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千菊丸2151さんコメント新着

にらみ合う二匹の後ろでは『たきぎ番の影虎』が、おろおろと歩き回りながらこの仲裁に入ろうとしている。
「これこれ、ふたりとも、けんかはよさんか。 ここはわしのナワバリじゃ。 勝手な真似は許さんぞ。 ナナのような小娘の言うなりになって、つい、フライドチキンとやらにつられて場所を貸したわしも悪かったが、わしが許したのは、銀二が一時間だけこの中庭に入ること、それだけじゃ。 ここでけんかをするようなことを許した覚えは断じてないぞ。 ましてや怪我人を出すなんてもってのほか。 二人とも、けんかをしとるひまがあったら、はよう、その、怪我した猫の手当てをしてやらんかい。 ほれ、そこの娘も、気をしっかり持って、目を覚ませやい。 ・・・ まったく、近頃の猫の軟弱さには呆れたもんじゃ。 たかが三階あたりから飛び降りて目を回すとは、猫の風上にもおけんわい。 実に情けない」
ミケは、ものも言わずに銀二を押しのけ、立ちふさがろうとした子猫を押し飛ばして、たまこにすがりついた。
「もし! お嬢さま! しっかりなさいませ! 目を開けてくださいまし! お嬢さま!」
だが、たまこはかたく目を閉じたまま、身動きもしない。
ミケに押し飛ばされた子猫が、起き上がってきて心配そうにたまこをのぞきこんだ。
「お姉さん、ぼくと一緒に落ちたから、きっとぼくの体が邪魔で、うまく宙返りできなかったんですね。 大丈夫でしょうか?」
その子猫をまた押し飛ばして、何が気に入らないのか背中の毛を逆立てた銀二が、今度はミケの背中に怒りの矛先をぶつけ始めた。
「ええい、なにをごちゃごちゃぬかしていやがるんだ! どいつもこいつも、はらのたつ! ここでうろうろしてたらおいしいものをご馳走してやるだの、ここでけんかをしちゃならんだの、誰が邪魔で宙返りに失敗したの、てんでに勝手なことばかりぬかしやがって、俺には何がなんだかさっぱりわからん! 誰か俺にもわかるように説明しろよ! ええ? フライドチキンがどうしたって? 俺の取り分はどこだよ? 怪我人を出すのはゆるさねえだと? この目障りな新米猫を追っ払っちゃいけねえ、そこの生意気なチビ猫をたたき出すのもいけねえ、だったら俺は何のためにここに呼ばれたんだ? その上今度は挨拶もろくにできねえババアまでしゃしゃり出てきやがって、いったい何のつもりなんだ? 俺様の爪で引き裂いてほしいのか?」
銀二の爪が背中に届くより早く、ミケの鋭い猫パンチが、振り向きざま銀二の横っ面を張り飛ばした。
「お黙り、銀二! 罪もない新入り猫をいじめる悪い癖は、まだ直らないと見えるね。 その目玉をしっかりおっ開いて、あたしの顔をよっくごらん! 忘れたのかえ? 三年前、そういう悪さが二度とできないように、きつーいお仕置きをしてやったつもりだが、まだ懲りなかったのかえ? それとも、もう一度お灸をすえてほしいのか?」