲と探偵女子大生剣崎比留子。事件の黒幕である班目組織の正体はいまだ不明であり、比留子によればそろそろ次の事件が起こる予感がすると言う。奇遇にも、オカルトマニア専門誌「アトランティス」には、かつて班目機関の研究施設「魔眼の匣」があった僻村に住む老巫女サキミが、屍人荘の惨劇を予言したとの記事が載っていることをも発見。巫女に会うため、目的の地、好見の真雁に向かった二人は、到着後随一の外界との交通手段であった橋が何者かによって燃やされ、村の中に閉じ込められてしまう。僻地に偶然集まった者たち。予知絵を描く女子高生とその後輩男子。大学教とその息子、「アトランティス」の記者、行きずりのバイカー。真雁に帰省中の地元出身の女性と、巫女の世話をするため真雁に移り住んだ女性。サキミと呼ばれる巫女はこの地で二日間のうちに男女四人が死ぬと予言する。果たして記者が土砂災害に巻き込まれて亡くなり、サキミが毒殺されそうになるも、一命を取り留める。疑心暗鬼にかられた一同は、女子高生を疑い一室に隔離するが、彼女は散弾銃で撃たれて殺される。玄関に飾ってあった人形が人が死ぬごとに一体ずつ消えていくのはアガサ・クリスティの作品に倣ったのであろうか。男子高校生も、帰省女性も亡くなり、そして比留子までが謎の失踪を遂げる.....--------------------導入部は前作の解説のような記述がしばらく続き、それもネタバレを避けるため奥歯にものがはさまったような語り口が焦れったかったが、その後真雁へ向かってからは上がり調子で俄然面白くなる。前作ほどぶっとんだユニークな状況設定ではなく、当たり前にオカルト趣味のガジェットに過疎地が舞台のクローズドサークルときて、本格物愛好家には今作のほうがとっつきがいいだろう。トリックも基本はオーソドックスな交換〇〇、時計の針がヒントになる〇〇○○トリック、そして最後のどんでん返しに用意された〇〇入れ替えと、様々なトリックが仕込まれたストーリーが楽しめる。消去法でも犯人は判ったが、動機はまったく推測できないものだった。というより、偶然や突発性の殺意という発想には納得しかねるというのが正直なところ。さらに苦言を呈すれば、一人称の地の文で事実ではないことを語るのはアンフェアではないだろうか。そして個人的なことだが、この作品ならぬこのシリーズで最大の難点は探偵役と相棒役に魅力感じられないこと。両者以外の人物の造型、描写は十分満足して楽しめるのに、どうしたことか。次回作の予告が終章でなされ、今後このシリーズがこの相棒キャラでずっといくとしたら、読み手としては結構きつい。シリーズ最大の謎、斑目機関の正体が知りたので読み続けるつもりだけれど。
2020.01.21
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資産家の未亡人で、売れっ子俳優を息子に持つダイアナ・クーパーは自らの葬儀の手配をしたその日に殺された。事件捜査の依頼を受けた元刑事ダニエル・ホーソーンから、この事件を作品化することを持ち掛けられた「私」、アンソニー・ホロヴィッツは迷いつつも承諾し、彼の「相棒」となる。ホーソーンの変人ぶりに振り回されながら、行動を伴にしたホロヴィッツは、ダイアナの過去と、彼女を取り巻く複雑な人間関係を知る。10年前、ダイアナは双子の兄弟の一人を死なせ、もう一人を障碍者する轢き逃げ事件を起こしていたのだ。ダイアナの葬儀当日、何者かによって棺の中に仕掛けられたテープのため、式典は滅茶滅茶になり、その後ダイアナの息子のダミアンが惨死体で発見される第二の事件が起こる。さらに、かつてのダイアナの裁判で判事だった人物の家までが放火される。一連の事件は、轢き逃げをめぐる怨恨によるものなのか。ホーソーンはこの難事件を如何にして解決へ導くのか。何よりもホロヴィッツは無事本を書き上げ、出版にこぎつけることが出来るのだろうか。--------------------本格ものミステリーの面白さのすべてがここにある。作中でミステリーの書き方について言及しているなどメタミステリー的要素があり、「私」がまちがった推理を披露して、読み手を翻弄するところは後期クイーン問題を想起させるところなど私の好きな作風でもある。ただし、語り手によって謎を解くための正確な情報もフェアに伝えられており、その手掛かりがすきなくピースとして収まる伏線回収の手並みは見事。うっかり重要な手掛かりを読み落としていた此方としては読み返し必至の事態にはなるのだが。その再読もまた愉しからずやといったところ。ガチガチの本格正統派だから構えて読まなければならないかと言えば、さにあらず、芸能界の事情を描いたり、スピルバーグ監督が登場したりで娯楽性もサービス精神も十分リラックスして謎解きが楽しめた。個人的には舞台の世界や演劇学校についての言及のあるところは興味深く読んだ。そして猫好きとしては、グレーのペルシア猫の失踪が手掛かりとして気になりすぎて、他の手掛かりへの推理が疎かになった。ダメだなあ、frauleinnein(ΦωΦ)
2020.01.15
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貴族探偵シリーズ一作目。二作目の「貴族探偵対女探偵」より読むのが後回しになったが、一作目の方が無駄な描写が少なく、そのぶんひねりの利いたパズラーに仕上がっていると思う。各章のタイトルがすべてシュトラウスの曲名という凝りようが「貴族趣味」というところか。もっともかなり拗れた捻り技とも取れるので、ミステリー初心者の入門短編集とは言えない。1話の密室トリックなど、ミステリーずれした読み手が、はぁ( ゚д゚)鍵に糸を通す古色蒼然たるトリックとは昭和ですかと、鼻でせせら笑うだか洟も引っ掛けない構えでいると、鼻っ柱をくじかれる結末が待ち受けている。ありふれたトリックを嗤おうとする読者に仕掛けられた作者の陥穽に嵌る、それこそ作者の狙いなのではないか。首なし死体つまり被害者の正体隠蔽という常套的な推理を覆し、フーダニットへの皮肉な逆説ともいえるどんでん返しが最期の1ページで明かされる2話目。3話目「こうもり」は文脈から叙述トリックだろうと判断するものの、登場人物が多くて入れ代わり立ち代わりする者たちが、怪しいといえば皆怪しく見えて、推理の手がかりがつかめず、ずるずる解決編へ。なんとなれば〇〇入れ替えと〇〇錯誤の方のトリックだった。これもしてやられたか。ところで、過去にこの作品はドラマ化されていて私も貴族探偵役とメイド役はアレだが、その他の脇役とゲストがなかなか充実していて面白く視聴していた。ドラマと原作は別物の典型例だろう。原作のほうは、探偵役はもちろん、さらにメイド、執事のキャラにも魅力は感じない。「人間が描けていること」をミステリーに求めないたちなのでそんなことはどうでも宜しい。*「人間描写? そんなことは召使いどもにまかせておけ」と、貴族探偵も言うだろうから。* リラダンの戯曲「アクセル」の「生きる? そんなことは召使いどもにまかせておけ」より転用。本作の解説で 解説者千街晶之氏も引用し、澁澤龍彦もはるかな過去に転用した台詞。お年賀のいただきものの干し柿。これブランデーやラムに漬けるともっと美味しくなるのよね。
2020.01.08
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深夜のニューヨーク、イーストリバーの高級アパートの上階から墜落死したのは誰?売れっ子コラムニストのラリーを取り巻く四人の女たち。元妻シャノン、現夫人クレア、愛人マギー、婚約者ディー。彼女たちのうちの一人に殺意を抱いたラリーはアパートの手摺に細工をしたうえで、自宅でパーティーを催し、4人を招く。けれど彼の殺意に一人の女が気付いてしまう。果たしてラリーの犯罪は成功したのであろうか。----------犯人捜しならぬ、被害者探しはこの作者のお家芸と思いこんで、四人の女の言動に注視し、彼女たちを巡る状況を推理することに腐心していたら、まんまと一杯食わされた。四人の個性の描き分けが秀逸で、物語の展開も切れ味良く、読み手を飽きさせず終章まで引っ張る。そのうえでのどんでん返しだったが、不思議なことに騙されたことへの悔しさはなく、作者の手並みの鮮やかさに爽快感すら感じるのが不思議。そういえば、四人の女たちがそれぞれにやり切れない性格の持ち主として描写されているのに、不思議に彼女たちに嫌悪感を持たず、読むことが出来た。もちろん共感もしないけれど、心理的サスペンスには感情移入できる。ついでにラリーのクズ男っぷりの描き方もお見事です。ひとつ難点をいうなら、犯行動機が薄弱なこと。(*´Д`)んな、理由で自分と関係のあった女を殺そうとしたり、果ては○○したりするか、ラリー?まっ、それもクズ男の心理ならでは、動機もいーかげん、と解釈しておけばいっか。
2019.12.13
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港に漂着したコンテナーの中から複数の中国人密航者が絶命した状態で発見された。たった一人生き延びた名も知らぬその男は逃亡を試み、行方をくらます。*視覚障害を持つ私、村上和久は腎臓病の孫への臓器提供を、故郷で母と暮らす兄竜彦に懇願するも、兄は頑なに拒絶する。検査さえも拒む、中国残留孤児で永住帰国した兄には、何か秘密があるのだろうか。母も何かを隠そうとしている。疑惑にかられる和久宛に差出人不明の暗号文らしい文面が届く。兄の正体を突き止めようと、五里霧中にあって調査を始めた和久に、追い打ちをかけるように、自らが本物の村上竜彦だと名乗る人物からの電話が入り、母も不審な急死を遂げてしまう。母は殺されたのではなかろうか、そして殺したのは.......深まるばかりの謎と、文字通り先の見えない闇の果に横たわる真実とは。----------満場一致で乱歩賞受賞しただけあって、久しぶりに読み応えのあるミステリーだった。乱歩賞まだまだいけるぞ、と見直した。視覚障害者、中国残留孤児、臓器移植とこれだけ問題性のある重いテーマとモチーフばかりのあわせ技で、その重さを最期まで支え切って一作書き上げた作者の技量は並大抵のものではない。視覚障害のガジェットに拘った点字を使った暗号のアイディアなどは、新人のデビュー作らしからぬ巧緻さだ。もっとも本作は決して新人の若書きではないことは、作者の履歴から伺われるのだがこれはまた別の話(作者のミステリー歴は不撓不屈の足跡)視覚情報が絶えた状況での疑心暗鬼や恐怖を描くという発想自体はそんなに斬新なものではないが、その恐怖も疑惑も伏線回収されてみると、見事に整合性のあるロジックで解明されてしまう。その際の目から鱗が落ちる感じと。してやられた感はお見事です。ラストの大団円は、楽天主義なハッピーエンドに過ぎはしないか、というツッコミどころもなくはないが、暗く重く一辺倒ではなく、光の見える明るい方向を一点指し示したいという作者の願望をそこに見るのもまた良し。そういうことにしておこう。ネタバレを避けるためにこのような文字通り、群盲像を触るような言辞を弄するばかりだが。
2019.12.09
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政権打倒を謳う団体「コスモス」のメンバーである女子大学生三廻部凛が失神から目覚めると、見知らぬ場所に拘束されたうえ監禁されていた。傍らには顔を焼かれた死体と、佇んでいる見知らぬ男。死体はどうやらコスモスのリーダー神埼らしい。見ず知らずの男はあろうことか、敵対する外国人排斥主義の団体に所属する渕大輝という青年だった。誰が何を目的にこの殺人と彼ら二人の監禁を行ったのか。凛はスマホに入った、ニックネーム「ちりめん」と名乗るフォロワーからのメッセージを受け、ちりめんとともに事件の推理を始める。一方大輝のスマホにも何者かによる不審なメッセージが入り、事態は思いがけない方向へ発展する。もう一つの部屋でさらに別の焼殺死体が発見されたのだ........-----------今回はノンシリーズらしく、時代設定も現代日本。事件の発端と、主人公の置かれた状況の設定に目新しさはあるが、トリックは顔を焼かれた死体が出てくれば、定番のあれとこれと、だいたいの想像がついた。犯人はあやしい登場人物はそれらしく描いているのでわかりそうなところを、これもよくあるトリックを上手く使って読み手を欺いている。犯人探しより何より、一番の謎は探偵役の正体であろうが、このフーダニットは登場人物を絞り込んでいけばわかる人にはわかりそう。私には何故此の人物が此処に登場してくるのか、登場する必然性があるのかといった考察を疎かにしたため見抜けなかったけれど、正体が判明したときに、その設定に不自然さを感じてしまった。殺害トリックも実効性の希薄な手段を、教科書的科学知識でゴリ押している、理屈っぽさが否めない。現実は科学実験のように都合よく条件を整えられないでしょうに。こんな風に写実性や現実感を無視する体なら、作者の得てであろう近未来やパラレルワールドを舞台に物語を構築したほうが、もっと作品世界へ入り込めたような気がする。そういえば、中心人物の左右両陣営の男女の描き方も戯画化されていて、何かしら薄っぺら。何を意図して作者がかかる人物造型したのか。そこに皮肉な批判的な視線を汲み取れとでもいうのだろうか。私には解りかねる。まあ、此方にはどちらの主義思想にもシンパシーをもつ必要もはないので、それでいいのかもしれない。それなりに、サスペンスフルでリーダビリティのある一篇で、エンタメ性は認めるが、マリアと漣シリーズの作風のほうが私は好きだ。マリアと漣に遠からず会えることを期待する。
2019.12.04
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テッドは空港でパトリシア・ハイスミスの小説を手にした美女リリーと知り合う。カクテルを前に取り留めもない話題に興ずるうちに、浮気した妻ミランダとその浮気相手ブラッドへの殺意を口にしてしまったテッド。何故か彼に共感を示したリリーは、彼の妻と浮気相手の殺害を実行しようと提案する。そんな彼女は何者なのか.........----------以下若干本作の真相に触れる部分ありというより露骨なネタバレを避けようとしてかなり歯切れの悪い記述となってしまった。テッドとリリーの視点で交互に語られる前半部。倒叙ものミステリーに見せかけた叙述トリックなのかと推測のもとに読み進める。物語半ば過ぎからさらに語り手である視点人物が増えて、それだけに物語の様相も二転三転する、三人称複合多元視点文体ならぬ、一人称複合視点とでも言うべきスタイル。何者かがリリーとテッドを騙って、嘘の告白をしているのでないかと前半部で疑ったのは穿ちすぎた考えだった。ただし別のフードダニットが仕掛けられていて、殺す側の語り手は何者で、殺される側やその他登場人物と如何なる関係性を持つのかという真相が徐々に暴かれていく。そして当たり前に犯罪者側から犯行の次第を描く犯罪小説として着地するのかと思わる終盤で、さらに一捻り。新たな視点人物として、探偵役(刑事)が介入して来る。此処らへんで気付いたのは、各視点人物が新たな真相(情報)を明かして行くことで、最重要な真相を読者の目をそらしているのではないかということ。やはり作者には上手く騙された。そしてラストもどんでん返し。ただしこの幕引きは既視感がある。作者はハイスミスの影響は受けていないし、本作もハイスミスへのオマージュではないと言っているそうだが、私はあの有名な先行作品(映画化された)を髣髴とさせられた。本編のリリーもあの作品の主人公のように.....その先の想像(妄想?)は今の所及ばない。
2019.11.26
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2001年、地方都市の紫峰伯爵邸跡地から二体の白骨が発掘された。紫峰一族は第二次大戦下上京したおり、不運にも東京大空襲に遭遇し全員死亡したはずである。すると、遺骸は誰のものであろうか。かつて、すみれの花の咲き乱れる紫峰邸には伯爵とその三人の令嬢たち、彼と彼女らに使えた召使いが暮らしていた。ある人物から調査依頼を受けた青年西ノ森は、存命の紫峰家に召し抱えられていた者たちに、当時の事情の聞き取りを行う。虚実綯い交ぜに語られる彼らの証言。そこから垣間見えたのは、葵、桜、茜の美しい三姉妹の愛憎劇と、戦争が一族にもたらした悲劇であった。----------タイトルに惹かれて、内容を知らぬまま読んだところが、スリーピング・マーダーもの(回想の殺人の捜査)の佳作で大当たり。事件の被害者が誰か、犯人は誰かだけでなく、探偵役は何者であるのかを問うフーダニットが二重三重に仕掛けられているため、事件の展開も二転三転し、終幕で思いがけないところにつれていかれた。発掘された謎の白骨体、館で起きた火事、人物の失踪とこれだけ揃えば、とある入れ替えと錯誤トリックであることは比較的容易にわかる。しかし、入れ替えられたもしくは錯誤された対象Xに当たるものは巧妙にに隠されていて、その隠蔽の手並みの鮮やかさは美しさを感じた。如何にも「美しさ」が本作のキーワードなのではないか。個性豊かに三人姉妹の人物像が描き分けられているエピソードを読むだけでも、「細雪」や「若草物語」を読んでいるような楽しさがある。美しいといっても、しつこく美辞麗句をかけつらねるのではなく、冗漫さを避けて、推理の整合性にすっきりはまる文体で読みやすい。最期にちょっと、言い訳すると私がタイトルに惹かれたのも通りで、タイトルにはあるヒントが隠されていた。すみれの花咲く、で誰もが思い浮かべるのはヅカネタだろうが、そちらもちゃんと作中に取り込んである。しかしそんなことではない、ある重大な すみれの秘密 は、解ける人がいるだろうか。私には解らなかった。
2019.11.14
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「幻視者」と称賛された画家、藤沼一成の息子である私、藤沼紀一は天才建築家中村青司の設計した『水車館』で19歳の若妻、由里絵とともに暮らしている。12年前の事故で損なわれた顔を仮面で隠しながら。この館で一年前、住み込み家政婦が転落死し、父の絵が紛失したうえ、友人の正木慎吾が殺害されその遺体が焼かれるという惨事が起きた。当時、館の泊り客の一人であった僧侶の古川が失踪したため、彼による犯行と断定された。今年も父の命日に、門外不出の傑作『幻影群像』目当てに客人が水車館を訪れた。美術商の大石、美術史教授の森、外科医の三田村。そして招かれざる客、島田潔。この男が到着早々、「この家を出ていけ」と書かれた脅迫状めいた便箋が居間のドアに挟まっているのを発見した。のみならず、彼は過去事件の真相を解明しようとし始める。その矢先、新たな惨劇が起こって通いの家政婦が殺され、さらにもうひとり........-------------------以下、ほぼほぼ、ネタバレ。↓↓奇妙な館に住む仮面の人物、幻の名画、私にとって愛してやまないガジェット揃い踏みの本編は、現在が「私」こと紀一の一人称視点、過去が三人称視点で、交互にストーリーが語られる。ガジェットとこのストーリーテリングの技法でミステリー慣れした読者なら怪しむべき人物が誰だかわかってしまうだろう。失踪した容疑者の謎にしても、この手の〇〇入れ替えトリックの教科書通りの用い方といったところで、それほど難解なものではない。と、フーダニットは複雑ではなく、トリックもさほど斬新ではないのにも関わらず、状況設定の意外性と怪奇性、サスペンスの横溢するレトリックで最後まで読ませてしまう。少なくとも私はプロットに惹き付けらるままに、現在の章と過去の章を行きつ戻りつしながら、終章の奇妙な結構に至った。そしてその最終章の最後に論理的には解決しえない謎を突きつけて「私」の独白は終わる。この幕引きはミステリーとしてどうであろう。賛否両論あると思うが、はて私自身が実は何方とも回答としかねている。まさに本作最大の謎(私個人の基準で)に、裁定なぞ下しようがないというのが正直な所感。その謎がとは何か。これだけはネタバレなしで、読んでお試しあれとしか言えない。
2019.11.01
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スコットランド北東部に浮かぶシェトランド諸島、その最北端アンスト島には、〈小さなリジー〉と呼ばれる幽霊譚が伝わっていた。1930年、浜辺で遊んでいて溺死した、10歳の少女エリザベス・ゲルダードの幽霊が、島にはときおり現れる。少女エリザベスの幽霊に出会った女性はやがて懐妊する....という。アンスト島出身のキャロライン・ローソンは、婚約者ロウリー・マルコムソンとの結婚式を、故郷で行うべく帰省する。キャロラインとは大学時代からの親友であるエレノア・ロングスタッフとその夫イアン、同じくポリー・ギルモアと恋人のマーカス・ウェントワースも彼女を祝って、島を訪れた。結婚式が終わって、海岸を散策していたポリーは砂浜で踊る白いドレスの少女を目撃したような気がしたが、その姿は幻のように消えた。少し前に流産を経験した傷心のエレノアも同じような少女の姿を見たと証言した。気のせいではなく、幽霊はここ、アンスト島にいる?その後、エレノアは、私を捜さないでというメッセージを携帯に送って失踪したうえ、遺体となって発見される。しかし、エレノアのスマホが見つかったのは、遺体発見現場から離れた場所であった。シェトランド署のジミー・ペレス警部は部下とともに調査に着手するが、続いてホテルの共同経営者の一人、元奇術師のヒリアーが殺害される事件が起きる。二人の死は少女幽霊伝説と如何なる関わりがあるのだろうか。---------被害者を巡る関係者それぞれの事情と、その相関関係の描写に相当の筆が割かれているが、冗長さはなく、必要な伏線なためか、冗長さはなく、読むことに煩わしさは感じなかった。とくにゲイカップルの片割れ、パートナーのヒリアーを亡くした失意のゴードンの人間像には中々胸に迫るものがあった。もっとも、これだけエレノアに近い人間の描写に力を入れるということは、読み手にその中に犯人がいると教えているようなものではあるが。リジー伝説を検証していく刑事たちの行動は捜査のというより、民俗学や伝承学のフィールドワークめいていて、興味深い展開だった。ただし、肝心の探偵役ペレス警部の魅力が私には余り伝わってこない。彼がスペイン人という設定も生かされていると言い難いのではないだろうか。おまけにウィローという女性刑事が此方の苦手なタイプであったため、彼女の出番のシーンで感興を削がれることはなはだしく、ラストのハッピーエンドまでが白々しい。またしても、此方の好みの問題で半減したがこればかりは仕方がない。でも、他のペレスシリーズでストーリーが面白そうな何作かは読んでみたい。
2019.10.09
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「シャーロック・ホームズたちの冒険」まさかまさかの第二弾。キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!! ということで、で読んでみた。余りネタバレすると、パロやパスティーシュの魅力を損なうおそれがあるので、今回あらすじの記載は無し。って、井戸の底の壁のいたずら書きなんて、誰も見ていないだろうけど。トキワ荘事件 キーワード 手塚治虫ふたりの明智 キーワード 明智光秀2001年問題 キーワード まんまタイトル旅に病んで キーワード 子規 芭蕉 ホームズ転生 キーワード まんまタイトル「黒後家蜘蛛の会」のパスティーシュの「2001年問題」と、ホームズとワトソンのカップリングのエピソード「ホームズ転生」が特にお気に入り。やはり古典的名作はそのパスティーシュも読みごたえあって楽しい。もちろん、贋作自体の出来が良いことが楽しさの必須条件だが。二作以外のどの作品も高水準のエンターティメント。えっそういうのあり?と目を見張らせる発想の意外性がありつつ、読み手を納得させる結構にぴたっと着地させる作者の妙手に感服させられた。とはいえ、ネタものであるのでネタ元の知識がないと読む楽しみが半減する恐れあり。作者は本来SFであるとのこと。次回はSF作品も読んでみようかな。「銀河帝国の弘法も筆の誤り」なんてタイトルからして面白そう。それともやはりミステリーで「笑酔亭梅寿謎解噺」がいいかな。
2019.10.07
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70年前の明治、財閥田宮弥三郎がドイツ人妻エリザベートを迎えるために建てた洋館金雀枝荘。しかしエリザベートは弥三郎との間に生まれた子供を残して故郷へ帰ったきり再び日本の地を踏むことはなかった。小説「舞姫」の悲恋を思わせる出来事の後、館は使用人の妻とその子供が殺され、使用人が自殺する、という事件がおきた。さらに時移って現代、田宮弥三郎の孫と館の管理人の6人皆殺しが金雀枝荘で起きてしまう。6人惨殺事件ののち、生き残った弥三郎の血族が一同に会し、迷宮入りとなった過去の二つ事件の謎を解こうと試みる。そして謎解きに加わった通りすがりの自称ライターが驚くべき推理を披瀝する。エラリザベートは殺されて、地下室の壁に塗り込められているのだと。信じがたいその話は真相とどう関わりがあるのだろう。やがて新たな惨劇が金雀枝荘で幕を開け、そして館から誰もいなくなるその時が.......----------ちょっとネタバレするけど。「七匹の仔山羊」の見立て、血縁絡みの怨恨殺人、赤緑色弱のヒント、と私の好きなモチーフやガジェット一杯。ということはどこかで既読感もある内容で、「そして誰もいなくなった」と「犬神家の一族」の面白いとこどりとも受け止められた。だから読んで面白く楽しめた割には、斬新さは感じられなかった。6人殺しの、AがBを殺し,BがCを殺しと,連鎖的に殺しあって全滅という推理の常道が覆されていく過程はロジカルで良く出来ているのに、動機の意外性を「親の因果が子に報い」式の因縁話に依拠しているのは本格ミステリーとして如何なものか。まぁ、それも私がこの動機を見抜けなかったことから、個人的な不満を抱いているだけかな。
2019.10.04
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雨降りの日曜日なのでやはりミステリーを。「私はペイジル・ウィリング博士だ」と名乗って、タクシーに乗り込んだ男を追って、パーティー会場に乗り込んだ、ご本尊のウィリング博士。パーティーにはセレブリティであると同時に、それぞれが曰く有りげなメンバーが雁首を揃えて集っていた。件の男から事情を伺おうとした矢先、男はウィリングの目前で「鳴く鳥がいなかった」という謎の言葉を口にしながら死亡する。死因はコデインによる毒殺。亡くなった男の正体は私立探偵であったが、果たして彼をウィリングと誤認しての、「間違いの殺人」だったのであろうか。しかしながら、続いてパーティーの主催者の老婦人と出席者の妻も死亡。さらに危うく一命を取り留めた者が一名、では洒落にもならないが、誰が何を目的にかかる連続殺人を行ったのか。ウィリング博士が暴き出した余人には想像もつかない、殺人者の心理と殺害動機とは.......---------犯人の意外性はさほどではなく、殺害手段からどの人物であるか推測するのは比較的容易である。にもかかわらず、第二次世界大戦後の時代設定にあって、事件の構造と犯行動機が、斬新な発想と意外な展開を見せるため、読み手がそれを予想し、真相を見抜くことは難しくなっている。なんだか、現代社会の闇に横たわるある種の犯罪に似すぎていないか、このストーリー。読み終えて、そう独りごちたくなった。一方で当時の社会が抱えていた戦争の傷跡とも言うべきもの、お約束の「ナチズム」の問題も巧みに取り入れたプロットでもある。思いがけない犯人を超える思いがけない発想を。犯人の意外性に頼らずとも読み手の意表をつく、マクロイの妙技に関心させられた。
2019.09.22
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神戸異人館の一角にある館、インド倶楽部で行われたイベント。そこには輪廻転生、前世の存在の信じる人々が集い、伝説の「アガスティアの葉」によるリーディングが行われていた。アガスティアの葉には人間の運命が記されており、読み取ればその人の前世から今生で死ぬ日に至るまですべてが判るという。その後、イベントコーディネーターが殺害され、次いで参加者の一人が殺害されるという事件が起きる。殺害日はリーディングで予告された日であった。臨床犯罪学者火村英生と作家有栖川有栖のコンビが、不可解な事件の真相と、それに絡むインド倶楽部の謎を解き明かす。----------探偵小説中に予言だの、リーディングだの、似非神秘主義やスピリチュアルもどきの話が登場したら、それはミスリードの手段であろう。ゆえにロジカルな推理の要素としては却下する、という定石は今回通用しなかった。作中でもリーディングはガセネタであったことはフェアに読者に明かされるのであるが、この胡散臭い、あからさまにインチキだと読者に解らせている話にこそフーダニットを解く鍵が隠されている。事実ではないリーディングの内容についての思考を放棄し、現実の利害関係や怨恨から犯人や犯行動機を推理しようとする読み手が真相に気付くことは非常に難しいと思う。さらにもう一つの偶発的な人物〇〇トリックを絡めたプロットが犯人を二重に隠すことにもなった。リーディングを経験したインド倶楽部の会員全員が怪しいと言えば怪しいのであるが、一周回って怪しいやつがやっぱり犯人という、裏の裏をかく手口も此処では通用しないのである。犯人特定に用いたのは「想像と消去法」と火村自ら語るようにロジカルな推論は本作では余りみられなかった。私にも、このような犯行動機は想像に余る。何だか論理的思考能力の不足より、想像力の貧困に付け入られたような不全感が残る読後感だった。インド紅茶ではなくコーヒーが読書のお供♪
2019.09.01
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強羅地方の4つの村に伝わる怪異譚。その調査のため現地入りした言耶と編集者祖父江偲は、先んじて現地入りしていた市井の民俗学者及位廉也の怪死事件に遭遇する。及位は餓死した状態で発見されたのである。続いて起きる村の宮司の櫓からの転落死。さらに洞窟で竹細工職人が洞窟で銛を打ち込まれて殺害され、その遺体には笹舟が置かれていた。これは何かのメッセージなのか。警察と言耶が捜査を行う中、村祭の最中、茸による食中毒が発生し死者が出る騒動が持ち上がる。そして起こる祭りの責任者の縊死。自殺なのか、それとも他殺なのか。村で起きた四つの不審死が殺人であるとしたら、連続殺人事件の犯人は何者で如何なる動機から、これら不可能とも思われる犯行を実行したのであろうか。----------序章の怪奇伝承を語るパートが何とも長く、途中で飽きてきた。それでも、これから起きる事件の布石、あるいは謎の解決の手掛かりがほのめかされているやも知れずと、我慢して読んだ。殺人らしきものが起きるのが200ページ過ぎたあたり。被害者を餓死させる殺害方法とは珍しいので、クイーンの先行作品に倣ったのかと思ったら、もっと思いがけないトリックだった。しかしこの仕掛け、奇想というよりトンデモトリックな気がする。唐突な思いつきに、無理やりこじつけて仕上げた感がある。まさに木に竹をついだような、とはこんなアイデアを指すのではないか。連続怪死事件の推理の流れは、私が怪しいと思った人物が取り敢えず、犯人候補にあげられては、非犯人であると反証されることの繰り返し。此処らへんのブラフは流石に上手い。しかし隠された秘密と真犯人が暴かれてみると、事件の動機に相当するその秘密が、凄味や怪奇性を無理に盛った空疎なものに感じられた。それにこの手の犯人像の設定は、これまた多くの先行作がある。作者のオリジナリティの源泉も涸れてきたのかなあ。と、涸れるを通り越して干上がりそうな井戸の底で囁く。
2019.08.26
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昭和10年(1936年)二・二六事件前夜、帝大教授令嬢宇田川寿子と青年将校の遺体が発見され、心中事件とみなされた。青年は過激な国体思想の持ち主であった。千寿子の友人伯爵令嬢笹宮惟佐子は二人の死に疑問を抱き、旧知の女性カメラマン千代子、記者の蔵原とともに事件の謎を追う。探索の途上、折から来日しているドイツ人ピアニストの不審死に遭い、惟佐子の伯父白雉博允(はくちひろみつ)の純血主義と天皇制に関する奇態な学説の存在を知る。そして惟佐子の兄の出生に纏わる秘密をも。これらの人物、事実は事件とどのように関わっていつのだろうか。やがて迎えた国家改造を謳う将校たちの決起の日に、惟佐子が辿り着いた驚愕の真相とは.......----------傑作との呼び声高く、美辞麗句で称賛した書評が目につく柴田錬三郎賞受賞作。ネタバレあり。三島の「春の雪」と「奔馬」と、谷崎の「細雪」を綯い交ぜにしたような文体で延々綴られる物語。男女の心中事件と列車の時刻表のアリバイ崩しは松本清張の影響、いやオマージュと言えばいいのか。武田泰淳の「貴族の階段」を典拠としているそうだが、ミステリーとも言えず、歴史小説とは受け止められず、これだけの大作を描いた作者の意図を測りかねて、困惑のうちに読み終えた。事件の核にある思想の奇天烈さを思えば、綺想小説と受け止められなくもないか。それにしても、昭和レトロを背景に、事件の裏にある人間関係は、余りにも当世風のナントカであったというのは興が褪めた。探偵役惟佐子を数学に造詣が深く、極端な甘党で、性的に放縦な女性に造型したのは、ヒロインを個性的で魅力ある人物に描こうとしているかもしれないが、必死に作り込んだ痛々しさを感じる。あれや、これや、物語全体の構造が見えて、取り敢えず事件の謎解きが終わっても、此方の作品細部への疑問は残ったままである。細部に拘るべきではない、そんな感じ方は誤読によるものだと難じられようと、こういう読み方をする者がいるのである。
2019.08.19
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囮捜査官マルティンの妻と息子は、乗船した客船「海のスルタン号」から忽然として姿を消した。それから5年、やはり船から消失したはずの乗客ナンバー23の少女アヌークが、息子の持ち物であったテディベアを手にして再び現れたという情報を得たマルティンは、自らスルタン号に乗り込む。同乗者は反抗に手を焼くシングルマザー、往年の推理作家の老女、「泥棒」が生業らしき男(?)といった訳有の人物ばかり。船員がメイドに暴力を振るう現場を泥棒が目撃するなど、船内に不穏な空気が漂う中、船医エレーナの協力を得て調査をすすめるマルティンは、船内の何処かにアヌークの母が監禁されていることを突き止める。アヌーク親子とマルティンの妻子の失踪事件にはどのような関係があるのか。そして事件の裏に潜む者の正体は......---------ネタバレあり客船クローズド・サークルのミステリーを期待して手に取った本書だが、本格ものとはかなり異なる一篇だった。探偵役マルティンだけでなく、監禁されている女性視点からも語られる監禁場面の緊迫感にページを捲る手が止まらなくなる。しかし性別錯誤のために、ベタに◯◯を用いるのはどうなのだろう。この手段の本作のような用い方はトリックのうちに入らないと私は思う。作者もトリックとしてではなくキャラのアブノーマリティを描きたいがために採用したガジェットかもしれないが。ただし他視点の描写と相俟って、犯人をわかりにくくさせる効果は絶大で真相暴露直前まで「真犯人」は解らなかった。さらに真相の裏に、犯人以上に「意外な人物」が隠されていたことがラストで明かされるどんでん返しの手法は、この作者ならでは巧さを感じた。本格ミステリーとしてではなく、ストーリーテリングの技術が非常に高い凝った作りのサスペンスという読後感。それにしても、どんでん返しの内容に対して言いたい。この船の乗客、一癖どころか訳有りにも程があって、まともな人物は皆無なの??(・_・)
2019.08.13
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1662年晩夏のネーデルランド。巷にはローマの英雄クラウディウス・キリウスの亡霊が市庁舎の回廊を彷徨い歩くという噂がまことしやかに囁かれていたアムステルダムで、宝石商ホーへフェーンがペストで亡くなった。しかし遺体の埋葬された翌日、ホーフェーンにそっくりな男が館の部屋で意識不明の状態で発見される。果たして死者が蘇ったのだろうか?奇怪な事件に巻き込まれたレンブラントの息子、ティトスはナンド・ルッソと名乗る記憶を失った船乗りとともに謎の解明を試みる。---------絵画から抜け出す亡霊、ペストの猖獗する港街、蘇る死者、謎の船乗り、珍奇な宝石の探索、そしてレンブラントに関する蘊蓄と、ミステリ好きというより、幻想小説好きにとって美味しいもの盛り沢山、といったところか。ナンドの登場はさまよえるオランダ人の謂なのだろうか。私はそんなイメージを抱きながら読んだ。この時代ならでは密室トリックと〇〇入れ替えトリック、ミステリーとしての要素も抜かり無く造形されており、沈鬱なアムステルダムの心象風景がよく伝わる描写から作者の筆力の高さが伺われた。にもかかわらず、本作を読みにくいとするレビューを多く見た。たぶん本作のスタイルは幻想小説の文体としては適切であっても、推理小説のレトリックになってはいないためではないか。個人の感想としてだけれどそう思った。なによりも、本篇は探偵役がある種の幻想とも解釈できる仮説を提示し、それを謎への解答としたのち幕を閉じる。それゆえ、私も幻想小説としてほぼ推理もせずに読み終えた。P・S言わでものことだが、ガチ本格ミステリ好きにはおすすめしない。ついでに、ファンタジーヲタ兼ミステリーヲタのfrauleinneinがこの作品を誤読した結果をチラ裏に述べているだけかもしれないことをお断りしておきまーす。うっかり井戸の底を覗いたご奇特な方が、読み方や解釈が間違っている!!と、難じても責任はとれないので。
2019.07.19
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1984年6月、イギリスの海辺の町アーマネスで起きた殺人事件。犯人として裁かれたのは16歳の少女コリーンだった。事件から20年、鑑識技術は進歩し、かつての証拠品から新たな未知のDNAが検出されたことで、本件は再燃する。再審請求のために調査を依頼された、元警察感の探偵ウォードの追跡によって、過去の亡霊のように立ち上がる新事実の数々。コリーンの友人たち、転校生サマンサの母とその恋人、サマンサの祖父母、84年当時アーネマスの警察官だったリヴェットとグレイ。事件当時のコリーンを巡る人々の様相と、彼らの複雑で意外な人間関係。何故コリーンは冤罪に貶されたのか、誰が真犯人なのか。何よりも殺されたのは誰であろう。2004年の6月、真実は白日のもとに曝される。---------冤罪ものミステリーのスタイルであるが、「誰が犯人か」以上に「誰が被害者か」かが、読者視点では推理のポイントになる。1984年と2004年の20年間の時差を往き来して、交互にストーリーが進行する。この手法に惑わされて事件の展開や登場人物の人間模様がより複雑に映り、盤面整理がすっきりいかず、読みづらさを感じた。当然被害者探しも真犯人探しも難航した。1984年のストーリーだけ抜き出してみれば、当時のファッションやロックに触れている箇所がレトロならぬむしろ斬新に感じられて興味を引く。その他脇を固める登場人物たちもかなり個性的で、サマンサの度外れな我儘、それに輪をかけた周囲の大人たちのエゴイズムには妙なリアリティがあって、マジ苛つくし、さらに悪徳警官の描写に至っては、相当エグくてげんなりするほどだった。(いつの時代、何処の国にだっていじめはあって、なくならない)そこまで描いた作者にはむしろ拍手だが、それに比べて2003年の探偵と弁護士の描き方が弱いのは物足りない。更に突っ込むと、謎の解明部分と人物相関図の伏線回収の部分の描写がロジカルでないためすっきりしない。えー、それじゃあの人とこの人は、事件を通してどう繋がっていたの?という問には、匂わせだけで明確に答えず終わっている。こうして謎の解決部分と探偵役の描法に不満があるため、何程も傑作ミステリーとは感じなかった。P・Sさんざん難癖を付けたが、すべてわかった上で読み返すと色々発見がありそうな一冊。1984年のロックだのバイクだのファッションだのの、グラフィティカルな描写とかミステリーとしてのジャンルを離れて読むと面白い。それに黒魔術ネタ。アレスター・クローリーの名称がまさか出てくるとは。そこらへん後日続きを書くかも。午後、仕事が終わってから異様な眠気に襲われ、ベッドに横になったきり2時間ばかり寝落ちしてしまった。それから記事に取り掛かり、もうこんな時間。やはり天候のせいで睡眠サイクルが狂っているのか。涼しいのでよく眠れるか。
2019.07.16
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国内ミステリーの探偵オールキャストによるパスティーシュ。「黎明篇」「戦前篇」「戦後篇」と三期通して50名の名探偵が知恵比べをするのかと勝手に思い込み、これまでパスティーシュで私が読んだ経験のない半七、平次、顎十郎ら「黎明編」の探偵に期待をしたが、各探偵のキャラの書き分けが出来ていなくて、人物の魅力が伝わってこない、起きる事件も難事件怪事件でもなく、ゆえに名探偵諸氏の冴えた推理の披瀝も見られずがっかり。「戦前篇」「戦後篇」も似たり寄ったりの出来で、わくわくさせられるよう展開がなく読了するまでの間、かなり退屈させられた。だいたい、法水麟太郎なんてパロディの対象にするには難しすぎて、下手に手を出しても面白くない。以上も以下も極私的感想似すぎないけれど(ここらへんで一応お断りと言い訳をしておく)とにかく質より量といわんばかりか、名探偵が多すぎる。ミステリーヲタでなくても、巻末に付した名探偵名鑑を参照しながら読めば楽しめと言われるか知らんが、読み手としては収拾がつかないばらけた印象と、空疎な読後感に終止した。パスティーシュは大好物だが、このミステリーはお好き、とは言えません。悪しからず。
2019.07.09
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FBI捜査官ヴィクターはイナーラ(仮名)と名乗る若い女性から、ある事件の聴取を行う。イナーラをはじめとする16歳から21歳までの何人かの美少女たちは誘拐され、「ガーデン」と呼ばれる奇妙な温室に監禁されて数年を過ごした。彼女たちは、ガーデンの主「庭師」によって背に蝶の入墨を施され、庭師とその長男の性的暴行を受けたすえに、21歳になればガラス張りの「標本」として樹脂の中に永久保存される運命にあった。さらに過酷なことに、心身を病んだり、妊娠した者は、21歳を待たずして命を絶たれてゆく。地獄絵図の展開する「人工楽園」の中で、座して死を待つ訳にはいかない。イナーラ以下10名以上の少女たちは、庭師の次男の助けを借りて、決死の脱出を試みる。エクソダスの向こうに「蝶たち」を待ち受けていたものは.......イナーラの語ったことは真実なのか。そして彼女は何者なのか?------事件の語り手イナーラの正体が、謎の核になって最後までスリリングにストーリーを引っ張るミステリーというより、サイコサスサスペンス。と、いうのが終幕でわかった。拉致監禁ものに、入墨ネタとくればエロやグロの描写を思い浮かべそうだが、その手の作風ではないことをお断りしておく。(ネタバレして、がっかりさせて申し訳ないけど)私は状況設定に少しばかり「O嬢の物語」を髣髴とさせられながら読んだ。もっとも「蝶たち」はロワッシイの娘たちと違って、隷属に歓びなど見出しはしない。絶望的状況下での暴力的支配に馴致洗脳されることなく、抵抗を試みる女性たちの心理をサスペンスフルに描くこと、官能性や耽美性を描くことより、そちらに物語の比重は置かれている。そんな気がした。強い精神を持ち、才気煥発な美女であるイナーラの人間像には好感がもてるし、その他の監禁されている少女たちも精彩豊かな蝶たちさながらに個性的でキャラ立ちしていて、彼女たちとイナーラの絡みが面白い。それに比べて、庭師とその長男、次男の人物像と、彼らとの葛藤の描写が濃密さに欠ける印象。はっきり言って猟奇的な殺人鬼に怖さが足りないので、その分サスペンスとスリルが割り引かれた恨みがあり、それが残念。それにしても、拉致監禁と入墨の合わせ技って今やありきたりで、ミステリーでもポルノでも余り食指が動かないガジェットだな。洋の東西を問わず、拐われて彫られるのが美女一辺倒という設定がもはや陳腐だし。なんで女ばっかなのよ。そんなの差別だしー、ジェンダーしーいっそ、拐われるのが美形男子や美少年で、背中に.....えっえ、なんでいつの間にかR18の話題に(絶句)そう言ってから、この扉絵を眺めるてみれば、必ずしも女性の横顔にはみえな.....いえ、此方の眼が腐っているだけです。
2019.06.23
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1986年 語り手 エディ・マンスター(本名エド・アダムス)エディの友達はニッキー、ファット、ホッポ、ミッキー遊園地で事故に遭った少女エリーサ・レンデル少女を救ったのはアルビノの英語教師ハローラン助けられた命は再び奪われる首のない少女の遺体エディの父が疑われたハローランも疑われて自殺ミッキーの兄ショーンは河に転落死ホッポの飼い犬マーフィーが毒殺されたチョークで落書きされた白墨人形(チョークマン)は仲間同士の暗号誰がチョークマンを描いたのか誰が少女を殺したのか何のために犬を殺したのか2016年 語り手 エド・アダムス30年後、エディは英語教師、ファットはパブの店主、ホッポは配管工、ミッキー広告代理店勤務、エディ宅の間借り人クロエは謎の美女ミッキーが ”おれはあの子を殺した犯人をしっている” と嘯くミッキーも河で溺れて死んだニッキーの父マーティン牧師が襲撃されたチョークマンの仕業なのかミッキーの手帳に残された言葉 「エリーサを殺す動機のある者はいない.....」思い込みは捨てろ。すべてを疑うこと。見えているものの奥に目を向けなさい。----------12歳の子供視点と42歳の大人視点で交互に語られる事件の様相。またしても信用ならない語り手がストーリーテーラー、さては犯人は....なんて謎解きが出来るほど、安易なプロットではない。それでいて、トリックに奇抜さはなく、やはり〇〇トリックであることには変わりないし、首なしバラバラ死体には常套的な〇〇錯誤、種明かしすれば、いわば間違いの〇〇である。種明かしといってしまえば、怪しいやつはそれらしい怪しさで描いているので、何となく犯人の検討がついてしまう。にもかかわらずその怪しさの正体を知りたいばかりに頁をめくる手がとまらない。雑多な人物が葛藤し合う複雑な人間関係の描写も、伏線が回収されてみると全て必要な手掛かりであったことが判り、無駄なエピソードではなかったことを知る。文体の読みやすさも手伝って、非常にリーダビリティに優れた作品だと思う。(翻訳者のスキルも高いのだろう)そして犯人の正体が明かされたそのさきに、さらに意外な真相が待ち受けている。とても後味が悪い終わり方。真相が解明されても、事件は解決しない。視点人物であるエドもついに藪の中にある真実を知りえないのではないか。誰しも自身の姿は見えないものだ。そんな深い余韻を残した後味の悪さが秀逸。これは無論褒め言葉だ。
2019.06.14
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犯人に狙われてしまったガーニーの運命やいかに。というのは前口上だけではなくて、ついに迎えた真犯人と探偵の直接対決。そこからの大捕物と刃傷沙汰、つまりアクションシーンは警察小説の要素が生かされた緊迫感に、犯人はだいたいこいつかなーと思っていた人物だったが、この大詰めの場面で目を覚まされような心地がした。そして、それからは......ん、ん、ん大団円としておこう。通りすがりにも井戸の底を覗いてしまった誰かのためにも、これ以上のネタバレは野暮ってものだろう。あとはチラ裏への殴り書き。570頁余をさしたる長さも感ぜず、中だるみもなく読み終えた。登場人物の設定、描写に無駄がなく、かといって必要条件の提示のみの無味乾燥に陥ること無く面白く読ませる術を心得た巧さ。そのお手並み、お見事です。本篇で本格物愛好者大好物のメニューを食べ尽くしお腹いっぱいになっても、この作者なら手を変え品を変えた次作を出してきて、別腹に気持ちよく治まってしまいそうな期待がもてる。今の所デイヴ・ガーニー推しです。
2019.06.01
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ニューヨーク州地方検事シェリダンから直々に協力要請を受けて、犯人のプロファイルを試みるガーニー。捜査局の警部ロドリゲスはスピリチュアル事業の顧客のなかに犯人がいると主張するが、これは却下して良い情報(と私は判断)ガーニーの妻マデリンは鋭い直感と合理的な思考能力を兼ね備えた女性で夫に対して示唆に富んだ助言をする。その鋭い舌鋒にガーニーもたじたじ。妻もだが、捜査協力者の一人、犯罪心理学者のレベッカのキャラも好感が持てる。作者のすっきりした筆で描かれる人物像型のゆえか、作中バカ女が出てこないし、ガーニーもバカ女を相手に時間を無駄にするイタいキャラでないのは誠に結構だこと。周囲の理解や助言も手伝ってか思考いや、試行錯誤もあったが、ガーニーは数字を当てのトリックに関する重要な推理に思い至る。それは〇〇論で説明できてしまう論理的推論なのだが、論理的すぎるがゆえに受け入れ難く、かつオーソドックスに知られた知識でもあった。なるほどね。前代未聞の詭計への妄想を捏ね繰りたがる昨今の読者の盲点をつく発想の何と手堅いいこと。感心した。あーちょっとネタバレね。こうして謎の一端がほぐれ始めたと思いきや、手口が類似した第二、第三の殺人が起きてしまう。犠牲者は皆メレリー同樣、数字についての脅迫文を受けたらしく、受取人間違いの住所(私書箱)宛に小切手を送っていた。州を越えて起きた複数の犯行に捜査範囲も広がり、間違いの住所即ち私書箱の持ち主ダーモット氏にまで危害が及ぼうとする。それを防ごうと警備にあたった警察官も銃撃されて死亡した。これで犠牲者は4人となった。さらに犯人はガーニーを次なる標的に定めていると声明するのだが......これで二章から第三章 「振り出しに戻る」ところまで進んだが、表題から察せられるように、より混迷を深めた事件の着地点は何処にあるのか。
2019.05.30
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第一部を詠み終えて、その後の展開メレリーは脅迫応じて、匿名の手紙の要求する金額の小切手を指定の住所に郵送する。ところが、小切手は配達先不明で戻ってしまう。ガーニーはメレリーの邸宅まで対面で今後の対策を話し合うことにしたが、そうこうするうちにも脅迫者からの「数字を思い浮かべろ」との電話がかかり、再度その数字を記した手紙が届く。またしてもメレリーの思い浮かべた数字「19」は的中した。そして11月の雪の日。メレリーの殺害のNEWSに驚くガーニー。メレニーは銃で撃たれて死亡した後、頸部を割れたウィスキーの壜でめった刺しにされていた。殺害現場には脱ぎ捨てたブーツ、ローチェア、遺体の上には紙切れが残されており、雪の上の犯人の足跡は途中で途絶えていた。ガーニーは捜査協力することになるのだが、ニューヨーク州犯罪捜査局の部長刑事ハードウィック以下、事件を担当する面子がなんかいけ好かない連中だな。名相棒の登場には期待できそうにないし、数字的中の謎はさっぱりわからんし。数字の件はバカトリックが仕掛けられていたりすると、まじで思考したりする此方こそ、バカをみるばかりだ。ああバカが文中三回も出てきた。それこそどうでもいいことで、先ずは雪の上の足跡あたりの「本格もの」らしき要素から考察してみるのが王道でしょ。と、逃げ腰な言い訳をしながら次章へ続く。
2019.05.25
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雨降りどころか土砂降りの猫街は、大雨雷強風洪水警報発令中(午前中)神田川の水嵩も増している。地域猫は気をつけてなー(ΦωΦ)ニヤ土砂降りだけどミステリー。まるで手品のような謎、謎、謎。思い浮かべた数字を的中させる殺人者。警察小説と本格ミステリの融合。一昨日あたりからようやく取っ掛かった「数字を一つ思い浮かべろ」---------- 数字を一つ思い浮かべろ。その奇妙な封書にはそう記されていた。658という数字を思い浮かべた男が同封されていた封筒を開くと、そこにあった数字は「658」! 数々の難事件を解決してきた退職刑事に持ち込まれた怪事は、手品めいた謎と奇怪な暗示に彩られた連続殺人に発展する。眩惑的な奇術趣味と謎解きの興趣あふれる華麗なミステリ(本書カバーより)--------"プロローグ" が意味不明に意味深なことはお決まりの形。続く一章で登場の退職刑事デイヴ・ガーニーが探偵役だが、47歳なのでアーリーリタイヤなのか?最近よくある高齢者探偵だの、お子様探偵だの面白くも何ともないので、この人物設定はギリ及第点。警察小説っぽいのでそんなもんでしょ。デイヴは旧友でスピリチュアル団体の運営者メレリーから、突然奇妙な相談を持ちかけられる。メレリーのもとに匿名の手紙が届き、そこにはメレリーがどの数字を思い浮かべるか差出人は知っていると記されていた。同封されていたもう一つの封書を開くとそこに書かれていた数字は658ずばりメレリーが思い浮かべた数字であった。この怪文書の送り主にはなぜ、その数字がわかっていたのか。その謎を解明して欲しいとメレリーはデイヴに依頼するのだが。うーーんそれなーーーミステリー読みとしては、序盤のここらへんでは、依頼者メレリーが「信用ならない語り手」であることを疑ってみるのが常套。メレリーがスピリチュアル団体のヘッドというのが如何にもだし、騙すつもりじゃなくても、本人の妄念によるでっち上げ自作自演だったりして。いや、如何にもそれらしすぎる設定、状況こそ、ミスリードのための伏線かな。としたら術中にはまるには早過ぎるぞfrauleinnein。本書が570頁以上の大作なので、読み進めるにつれて少しずつチラ裏に私的妄言をに落としていくことを試みようと思う。
2019.05.21
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ハヤカワミステリマガジン「ミステリが読みたい!」を読んでいる。2019年1月号なので季違い....じゃなくて季節遅れもはなはだしいけど「このミステリーがすごい」や「本格ミステリベスト10」とはまた違った面白さ。その中で気になった記事を発見。(1)「死人荘の殺人」は映画「カメラを止めるな!」とあるガジェットが共通する(西上心太)(2)「九人と死で十人だ」ディクスン・カー旗森真太郎訳[本邦初訳版] 1957年9月 別冊宝石70号 世界探偵小説全集26 所載 別冊宝石の解説を書いている江戸川乱歩が、この作品と同じメイントリックを自分がかつて使ったこと について触れていないのは奇妙である。失念したのであろうか。(新保博久)(3)「数字を一つ思い浮かべろ」のメインの謎と解決は、星新一に先例がある(三津田信三) えええ 工エエェェ(´д`)ェェエエ工ーーーー 1 は「カメラを止めるな!」を鑑賞すればわかる....までもなく、おそらく答えは〇〇○でしょ。2 については、トリックは *一人◯◯で、*いないに登場人物に踊らされる 伏線だと推測するも、具体的にどの作品でその手が使われているか思いつかない。改めて乱歩ミステリーを振り返ると、あれもこれも似たり寄ったり、そのトリックに該当するような気がしてくる記憶の曖昧さ。 3 に至っては「数字を一つ思い浮かべろ」が未読なのでなんとも言えないけど、多分読んだところでわから ないと予想。星新一作品は8割方読んだつもりが、ジャンルはSFショートショートで大多数が短編で、 長編、中編は5本指で数えるほどもなかったんじゃないか。などと、皆目検討がつかない。どうも、某ドラマの警部並につまらないこと(でもないか)が気になるたちなので(´-`).。oO。
2019.05.12
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おれと重樹は従兄弟同士。おれたちが八歳のとき、おれの過失により怪我をした重樹は、下半身の成長が止まるというロートレックさながらの障害を負ってしまった。それから二十年後の夏の終わり、かつてのおれたちの父親の別荘、今ではロートレックコレクションで名高い財閥木内氏の所有となった洋館に、おれたちは招待された。その名もロートレック荘と呼ばれるその館には、木内氏の娘典子と、典子の同級生の寛子と絵里という三人の美しい令嬢たちも集っていたのは結構なことだったが、木内氏の会社の社員、錏(しころ)が空気も読まず押しかけてきたので、この招かれざる客には夕食後にはお引き取り願った。その夜おれは寛子の部屋を訪れて彼女への愛を告白し、早々に関係をもつに至った。しかし翌朝二発の銃声が響き、寛子は自室で遺体となって発見される。続いて典子が、絵理が犠牲になり.....--------1990年刊行のミステリー。29年前は本作のトリックは前例のない斬新なものであったらしいが、今どきは何のその、一人称視点の語り口だけで〇〇トリックであることが知れてしまう。それでも発表当時は、かような「信用ならない語り手」による奇計は、果たしてフェアかアンフェアか、で物議をかもしたらしい。本編中にロートレック荘の部屋割り図が載っており、そこに示されている宿泊客の登場人物名をよく見ると、トリックのヒントが提示されていることに気が付くので、充分にフェアだと私は思う。ただし三人もの女性を殺す動機の描き方が説得力を欠いているというのが私見である。もっとも、これまた一人称の独白の形式で語られた動機に過ぎないため(第三者視点による検証がなされていない)犯人の真意は藪の中のまま終わると深読み出来なくもないが。あっ、考え過ぎか。ついでにロートレック作品の画像も本文中何点か掲載されている。この「接吻」について作中、女同士か男女か、の談義が持ち上がる場面があり、frauleinneinとしてはこれってトリック解明のための伏線か、としばし考え込んでしまった。(ちなみに、私としては♀同士に見える、だけど....だけど)考えれど、考えれど一向にこれといった妙案が閃くこともなかったので、この件に関しては思考停止して放置、その後顧みることはなかった。迷?推理もなーんも閃かなくて当然、本筋や真相とは何ら関係のない、登場人物たちの雑談、ネタに過ぎなかったんだから。だったら、惑わせるようなことするなよ!!!それとも惑わせるために作者、はかったのかしら。やはり深読みは腐化読みに過ぎない。
2019.05.06
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ときは紀元前100年の天漢元年(前漢時代)、ところは洞庭湖の辺り。長安の豪族の娘於陵葵は、召使い小休を伴い、春の祭儀の準備も只中の名家観家を訪う。観家当主の娘露申は、文に秀で、武にも長じた葵に反発しながらも惹かれるものを覚え、親しく交わるようになる。観家では四年前、露申の伯父である無咎一家が何者かによって惨殺され、娘の若英だけが生き残るという事件が起きていた。雪の上に犯人の足跡が残っていなかったこの惨劇を露申が葵に打ち明けたところ、葵は事件の際死亡した露申の姉こそ真犯人であると指摘するが、露申としては俄には信じ難い言説であった。やがて季節が春から初夏へ移ろうとするある日、露申の叔母が刺殺体となって発見されたことに始まり、姉が弩で射殺され、一族の知人である学者が谷底へ突き落とされてと、相次いで殺害される。さらに二人の自殺者までが....現在の連続殺人と過去の惨劇とを結ぶ点と線はあるのだろうか。叡知を傾け尽くして姿なき犯人の謎に挑む葵と、彼女の推理の行方を見極めようとする露申。犯人は誰か? 殺人の動機は何か?二度に渡る「読者への挑戦状」への応えは、如何なる修辞で結ばれるのか。-------生涯で初めて読んだチャイニーズミステリー。これまで中国文学をまともに読んだ覚えはなく、いや中学から高校にかけて「紅樓夢」にぞっこんで、「金瓶梅」を読破したのはだーれだ?まてよ、それ「まとも」な文学のうちに入らないっか。なんてことはどうでもよろしい(澁澤龍彦風に)四書五経への造詣、屈原という歴史的人物に関する知識、いずれも皆無に等しい私でも取り敢えず面白く読了出来た。殺人犯の消失という不可能趣味、過去のお館での一家惨殺劇、二度に渡る読者への挑戦状の挿入、と本格物に求められる面白さは各国共通であることを再認識。作者は中国思想の専門知識のたぐいは本編の謎解きに必要ないと断り書きまでしてあるが、最重要な謎である「意外過ぎる犯行動機」はたとえ中国思想の碩学を持ってしても解明し得ない特異なものと思われた。原題にヒントが仄めかされていると受け止められなくもないが、それに気付いて真相に至る読者がどれだけいるだろうか。それはちょっと無理か。かような犯行動機のわかり難さと矛盾するようだが、犯人そのものは案外特定しやすい弱点を本作は持つというのが個人的所感。多からぬ登場人物であることから消去法を用い、動機の特異性という点を意識して人物像型を読み解いて行ったら、私には犯人が解ってしまった。無論犯行動機には此方には皆目検討もつかないうちに物語は結構を迎えはした。かような論理的整合性に拠らない当て推量は、ミステリー読みの邪道だろうけれど。それにしてもこの作者、日本人向けの作風で抵抗なく読める、というより、日本人受けを狙ってやしないか。少女探偵葵とその相棒露申と、葵の召使い小休の掛け合いの何とも百合百合しいこと。これどの読者層へのサービスのつもりで、誰得よ?断っとくけど、frauleinneinには お得感アリマセン!! でした。
2019.05.03
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♦発端広場で男と少女はベンチに並んで座っていた。少女はベンチの下に置いてあった黒いバッグに気付く。誰かの忘れ物に違いない、届けよう。警備員に。少女がバッグを抱えて歩き出して暫くの後、広場に轟く爆発音と炸裂する閃光。♦爆破テロの10年後大富豪ヒュー・サンドフォードの邸宅である高層タワーの最上階。その隠し部屋に飼われているグラスバード(硝子鳥)を、ヒューの娘ローナは恋人チャックに見せる。チャックはグラスバードの美しさに心奪われる。♦サンドフォード社の会社関係者4人は懇親パーティーという名目でタワーの最上階に呼び出された。その中にはチャックも含まれていたが、彼らは窓のない迷宮ともいうべき空間に監禁されてしまう。迷宮にはサンドフォードに使えるメイドパメラと、グラスバード「エルヤ」もいた。♦サンドフォードが希少動植物の違法取引に関与しているという情報を得たマリアは、部下の漣とともにサンドフォードのタワーに乗り込む。しかし突如起こる爆破事件に巻き込まれて、マリアは漣とはぐれてしまう。♦ガラスの塔であるタワーの中に孤立したマリアが遭遇したのは、透明密室での連続殺人であった。姿なき犯人は監禁された4人を1人、また1人と殺害し、ついにはサンドフォード親子を血祭りにあげ、その魔手をマリアにまで.....? ・ ・ ・ ・ ・ ・♦終焉飛び立つグラスバード。ーーーーー待望のマリア&漣シリーズ3作目。珍奇にして美しい謎の生物の存在、ガラスの迷路と透明化する密室、姿なき犯人もまた透明人間なのか?今回もよくもこれだけ私の嗜好にぴったりなガジェット、クローズドサークルの世界観をそろえてくれた。絶体絶命のマリアがジェリーフィッシュに乗って脱出を図る迫真の描写はパニックサスペンスとしても秀逸。マリアの窮地を救う軍人ジョンの登場も気が利いている(何気に市川氏の描くキャラは私にとっては良きかな)と、こっちの都合の良いことばかり述べたところで、以下は若干のネタバレや言いたい放題を。 ストーリー展開、人物設定の巧みさで読み手を飽きさせない技量は前二作に変わらず楽しめたが、本格ミステリーとしての出来は、やや、いやかなり落ちると思う(あくまで個人の感想)大量殺人と見せかけ実は多重殺人、もしかしたら多重解決ものと読み手の気をひいておいて実はトリックがどこかで見聞きしたものの二番煎じ。そのうえ、トリック解明の手掛かりもフェアに読者に与えられていない点が散見する。犯人の意外性に乏しい、てか単純な消去法で犯人が透けてしまう。プロットの構築に凝っているわりには犯人隠蔽の手法がお粗末で、その犯行動機が薄弱で説得力を欠く。それに最初から怪しさしか感じない人物が○○者と種明かし、作者が故意に仕掛けたのだとしても興ざめである。種明かしについていえばグラスバードの正体も、不思議で美しい生物としての描写が不十分なわりには、分かる人にはすぐ分かる安直さ。この正体実は何々、の発想そのものがありきたりに過ぎるのかもしれない。ラストシーンは後続の作品への布石伏線かとも想像したりするほどの、かなり印象深いものだった。願わくば上質なマリアと漣シリーズ4作目が書き継がれることを願う。その作中にはジョンも良い連係プレイを見せてくれることを期待して。と、まあ、文句だの妄言を吐いても、今のところこの作者への私の偏愛は変わらない。
2019.04.02
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戯曲形式の推理劇。冒頭から殺人現場が描かれ、唐突にヒロインの前に現れた招かれざる客。登場人物全員に犯行の動機とチャンスがあり、多重解決ものとも思われる伏線が張り巡らされる劇の展開、しかし一番怪しいやつがやはり犯人だったらしいという最後の告白で終幕。「招かれざる客」、何者であるかということを考えながら本編を読めば、犯人はさして意外な人物ではないことに気付くはず、そんな設定がいかにもクリスティー風.....などという読者や観客の安直な推理を嘲笑うかのごとく、ひねり技を利かせて事件の真相と、ヒロインを藪の中へ置き去りにしたまま、招かれざる客は去ってゆく。本作がテレビ東京でサスペンスドラマ化されていたので、PandoraTVで視聴してみたが、原作とはかなりかけ離れた脚色が施され、オリジナルの良さが生かされていなかった。第一あのヒロインのもっさりした演技ではサスペンスの緊迫感がなく、「招かれざる客」にも怪しさが不足していて疑惑の目を向ける気が今一つ起らない。犯人は特定されてめでたく?タイーホという結構も、甚だ余韻を欠き、勧善懲悪劇に終わってしまったのでは味気ない。クリスティの、というより英国ミステリー独特の皮肉で辛辣な作風は国内ドラマに翻案するのは不向きなのかもしれない。
2019.03.19
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映画は未見。良くも悪くも映像化向けの内容。本格ものど真ん中ではなく、サスペンスドラマ風のエンターティメント館もの、孤島ものといった本格ミステリージャンルがあるのだから、「ホテルもの」なるジャンルがあってもいいいじゃないか。とばかりに、本格ミステリーであることを勝手に期待して、暗号解読あり、さてはホテルの一室で密室殺人がおきるのか、ホテルの宿泊客が全員不審人物に見える、いや泊り客全員が犯人の大トリックが仕組まれているのか、などなど、あれこれ憶測しながら読んだ。ところが本作の実態は良くも悪くも映像化向けのストーリー、本格ものど真ん中ではなく、サスペンスドラマ風のエンターティメントといったところ。残念ながら挙動不審な登場人物は犯人ではなくて皆訳ありなだけ、そこのところが笑えるネタばらしといったていで次々と判明する。尚美と新田のやりとりが掛け合い漫才のようで、ユーモアミステリかと思わせたほどで、サスペンスムードはページが進むごとに希薄になってゆく。こうして中盤当たりやや期待外れでがっかりしたが、そこ油断は禁物、怪しい宿泊客のエピソードの中にきっちり伏線を潜ませてある。これを見抜くことはかなり困難だろう。もっとも犯人指摘の解決部分は後出しの真相で伏線回収する部分が多く、やはり本格ものの推理の面白さや犯人の意外性の醍醐味は味わえなかった。作劇の巧い作者なので本は最後まで読み切ったが、映画のほうは今のところ観る予定なし。
2019.03.12
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コンウェイの新作原稿を終盤まで読んだものの、肝心の結末編が脱落していたことに気づき憤慨するスーザン。原稿の在処をチャールズに問いただすも、あずかり知らぬことだという。出版するためには結末部分をなんとしても探し出さねばならない....二人が狼狽する中、コンウェイが塔から投身自殺したとの報が入る。チャールズ宛に送られてきた遺書と思しき手紙によると、コンウェイは癌を患っていた。死を覚悟しての自殺。しかしスーザンはコンウェイの死に疑問を持つ。カササギ殺人事件の犯人あてどころではなくなった。現実に起きたコンウェイの死の謎を解明しなければ。そして紛失した解決篇原稿の行方は......------下巻になったところから、スーザン視点で語られる「現実の事件」が展開していく運びに、この段階で叙述トリックの可能性は無くなった気付き、ちょっとがっかりする。その後表れた作品全体像は予想外のものではあったが期待外れでもあった。読み進める途上スーザンが「カササギ殺人事件」の犯人を登場人物ごとに推理する、フェアプレイに読者への挑戦のごときページが挟まれている。けれど怪しいと言えば全員怪しく、それでいて犯人指摘の根拠も私視点では見つけられなかった。こうして私の犯人あても外れ。それもそのはずで、犯人の推測のためには犯行動機が分からねばならず、その鍵はある種の○○解読にあった。作中作の存在すなわち叙述トリックと思わせておいて、別のトリックを用意していたとは。けれどこの謎解きの手掛かりが果たして読者にフェアに与えられていたかという点に疑問を持った。たとえ解けたとしても、それと犯行動機を結びつけるにはかなり飛躍した想像力が必要かもしれない。いや妄想力のレベルかも。なにしろ解読の結果は・・・・ネタバレ自粛。日々妄想にあけくれてると自負している?私でもそう来るとは想定できなんだ。作者としては誰も想像もつかない仕掛けを施したつもりなのだろうが、私はこのアイディアを斬新かつ素晴らしいとは感じることが出来なかった。さんざん気を持たせて発見された作中作の解決編もありきたりなことにはさらに白けた。せっかく上巻で上がった熱量が下巻を読み進めるうちに冷めていったそんな読後感である。こんな読後感の正体は期待しすぎたゆえの失望感かもしれないが。ネタバレするわけにいかないチラ裏で奥歯にもののはさまったような、いやまさに妄言をかきつらねて終わることになった。お粗末だこと。
2019.03.04
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アランコン・ウェイによるベストセラーミステリー、アティカス・ピュントシリーズ9作目。1955年7月、準男爵家パイ屋敷の家政婦メアリ・ブラキストン夫人は施錠された邸内の階段下で遺体となって発見された。当初は掃除機のコードが足に絡まっての転落死とみなされたが、結婚問題をめぐっていがみ合っていた息子のロバートに周囲の疑惑の目が向けられる。ロバートの婚約者ジョイはその疑念を晴らすべく、名探偵アティカス・ピュントに調査を依頼する。脳内腫瘍のため三か月の余命宣告を受けたピュントが捜査に着手するや、屋敷の当主マグナス・パイが殺害される事件が起き遺体は首を切断されるという無残なものであった。そして調査の途上で浮かび上がった、女医の勤める診療所から盗み出された毒薬フィゾスチグミンの存在。誰が何のために?遺産のすべてをマグナスに奪われた実妹、妻とその愛人、マグナスによって家庭崩壊させられたと主張するメアリの夫、そしてマグナスをよく思わない地域の住民。この中にマグナス殺害犯がいるのだろうか。そしてメアリの死は事故なのか事件なのか。謎を解く鍵はロバートの弟トムが溺死した湖に沈められた"愚者の黄金"にあると嘯くピュントに「誰が犯人なのか、あなたにはもうわかっているんでしょうね」と助手のフレイザーは問いかける。「私にはすべてがわかっている」こうして、女性編集者スーザン・ライランドはコンウェイの最新作「カササギ殺人事件」の原稿を結末部分まで読み進めたのだが....-------ホームズのパスティーシュがお家芸と思われる作者による、クリスティへのオマージュミステリーとのことだが、クリスティーの作風や文体を巧妙に本歌取りして作中作に仕上げ、さらに作中作の枠外でも何らかの謎が仕掛けられているであろうとい凝りよう(と予想する)。本格好き特にイギリス本格もの好きにはたまらない一冊だろう。作中作に張り巡らされている伏線は相当複雑なように察せられて、その回収と解決は下巻に期待して....なんて脳天気に構えてると作者の術中にはまるような気がする。入れ子構造にしたことそのものが謎の提示、つまりこれも叙述トリックなのではないかと上巻を読み終えたところでの当て推量。それ以上の推理は下巻のお楽しみだか、お苦しみだかにとっておいて、本日はこれまで。
2019.02.27
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今年で「このミステリーがすごい2019」が30周年だそうだが、企画がさして面白くもなかった。アイドルの対談とか、アイドルが探偵コスしてる表紙とかダサいとしか思えない。アイドルじゃなくて作家(?)だと反論されるかもしれないけど。いやまてよ。猫も杓子も作家になれるのだから、文字通り猫のニャームズも名探偵(=^・^=)になれるのか。表紙がイヤなので画像を上げる気もしない。読みたいミステリーの参考資料にするなら「本格ミステリベスト10」のほうがいいかもしれない。
2019.02.23
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ジョン・カーペンター病院付属看護婦養成所で、胃内注入実習中に被検者となった看護学生ヘザー・ピアスが死亡する。注入液に腐食性毒物が混入されていたのだ。数日後、やはり看護学生のジョゼフィン・ファロンが自室で毒入りウイスキーを飲んで死んでいるのが発見される。彼女は妊娠していた。ダルグリッシュ警視と部下のマスタースン刑事の捜査によって、院内の複雑に絡み合った人間模様が解きほぐされてゆく。詩人でもある警視が白衣の天使たちに見出した意外な素顔と事件の真相とは。--------白い巨塔ならぬ「白衣の虚塔」とでもいいたいような、病院関係者(主に看護婦)の相関図が重厚に描かれた作品。警部と刑事による事件関係者へ事情聴取が延々と繰り広げられる進行は重厚なだけでなく長大。医療機関という閉鎖空間で起きた殺人事件、というのは私の好きなシチュエーションなはずなのに、毒物特定の鑑識結果が中々明かされないあたり、じれったく途中でやや中だるみした。ダルグリッシュの人物像も地味で重厚、鬼貫警部を思い起こさせた。すると相棒役のマスタースンはさしずめ丹那刑事か。警察小説のようでいて本格推理である点も鮎川ミステリーにちょっと似てるかな。などと思うそばからマスタースンが反則すれすれの潜入捜査(?)を行うあたりから話は面白くなった。ここらへんの切りかえしはやはり書き手の巧さを感じる。そして明かされる犯行の動機も意味深くも意外なものだが、推測する手がかりがフェアに与えられているとは思えないことに不満が残る。チョコレートに赤ワインだそうだけれど、私はブランデー入りコーヒーで。
2019.02.14
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1930年代イギリスにに発足したディテクション・クラブ「集う英国本格推理小説作家のエピソードを綴った400ページの本書。作家のそれこそ「小説より奇なり」と思わせるプライベートあれこれの挿話は面白いのだが、セイヤーズとバークリーとクリスティーについて語っている部分が多く、私が好きなP・D・ジェイムズやクリスチアナ・ブランドにはほとんど触れていないので物足りなかった。ニコラス・ブレイク(ダニエル・デイ・ルイスの父親)のプロフィールが覗けたのはちょっとうれしかったけれど。(ダニエルがイケメンなのは父親似とか)なにより興味深かったのはセイヤーズ、バークリー、クリスティー、E・C・ベントリー、ノックス、ヒュー・ウォルポールによるリレー小説について記述した部分。「漂う提督」を読んでみようか。それから「ザ・スクープ」は読もうにも入手困難なようだから新訳で刊行されないかな。国書刊行会様、毒食らわば皿まで(?)でどうよ。
2019.02.03
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誰もがポオを読んでいた (論創海外ミステリ) [ アメリア・レイノルズ・ロング ]エドガー・アラン・ポオ研究のために、大学院生や聴講生としてフィラデルフィア大学に集う人々。語り手(私)のミステリー作家、キャサリンもその一人であった。ポオの「ユーラリーム」の手稿が発見された(?)というので、その真贋鑑定騒動の中、肝心な手稿は紛失し、研究者の一人シュルツが変死体となって発見される。犯人としてやはり研究者のカーニーをブーン巡査は逮捕するが、残念ながら誤認逮捕。間もなく第二の殺人が起き、続いて二人もの大学関係者が殺害される。これら4件の殺人のすべてはポオ作品の見立て殺人の様を呈していた。キャサリンは犯罪心理学者トリローニーに協力して推理を巡らせるのだが----------ポオ顔の黒猫の挿画がキモカワ(・∀・)イイ!!登場人物の名前からしてヴァージアだのヘレンだの、ウィリアムだの、ポオ作品にちなんだものと思われる。しかしポオ愛好家にとっては面白いかもしれないネタも、ポオ作品未読の人、興味のない人にとってはそれほどでも?ちなみにヴァージニアもヘレンもポオの作中人物のような美女ではない。ブーンはポンコツ刑事だし、なんだかキャサリンもヘッポコミステリー作家のような気がする。と、まあ登場人物に魅力がないうえ、キャサリン視点の文体からは、かなり残忍な犯行が行われている見立て殺人の陰惨さが伝わってこないし緊迫感も希薄。その分、さらりと読めるのは良いのか知れないが、解決篇がればたらの雑な伏線回収の開示ばかりで、4番目の殺人の殺害状況が判然としないまま終わったことにミステリーとしての不満が残る。何しろ、私がポオ作品中愛してやまない「メッツェンガーシュタイン」をネタに見立てた事件なのだから。そこのところきっちり描きこんでほしかった。例によって個人の嗜好の問題ではあるけど。それにしてもやはり、名馬への執着と炎のイメージがテーマのこの短編が好きだなあ。と、認識を新たにし、新訳で読み直してみたくなった。
2019.01.26
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大学医学部に新任秘書として採用されたされたケイトは、学生時代旧知の間柄だったジョニーと再会する。ジョニーに構内を案内されるまま、解剖実験室に立ち入った二人が、エンバーミングルームの中に発見したのは、前任の秘書ガーネット・ディロンの遺体だった。謎の失踪を遂げた彼女はカフェで意識を失っていたところを、病院へ搬送されるも死亡したのだ。死因はジキタリスによる中毒死。医学部長に依頼されてタック警部は捜査を開始する。いわくありげなドイツからの留学生のシュワン兄弟をはじめ、一癖ありそうな医学部生たちと偏屈な研究者の面々。学内のこの顔ぶれの中に犯人がいるのだろうか。--------「ドロシイ殺し」の次は「友だち殺し」のチラ裏。70年も前の作品なのに最近のサスペンスドラマにありそうな状況設定。内包しているテーマはかなり重いのに、読みやすく軽い筆致。タック警部視点の推理がストーリーの進行に従って、二転三転した挙句着地した結末は、なんだそれとがっかりしたが、その先にもう一捻りあったとは。学生や教授お歴々の描写も生き生きとしており、人物描写が伏線になっている点が私の気に入ったところ。ジョニーとケイトのあいだの恋愛感情も伏線の一部だったのが終盤で明かされる。そして「友だち殺し」というタイトルが示していたものも。とはいえ、謎の解明の手掛かりはフェアにしめされているが、解明された謎、何かしらもやっとして、クリアでない印象。その部分を除けば好きな作風なので、他のラング・ルイス作品が翻訳されたら読んでみたい。
2019.01.24
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