「ヴィゴツキー入門」
柴田義松 2006
もうすでにこのような世相というか社会現象にお手上げ状況になって久しいが、ある地点から私は、ええい、もう私にゃ関係ないや、とほおり投げてしまったところがある。私にとって一番ショックだったのは、2000年に発覚した三条市児童誘拐9年間監禁事件だったと思う。あれまではなんとか、この世がどうにかよい方向にいくことを考えようとしていたと思う。
時代も丁度、世紀末騒動から21世紀という「夢」に向かい始めるような時代だった。しかし、あの事件以来、はっきり言って私はとてつもない無力感を感じるようになった。もう、テレビや新聞で報道されているような事件は、どこか私のしらない惑星でおきているに違いない、と、そう突っ放して考えるようになってしまった。
ヴィゴツキーは1986年にロシアに生まれ、1934年に37歳でなくなってしまった天才心理学者といわれている。
その短い生涯のなかで、彼は「繊細な心理学者、博識な芸術学者、有能な教育学者、たいへんな文学通、華麗な文筆家、鋭い観察力をもった生涯学者、工夫に富む実験家、考え深い理論家、そして何よりも思想家」として並外れた才能を発揮したと、ヴィゴツキーの伝記作者レヴィチンは書いていますが、ヴィゴツキーの多才ぶりは、これだけではまだ語りつくせないほどです。
p4
ここまで言われると、言われるほうも聞いているほうも、ポッと赤くなってしまうのではないだろうか。
ヴィゴツキーの著書・論文は、どれを読んでも刺激的で、教えられることが多いのですが、「教育心理学講義」(1926年)ほど私にとって興味深く読めた本はほかにありませんでした。
p186
というのだから、まさに、こういう人にこそ本は読まれ、このような人にこそ翻訳されるべきなのだろうと思う。それ以上、言うことはないのではないだろうか。彼は1920年代に発表されながら30年代以降、反マルクス主義のレッテルを貼られ、その著書・論文はすべて封印されてしまった。そのヴィゴツキーが復活したのは60年代以降であったとのことであり、欧米における研究はソ連崩壊後の90年代以降になってからますます活発化している。
ソ連研究やマルクス主義研究への熱が、そのころから急速に冷めていったわが国とは対照的であって、ヴィゴツキーを含めてマルクス主義の哲学・心理学の研究がアメリカをはじめとして西欧諸国で活発化するという逆転現象が起こっているのです。
p39
さらにわが国でも最近、新世紀になってから彼に対する研究がますます盛んになっているとのことだが、この入門書一冊を読んだだけでは、にわかには、この天才心理学者の真髄というものを理解するには至らない。私には、教育や心理学などの現場では、一つの理論がどうしたこうしただけでは、もうどうにもならなくなっているように思えるのだが。
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