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――― ミケ、どうか無事でいて!
捨吉から、ミケが一人で龍王に向かったことを聞くと、急に不吉な胸騒ぎに襲われて、たまこは全速力でラーメン屋『龍王』に向かっていた。
どんな怖ろしいものが待ち構えているかわからない魔物の巣窟に、あたしのためにたった一人で乗り込んでいってしまったなんて!
ああ、あたしがしっかりしていれば、絶対に、ミケにそんな無茶な真似をさせなかったのに!
銭湯の屋根から落ちて、まったく猫らしくもなく気を失っていた、その時間が惜しまれる。
後悔の念にひりひりと胸が痛む。
だが、たまこの気がかりはそれだけではなかった。
気を失っている間に見た、断片的でおぼろな夢が、さらにたまこの不安に拍車をかけていた。
いつもたまこに『美味しいキャットフード』を提供してくれる、『龍王』二階部屋の魔物の、あの青緑色の目の色だ。
自分をこんな姿に変えてしまった憎むべき敵のはずなのに、なんだか憎む気になれない、どころか、ときに妙な親近感さえ覚えてしまう ――― そのことが以前から気になっていたのだったが、たった今見た短い夢の中で、ようやくその正体に思い当たったのだ。
どうして今まで思い出さなかったのだろう。
あの、透き通った宝石みたいな、きれいな青緑色の目 ――― あれは、『龍王』の一人息子、昇一お兄ちゃんが、むかし可愛がっていた黒い子猫『クロちゃん』の、瞳の色そのものではないか。