「白洲次郎 日本で一番カッコイイ男」
河出書房新社 2002/04 ムックその他 247p
Vol.2 No.0223 ★★★☆☆
白洲次郎。確かにカッコイイ。日本でいちばんかどうかは知らないが、カッコイイことには変わりない。でも、そのカッコよさの裏付けが、若くして英国に留学したり、外車を何代も所有し乗り継いだり、政治家のブレーンや、財界での活躍だけであったとしたら、たんなる、厭な奴として、嫉妬と無関心の中で忘れてしまいそうだ。だけど、どうやら、それだけではない。
たしかに奥さんもきれいだし、素晴らしい才人だ。それだけでもカッコイイが、しかし、その奥さんとの対をなすほどのカッコよさ、それは、この人が、英国風のカンツリー・ジェントルマンであったからだろうと思う。すくなくとも、この人の田舎暮らしが、じつに筋の通った存在感を示していると見える。
白洲
とにかく、いまはイギリスもよほど世の中が変わりましたが、戦争前の貴族社会とか、富裕な社会では、ガチガチ働かなくてもいい人は、みんな田舎にいたんだ。田舎にいてロンドンにも家をもっている。田舎が本拠で、ロンドンは別荘なんだ。そして、田舎でいわゆる百姓をやっている。しかも、ほんとうの道楽で、損を覚悟でやっているんだ、ウマやブタやウシを飼い、いろんな花を作ったりしてね。もちろんほんとの百姓も昔からいたんですよ。しかしそれは、カンツリー・ジェントルマンとはいわないで、ファーマーという。つまりイギリスの田舎の生活のよさ、それが非常に頭にしみ込んだところへもってきて、親子三代目でしょう。なるべく早く田舎で、百姓しようと思っていたんだ。
p158 「地上」1955/02
「地上」
は家の光協会が発行する農家向けの雑誌であり、1955年(昭和30年)はまだまだ日本が高度経済成長を遂げる前の時代である。終戦直前に日本の敗戦を見越して、食糧事情の危機感から田舎に移り住んだとしても、戦後一貫してそこに住み、茅葺農家に手を入れ続け、ついにその家が公開されるまでに至るのだから、彼の田舎に対する思いも半端ではない。
松井
(前略)あなたが農業に興味をおもちになっているから・・・。
白洲
興味じゃない。本業ですよ。
松井
ほんとですか。
白洲
ほんとですかって、あんた法律を知らないから、そういうことをいうんだが、日本じゃ、農業に精進する見込みのないものは、法律で耕地がもてないことになっているんですよ。
松井
それはそうですね。ええと、農地なんとか法でしょう。忘れちゃった。にらみがきかなくなっちゃったナ(笑)。
白洲
だから法律的には、僕は兼業農家なんだ。本業は百姓ですといったら、ほんとですかっていうけど、ほんとでなきゃ百姓しているわけがない。国家が認めているところです。
松井
ですけど、あなたが百姓されても、趣味でやっていると思いますね、ほんとのお百姓は。
白洲
そりゃそうでしょう。
松井
こういうところのえらい会長さんをやっていて、あの野郎、おれの職業まで荒らして、と思いませんかね。
白洲
それほどの大百姓でもないし、農家の競争者としては、非常に甘い競争者だな。
松井
まぁ、そうなりますかね。しかしはなは失礼だけれども、どういうわけで農業に興味をおもちになったんですか。
白洲
僕はだいたい、町よりも田舎のほうが好きなんですよ。せまいところがきらいなんだ。僕は東京に生まれた人間ですけどね。
(後略) p156 松井翠声との対談 「地上」1955/02
住まいの他には、五反分(1500坪)ほどの水田も持っていたようだし、全部合わせても一町分(3000坪)ほどの農地にしかならなかったようだが、それでも、小作にたよらず、自作農として耕作しつづけるのは、趣味だけでは続かない。彼は野菜づくりよりも米作りに関心があったようだ。
白洲次郎、ってどこがカッコいいのだろうか、と考えてみた。他に似ている存在がみつからないのだが、あえていうなら、ジョージ秋山の 「浮浪雲」
と比較してみたらどうだろう、と思う。どちらもマルチチャンネルのキャラクターを持っていて、とらえどころがない。かと言って、いざとなると隠然たる力を発揮する。
ところで、白洲次郎がその側近を務めたとされる吉田茂の場合、私はなぜか、その風貌や戦後に活躍したという意味で、天下のヒール 「グレート東郷」 を思い出す(笑)。 「吉田茂のロールス・ロイスと白洲次郎のベントレー」 というような外面的なカッコいい面ばかり見せられていると、なんだか嘘くさい。本当は、グレート東郷と浮浪雲の水魚の交わりだったのではないか、と勝手に想像すると、なぜか一段とリアリティが湧いてくるから、面白い。もちろん、こっちの方がさらに数段カッコよく見える。
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